第175話 ~ 2人だけの暮らし 二日目 ④ ~
第175話 ~ 2人だけの暮らし 二日目 ④ ~
序章
マノンがサボンの村でカルラと共に過ごしいてる頃……
爺は無事に出産を終えたシルビィを部屋の片隅にいた
"大賢者史上、初めての子か……"
爺はそう呟くとシルビィの隣の小さなベビー・ベッドで健やかに眠る子を生暖かい目で見守る
"今頃、あ奴はどこで何をしているのやら……"
爺は呆れたように呟くと小さなため息を吐く
"それよりも……確かめねば……"
爺がそう呟くと無音魔法を発動しパックは音も無く飛び立つとベビー・ベッドの柵に止まる
パックは食い入るようにベビー・ベッドで健やかに眠る子の顔を覗き込む
"……んん……"
爺は少し困惑したように小さな声で唸る
"感じられんな……"
"まぁ……それもよいか……"
爺は呟くとパックは音も無くベビー・ベッドの柵から飛び立ち部屋の中のタンスの上に止まる
爺はこの子に期待していた魔力を感じることが出来なかったのだ
"その方がいい……その方が……"
そう呟いた爺の言葉はどこか安堵としたかのようであった
暫くすると、部屋の中にアネットが朝食を持って入ってくる
「シルビィ様、お体の具合はいかがでしょうか」
ベビー・ベッドで健やかに眠る子の顔を覗き込みながら子供を起こさないように小さな声でシルビィに話しかける
「ありがとう……」
「もう大丈夫よ」
シルビィはにっこりと笑って答える
「これをどうぞ」
アネットはシルビィのすぐ横にトレイを差し出す
トレイの上にはサンドイッチと紅茶そして水の入ったカットグラスのコップとマノンの置いていったエイペックの骨薬が3粒、綺麗な装飾がされた小皿に入っている
「後でカミーユ医師が参ります」
アネットがそう言ったとたんにドアをノックする音がする
「あれっ……随分と速いですね……」
アネットが不思議そうに言うと……
「シルビィ……入っても良いかの……」
国王のレオナールの声がドアの外から聞こえてくる
"あ~……いつものですね"
アネットは少し呆れたように言うとため息を吐く
レオナールは部屋に入ってくると一直線にベビー・ベッドへと向かう
その姿は、国王などではなく……どこにでもいるお爺ちゃんであった
そんなレオナールの姿を見てシルビィは微笑むと右手の薬指に嵌められたマノンに貰った指輪に視線をやる
指輪の魔石は無くなっている……
"あれは、夢のようでそうではなかったのですね"
"マノン……貴方が私とこの子を救ってくれた"
シルビィは魔石の無い指輪をジッと見つめ心の中で呟くのであった
そして……そんな、ほほえましい家族の様子を見ていたアネットは心の中で叫ぶ
"あのクソ野郎は、いったいなにしてんのよっ!!!"
アネットは全く姿を見せないマノンに怒りを覚えるのであった
その頃、マノンはベッドの上でカルラの猛烈な攻めに悶絶しているのとはシルビィやアネットが知るはずも無いのである……
後日、シルビィが出産で生死の境を彷徨っていた事を知ったマノンはサボンの村での事を生涯隠し続ける事になるのであった……
第175話 ~ 2人だけの暮らし 二日目 ④ ~
「ここが……ガリアの王都……ガリアン」
「凄い所ね……」
広場の塔の天辺から眼下に広かる王都ガリアンの街並みを見てカルラが感動している
私はカルラを王都へ連れてきているのである
「下に降りて街の中を案内するよ」
私がそう言うとカルラは嬉しそうに何度も頷く
長い急な階段を降らなければならないのだが普段から山里で暮らし畑仕事を毎日のようにしているカルラには大した負担ではなかったようで駆け降りるように階段を降っていく
「ちょっと待ってぇ~」
私はカルラを追いかけて引き留めるとカルラは途中で立ち止まりこちらを振り向く
「どうしたのマノン……」
カルラは"何かあるの"と言う表情でこちらを見ている
「この姿のままだと…知り合いの誰かに…見つかった時に……ゼェゼェ……」
「いろいろと…困る事があるかもしれないから……はぁはぁ……」
「姿を…変えるよ……ふぅ~」
息1つ乱れていないカルラに私が息を切らしながら言うとカルラは"ああ"と言う表情になる
私は呼吸を整えると久しぶりに性転換を始める
体中がチクチクと痛み燃えるように熱くなる
「もういいよ」
性転換を終えてカルラに話しかける
「……マノン……なのよね……」
女体化した私をカルラが目をパチパチさせながら見ている
「どうかしたの……」
「もしかして……どこかおかしいの……」
私は久しぶりに性転換を行ったので何かおかしいのかと不安になり自分の体をチェックする
"股間のモノは無くなっているし……"
"オッパイもちゃんとあるし……"
私は少し焦って自分の体のあちこちを手で触りながらチェックしている
「この前に温泉でチラッとしか見てなかったけど……」
「女のマノンって……王子様のようね……」
カルラは私の方を見てそう言うと頬を少し赤らめる
「そう……なの……」
私がそう言うとカルラは少し俯くと黙り込んでしまう
何とも言えない空気が漂う
"凄くかっこいいじゃないのよ……"
"コレット様が夢中になる気持ちが何となくわかるわ……"
"いゃぃゃぃゃ~違う違う~私にそんな趣味は無いはずよ……"
カルラは心の中で呟き自分を説得する
一瞬とは言え、女体化したマノンに心を奪われてしまうカルラであった
カーンカーンカーンと教会の鐘が鳴り響く
「もうお昼だっ!!」
「何か食べない、奢るよ」
私がそう言うとカルラはにっこりと笑う
性転換すると副作用でおなかが空くのである
「勿論、こ馳走になるわ」
そう言うと再び塔の急な階段を駆け下り始める
私は急いで後を追いかける……
女体化したマノンの足取りは軽く滑るように急な階段を駆け下りるとカルラに追いつきカルラの手を取ると一緒に階段を駆け下りていくのであった
塔の階段を降り終え広場に出ると多くの人々が行き交っている
"今日は平日のはずなのに、やけに人が多いな……"
マノンはいつもより多い人の数に少し違和感を覚えるのだが……
"お腹が空いたな……何か食べよう……"
"そうだっ! 以前、アレットさんに教えてもらった焼肉の店がいいな"
マノンは性転換を行って空腹になっていたこともあり食い物の事で頭が一杯でそれ以上の事は考えなかった
"食う物が決まれば喰うのみ!! "
私はカルラの手を取ると焼肉屋目指して走り始める
「ちょっとマノンっ!」
私がいきなり手を取って走り出したのでカルラは少し驚いている
私はカルラを引き摺るようにして焼肉屋目指して走っていく……
その姿は散歩の途中で腹を空かせた犬が食い物を見つけ飼い主を引き摺っているようであった
「着いたよっ!!!」
私は焼肉屋の前にたどり着くが……ちょうど昼時とあって店は混雑していた
「あの~二人ですが……」
私は不安そうに若い女性店員に話しかける
「あっ! お客さん……」
「すいませんが席が空くまで少し待ってもらえますか」
すまなさそうにそう言うと番号札を手渡してくれる
「15番か……」
かくして、私とカルラは空っぽのお腹を抱えて一時間程店の前で待つ事となるのであった
順番が回って来て私とカルラは席に座るとおすすめセットを6人前注文する
「えっ!!! 6人前ですかっ!」
若い女性店員は聞き間違えたのではないかと思いと確認を取ってくる
「はいっ! 6人前です」
「それと"エール"が4杯にパンも2人前お願いします」
"エール"とは、アルコール度数が低いビールでガリア王国では水代わりに子供でも普通に飲まれている飲み物である
マノンがあえてワインを注文しなかったのはアルコールに弱いカルラに対する配慮である
店員は注文を復唱すると厨房へと戻っていく
暫くすると大皿に盛られた6人前の肉と4杯のエール、それに2人前のパンが運ばれてくる
肉は焼かれており調理済みである
この店秘伝のスパイスの旨そうな匂いに空腹の私とカルラは涎が出そうになる
「食べようか……」
私がそう言うとカルラはコクコクと何度も頷く
飢えた獣のように2人で全てを喰らいつくすのであった
満腹感に満たされ幸せに浸りながらエールを飲み干すと代金を払うために若い女性店員を呼ぶ
「ご馳走さま、美味しかったよ」
私がにっこりと笑ってお礼を言うと若い女性店員の顔が真っ赤になる
「まっ! また、いつでもお越しください」
「お待ちしておりますっ!」
そんな私をカルラは目を細めて隣で見ているのであった
因みに代金は150ガリア・フラン(12000円)であった……
魔装服のポケットにはかなりの金額のお金が入っているし服地の裏には1000帝国マルク金貨もある
店を出て外をカルラと2人で歩いているとすれ違う人(主に女性)がマノンを見て振り返る
「マノンって、見返り美人ね」
そんな様子を見てカルラは不機嫌そうに言う
「まぁ……確かに……凄くかっこいいのよね」
カルラは複雑そうな顔をして呟くと小さなため息を吐く
「……」
そんなカルラを見て何も言う事が出来なかったマノンであった
「王都を案内するよ」
私は気を取り直してカルラの手を握ると王都ガリアンのいろいろな場所を案内するのだがどうもカルラの様子がおかしい
「どうしたの……」
「何処か具合が悪いの……」
カルラが病み上がりであることもあり心配になってくる
「そんなんじゃないのよ……」
カルラはそう言うと自分の身なりを気にしているのに気付く
確かに、華やかな服装の王都の女性に比べカルラの服装は作業着のようである
「こっち来て」
私はそう言うとカルラの手を握り商店街に足を運ぶ、王都のショッピング・スポットである
若い女性の服を売っている店に入る
「もしよければ……新しい服をプレゼントするよ」
私がそう言うとカルラは少し驚いたような表情をする
「ありがとう……」
カルラは嬉しそうに頬を赤らめ小さい声で言うと直ぐに若い女性店員が接客に来る
ここら辺は、今の日本のショップと全く同じであったのだが……
「何かお探しですか」
「お客様にはこの服がお似合いですよ」
何故か若い女性店員はカルラを無視して私に服を進めるのであった
「……」
唖然としているカルラを見ても、私には何も言う事が出来ないのであった
そんなこんなで、カルラは30分近く悩んだ末に茶色の革ベルト付きの薄紅色のワンピースに刺繍の入った白のジャケットを選ぶのであった
早速その服に着替えると今まで来ていた服は折りたたんで店で貰った布袋の中に押し込んだ
元・貴族のご令嬢だけことはあり何処となく気品がある
「どうかな……似合ってるかな……」
カルラの問いかけに私はにっこりと笑うと頷くのであった
そして、何故かやたらと熱心な女性店員の巧みな言葉に負けて私も深紅のブレザーに黒のスカートを買わされてしまうのであった
お値段、2人合わせて800ガリア・フラン(64000円)であった……
服の店を出るとその隣に靴屋があるのに気が付く
「靴も新しいのをプレゼントするよ」
私かそう言うとカルラは少し悩んでいる
これ以上は悪いと思っているようだ、私はカルラの手を取ると靴屋に引っ張り込んだ
「ちょっとマノンっ!」
今度は老齢のお爺さんが接客をしてくれる
「いらっしゃいませ」
お爺さんはそう言うと私とカルラの足元を見る
「ん~」
お爺さんは呻くような小さな声を出すとカルラの足元に膝まづく
「お嬢さんの靴……随分と年季が行っているようですな」
「少し足を見せて貰っていいですか」
お爺さんの問いかけにカルラが頷く、カルラは椅子に座るとお爺さんはカルラの靴を脱がせて足を入念に調べている
「今の若い子にしては随分としっかりした足をしておられますな」
「働き者の農家の娘さんですかな」
お爺さんはそう言うとにっこりと微笑む
確かに、カルラは起伏の激しい山間の村で畑仕事を毎日のようにしているのだから当然の事であるのだが、足を見ただけで分かるこのお爺さんは大したものである
「少しお待ちいただけますかな」
お爺さんはそう言うと店の奥にある戸棚から一足の靴を出してくる
「これが私のお勧めです」
そう言うとカルラの前に膝まづくと新しい靴を履かせる
「厚めの革を柔らかくなめし、靴底は何枚も皮を重ねて強くしてあります」
「いかがですかな……」
お爺さんがそう言うとカルラは椅子から立ち上がり歩いたり軽くジャンプしている
「この靴、まるで裸足のよう……」
カルラの一言にお爺さんは万遍の笑みを浮かべる
当然、私はこの靴を買うのであった……価格、200ガリア・フラン(16000円)であった
普段はこのような女子の買い物の仕方などする事の無いマノンなのだが、何だか楽しく感じられるのであった
欲しい物をサッと買ってサッと帰ってくるので、その事をよく知っているレナやルメラ達から買い物に付き合われる事は無い
因みに、マリレ-ヌやルシィもマノンと同じである
このような調子で王都での時間は過ぎていくのである
第175話 ~ 2人だけの暮らし 二日目 ④ ~
終わり