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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第169話 ~ マノンの一人旅 ③ ~

第169話 ~ マノンの一人旅 ③ ~



序章



「ホントに何処に行っちゃたのよ……」

ルイーズは小さな声で呟くとため息を吐く

ここ2日ほどマノンを探し回っているのだが全く見つからないのだ


王都から遥か遠くダキア王国のサボンの村にあるカルラの家にいるマノンが見つからないのも当然である

 「しっ、仕方がないわね……」

 「こうなったら、夜に男子寮のマノンの部屋に行くしかないわ」

 「流石に、夜には帰ってくるでしょうし……」

 「それに、ルシィ導師に同行してもらえば問題はないわ」

ルイーズはそう呟くと迎賓寮へと向かって歩き始める


ルイーズが必死になってマノンを探しているのには理由があった

例の治療の依頼要請が結構な数が溜ってきているのである


ここ数日間、王立アカデミ-にルイーズが姿を見せなかったのはマノンから聞き出したオリーブオイルで作る油落としをルモニエ商会の新商品として売り出すための準備をしていたからである


ルイーズが新商品の準備をしているその間にも治療の依頼は入り続けていたのである

かくして、新商品の準備に見通しがついたころには結構な依頼数となっていたのであった


ルイーズは迎賓寮に着くと大きなドアをノックする

 「ルイーズですっ!」

 「ルシィ導師っ!いますかっ!」

大きな声で玄関先で叫ぶとドアが開きルシィが顔を覗かせる


 「……ルイーズさん……」

 「約束の日は明日のはずでは……」

いきなり訪ねてきたルイーズにルシィが少し驚いたように言う


 「確かに、約束した日は明日ですが」

 「肝心のマノン君が見当たらないんです」

 「マノン君には、まだ何も伝えていないので今日中に捉まえないと」

ルイーズが困ったように言う


 「……そうなんですか」

 「それは困りましたね……」

話を聞いたルシィも少し慌てる


ルシィはマノンが行う例の治療の事を知り興味を持ったためにルイーズと連絡を取り明日の治療を見学する事になっていたのである

そして、同時にルイーズは王都でも数少ない女性医師であるルシィにマノンの代わりに治療を代行してもらう事も考えていたのである

治療法が治療法だけに、依頼者には女性が多い事に配慮してでの事である


 「今晩、男性寮のマノン君の部屋に同行して頂けませんか」

 「そうでもしないと捉まりません」

ルイーズの言葉にルシィは少し戸惑うのだが……


 「そうですね……分かりました」

 「あまり遅い時間も何ですし……」

 「今日の夜8時ぐらいでどうでしょう」

ルシィの提案にルイーズは小さく頷くのであった




第169話 ~ マノンの一人旅 ③ ~




薄暗いランプの灯りがぼんやりと部屋の中を照らしている

ベッドの上ではカルラが静かに寝息を立てている


マノンが寝ているカルラの首筋に手を当てて体温と脈拍を測っている

 "もう大丈夫のようだ"

 "後は体力の回復を待つだけだな"

 "幸いエイペックの骨薬は十分あるし、何とかなりそうだな"

マノンは心の中で呟くと寝ているカルラの顔を覗き込む

気持ちよさそうに寝ているカルラを見ていると自分も眠くなってくる

 "また、眠くなってきたな……"

 "少し仮眠を取ろう……"

マノンはそう呟くとリュックを枕にベットの横の床に直に寝転ぶ

天井を見ていると王立アカデミ-の事を思い出す

 "無断外泊か……"

 "誰も気付かないから気にする事もないか……"

 "後、2~3日はカルラの様子を見ないと"

 "それに……"

マノンの意識が段々と遠退いていく……

いつものようにリュックを枕に床に寝転んで3分弱で眠りに就くマノンであった


ランプの油が切れ真っ暗になった部屋の窓から星明りが差し込んでくる

静かな部屋の中にカルラとマノンの寝息だけが聞こえている

少し仮眠を取るだけのつもりであったはずのマノンだが……

例の如く、そのまま朝まで爆睡してしまうのであった……



長い夜が明けサボンの村に朝日が差し始める

カルラの家の窓からも眩しい朝日が差し込み始めやがてカルラのベッドにも朝日が差し込み寝ているカルラの顔を照らす

 「んっん……」

朝日が眩しくてカルラが目を覚ます

 「あれっ……私……」

高熱に魘されていたためにカルラは今の状況が掴めずに困惑している

 「もう、起きないと……」

カルラは普段通りにベッドから降りようと床に足を降ろし立ち上がろうとする

素足の感覚で何か柔らかくて生暖かいモノを踏みつけてしまう

 「ふげっ!」

その柔らかくて生暖かいモノが変な悲鳴を上げる


 「ひぇ!」

カルラは突然の死にそうな悲鳴と柔らかくて生暖かい感触に驚いて自分も悲鳴を上げ、再びベッドの上に戻る


 「うっうっ……」

柔らかくて生暖かい感触のモノがベッドの横の床で呻き声を上げながら悶えている気配がする


 "やだ……ウシガエルでも踏んづけたのかしら"

山間の田舎の村なので、こういった小動物が家に迷い込むことがよくある


カルラは恐る恐るベッドの横の床を覗き込むと……

股間を押さえて若い男が呻き声を上げながら悶えている

 "えっ……"

ただでさえ状況が良く分からないカルラはパニック状態になる

 "どうしよう……"

焦って更にパニック状態になったカルラの目にベッドの横に置かれた水瓶が写る

カルラは水瓶を手にすると股間を押さえて呻き声を上げながら悶えている若い男の頭めがけて投げつけた


 "ゴッ!"

鈍い音と共に水瓶は見事に若い男の後頭部に直撃する


 「ゲッ!」

ヒキガエルを踏み潰したような悲鳴と共に若い男は動かなくなってしまった


 「どうやら……おとなしくなったようね……」

 「若い女一人の家に忍び込むなんて……」

 「もしかして……夜這いのつもりだったのかしら……」

カルラは小さな声で気を失っている若い男を見て呟く

 「でも……こんな人……村にいたかしら……」

カルラは若い男の正体を確認しようと恐る恐る顔を覗き込む


 「えっ……マノン……」

 「どうして……なんで、マノンがここに……」

マノンは、後頭部に大きなタンコブを作り白目を剥いている

絶対にあり得ない状況にカルラは更にパニックに陥る

 「ごめんなさいっ!」

 「マノンだなんて知らなかったのよっ!!」

カルラは必死で謝るが気絶しているマノンに届くはずもない


暫くしてカルラは平静を取り戻すと気絶しているマノンを抱きかかえるようにしてベッドの上に引きずり上げ寝かせる

辺りを見回すとタオルが掛かっている水の入っている木桶が目に留まる

カルラは急いでタオルを濡らし絞るとマノンの頭のタンコブを冷やす

 「しっかりしてっ! マノンっ!!」

必死で呼び掛けるがマノンに全く反応が無かったのだが……

その声は、冥途を彷徨っていたマノンに届いていた


カルラはマノンの手を取ると握りしめ自分の胸に押し当て祈る

カルラの胸のその感触は同じように冥途を彷徨うマノンに届く


 "何処からか懐かしい声が聞こえてくる……"

 "そして……なんだ……この感触は……"

マノンの頭上に一筋の光が差し込む……マノンがその光に手を伸ばす

 "この光……なんて心地よい感触なんだ"


カルラは自分の胸に押し当てたマノンの手が微かに動いているのに気付く

 「えっ……マノン、気が付いたの」

カルラがマノンに話しかける

ぐにゅぐにゅぐにゅぐにゅ……マノンの手がカルラの胸を揉み始める

 「あっちょっと待って!」

カルラは気絶しているはずのマノンにいきなり胸を揉まれて慌ててしまう

 「気が付いているのっ!!」

カルラは胸を揉まれ身悶えしながらマノンに話しかける


 「……あっ……えっ……カルラ……」

マノンはゆっくりと目を開けるとカルラの名前を呟く


 「ああ……良かった」

 「でも……マノン……」

 「もう……いいんじゃないかな……」

カルラは、ひたすら胸を揉み続けるマノンの手を見て恥ずかしそうに呟く


 「あっ……ごめんなさい……」

マノンは慌ててカルラの胸から無意識に動き続ける手を退けるとすまなさそうに謝る


 「それよりも頭のタンコブは大丈夫なの」

カルラは心配そうにマノンの後頭部を覗き見る

 「あれっ……ない……」

 「タンコブがなくなってる……」

 「えっ……どうして、あんなに大きなタンコブだったのに」

そう言いながらカルラはマノンの頭のタンコブを探しているが見当たらない

 「おかしいわね……」

カルラは床に落ちている真っ二つに割れた水瓶を見て呟く


そんなカルラを見てマノンは自分の超再生能力が原因だと気付くがどう説明してよいのか悩んでいると……


 「まぁ……マノンが無事ならどうでもいいわ」

カルラはそう言うと私の方を見て微笑む

 「嘘みたい……本当に来てくれるなんて……」

カルラはそう言うと私にそっと抱き付く

 「私、熱病にかかったのよね……」

 「その時の記憶がハッキリとしないのよ」

どうやら、カルラは高熱に魘されていた時の記憶がハッキリとしないようだった

 「体が凄く熱くて、苦しかった……」

 「両親や兄に助けを願い……」

 「そして、最後に願ったのがマノンの事だった」

カルラは目に涙を滲ませているのが分かる

 「神様って本当にいるのかもね……」

カルラはそう言うと私にそっとキスをした


すると、玄関の方から宿屋のおばさんの声がする

どうやら、心配して様子を見に来てくれたようだった


カルラと二人で玄関に行きおばさんにお礼を言う

元気になったカルラを見て驚いていたが、安心して少し涙目になっていた

おばさんは後で何か食べる物を差し入れると言って帰っていくのだった


寝室に戻り再び私と二人きりになるとカルラは自分の着ている寝間着が宿屋のおばさんのモノだという事に気が付く

 「あれっ……いつの間に……」

少し不思議そうな顔をしている

 「あっ……」

ベッドの横に折り畳まれて置かれた寝間着と下着(パンツ)に気付く

そして、水の入った木桶にタオルの事にも気付く

 「あの……もしかして……」

 「マノンが……」

カルラは少し怯えたような表情で私に問いかけてくる


始めは宿屋のおばさんにしようと思ったのだが……

すぐにバレると思い本当の事を話すとカルラの顔が真っ赤になる

カルラは少し俯き加減になり私から視線を逸らす

 「あの……その……なんて言ったらいいのか」

 「……ありがとうございました……」

恥ずかしそうに小さな声でお礼を言うカルラであった

かくして、2日間のマノンとカルラの2人きりの生活が始まるのであった

そして、これがマノン・ルロワ初めての一人旅でもあった


その頃、王立アカデミ-ではマノンを必死で探しているルイーズの姿があった




第169話 ~ マノンの一人旅 ③ ~


終わり





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