第171話 ~ 2人だけの暮らし 一日目 ➁ ~
第171話 ~ 2人だけの暮らし 一日目 ➁ ~
長い序章
マノンがサボンの村でカルラの付き添いをしている頃……
爺は王宮のシルビィの部屋にいた
臨月が近付いたシルビィの事が気懸かりになっていたのである
姿を消した爺はシルビィのベッドの柵に止まっている
"そろそろじゃな……"
パックの野生の勘がシルビィの出産が間近に迫っている事を教えてくれる
「シルビィ様、大丈夫ですか」
ずっと付き添っているアネットが心配そうに苦しそうなシルビィに問いかける
「だ……大丈夫です」
そう答えるシルビィの様子はとても大丈夫そうには見えない
「宮廷医のカミーユ様を呼んでまいります」
アネットはそう言うと急いで部屋を出て行く
暫くすると、カミーユとお付の者達が急いで部屋に入ってくる
シルビィの様子を診たカミーユの表情が一変する
「すぐにお産の準備をっ!」
大声で叫ぶように言うとお付の者達が大急ぎで準備を始める
シルビィ付きの女官たちが大急ぎで国王レオナールの元へ走る
王宮は一気に慌ただしくなる
そして、その時がやって来る……
ガリア王国では、お産の場に男性は立ち入る事は許されない
完全な女性だけの聖域であり男子禁制の場なのである
それは、お付の宮廷医のカミーユすら例外ではないのである
シルビィの部屋から男は全て追い出され完全な女の聖域となる
お産専門の産婆が呼ばれ、シルビィのお産が始まる
すべての女性にとって命を懸けた大勝負の始まりである
"始まったな……"
オウムのパックの中で爺が呟く
当然、男性の爺もこの場を出なければならないのである
"今は、オウムの身……差し障りはなかろう"
などと勝手な理由を付けてこの場に留まっている
爺もお産の現場に立ち会うのはこれが初めてなのである
お産が始まるとシルビィの苦しそうな呻き声が部屋に響く
産婆が呼吸を整えるように言っているのが爺に聞こえてくる
様子を見ているかぎりシルビィのお産は順調に見える
"どうやら……無事に済みそうじゃな……"
爺は一安心するとベッドの柵から飛び立ち箪笥の上に飛び移る
"さてと、シルビィちゃんのお産は上手く行きそうじゃ"
"次は、あの呑兵衛のねーちゃんじゃな……"
"……あのねーちゃんは心配なさそうじゃな……"
爺が勝手な事を考えていると急に緊張感のある産婆の声が聞こえてくる
「産道に頭がつかえている……」
「このままだとシルビィ様が……」
「お子様も危うい……」
産婆が慌てている様子からシルビィと子供が危険な状態に陥った事がのが爺にもわかる
"なんとっ! これは大変じゃ……"
爺は何とかしようと焦るがどうしようもない
そのまま、時間は過ぎ現場に絶望感が漂うのが爺にも分かる
「シルビィ様ッ! シルビィ様っ! シルビィ様ッ! シルビィ様っ!」
アネットの悲痛な叫びだけが部屋に響いている
爺の目にもシルビィの顔から血の気がなくなり青くなっていくのが分かる
"何と言う事じゃ……"
目の前の悲惨な光景に爺はただ呆然と呟く事だけしかできなかった
やがてシルビィの呼吸が弱まっていく……
シルビィに最後の時が迫っていた
"ここは……"
シルビィは真っ暗な漆黒の底に落ちていくような感覚にとらわれる
"私……死ぬのね……"
自分が死ぬことが何となくシルビィには理解できる
すぐ傍には赤ちゃんが浮かんでいる
"私とマノンの赤ちゃん……"
シルビィは赤ちゃんを抱きしめる
"ごめんなさい……産んであげれなくて……"
ただひたすら赤ちゃんに謝るシルビィであった
産まれて今までの記憶が夢のように目の前に流れていく
"ああ……もう一度、マノンに会いたかった……"
シルビィは呟くと急に目の前に金色に輝く手が差し伸べられる
"マノンなの……"
シルビィはそう呟くと赤ちゃんを抱えたまま差し伸べられた金色の手を握りしめる
すると、その手はゆっくりと上へ上へとシルビィの体を引き上げていく
同じ頃、息絶えたシルビィに異変が起きていた
マノンに貰った指輪の魔石が急に眩しく青白く輝き始めると光の粒となりシルビィの体を包み込む
光の粒に包まれたシルビィの体はゆっくりと宙に浮かぶと一部の光の粒がシルビィのお腹の周囲に集まる
シルビィの股間からゆっくりと赤ちゃんが出て来ると再び光の粒は青白く輝き始める
そして、徐々にその光が弱まるとゆっくりとベッドの上にシルビィを降ろした後で物凄い閃光を放って消える
目の前で起きている、あまりにも非常識な光景にその場にいた者たち全員が呆然としていると
「オギャーッ! オギャー!」
死産したはずの赤ちゃんが産声を上げる
息絶え青くなっていたはずのシルビィの顔色は赤みを帯びしっかりとした呼吸をしているのが分かる
「きっ奇跡だ……」
その場にいた全員が同じ言葉を口にするのであった
"これが、賢者の石の本当の力……"
爺はそう呟くと元気に産声を上げる赤ちゃんを見つめるのであった
アネットは、息を吹き返したシルビィと元気に産声を上げる赤ちゃんを呆然と見ている
"あの甲斐性無しもやる時はやるじゃない……"
アネットはマノンの事を見直すのであった
が……その頃、お父さんになったマノンはサボンの村の他の女の家で他の女の付き添いをしながらのんびりとうたた寝をしているのであった……
もしも、アネットにこの事が知れたらどうなる事やら……
第171話 ~ 2人だけの暮らし 一日目 ➁ ~
陽が沈みかける頃、おばさんが夕食を持ってきてくれる
「あれっ……カルラちゃん食べなかったのかい」
昼食がそのまま残っている器を見て心配そうに言う
「あれから、ずっと眠ったままなんですよ」
「高熱が長く続いたので疲れがとれていないようです」
私が心配そうに寝ているカルラを見ているおばさんに言うと納得したように小さく頷く
「何か必要な物があったら、遠慮なく言いなよ」
「1時間ほどしたら体を拭くお湯とタオルを持ってくるからね」
おばさんはそう言うとそっと部屋を出て行くのであった
私はランプに火打石を使って火を灯しているとカルラが目を覚ます
「あ……マノン……」
寝起きで目を擦りながらベッドから半身を起こすと大きな伸びをする
「あ~よく寝た~」
カルラはそう言って部屋の中を見まわした後で窓の方をに目をやる
「えっ……もう、夜なの……」
「私……あれからずっと寝てたの……」
信じられないという表情でカルラは窓の外をジッと見ている
「グゥーッ」
そうしているとカルラのお腹が悲鳴を上げる
「あっ……」
カルラはお腹を押さえると少し恥ずかしそうに笑う
「もう大丈夫のようだね……」
「おばさんが夕食を用意してくれているから一緒に食べようか」
私がカルラのお腹を見て笑って言うとカルラは少し恥ずかしそうに頷くのであった
2人でゆっくりと夕食を取り始める
カルラにとっては3日ぶりの食事になる事もあり無言でムシムシと食べているのであった
「食事が終わったらこれ飲んどくと良いよ」
私はそんなカルラにのエイペックの骨薬を少し多めに5粒ほど(本来は2~3粒)カルラに手渡した
2人で食事をとり終えた頃に今度はおじさんがお湯の入った木桶とタオル、カルラの着替えの寝間着と下着を持ってきてくれた
「カルラちゃん、具合はどうだい」
心配そうにカルラの方を見て言う
「もう大丈夫よっ!」
カルラの力強い言葉に笑顔を見せる
「そうかい……それは良かった」
「ばあさんにもそう言っとくよ」
「木桶と着替えは明日の朝、ばあさんがとりに来るからそのままでいいよ」
おじさんはそう言うと手にしたトレイに空になった器を載せ部屋を出て行くのであった
私とカルラは部屋を手出て行くおじさんを見送る
「体は自分で拭けるかな」
私が問いかけるとカルラは首を縦に振る
「それじゃ……私は外に出ているね」
そう言って部屋を出ようとするとカルラが私の手を掴む
「背中……拭いてくれるかな……」
「もう……全身、あんな所やそんな所まで拭かれてますし」
「今更、出て行く必要なんてありませんよ」
カルラは少し恥ずかしそうに言うと寝間着を脱ぐと背中を私の方に向ける
私はタオルをお湯につけて絞るとカルラの背中を優しく拭き始める
背中を拭き終わるとカルラは自分で他の部分を拭き終え新しい下着を履き新しい寝間着を着る
「今度は、私がマノンの背中を拭いてあげるね」
カルラはそう言うと新しいタオルをお湯につけて絞る
「えっ……別にいいよ……自分でやるから」
私が少し困ったように言う
「ダァ~メッ!」
「背中だけじゃなくて、今度は私がマノンの……」
「あんな所やそんな所まで隅々まで綺麗に拭いてあ・げ・るっ!」
そう言うとカルラはニヤリと笑う
「それはちょっと……」
「あの……カルラ……」
「本当にいいよ、自分で拭くからっ!」
私が困惑したかのように言うとカルラはタオルを持って私の傍に近付いてくる
「遠慮しなくていいのよ~っ」
マノンには、にじり寄ってくるカルラがスケベオヤジのように見えてくる
「ひぃっ! そこダメッ!」
「あふっ! ああっ!」
「そこだけは勘弁してっ!」
「あっ! くちゅぐったいっ!」
「あひいっ! ああんっ!」
大事な所を優しく拭かれ悶絶するマノンであった
結局、あんな所やそんな所まで隅々まで綺麗に拭かれてしまうマノンのであった
そして、マノンは今まで自分がしてきた不慮の悪行を事を後悔するのであった
「もう……酷いよカルラ……」
少しむくれている私を見てカルラが意地悪そうに笑っている
"良かった……いつものカルラだ……"
マノンは、すっかり元気になったカルラの姿を見て安心するのであった
「夜も、もう遅いし……寝ようか」
「私は前に泊めてもらった2階の部屋に行くね」
私はそう言うと部屋を出て行こうとするとカルラも一緒についてくる
「部屋は分かっているし大丈夫だよ」
私がそう言うとカルラは何かあるような少し困った顔をする
階段を登り以前に泊めてもらった部屋に入るとベッドが2つくっ付けて置かれている
「あれっ……」
呆然としている私にカルラが話しかけてくる
「今度、マノンが来たら……」
「その……一緒に……」
「だから……今日は一緒に寝ましょう」
カルラは言い難そう言うと私の方を横目でチラチラ見る
「一緒に寝るのはいいけど……」
「病み上がりなんだから、エッチな事はダメだよ」
「それが、一緒にこの部屋で寝る条件っ!」
カルラが何を考えているか見当のついた私は厳しい口調でそう言うとカルラは"ケッ"というな表情になるが渋々この条件を飲むのであった
ベッドに入るとランプの灯りを消す
窓から星明りが入ってくる
ここ2晩はまともに寝ていない事もあり、私はベッドに入るとすぐに睡魔が襲ってくる
私がウトウトしているとカルラが話しかけてくる
「マノン……起きてる……寝ててもいいかな……」
「本当にありがとう……」
「マノンが来てくれなかったら……私……たぶん……」
「今頃は……」
いつになく神妙な声で話しかけてくる
「あんなふうに看病されるのなんて子供の時以来よ」
「ここへ来てから病気なんて、している間もなかったから」
カルラはどこか懐かしそうな口調である
「お礼なんていいよ……」
「もっと早く来れたら、あんなに苦しまなくても良かったのに」
「遅くなってごめん……」
私は睡魔に襲われながらも小さな声で呟くように言う
「マノンが謝る必要なんいないよ……」
カルラはそう言うと少し間を置く
「ねぇ……そっちに行っていい」
少し躊躇いながらも問いかけてくる
「いいよ……」
私がそう言うとカルラは音もなくススッ私の傍にすり寄ってくる
「カルラって本当は凄く甘えん坊の寂しがり屋さんなの」
私が何気なく問いかけるとカルラは息を詰まらせる
「……そうよ……」
カルラは小さな声で呟くように答える
「私もそうだよ……」
私がすぐ隣にいるカルラの方を向いて言うとカルラをそっと抱きかかえる
「一人ぼっちなのは気楽だけど……」
「こういう時は本当に辛いわ……」
カルラはそう言うと私にギュッと抱きついてくる
密接した柔らかなカルラの体の感触と温もりが伝わってくるが心地よい
「ねぇ……マノン……」
カルラが意味ありげな口調で話しかけてくる
「ダメです」
カルラが何を言おうとしているかを察した私はあっさりとそれを拒否するのであった
勿論、カルラの体の事を心配しての事である
「マノンのケチ……」
カルラは小さな声で呟くと横を向いてしまった
"酷いな……"
そう呟く前に私は深い眠りに就くのであった
眠りに就いていらどれ程の時間が経ったのか分からないが私は不意に目を覚ます……
星明りの中でベッドに半身を起こしたカルラが私の方を恨めしそうな目で見ている
「どうしたの……まだ夜だよ」
「寝れないの……」
私が寝ぼけ眼で問いかけるとカルラの表情が更に恨めしそうになる
「どうしたの……」
カルラがどうしてそんなに恨めしそうに私を見ているのか分からない
「覚えてないのね……」
カルラは体をプルプルと震わせながら小さな声で呟くように言う
「はへっ……」
私はカルラの体から放出される負の気に少し驚いてしまう
「あんな事して……覚えないのね……」
カルラの負の気が一瞬で怒りの気に変化したのに気付いた私は焦る
「あの……カルラさん……」
カルラの怒りに身に覚えのない私はお伺いを立てようとする
「本当に覚えていないのね……」
そう言うとカルラはその訳を話し出す
カルラの話を聞いているマノンの顔が青褪めていく……
そう……マノンの悪い癖が出てしまったのである
眠りに就いたマノンは無意識のうちにカルラの乳首に吸い付くともう片方のオッパイを揉み回したのだ
ただでさえ、お預けを食らった上に"エイペックの骨薬"を飲んでいるので体力・精力ともに完全回復しているカルラにとっては拷問である
「ごめんなさい……」
マノンは青ざめた顔で顔を引き攣らせながら謝罪する……
が……こんな事でカルラが引き下がるわけがない
「マ~ノ~ン~ッ」
カルラはそう言うと私にニッコリと微笑みかける
私の額から冷汗が流れ落ちる
その後、欲望が暴走したカルラの餌食になるマノンであった
"カルラ……もう……完全に大丈夫なようだね……"
マノンは心の中でそう呟くのであった
第171話 ~ 2人だけの暮らし 一日目 ➁ ~
終わり