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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第163話 ~ 王都の商人達 ④ ~

第163話 ~ 王都の商人達 ④ ~



序章



王都でルモニエ商会と首位争いするクーラン商会……

かつて、王立アカデミ-に在籍していたエメ・クーランの祖父でもあるレジス・クーランが代表を務める王都でも100年以上の歴史を持つ老舗商会である


 「それは本当か……」

レジスは商会の取引先を管理している幹部従業員のベランジェ・オードランの報告に顔をしかめる


 「はい……事実です」

ベランジェはそう言うとレジスの顔色を窺う……

何故なら、レジスは短気で怒りっぽい上に傲慢で強欲な王都の大商人の悪い所を全て持ち合わせたような性格であるからだ

レジスの性格は商会の従業員だけではなくレジスを知っている者なら誰もが知っている事である

ベランジェがレジスの顔色を窺うのはそのせいで、下手をすれば難癖をつけられて今で言うパワハラに遭うからである



ここ数日、今まで取引のあった貴族や富裕層の上客が次々と取引先を商売敵のルモニエ商会に乗り換えているのであった

予てからレジスは成り上がりの新参者であるセルジュとルモニエ商会の事を快く思っていなかった

物凄い速さで成長していくルモニエ商会にレジスは危機感を募らせていたのだが遂に自分の縄張りにまで手を伸ばしてきたセルジュとルモニエ商会に憎悪を感じるようになる


このままでは歴史と伝統ある老舗のクーラン商会にとって大きな障害となる事は明白であった


 「セルジュは何をしたのだっ!」

レジスは不機嫌になりベランジェに怒鳴りつける


 「信頼できる情報筋の話では……」

 「何でも難病の治療に成功した……だと」

 「そのように聞いております」

ベランジェが怯えように答える


 「難病の治療に成功した……だと」

 「それはどうい事なのだっ!」

 「それと取引先に何の関係があるっ!!!」

レジスはベランジェに大声で怒鳴りつける

ベランジェは"またかよ"と心の中で思いながらも冷静を保ち、事の次第をレジスに説明する


 「……マノン・ルロワ……だと」

 「何処かで聞いたような名だな」

レジスは首を傾げて記憶を辿る

 「あっ! アイツかっ!!」

 「大賢者の弟子とか言うマノン・ルロワかっ!!!」

マノンの事を思い出しレジスは大声を上げる

 「また、厄介な奴が出て来よったな……」

レジスは顔をしかめると腕組みをして右足首を何度もパタパタさせ体を小刻みに揺するように動かす


 "また、ロクでもない事を考えているな……"

ベランジェの予感は的中する


 「ジル・バルサンを呼べっ!!!」

そう言うレジスは口元が笑っている


 「わかりました……直ぐに手配いたします」

ベランジェはそう言うとレジスの元から離れる


 "この商会も長くは無いな……"

 "もう、これ以上、あんな奴には付いていけない"

ベランジェの心の中の良心がそう呟くのであった

その二日後、ベランジェはレジスに暇(辞職)を申し出る

レジスは何も言う事なくベランジェに暇を申し出を了承するのであった


ベランジェは、レジスの対応に不審に思いながらも暇を貰えた事を神に感謝するのであった


だが……レジスが商会の事(秘密)を知り過ぎたベランジェをそのままにしておくはずがないである





第163話 ~ 王都の商人達 ④ ~




マノンは王都の外れにあるガラス工房"ルメール"にいる

ロクサーヌと約束した時間の前に、朝一で魔法工房に行って"耐熱ガラス"原材料の硼砂"が約5キログラムの入った袋をリュックに入れ背負っている

肩には姿を消したパックが乗っかっている


ロクサーヌの案内で工房の中に入ると物凄い熱気がマノンの顔に当たる

 「ごめんなさい……暑いでしょう」

ロクサーヌは私の方を見て申し訳なさそうに言う


 「火を使う仕事だからね」

 「暑いのは当たり前だよ」

私が笑って言うとロクサーヌは安心したような表情だった


工房の中には風呂桶ぐらいの炉が3つ並んでおり、体格の良い男性が長い棒の先に付いた溶けたガラスをヘラのような道具で形を整えているのが見うる

既に、この世界では吹きガラスの製法は確立されており高品質なガラス製品を作り出している

カットガラスの技術も進歩しており"ルメール"のような御用達の工房は王侯貴族や富裕層向けの精巧で緻密な加工が施された高価なものを製造している


 「お父様っ! 」

ロクサーヌは、汗だくになって吹き竿を吹いている体格の良い男性に後ろから声を掛けるが全く気が付いていない

 「おっ!とっ!うっ!さまっ!!」

ロクサーヌが大声で叫ぶように言うと男性は"ビクッ"として振り向く

 「おおっ……ロクサーヌか……」

男性は後ろにいるロクサーヌに気付くと私の方を見る

 「んっ……」

男性は見慣れない私の顔に気付く

身長は175センチで短い黒髪、暑い中で力仕事をしているせいか引き締まった筋肉質で体格が良く如何にもバワーがありそうな感じである


 「マノン・ルロワさん」

 「王立アカデミ-導師課程の……」

ロクサーヌが男性に私の事を紹介する


 「王立アカデミ-導師課程……」

 「バロ-導師の生徒さんかね……」

男性は少し驚いた様子で私の顔を見る

 「すまない……」

 「頼まれた物は……まだ……なんだ」

 「バロ-導師に、そう伝えてもらえないかね」

男性は申し訳なさそうに言う

どうやら……私がバロ-導師の使いで来たと勘違いしているようだ


そんな、男性を見てロクサーヌが呆れたようにため息を吐く

 「違うわよ……」

 「ごめんね……マノン君……」

 「何か勘違いしているみたい……」

ロクサーヌはそう言うと男性の耳元で何か言っている

ロクサーヌの話を聞いた男性の顔が驚きの表情に変わる


 「紹介するわね……」

 「コレが、私の父のイレネーよ」

ロクサーヌが私に父の事を紹介するとイレネーが血相を変えて近付いてくる


 「マノン君っ!」

 「ロクサーヌかせ話は聞かせてもらった」

イレネーはそう言うと私の手を握るとジッと見つめる


 「お父さんっ!」

わたしの手を握りしめているイレネーにロクサーヌが割って入る


 「ごめんね……マノン君」

 「こういう人なのよ……」

ロクサーヌはイレネーを私から突き放すと申し訳なさそうにする


 「話はロクサーヌさんから聞いています」

私はそう言うと背負っていたリュックを降ろし中から硼砂の入った袋を取り出す

 「これが"硼砂"と言って熱に強いガラスの原材料です」

私が袋を取り出して言うとイレネーが興味深そうにジッと見ている


 「コレが……」

イレネーはそう言うと震える手で袋を開けて中身を確かめようとする


 「あっ! ちょっと待ってくださいっ!!」

私が慌ててイレネーに言う

 「気をつけてください、"硼砂"は毒性があるんです」

私がそう言うとイレネーもロクサーヌも慌てて袋から離れる

 「そんなに怖がらなくても大丈夫です」

 「吸い込んだり、目に入ったり。肌に付いたりしなければ害はありません」

私が説明すると2人とも安心したような表情になる


私は爺の指導の下で、"硼砂"の配合率や注意点をイレネーに詳しく説明した後で耐熱ガラスの製造に取りかかる


出来上がったガラスの器に沸騰した熱い湯を注ぐ……

 「割れないしヒビも入らない……」

イレネーはそう言うと次は水を入れて火にあててみる

 「大丈夫だ……」

イレネーは何度も何度も頷くと目に涙を溜めて私の方を見る


 「ありがとうっ!! マノン君っ!!!」

イレネーは大声を上げるといきなり抱き着いてくる


 「ふげっ!!!」

私の思った通りイレネーは力持ちであった……


 「お父さんっ!!!」

白目を剥いて死にそうになっている私を見てロクサーヌが慌てて私をイレネーから引き離す

 「マノン君っ! しっかりしてっ!!」

六文銭を握りしめ三途の川の渡し船の順番待ちをしながら、辺りを舞う蝶を呆然と眺めていた私はロクサーヌの声でこの世に引き戻される


私が気が付くとロクサーヌがイレネーに説教しているのが目に映る

イレネーは申し訳なさそうにロクサーヌのお説教を聞いているようだ

なんだか……自分がレナに説教されているような気がしてくる

 "それにしても……親子だな……"

王立アカデミ-の講義室で人目も憚らず私に抱き着いたロクサーヌの事が脳裏に浮かぶマノンであった……


工房での作業を終える頃には日も傾き夕暮れ時になっいているのであった

 「そろそろ帰りますね」

私がそう言うとロクサーヌとイレネーが顔を見合わせる


 「お茶の一杯でも飲んで行ってよ」

 「工房のすぐ横に家があるから……」

ロクサーヌが私の方を見て言うとイレネーも大きく頷く


 「いえ、日も傾いていますし今日は……」

私は断ろうとするがイレネーとロクサーヌは茶の一杯でも出さないと気が済まないようであった




結局、断り切れずに工房の直ぐ近くにあるロクサーヌの家でお茶をご馳走になる事となった

一般的な石造りの2階建ての戸建て住宅である

ロクサーヌ家に入ると肩に乗っていたパックが飛び立つのを感じる


 「ありがとう……マノン君……」

イレネーとロクサーヌが深々と頭を下げる


 「それなりの謝礼はする」

そう言うとイレネーが私を見てニヤリと不気味に微笑む

皮肉な事にイレネー本人は精一杯の笑顔をしているつもりなのだが、その顔と体格が災いし相手に不気味がられるのである



 「いっ、いいですよ」

私が焦って言うとロクサーヌは私の方を見て頷きイレネーの耳元で何か言っているようだ


 「そうか……」

イレネーはそう言うとロクサーヌが私の方を見て微笑む


そうしていると……"カチャ"と言うドアの開く音がして誰かが居間に入ってくる

中年の女性と私達より年下の女の子である


2人は見覚えのない私を見て不思議そうな表情をしている

 「紹介するわね……」

 「私の母"ロジーヌ"、妹の"サラ"です」

ロクサーヌが母と妹を紹介すると2人とも私の方を不思議そうに見ている

ロジーヌは身長160センチほどの細身で35歳ぐらい、短めの少し短めの黒髪で清楚で淑やかな感じの女性……

サラは身長155センチほどで年齢は14歳ぐらい、痩せているがスタイルが良く長い艶のある黒髪が印象的な美人であるが胸はそれほど大きくない……

前世の因縁でマノンは、反射的に女性の胸を見てしまう変な癖があるのである


 「こちらは、マノン・ルロワ君……」

 「王立アカデミ-の生徒よ」

ロクサーヌがそう言うとロジーヌとサラが"ああ"といった感じ表情をする


 「マノン君は私と"ルメール工房"の恩人だよ」

 「例のガラスの製造法を教えてくれたんだよ」

 「流石は"王立アカデミ-導師候補"だよ」

イレネーがそう言うとロジーヌとサラは驚いたような表情になる


 「マノン・ルロワ君……ありがとう……」

ロジーヌはそう言うと深々と頭を下げる


 「"王立アカデミ-導師候補"……」

サラは呟くように言うと私の顔をジッと見る

 「お姉ちゃんの"お相手"なの……」

サラがボソッと言うとイレネーとロジーヌが何とも言えない表情になる


 「ちっ違うわよっ!!」

ロクサーヌが顔を真っ赤にして慌てて否定するが……

 

 「ふう~ん……そうなの……」

そう言うとサラは私の顔を再びジッと見ると私の傍に近付いてくると食い入るように私を見ている

 「ねぇ……マノンさん……」

 「私の"お相手"になってくれない」

そう言ってサラはニッコリと笑う


 「へっ……」

突然のサラの言葉に私を含めた全員が唖然とする


暫くして、我に返った私はイレネーやロジーヌ、ロクサーヌの様子を窺う

3人とも目を大きくしたまま固まっているのがわかる

 「ちっ! ちょっと!! 何言ってんのよっ!!!」

我に返ったロクサーヌが慌てて言うとイレネーとロジーヌもハッとしたように我に返る


 「だってさ私も、もう15よ……」

 「"お相手"探しを始める年頃なの」

慌ててるイレネーやロジーヌ、ロクサーヌにそう言うとサラは私の方を見る

 「マノンさん、どうかしら……」

サラはそう言うと私に微笑みかける


 「えっと……その……」

私が困っていると爺の声が聞こえてくる


 "この娘……本気のようじゃな"

 "それにしても、随分と積極的じゃのう……"

 "儂の経験からして……お前さんには気の毒じゃが……"

 "一途で重い、しかも諦めのかなり悪いタイプじゃな……"

爺は諦めたように言う


 "ええっ!そんなぁ~っ!! "

私は平静を装いながらも心の中で叫ぶ

 "どうにかならないの……"

私が懇願するかのように爺に問いかける


 "……どうしようもないのう……"

今まで通り、爺はそう言うと気配を消した

私が困惑しているとロクサーヌがサラの頬っぺたを抓る


 「痛ててててっ!」

ロクサーヌは悲鳴を上げるサラを引きずるように私から遠ざける


 「ごめんね……マノン君」

 「妹は面食いで地位やお金や学歴なんかに弱いのよ」

 「妹のサラは、こういう女なのよ……」

 「我が妹ながら本当に露骨で恥ずかしいわ……」

ロクサーヌは呆れたように言うと抓っていたサラの頬っぺを放した


 「酷いよっ! お姉ちゃんっ!! 」 

 「いくら何でも言い過ぎよっ!」

ロクサーヌに抓られて少し赤くなった頬っぺを擦りながらサラが不貞腐れたように言う

その様子を見てイレネーとロジーヌが思わず笑いだす


 "爺……コレどういう事なの……"

私は恨むような口調で爺に問いかけるのだが……

案の定、爺の気配は消えたままだった

 "爺って、こう言う奴なんだよな……"

マノンは心の中で呆れたように呟いていると

 「グゥー」

私のお腹が悲鳴を上げる


 「夕食……食べていきますか……」

私のお腹の悲鳴を聞いたロジーヌが笑いながら私に問いかけてくる

恥ずかしそうにあたりを見回すとイレネーもロクサーヌもサラも"食べていきなよ"と言う表情で私を見ている


 「ご馳走になります……」

空腹とルメール家全員の視線に抗う事が出来きず……

私は恥ずかしそうに言うのであった……


 "あ奴らしいのう……"

そんなマノンを今の片隅で見ていた爺は残念そうに呟くのであった



第163話 ~ 王都の商人達 ④ ~


終わり


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