第180話 ~ 異界からの訪問者 ➁ ~
第180話 ~ 異界からの訪問者 ➁ ~
序章
異界からの来訪者というこの大陸が始まって以来の大事変が始まるかもしれない事態でも"知らぬが仏"の諺の通り世間は平穏そのものであった
「はぁ~ 何とか終わったわ……」
「これでやっと外に出してもらえる」
「本も返してもらえるわ」
目の下に大きなクマが出来たレナが安堵のため息を吐く
髪の毛はボサボサで服もヨレヨレ、部屋にはゴミが散乱し机の下にはクシャクシャに丸められた紙屑が転がっている
スランプに陥った一昔前の作家のようである
ここ暫く遅れに遅れたレポートを書き上げるためにずっと部屋に籠りっぱなしだったのである……
……と言うより締め切り前の漫画家のようにルシィに缶詰にされたのである
言い方を変えれば軟禁である
当然、部屋の中にあった書籍は全てルシィに没収されている
出来上がったばかりの本も取り上げられているのであった
これは、ルシィなりの愛の鞭である
出来上がったばかりの本を取り上げられたときの悲惨な記憶がレナの脳裏にリアルに蘇る
それは、悪代官に無理やり年貢を取り上げられるお百姓さんのような光景である
"まぁ……心配してくれているのは分かってるし"
"感謝もしているんだけど……"
"せめてシャワ-ぐらいは浴びたかったわ"
ルシィにとっては4日やそこらシャワ-を浴びなくても平気なのだがごく一般的な女子はそうではない
少し匂っているのが自分でもわかるレナであった
"とりあえず……シャワ-浴びて……"
"マノン捕まえて魔法工房の温泉に入って……"
"それから……"
レナの顔をだらしなく緩む
その頃、その魔法工房の温泉には他の女がのんびりと浸かっている事など知る由もないレナであった
真夏の暑さが和らぎつつある王都……
王立アカデミ-の迎賓寮ではルメラたちが体力的にも精神的にも復活の兆しが見え始めている
……とは言っても、女子寮と化した迎賓寮の中では相変わらずパンツ1枚の乳丸出しの姿である
そして……ルイーズは全く行方が掴めないマノンに苛立ち半ば恨みに似た感情が芽生えつつあった
いわゆる"可愛さ余って憎さ100倍"と言うやつである
これらもまた、マノンにとっては"知らぬが仏"であった……
第179話 ~ 異界からの訪問者 ➁ ~
魔力転換炉の遺跡に閃光が走る
メイリン達は息を呑んで閃光が収まるのを待つ
閃光が収まると人の姿が見える
"やれやれ……やっと来おったか……"
マノンに爺の呆れたような声が聞こえてくる
"一体どうなっているの"
状況が掴めない私が爺に問いかける
"お前さんの横にいる異界からのお客さん3人とお話し中じゃよ"
爺が少し嫌味ったらしく言うのだが……
マノンはにっこりと笑うと石棒を構えて凄んでいる3人に向かって現地語で話しかける
「初めまして、マノン・ルロワと申します」
「遠い所からお越しいただきお疲れでしょう」
「魔法工房にご案内いたします」
マノンに爺の嫌味は通じなかった……
本当にお客さんだと思い接しているのである
"……"
流石の爺も呆れて声が出ない
一方で話しかけられたメイリン達もマノンが何を言っているのか分かるはずがなく困惑しているのが分る
「どうかなされましたか」
私が問いかけると3人は怯えるように石棒を構える
「ဒီကောင်က နတ်ဆိုးကောင်!!! こいつは化け物です!!!」
「မင်းရဲ့ကိန်းဂဏန်းတွေက 700000 ကျော်!!!" 能力値が700000を超えていますっ!!!」
ムーヤンが声を震わせながら言う
「ဒီလောက်တောင်ရှိနေပြီ... もはやこれまでだな……」
「ဒါပေမယ့် ငါလက်မချနိုင်ဘူး။ だが、降伏はできん」
「နောက်ထပ်ရှိသေးတယ်။ စစ်သားများ၏ဂုဏ် アル・マノース共和国軍人の名誉にかけて」
メイリンがそう言うと残りの2人も覚悟を決めるが……
「နင်တို့နှစ်ယောက် တံခါးကို ဖြတ်သွားလိုက်။ お前たち2人は門を潜れっ!」
「အိမ်သို့ အရှင်လတ်လတ် ပြန်သွားပြီး ဤအရာကို သင့်ဇာတိနိုင်ငံသို့ သတင်းပို့ပါ။ 生きて帰り、この事を本国に報告しろっ!」
「ဖြတ်သန်းပြီးတာနဲ့ တံခါးကိုပိတ်လိုက်ပါ။ 門を潜ったらすぐに閉じろ」
「ဒီကောင်ကို ဟိုမှာ သွားခွင့်မပြုနိုင်ဘူး။ あんな化け物を向こうへ行かせるわけにはいかない」
「ငါရပ်မယ်။ 私が足止めをする」
メイリンの言葉に2人が困惑する
「ခေါင်းဆောင်ကို မစွန့်လွှတ်နိုင်ဘူး။ 私にはリーダーを見捨てることは出来ません」
泣きそうな声で言うムーヤンを見てメイリンがイーチェンの方を見る
「……」
イーチェンは無言で小さく頷くといきなりムーヤンの腹部にパンチを入れる
「အဘယ်ကြောင့်・ 何故……」
薄れゆく意識の中でムーヤンが呟く
「ကံကောင်းပါစေ။" ご武運を」
イーチェンは気絶したムーヤンを担ぐとそう言って敬礼をし門の方へと駆け出す
「ကောင်းပါတယ်... 元気でな……」
メイリンは走っていくイーチェンの後ろ姿を見送りながら呟く
マノンは何が何だか全く分からずにただ呆然と3人を見ている
"あれっ……仲間割れかな……"
イーチェンがムーヤンの腹部にパンチを入れるのを見て呟く
"どこ行くのかな……"
イーチェンがムーヤンを担いで走り出すのを見て疑問に思う
"1人だけ残して何するのかな……"
マノンにはメイリン達が何をしているのか全く理解できずに首を傾げているとメイリンが石棒を構えてこちらを睨む
「あの……どうかなされましたか」
「何か困った事があれば相談にのりますよ」
事情の分からないマノンはそう言う(現地語)とメイリンの方へゆっくりと歩いて行く
「အနားမလာနဲ့!!! これ以上は近寄るなっ!!!」
近付いてくるマノンに向かってメイリンが叫ぶがマノンは何事も無かったように近付いてくる
「သေတာပဲ クソッ」
メイリンは悔しそうに呟くと自分が使える最大クラスの攻撃魔術を発動する
さっき使おうとしていた石棒に蓄えられた全ての魔力を使い尽くす大技である
「ငရဲကြီး」
メイリンが呪文らしき言葉を口にすると手にしていた石棒から紅蓮の業火が吹き荒れマノンに襲い掛かる
「ひぇ~っ!!!」
突然の火炎魔法に吃驚するマノンであったのだが……
「錬成分解っ!」
とっさに爺譲りのお得意の分解魔法を発動するのだが……慌てていたために力加減を誤ってしまう
マノンの分解魔法はメイリンの渾身の一撃である火炎魔法を易々と打ち消し無効化し余った魔力がメイリンに襲い掛かる
「きゃぁぁぁぁーーーっ!」
メイリンが悲鳴を上げる
メイリンが身に着けていた対魔法・対物強化プロテクターの戦闘服は一瞬で分解され蒸発する、更に下着も身に着けていた物全てが消えてなくなり
メイリンは丸裸になってしまう
「えっ……」
完全に死んだと思っていたメイリンは自分が生きている事と裸になっている事に困惑している
何が何か分からずに混乱していると目の前にマノンが立っている
「ひぃーーーっ!」
恐怖の余りメイリンは気絶しそうな悲鳴を上げると腰が抜けたようにその場にへたり込んでしまう
「ごめん……やりすぎちゃった」
そんなメイリンの様子にマノンは後ろ頭を掻きながら申し訳なさそうに笑う
「သင်ကဘာပါလဲ あんたって一体何なのよ」
丸裸のメイリンは地面にへたり込んだままマノンを見上げるようにして言う
「私はマノン・ルロワ」
「この地を見守る者である」
マノンは少し格好をつけて言うのだが現地語なので当然メイリンには通じているはずがない
「ပြန်လည်မွေးဖွားသောသမ္မတနိုင်ငံကိုဂုဏ်တင်ပါ။ 新生・アル・マノース共和国に栄光あれっ!」
メイリンはそう心で叫ぶと舌を噛み切って自決しようとするのだが……
体が痺れて口も舌も全く動かない
マノンはメイリンの動きを封じるためにパラライズの魔術を発動していたのである
"ဘာဖြစ်တာလဲ・ どうしたの……"
"ငါ့ခန္ဓာကိုယ်က ထုံကျင်ပြီး မလှုပ်ရှားနိုင်တော့ဘူး။ 身体が痺れて動ない"
裸で地面にへたり込んだまま体が痺れて全く動く事が出来ない
「危害を加えないからおとなしくしてね」
マノンはメイリンにそう言うとが……
当然、全くメイリンには通じてはいない
"သတ်လိုက်ပါ အခုသတ်လိုက်ပါ!!" 殺せっ! 今すぐ殺せっ!!"
メイリンは叫ぼうとしても舌も回らない
マノンはそんなメイリンを引き起こすとお姫様抱っこする
"ဒါမကောင်းဘူး…… これはマズイ……"
"ဒါကို ဆက်ထိန်းထားရင် မင်းအိမ်ကို ခေါ်သွားလိမ့်မယ်။ このままだと、マジでお持ち帰りされてしまう"
"တစ်နည်းနည်းနဲ့ ရှောင်ရမယ်။ それだけは何とか避けなければ"
焦って身を捩るメイリンを他所にマノンは転移ゲートを作動させる
そのままカルラの待つ魔法工房へと裸のメイリンをお持ち帰りするのであった
こうして、メイリンはマノンの保護下に入る事となるのである
"何をしておるのやら……"
一部始終を見ていた爺は諦めたように呟くのであった
"おっと、忘れておったわ……"
"あの異界の兵士はあ奴に任せて、儂は逃げた2人を追わねば"
爺が呟くとパックは飛び立つと森の方へと飛んで行くのであった……
第180話 ~ 異界からの訪問者 ➁ ~
終わり