第十七話 ~ 輪廻転生 ~
第十七話 ~ 輪廻転生 ~ 序章
魔法工房の実験室に灯がともる。
床には複雑な魔法刻印が施され色々な魔法道具が整然と設置されている。
爺と私が寝ずに頑張った成果である。
「あまり時間がない急がねばならん」
「そうそうに"輪廻転生の術"を行使したいと思うのじゃが…」
「結構、準備が煩わしいのでもう少し時間がかかる…それまでこ奴の肉体が持つかじゃ」
と実験室の簡易ベッドに横たわるマキシミリアンを見て爺が言う
「"輪廻転生"の術ってどんな術なの」
と私が爺に問う
「"輪廻転生"とはあの世に行った魂が何度も生まれ変わり戻ってくることじゃ」
「マキシミリアンは既に死人同然……」
「時騙しの術の残効で、辛うじて息をしているだけにすぎんが、魂はまだ肉体に留めておる」
「その魂を一度切り離し、今ある肉体を新しく再錬成しその魂を再び移し入れる」
「超高等錬成術と降霊術の組み合わせ技じゃよ」
「わしも実際に行使するのは初めてじゃ……」
「お前さんがいるからの成功させる自信はある力を貸してくれよ……」
そして、爺は私にこうも言った
「本来は"禁忌"とされる術じゃが・・・・・・」
「マキシミリアンはまだ生きておるし、肉体も再構成するだけじゃから」
「"禁忌"の対象となりえる"リスク"は低い、問題なかろう」
爺は"禁忌"と対象となりえる"リスク"に関しては何も言わなかった。
私としても、爺の詳しい説明のウンチクがどんなものか想像がつく。
少し考えただけでも眠くなるので、私も何も言わなかった。
それよりも、私のどこにそんな力があるのか分からないが爺の言う通りにすることにした。
そして、なんとか"輪廻転生の術"の行使準備は整うのだった。
第十七話 ~ 輪廻転生 ~
爺が"輪廻転生の術"を行使する、私の体から何かが抜けていくような感覚がする。
真正面に横たわるマキシミリアンの体が光の粒子となって徐々に消えてゆく。
その光の粒子が私の頭上に集まってゆく……。
完全にマキシミリアンの体が消え去り私頭上で光の塊となりやがて渦を巻いてゆく
私の耳に何かが聞こえてくるが上手く聞き取れない……。
渦を巻いていた光の粒子に向かって私の体からも光の粒子が流れ込みやがて止まる。
光の渦はやがて人の形へと変化してゆく。
段々と光が弱まると完全な人となり目の前にふわりと浮かぶ。
「ここからは、お前さんの出番じゃ……ぶっつけ本番じゃ」
「お前さんにはマキシミリアンの声が聞こえるはずじゃ」
「その声にここに体があると教えてやってくれ」
と爺が私に言ってくる
「エッ~! なにそれっ!! どうすればいいのよっ!!!」
私は爺の突然の要求に困惑するが何か声のようなものが聞こえてくる
「体はここよっ! 体はここよっ!! ここだってっ!!!」
私は、がむしゃらに心の中で何回も叫ぶ
「感謝する・・・・・・」
という声が聞こえたかと思うと目の前に浮かぶマキシミリアンの体に雷のような閃光が落ちる。
徐々に青ざめていた顔が赤みを帯びてくる。
そのままゆっくりと床に降りてゆく。
魔道具の光が消えると同時に物凄い疲れと倦怠感が私を襲いそのまま床にへたり込んでしまった。
「なんなのこれ……立っているのも辛いんですけども」
と私が苦しそうに言うと
「よくやったぞっ! 術は成功じゃ!!」
と爺の歓喜に満ちた声がする。
あたりが静寂に包まれ暫くの時間が流れた。
その中で床から誰かが立ち上がる……裸のマキシミリアンだった。
「……」
マキシミリアンは自らの体の感触を確かめるかのように手足を動かし体を見ている
「余は……生まれ変わったのか…?」
と小さな声で呟く
「そうじゃ・・・・・」
と爺が答える
「何故……助けた」
とマキシミリアンが爺に問う
(マキシミリアンには弱いが霊能力があるので爺の存在が認識できる)
「この者に聞くがよい」
と爺は言うとマキシミリアンは私を見つめてこう言った
「余は……何をすれば良いのだ」
「記憶が途切れていて事情が良く分からぬ」
「……」
マキシミリアンは茫然としている。
「ちょっと、待って…その前に何か服着てよっ……見えてる……」
と私が恥かしそうにすると
「裸のなにが恥ずかしいのだ」
と言いながら床に落ちている自分の衣服を拾い上げローブを羽織った。
「これで良いか」
とマキシミリアンが私に言うと私に事の詳細を話すように要求してきた。
とても偉そうな口ぶりだったが悪気はないのがわかるので詳しく事の顛末を話した。
マキシミリアンは納得したようだった。
そうするとマキシミリアンが爺が話したいことがあるというので入れ替わる。
私の表情と気配の微妙な変化を感じ取ったマキシミリアンは暫くの間を置いてゆっくりと跪いた。
「大賢者殿、大変ご迷惑をおかけした」
「己の未熟さと愚かさを痛感しております」
「あなた様に頂いたこの体と命はけっして無駄にはいたしませぬ」
ここからは、爺の長いウンチクが始まるので適当に割愛すると
マキシミリアンの体には本来あるべき二種類の最終遺伝情報がなくそれも普通の半分しかない、肉体的な老化が極端に早くそのために子供もできなければ、寿命も短い。
それを、補うために私から不足している遺伝情報をもらい補い完全なものとしたこと。
逆に私の体には二種類の最終遺伝情報のうちの一つであるはずの物が二つあり、三種類の遺伝情報を持っていたこと。
このままでは、私も子供ができないばかりか、命に係わるような危険な病気になる可能性が高いので二つあるうちの一つをマキシミリアンに移植したこと。
これにより双方とも本来の生物としてのあるべき者となり均衡を取り戻したこと。
等々であった。
*……こちらふうに言えば二人とも遺伝染色体に異常がある。
本来、男性はX染色体とY染色体の二種類があるがマキシミリアンは通常絶対にありえないYYの染色体を持ちしかも長さが半分しかない。
そして、マノンは女性ならばX染色体を二つ持ちXXであるはずのものがこれも絶対にありえないXXYと三種類をもってる。
マキシミリアンもマノンもこのままでは異性との交配は不可能であり、マキシミリアンは遺伝情報の欠落により極度の短命に、マノンもまた染色体の異常により致命的な病になる可能性が極めて高いこと。
YYの正常な組み合わせは遺伝学上は不可能なので半分の長さのY遺伝子を繋げて一つにしマノンよりX遺伝子を貰い受けXYとして完全な形とした。
逆にマノンは三種類の遺伝子のうち複合するX遺伝子の一つをマキシミリアンに分け与えることにより完全な形とした。
……と言う訳ではあるが……これには一つだけ避けて通れない問題点がある。
それは……マノンはXXYという本来はY遺伝子を持つものは男性であるはずだ。
しかしX染色体を二本持つことにより特殊な遺伝情報として女性の体をしていたのだがX遺伝子を一つ無くすことによXYなり生物として完全なものとなった。
……これには副作用がある……つまり……男になってしまうのだ…マノンはこの事実をまだ知らない。
爺は焦っていた……この最後の事実をどうマノンに伝えるか……。
「お前さん……その……」
「なんじゃ……その……」
爺は何か言いたそうだが言いたくない感じなので
「なんなの? はっきり言いなよ」
と私は爺に言うと
「その・・・・・・下を見てくれぬか」
と爺が私に言い難そうに言うので下を見たが何もない
「何も落ちてないよ」
と私が言う。
「その下ではなくての…パンツ…の中…」
と凄く言い難そう言う。
「パンツの中って・・・!」
「ぎゃ~っ! はっ生えてるっ・・・・・・生えてるよっ!!」
私はあまりの衝撃に戸惑っている。
「落ち着いてくれ……問題は無い」
と爺が落ち着いた雰囲気で平然と言う
「これのどこが問題無いのよっ! 大アリじゃないのっ!!」
私が大声で爺に抗議する
「元々、お前さんは男なのじゃ」
「本来、あるべき姿にも戻っただけじゃ」
と爺が真剣に言う
「だったら私の15年間はいったいなんだったのよっ!」
と私は爺に食らい付く
「あれは夢、鬱つ幻よ……」
と爺は戦国武将の辞世の句のように尤もらしいことを言う
「元に戻してよ……女に戻してっ!」
と私は必死で爺に懇願するが
「先ほども言ったが、女のままではお前さんは病で確実に早死にする」
「その病は今この時でなければ手遅れになるところじゃった」
「お前さんの気持ちはわかるがわしは……お前さんに死んで欲しくはないっ!」
「何とかならぬものかといろいろと試行錯誤してもこの手しかなかったのじゃ……」
「勝手に何の相談もなく男にしてしまったことを許してくれ」
と爺は真摯に詫びてきた
「そうなの……ありがとう……いつから気付いていたの」
と私は落ち着きを取り戻し爺に問う
「いつぞや……魔法薬"ナイス・バディの素"を一気飲みした時があったじゃろ、あの時じゃ」
「乳はちっとも大きくならんし男みたいにな顔つきになるし」
「おかしいと調べてみたら遺伝情報に異常があった」
「なんとかしようと、頑張っては見たのじゃが……駄目じゃった」
「そんなことをしているうちにお前さんの体は発病寸前にまで……」
「すまぬ……こうするしかなかったのじゃ」
と爺の懇切丁寧な詫びに私はそれ以上はなにも言わなかった
「取り込み中に……すまぬが」
「余は……どうすれば良い」
いつの間にか、となりにいたマキシミリアンが困ったように問いかけてくる
「うわっ! びっくりしたっ!!」
少し驚いたが気を取り直して私は
「とにかく戦争終わらせて」
「二度とほかの国に攻め込まないで」
「貴方は本当はとても心の優しい良い人なのよ」
「自分を信じて良いと思ったことをしてね」
とマキシミリアンに言った
「心得た……余と帥との血の盟約に従いその望み違える事は無いと誓おう」
と言うと私の前に再び跪いた。
「そんなことしなくていいよ……遺伝情報を分けた兄弟の言うことは信じるよ」
と私は同じようにマキシミリアンの前に跪き笑って言った。
「ふっ・・・・・・遺伝情報を分けた兄弟か・・・・・・」
マキシミリアンは鼻で笑ったが・・・・・・おそらく、本人に悪気は無いのだろう。
マキシミリアンを転移ゲートで送り届けた後に私も村に転移ゲートを使って戻る
懐かしい村の裏山に帰ってくるとそこにはレナの姿があった。
「おかえりなさい……マノン……」
とレナが涙を流しながら言う
「ただいま……レナ……帰ったよ」
私は驚きながらも照れ臭そう言った。
「パトリックさんの言ったことほんとなのかな・・・・・・」
と言うと私をじっとみるとニッコリと笑った次の瞬間
「えいっ!」
レナはいきなり私のズボンをパンツごと引きずり下ろした。
「へっ???」
「ギャーッ! いきなりなにすんだよっ!!」
「レナのエッチッ!」
私は悲鳴を上げて必死でパンツを上げる
「あっ……ほっ……ほんとうに男の子になってる……」
「ごめんなさい・・・・・・今の私って変態、痴女ね・・・・・・」
とレナが頬を赤らめて恥ずかしそうに言った。
左手の薬指には赤く輝く魔石の指輪がはめられていた。
( 爺の声……”おやっ?…確か右手の人差し指にはめたはず……”)
何で……レナが爺の事知っているの?
何で…私が男になったことまでしってるのっ!?
何かとても不吉な予感がした……
私が気を失っている間に何があったのだろうか。
考えただけで寒気がしてくるマノンであった。
第十七話 ~ 輪廻転生 ~ 終わり