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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第164話 ~ 王都の商人達 ➄ ~

第164話 ~ 王都の商人達 ➄ ~



序章



夕暮れ時の薄暗い時刻、人気の少ない王都の路地裏を1人の不審な人物が人目を避けるように速足で歩いている

真夏にローブのフードを被り腰には剣を携えているのが分かるが、口元を隠しているので顔は良く分からない外見は身の丈170センチほどの痩せ型である

ただ、一目で普通の人でない事が窺い知れる


向かっている先は元クーラン商会の幹部従業員ベランジェ・オードランの家である



時を遡る事、数十分前……

クーラン商会の代表の部屋……

 「奴を始末しろ……」

クーラン商会代表のレジスが目の前に立っている1人の人物に言う


 「承りました……」

そう言うとその人物はスッと部屋を出て行く


 「ベランジェめ……」

 「裏帳簿を持ち出しよって……」

レジスは顔をしかめると吐き捨てるように言う



ベランジェは暇を貰いクーラン商会を去る前に、クーラン商会の"裏帳簿"を持ち出していたのである

この"裏帳簿"にはクーラン商会の水増し請求や脱税行為の全てが事細かく記載されている

これが公に表に出ればクーラン商会とレジスの破滅は確実である


クーラン商会の"秘密"を知り過ぎた自分は確実にレジスに迫害される……

レジスの今までのやり方を熟知しているベランジェは何かしらの形で自分と家族に汚い手で迫害を加えてくるのは明白であったからだ


ベランジェは、レジスから暇を貰った時に自分と家族を守るために"裏帳簿"を持ち出したのである



ベランジェはレジスがジル・バルサンを呼び出した時にルモニエ商会代表のセルジュその家族にもレジスの汚い手が差し迫っている事を察知する


レジスは自分にとって不都合な者や目障りな者がいると、その家族や友人に危害を加え脅迫し排除するのが常套手段だからである

場合によっては命を奪う事すらあるのだ


レジスの息がかかった者は王国の中枢もにいるので王宮に駆け込むこともできない

今の王都でレジスに対抗できるのはルモニエ商会代表のセルジュだけだという事も

クーラン商会の幹部従業員であったベランジェは熟知しているのである


レジスがセルジュの家族に危害を加える可能性が高い事をセルジュに伝え、この"裏帳簿"を持って行けばセルジュは必ず協力してくれる

そうすれば、セルジュとその家族そして自分も家族も救われる

ベランジェはそう考えて"裏帳簿"を持ち出したのである


が……しかし、セルジュが思った以上にレジスが"裏帳簿"を持ち出した事に気付くのが早かったのである


ベランジェが"裏帳簿"を何処かに持ち込む前に奴を始末(殺害)し"裏帳簿"わ取り返す事……

それがジル・バルサンに与えられた仕事なのである



ジル・バルサン……知る人は知る"裏の仕事人"である

元はガリア王国の密偵であったがその職を辞してこの仕事をするようになったと噂される人物である

密偵時代のコネクションを活かして"暗殺"や"諜報"を生業とする忍者のような存在であり、王侯貴族・富裕層の汚れ仕事を請け負う一匹狼であるがその存在を知る者は少ない



同じ頃、ベランジェは彼の家族の妻"ミレーヌ"と一人娘"マリアンヌ"を連れてルモニエ商会へと急いでいた

ベランジェの手には"裏帳簿"の入った大きな革の鞄を持っている

 「辛いだろうがもっと、早く歩いてくれ」

ベランジェは足を引きずって辛そうに歩くミレーヌに済まなさそうに言う


 「これが精一杯なのよ……」

顔を汗まみれにしたミレーヌが息を切らしながら言う


 「お父さんっ! これ以上お母さんに無理させないでっ!!」

ミレーヌに肩を貸している娘のマリアンヌが懇願する

 「一体どうしたの……こんなに急いで何処へ行くの……」

事情の分からないマリアンヌがベランジェに問いかける


 「家は危険なんだ……」

 「……今頃、家には奴が来ているはずだ……」

ミレーヌとマリアンヌにはベランジェの言っている事が分からなかったが、尋常ではないその表情から自分達に危険が迫っている事は理解できるのであった


2人は顔を見合わせると再び歩き始めるのであった





第162話 ~ 王都の商人達 ➄ ~



その頃、マノンはお茶を飲み終えてルメール家の居間で寛いでいた

 "今日来たばかりの他人の家じゃと言うのに……"

 "随分と寛いでいるようじゃのう"

爺は少し呆れたように言うのだが……

 "まぁ……それがお前さんの良いところじゃからな……"

本当は、マノンらしいと思っているのであった


暫くすると、ロクサーヌがやってくる

 「今日は、ありがとうございます」

ロクサーヌはそうに言うと私の前の椅子に座る

 「マノン君のお陰で"ルメール工房"の面目は何とか保たれたわ」

 「注文を受けて"出来ませんでした"じゃ御用達の看板に傷がつくからね」

 「本当にありがとう……」

ロクサーヌは微笑んで私の方をジッと見ている


 「喜んでもらえて嬉しいよ」

 「材料の"硼砂"は足りてるかな……」

 「そんなにたくさんは無いけど、ストックはまだあるから」

私がロクサーヌ問いかける


 「後で父に聞いてみるわ」

 「その"硼砂"って何処に行けばあるの」

ロクサーヌは興味深そうに聞いてくるので爺が言っていた事をそのまま話す


 「ゲルマニア帝国の北西部の端にあるコレビと言う不毛の大平原にあるよ」

私がそう言うとロクサーヌが驚いたような表情になる



 「ゲルマニア帝国の北西部って……」

 「そんな遠くに行かないと手に入らないのか……」

あまりの遠さにロクサーヌは諦めたようにため息を吐く


そうしていると何処からか爺の声が聞こえてくる

 "硼砂は、かつての塩湖が干上がった場所でとれる物じゃ"

 "風化しやすくてすぐに砕けてしまうから探すのが難しい"

 "ガリア王国にもかつて塩湖があった場所がある"

 "以前に亜麻を探しに行った村の周辺じゃ"

 "あの辺りにならあるかもしれんな……"

爺はそう言うと気配を消した


 "亜麻か……リドウの村の在る辺りか……"

 "ロザリーやエレオノールさん元気にしてるかな……"

マノンの脳裏にロザリーやエレオノールの顔が浮かぶ


 「どうした……マノン君、ボォーとしちゃって」

私はロクサーヌの声で我に返る


 「あっ……ごめん、ちょっと考え事してた」

 「"硼砂"だけど王国の西……」

 「ノルトラント地方って所にもあるかもしれなよ」

ロクサーヌに爺に聞いた事を話す


 「ノルトラント地方ですって」

 「王国の最西端じゃないの……」

 「王都からだと500ゲール近くあるわよ」

ロクサーヌは絶望したかのように言う


 "転移ゲ-トの事を話すわけにもいかないしな……"

私は絶望しているロクサーヌを見て少し後ろめたい気持ちになるマノンであった


そうしていると妹のサラがこちらにやってくる

 「食事の用意ができたわよ」

サラそう言うと私の方を見てニッコリと笑う


ルメール家は、キッチンとリビングが別の部屋なのである

キッチンに入るとテーブルの上には美味しそうな料理が並んでいる

思わず顔がニヤけてくるマノンであった……


食卓に着くとイレネーが簡単な挨拶をする

 「マノン君、今日は本当にありがとう」

 「腹一杯、食べて行ってくれ」

イレネーがそう言うとロジーヌが私の方を見て軽く頭を下げた


 「それでは遠慮なく」

私は食卓に並べられた料理を食べ始める

香辛料で味付けし焼いた羊肉、野菜のスープ、軽く焼いたパン……

味付けは少し濃い目だが実に美味しい料理であった


 "……こ奴は行く先々で食事をしておるのう……"

 "まるで……突〇!隣の〇はん、のレポターじゃ……"

美味しそうに食事をするマノンを見て爺は少し呆れたように呟くのであった


しかし、マノンのこの奢られ体質は後にマノンが大陸中を旅して廻る際に大変に役に立つ事となるのである



注……"突〇!隣の〇はん"とは……

デカいしゃもじを持って一般家庭の夕食時に突撃するという企画で1985年から2011年ぐらいまで日本テレビ系列のワイドショー等で放送されたヨネスケ師匠出演のコーナーである



食事が終わった後でイレネーがワインを飲み始める

そんなイレネーの姿を見てロクサーヌが私の耳元で囁く

 "父は機嫌の良い時や逆に嫌な事があった時なんかに……"

 "ああやってワインを飲むのよ"

 "今日は確実に機嫌の良い方ね"

ロクサーヌが私の耳元で囁いているとイレネーがこちらの方を見る


 「マノン君は……何処の出身だい」

少し酒が入って顔を赤くしたイレネーが私に話しかけてくる


 「ポルトーレ地方のマノワールという農村です」

 「実家はワイン農家ですよ」

私がそう言うとイレネーは軽く頷く


 「そうか……随分と遠いな……」

 「里帰りするのも一苦労だな……」

イレネーは私の方を見て言う


 「そうですね……歩いて二週間かかります」

 「王都に来てから一度も帰っていまんせよ……」

私は話を合わせるために嘘を吐いてしまうが……

これは、"嘘も方便"と言うやつである


そんな話をイレネーとしていると妹のサラの視線を感じる

視線に気付いた私がサラの方に目をやる

 「マノンさんって"お相手"はいるの」

サラの突然の一言にその場の空気が固まる


 「……一応は……」

言い難そうに私が答える

同じ王立アカデミ-に通うロクサーヌがいるので誤魔化しようがない


 「そうなんだ……」

サラは"ああ、やっぱり"って言うような表情をする

 「どんな人なの」

興味深そうに尋ねてくる


 「同郷の幼馴染だよ」

 「レナ・リシャ-ルっていうんだけど……」

私が答えるとロクサーヌが横から口を出す


 「サラ、一言だけ言っとくわね」

 「レナさんって凄い美人よ、おまけに"爆乳"よ……」

冷酷なロクサーヌの一言にサラの顔が引き攣る

そして、サラは思わずけっして大きくはない自分の胸を両手で押さえる

 「そっそうなんだ……」

サラはロクサーヌの方を見て少し敵意の籠ったような口調で言う


その様子をイレネーとロジーヌが気にすることも無く何も言わずに見てる

2人の表情からサラとロクサーヌのいつもの様子なのだと見当がつく


マノンは、そんなルメール家の食卓での団欒を見ながらも……心の中で呟く

 "ロクサーヌさん……胸の事を言っちゃダメだよ……"

サラの気持ちが痛いほど理解できるマノンであった




気が付くと、日も傾いて薄暗くなってきている

 「そろそろ帰ります」

 「夕食、ご馳走さまでした」

私は夕食のお礼を言って椅子から腰を上げるとサラとロクサーヌが私の方に振り向く


 「そうね、暗くなってきたし……」

ロクサーヌが窓の外を見て言う

イレネーが手にしていたワイングラスをテーブルの上に置くと立ち上がる


 「今日は本当にありがとう」

イレネーは深々と頭を下げる

私はロクサーヌ達に見送られルメール家を後にした



少し薄暗くなった王都の通りを歩いていく……

 "イネスどうしているのかな……"

マノンは不意に故郷の事を考えてしまう

 "そういえば、爺の気配が無いな……"

 "また、何処かで油売ってるな……"

私は、いつもの事と気にする事も無く帰りを急ぐのであった



第164話 ~ 王都の商人達 ➄ ~


終わり






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