第179話 ~ 異界からの訪問者 ① ~
第179話 ~ 異界からの訪問者 ① ~
序章
今から約3400年前に旧・南極大陸のアル・マノース共和国の僅かな生き残りの人々は"異界"への移住を決意する
アル・マノース共和国では大氷河期が訪れる何百年も前から異界への転移法を研究しておりその研究施設がこのピオ-ネ島にあり既に実用化の目処がついていたからである
そして、原型機とそこにいた研究者や技術者たちも無傷で生き残っていたからである
ピオ-ネ島に研究施設があったのは偶然ではない、本土の南極大陸にあった研究所での"異界の門"の起動実験に失敗し大規模な魔法災害を起こしてしまったため安全対策として絶海の孤島であるここに新たに研究施設を新設し研究者や技術者たちも一緒に移転させたのである
マノンや爺が南側の魔力転換炉の遺跡と思っているが本当は"異界の門"の研究施設なのである
魔力転換炉は"異界の門"を動かすための魔力供給源である
そして、"異界の門"が完成するとアル・マノース共和国の人々は異界へと旅立ちの準備を始める
無数に存在する"異界"から居住に適した"異界"を探し出すのは容易な事ではない
居住に適した"異界"を探し出すのに更に50年の年月を必要としたのである
同時に無数に存在する"異界"とこの世界との繋がりを保つために少数の人々が交代で"異界の門"の管理者としてこの地に残る事となる
万が一の不測の事態に備えいつでもこの地に戻る事が出来るようにである
しかし、移住をしてより150年後に施設の重大事故のために全員がその命を落としてしまう
管理者を失ってしまった研究施設は安全装置が働き魔力転換炉は自動停止し"異界"とこの世界との繋がりを保つために稼働していた"異界の門"もその機能を停止し、その繋がりは永遠に断たれることとなったのであるが……
以前、マノンと爺が暴走した南側の魔力転換炉を停止させた際に放出された膨大な魔力により一時的に"異界の門"その機能を回復させ3300年間の長きに渡って断たれていた"異界の門"が不完全ながら再び開いたのである
そして……3人の偵察者が送り込まれる事となったのである
第179話 ~ 異界からの訪問者 ① ~
「ငှက်က ဘာလို့ ဒီမှာလာတာလဲ။ 何故、鳥がこんな所に」
全く想定していなかった事態に頭らしき人物が驚きの声を上げる
「အဲဒီငှက်... あの鳥は……」
「"ကြက်တူရွေး" လို့ပြောတဲ့ ငှက်တစ်ကောင်လို "オウム"と言う鳥のようです」
タブレットのような石板を持ったナビゲーター役の人物が答える
「ဤကမ္ဘာတွင် ငှက်များသည် တယ်လီပို့ခြင်းမှော်ကို အသုံးပြုကြပါသလား။ この世界では、鳥が転移魔法を使うのか?」
頭らしき人物がナビゲーター役の人物に問いかける
「ငါနားမလည်ဘူး・ 分かりません……」
「၎င်းသည် "အလွန်ထက်မြက်ပြီး လူ့စကားပြောကို သင်ယူနိုင်သည်" ဟု မှတ်တမ်းတွင် ဖော်ပြထားသည်။ 記録には"知能が高く人語を覚える"とあります」
ナビゲーター役の人物が困惑したように答える
そうしていると3人の頭に誰かの声が聞こえてくる
"あなた達はアル・マノース共和国の末裔か"
"この地に何の用があるのか"
"我々に敵意はない武器を収めよ"
3人の頭に直接、問いかけてくる
「これは……念話かっ!」
頭らしき人物が驚きの声を上げる
鳥がいきなり転移してきたかと思うと念話でコンタクトを取ってきたのであるから驚くのも当然である
"そうだ、私はあなた方の言葉を理解できない"
"故に、直接あなた方の脳に語りかけている"
3人の頭に言葉か響いてくる
爺の言葉遣いがいつもと違うのは音声ではなく思念を伝えているからである
動揺していた頭らしき人物は大きく深呼吸をすると平静を取り戻し、目の前のパックに向かって念を送る
「そうだ、我々はアル・マノース共和国の末裔である」
「許可なく、この地に足を踏み入れ非礼を詫びよう」
「こちらにも敵対する意思はない」
頭らしき人物が構えていた白い石棒を腰に戻すと残りの2人も構えていた獲物を収める
そして、ヘルメットのような兜を脱ぐ……後の2人も同じように兜を脱ぐ
頭らしき人物は女性のようである、残りの2人は男性のようである
3人とも同じ黒髪に黒い瞳、肌の色は薄い褐色である
以前にこの遺跡の住居跡で見たフォログラムの人物と同じ種族であることがわかる
それと同時に、明らかにこの地に住まう人々とは人種が違うと判る
「私の名は"リュウ・メイリン"である」
「新生・アル・マノース共和国の軍人である」
「階級は中尉、将校でありこのチームのリーダーである」
「それなりの待遇を要求する」
「なお、軍機にかかわるような事柄については一切解答しない事を了承されたい」
「そちらが我らの任務を妨害するか明らかな敵対行動をとらない限りこちらも敵対する事は無い」
頭らしき人物が名乗ると残りの2人も自ら名乗る
「私は"ヨウ・ムーヤン"階級は曹長です」
タブレットのような石板を持ったナビゲーター役の人物が答える
「俺は"テイ・イーチェン"階級は軍曹だ」
長身で体格の良い人物が答える
3人が名乗ったので爺も騎士の慣わしに倣い名乗る
「わしの名は"パトリック・ロベール"」
「わけあって、このような姿をしておるが」
「ちゃんとした人である」
爺の言葉に3人は困惑したような表情をすると顔を見合わせ大きく頷く
「ငါတို့ တစ်ယောက်တည်း စကားပြောချင်တယ်။ 我らだけで話し合いがしたい」
「ငါအချိန်တစ်ခုလိုတယ်။ 少し時間が欲しい」
リーダーのメイリンが申し入れをすると爺はそれを承諾する
すると何やら3人で音声で話始める
爺に会話の内容を知られないためである
「သင်ဟာလူတစ်ယောက်လို့ ပြောပါ။ မှန်သလား။ 人だと言っている、本当だろうか?」
ムーヤンが半信半疑で他の2人に問いかける
「ယုံရခက်ပေမယ့် ဒါက ကျွန်တော်တို့အတွက် ဘုံအသိတရားနဲ့ မသက်ဆိုင်တဲ့ မတူညီတဲ့ကမ္ဘာတစ်ခုပါ။ 信じ難いが、明らかにここは我ら常識が通じぬ異世界」
「ယုံကြည်ဖို့ကလွဲလို့ ငါ့မှာ ရွေးချယ်စရာမရှိပါဘူး။ 信じるしかあるまい」
リーダーのメイリンが他の2人を説得しようとする
「သူ့ကိန်းဂဏန်းတွေကို ခွဲခြမ်းစိတ်ဖြာနိုင်ပါသလား။ 奴の能力値は解析出来るか」
イーチェンがムーヤンに問いかける
「ကုန်ဆုံးတော့မည်။ もうすぐ終わる」
ムーヤンは手にしている石板を凝視する
「ခွဲခြမ်းစိတ်ဖြာမှုပြီးပါပြီ။ 解析が終わった」
ムーヤンは手にしている石板を見て驚いている
「ဘာဖြစ်တာလဲ どうしたんだ」
イーチェンがムーヤンの手にしている石板を覗き込む
「၆၈၀၀!! 6800だと」
「ဒါဟာ လိမ်ညာမှုတစ်ခုပဲ မဟုတ်လား။ 嘘だろう、何かの間違いじゃないか」
「ဒါ ဗိုလ်သင်တန်း စွမ်းရည်တန်ဖိုး မဟုတ်ဘူးလား။ 尉官クラスの能力値じゃないか」
イーチェンは驚きの余り声が大きくなる
「အဲဒီငှက်က ငါနဲ့ တန်းတူရှိလား။ あの鳥と私は互角か」
そう言うとメイリンは苦笑いする
「ဘာပဲဖြစ်ဖြစ် မြန်မြန်ကျွန်တော်တာဝန်ကျေရမယ် 何にせよ、急いで任務を遂行しないといけない」
苦笑いしていたメイリンが急に真剣な表情で言うと他の2人も頷くのであった
メイリン達の任務は"異界の門"の外の世界の状況確認……そして、最も重要な任務が魔力転換炉の暫定的な再稼働である
この世界の"異界の門"が一時的に再稼働している間にこちら側の魔力転換炉を稼働させないと再び"異界の門"が閉ざされてしまうからである
当然、メイリン達に残された時間はそれほど多くは無い……最悪の場合、この世界の"異界の門"が突如機能を停止した場合は元の世界に帰れない事態に陥るかもしれないのである
「ဒီငှက်နဲ့ ဆက်ဆံဖို့ ငါ့မှာ အချိန်မရှိတော့ဘူး။ これ以上、あの鳥の相手をしている時間は無い」
メイリンが何かを決意したかのように言うと残りの2人もお互いの顔を見合わせ大きく頷く
「パトリック殿、我らには時間がない」
「済まないがこの地下にある魔力転換炉へ行かせていただく」
「貴殿がこれを阻むというならば……」
メイリンは全てを語らぬまま魔力転換炉に通じる床に空いた階段の方へと歩み始めると後の2人もそれに続く
「……待たれよ……」
「そちらにもそれなりの事情があるのは察するが……」
「こちらもそれなりの事情がある」
「何ゆえに、魔力転換炉にむかうのか目的を話しては頂けぬか」
爺が少し緊迫した口調で話しかけるが……
「初めに申した通り……"軍機に関する事は回答いたしかねます"……」
「そして、我ら任務を阻むというのであれば……」
爺はメイリンの念話に殺気を帯びている事を感じ取る
"あ奴ら魔力転換炉を再稼働させる気か……"
"そうさせるわけにはいかんな……"
爺は心の中で諦めたように呟く
3300年も放置され老巧化した魔力転換炉を整備・点検もせずに再稼働させるなど正気の沙汰ではないからである
我々の世界で言うならば放置され老巧化した原子炉を整備・点検もせずに再稼働させるようなものである
「致し方あるまい……」
爺が残念そうに念話で返すとメイリン達はすぐさま武器らしき白い石棒を構える
「残念です……」
メイリンが爺に念話で答えると同時に白い石棒が青白く輝くとパックめがけて凄まじい速さで斬りかかる
パックは避けようとはしなかった……
メイリンの斬撃がパックの胴体に当たる寸前に何か見えない壁に当たったかのようにピタリと止まり弾き返される
「ဘာလဲကွာ!!!" 何だとっ!!!」
メイリンは驚きの声を上げる
他の2人も驚きを隠せないでいる
「မသိ၎င်းသည် မှော်အတားအဆီး ဖြစ်သည်!!! 未知の対魔法障壁です!!! 」
ムーヤンが叫ぶと同時にメイリンが後退し代わりにイーチェンがパックの前に飛び出し赤く輝く石棒でパックの頭を叩き割ろうとするが……同じように途中でピタリと止まって弾き返される
「၎င်းသည် ရိုးရှင်းသော မှော်အတားအဆီး မဟုတ်ပါ။ ただの対魔法障壁じゃねぇな……」
イーチェンが額に冷汗を掻きながら言うと直ぐに後退するとムーヤンの手にしていた石棒から青白い光線がパックめがけて発射される
発射された光線はパックに命中したかのように見えたのだが……バックは全く無傷である
「၆၈၀၀ စွမ်းရည်တန်ဖိုးက မှန်နေပုံရပါတယ်။ 能力値6800は本当のようですね」
ムーヤンは顔を引き攣らせて言うとメイリンがスマートフォンのような石板を指でなぞっている様子が爺の目に飛び込んでくる
「大技が来るのう……」
爺がそう呟いた瞬間に今までジッとしていたパックが凄まじい速さでメイリンの方へ飛んでいく
「ခေါင်းဆောင် အန္တရာယ်ဖြစ်နေပြီလေ!!! リーダー危ないっ!!!」
ムーヤンが叫ぶとイーチェンがメイリンの前に立ちはだかり石棒を地面に突き立てると防護魔法を発動する
すると、パックは進路を変えて崩れかけた石壁の上に止まる
メイリン達は一呼吸おいて手にした石棒を構えなおす
辺りが静まり返る
"ピィー!ピィー!ピィー!"
突如ムーヤンの石板が再び警報音が鳴り響く
「တစ်ယောက်ယောက်က တယ်လီပို့နေတယ်!" 何者かが転移してきます!」
ムーヤンの叫び声にメイリンとイーチェンは再び背中合わせになり全周囲警戒態勢になる
"やっと来たか……"
爺がそう呟いた瞬間に物凄い閃光に遺跡が包まれる
「ငါ့ကံကြမ္မာက လာနေပြီလို့ ထင်ရတယ်။ どうやら……真打のお出ましのようね」
メイリンが何かを悟ったかのように呟く
メイリン達は3500年ぶりにこの世界の住人(人間)と出会う事になるのである
いわゆる、異なる世界の住人との"ファースト・コンタクト"である
"ファースト・コンタクト"これが異なる世界の住人との今後の関係にどれほど重要な影響を及ぼす事となるのか、当のマノン・ルロワに分かるはずも無いのである
第179話 ~ 異界からの訪問者 ① ~
終わり