第173話 ~ 2人だけの暮らし 二日目 ➁ ~
第173話 ~ 2人だけの暮らし 二日目 ➁ ~
序章
ここは、王立アカデミーの迎賓寮……
ルメラたちが居間のテーブルに向かいせっせっと筆を走らせいる
「あ~いつになったら終わるんだ……」
疲れ果てた声でルメラぼやく
「仕方がありませんよ……」
「ここ一月以上、暑さにかまけて何もしていなかったのですから」
そなんルメラをユーリアが横目で見ながら冷静な口調で言う
ガリア王国の暑さにバテてしまっていたので本国シラクニアへの報告書が溜まりに溜まっているのである
暑さも和らいできたので4人揃って遅れていた報告書を書き上げているのである
……とはいっても、4人揃ってトップレスの乳丸出しの姿に変わりは無かった
因みに、春夏の短いシラクニアでは老若男女を問わず上半身裸で日光浴する事は珍しくない
ガリア王国の人から見れば非常識かもしれないがシラクニアでは当たり前のことなのでルメラたちは全く気にしていない
これは、ヨーロッパの人々が老若男女を問わず公園で上半身裸で日光浴をしているのと同じであり……
フランスのパリジェンヌが乳首が透けた服を着て平気でシャンゼリゼ大通りを歩いているのと同じである
昔は殆どの日本人がパリに行った時にそれを見て吃驚したものである
ところ変わって、王立アカデミ-の女子寮のレナの部屋……
レナもルメラたちと同じような状況だった
「流石に……不味いわね……」
「これは……"収穫祭"のお休みは無いわね……」
真っ白なレポート用紙を目の前にして真っ蒼な顔でレナが呟く
そう……写本に夢中になりすぎてレポートが遅れに遅れているのである
「やるしかないわ……」
レナは自分の頬を両手でパンと叩くと気合を入れると机に向かうのであった
……のだが……
更にところが変わって、ガリア王宮のシルビィの部屋……
出産を終えたシルビィがベッドに横たわっている、そのすぐ横には赤ちゃんがスヤスヤと眠っている
シルビィは優しそうな目で赤ちゃんをジッと見つめている
「私とマノンの赤ちゃん……」
シルビィは小さな声で囁くように言うと優しく笑う
そんなシルビィに付き添っているアネットも優しく笑うのだが……
その笑顔は、何処となく不自然であった
"あのボンクラ大賢者っ!"
"いつになったら来るのよっ!!"
"呼びもしない時には顔出すくせに……"
アネットの不自然な笑顔はそのせいであった
そうしているとドアをノックする音と共に国王のレオナールの声がする
「シルビィ……入ってよいか……」
シルビィが返事をするとドアが開きレオナールが入ってくる
"また来たわ……"
"これで今日、何度目なのよ……"
そんなレオナールを見てアネットは少し呆れたように心の中で呟くのだが……
"でも……あれが普通なのよね……"
"それに比べて……"
赤ちゃんの顔を見て眼尻の垂れ下がったレオナールの表情を見るとマノンに対する怒りが更にこみ上げてくるのであった
そして更に更にところが変わってルモニエ商会の一室……
テーブルの上にオリーブオイルから作られた石鹸が並べられている
「これが……例のモノなのか……」
セルジュはそう言うとテーブルの上に石鹸を一つ手に取る
「これでしつこい油汚れが落とせるのか……」
石鹸を眺めながら不思議そうに呟くと何気なく匂いを嗅ぐ
「これは……香油の香りだな……」
そう言うと手にした石鹸をテーブルの上に置く
「これも、マノン君の考えたモノなのか……」
「ならば間違いはないな……いいだろう……」
セルジュがそう言うとルイーズが嬉しそうな顔をする
かくして、この世界で初めて石鹸が売り出されることとなるのであった
地球では、オリーブオイル石鹸の歴史は紀元12世紀以降であるとされる
この世界では、ほぼ地球と同じ時期にオリーブオイル石鹸が世の中に普及することとなる
ルモニエ商会はマノンの意思を尊重し、その製法を独占しなかった
(本当は、大賢者の呪いが恐ろしかっただけなのだが……)
これにより、オリーブオイル石鹸は大陸に急速に普及し皮膚病や多くの経口伝染病が減少することとなる
これも、後の世に大賢者マノン・ルロワの功績の一つとされている
第173話 ~ 2人だけの暮らし 二日目 ➁ ~
「酷いよ……カルラ……」
マノンは真っ二つに敗れたパンツを手にして言うと裸のままでリュクの中から新しいパンツを取り出してそそくさと穿く
「替えがあるからよかったけど……」
「無かったら、ノーパンだよ……」
私がブツブツ言いながらカルラの方を恨めしそうに見る
「まぁ……その時は私の貸してあげるわよっ」
「マノンって女になれるじゃない」
そう言うとカルラはケラケラと笑う
「……だったら……」
「これからカルラの家に来るときはずっと女の体のままでいるね」
私はそう言ってカルラの方ほ見てニヤリと笑う
「えっ……それは……ダメッ!!!」
カルラは慌てて言うと両手を合わせてマノンの前に膝まづく
「ごめんなさい……マノン様……」
「それだけはご勘弁を……」
素直に謝罪するカルラであった
「でも……どうしてなのかな……」
「"熱病"が治ってからどうも体というか欲望というのか」
「何と言ったらいいのか……凄く燃えるようなのよね」
「今までこんな事なんか無かったのに……」
「いったい私どうしちゃったのかしら……」
カルラはそう言うと腕組みをして考え込む……
"カルラ……それはね……"
"私があげた薬のせいになんだよ……"
などとはカルラに言えず、そっと心の中で呟くマノンであった
そうしていると、玄関の方から宿屋のおばさんの声がする
どうやら、朝食を持ってきてくれたようだ
おばさんにお礼を言うためにカルラと二人で玄関へ出るとおばさんが手提げの籠を持って立っていた
「カルラちゃん、もうすっかり元気になったようだね」
「それに……なんだか前よりも肌の張りも色艶も良くなったんじゃない」
おばさんはそう言って私の方を見る
「どうしたんだいマノン君……」
「随分とやつれたような感じがするし……」
「目の下に薄くクマがあるじゃないの」
「看病疲れか何かかい……」
おばさんはそう言って私の顔を心配そうに見た後で、もう一度カルラの方を見る
「……」
おばさんはカルラの顔をジッと見ているとカルラが恥ずかしそうにする
すると、おばさんの顔がニンマリとなる
「ああ~そう言う事ね~」
勘のいいおばさんはカルラの態度で全てを察するのであった
「食べ終わったら、玄関に置いといておくれ」
「それじゃ……邪魔者はサッサと退散するわね」
おばさんはそう言うと手籠をカルラに手渡し帰っていくのであった
私とカルラは全てを見透かされ、お礼も何も言えずに黙っておばさんを見送るのであった
二人で食事をとった後で山の温泉へと向かう
山間を涼しい風が駆け抜け心地よい
そうしていると、カルラは私が帰った後の出来事を話し始める
「マノンが帰った後でね……」
「王女のコレット様が突然、家にやってきたのよ」
「"大賢者の弟子"を探しているって……」
「私、吃驚ちゃたわよ」
カルラの言葉に私は一瞬体が固まる
コレットはアメリーに再びマノンの行方を占わせたのである
「そっそれで……」
私が恐る恐るカルラに尋ねるとカルラのニヤリと笑う
「……マノンって……」
「なんていうか……その……」
「そっちの気もあったんだ……」
カルラは目線を逸らして少し恥ずかしそうに言う
「えっ……」
カルラの言っている事に困惑する
「だってさ、コレット様って……」
「あの……そっちの人でしょう」
「コレット様が探しておられた"大賢者の弟子"って……」
「女の方のマノンの事じゃない」
「だから……マノンも……」
カルラは顔を真っ赤にしてモジモジしながら私の方を見る
"これはっ! 明らかにとんでもない誤解をしている"
"ちゃんと説明しないと……"
私は心の中で焦って呟く
「アレはね……」
マノンは、事の経緯を詳しくカルラに説明した
「そうなんだ……そんな事があったんだ……」
カルラは納得してくれたようだったのだが……
「でもね、マノン……」
「コレット様……本気だったよ」
「マノンの事、本気で愛しているってのがわかった」
「そんなコレット様を見ていると……」
「凄く切なくて何だか……悲しくなってきたよ……」
カルラはそう言うと私の方をチラ見して恥ずかしそうにする
「そっ!その……なんて言ったらいいのかしら」
「わっ!私は女のマノンがコレット様とナニしても全然気にしないから」
そう言うとカルラの顔が真っ赤になる
"コレは何か、変な事……妄想しているな……"
私にはカルラの考えている妄想が頭に浮かぶのであった
「もしかして……カルラにもその気があるの」
私がポツリと言う
「……」
カルラは何も言わずに黙り込んでしまう
そのまま無言で山道を歩いていく
"変なこと言っちゃったな……気まずいっ!"
私が後悔しているとカルラが突然、立ち止まる
「私にとっては……マノンはマノン……」
「性別は関係ないわ」
「でっ!でも……その……何て言うか……」
「あの時は、男でいて欲しいわ」
カルラはそう言うと速足で歩き始める
「"性別は関係ないわ"……か……」
「何だか嬉しいや……」
マノンはそう呟くと急いでその後を追いかける……
カルラの言っている事は嬉しかったのだが
"でも……あの時って……"
マノンは少し複雑な気持ちで心の中で呟くのであった
山間の温泉に着くとカルラは岩の上に着替えの入った荷物を置き服を脱ごうとする
「カルラ、服を脱ぐのはまだ早いよ」
私がそう言うとカルラは"えっ"と言う表情をして私の方を見る
「今日は、別の温泉に招待するよ」
カルラは私の言っている事に困惑しているのがわかる
「"別の温泉"って……この辺りにはここしかないはずよ」
カルラが不思議そうに言う
「今日は、カルラを魔法工房に招待するよ」
私がそう言うとカルラは首を傾げる
「"魔法工房"……」
カルラは聞きなれない名前に更に首を傾げるのであった
私は初めからカルラを魔法工房へ招待することを決めているのであった
第173話 ~ 2人だけの暮らし 二日目 ➁ ~
終わり