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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第162話 ~ 王都の商人達 ③ ~

第162話 ~ 王都の商人達 ③ ~



序章



ここ数日、ルモニエ商会は分の良い大口の取引や高額な取引が目に見えて増えてきていた

セルジュには、これが貴族や富裕層からのマノンの無償治療への見返りであるという事がわかっていた


治ろうが治らまいが偉そうで気位の高い"宮廷医"に請求されるはずの法外な額の治療費にそれ相応の色を付けて貴族や富裕層たちが感謝と謝礼の意味を込めてルモニエ商会に出した取引なのである


 「やはりな……」

 「マノン君には人を"信用させ信頼させる"何かがある」

取引内容を記した発注書の束を見て呟く

そんなセルジュの言葉にルイーズも心から共感するのであった


この時点ではセルジュもマノンは知らなかったが、偉そうで気位の高い"宮廷医"に比べ、マノンの気さくな人柄と誠実な治療は治療を受けた者達からは好意的に受け止められ非常に高評価だったのである

マノンは、治療の前に詳しく治療のことを説明し納得した上で治療をするのである

当たり前のことだが、この世界では気位の高い"宮廷医"はそんな事は一切しないのである


本来ならば、使者を立ててそれなりの謝礼をして終わりと言うのが筋であるのだが、そうでなく色を付けて貴族や富裕層たちの方から取引を持ち掛けてくるという事は、これからもルモニエ商会との関係を維持し取引を続けて行こうとする意志表示であり……


同時にマノンが"ルモニエ商会のマノン・ルロワ"として貴族や富裕層たちから"信用され信頼され"ているという事の証でもあるからだ


セルジュの目論見は予想以上に的中したのである


 「マノン君のようなやり方もあるんだ……」

ルイーズがそう呟くとそれを聞いたセルジュが微笑む


 「ルイーズにも分かるのかい……」

セルジュの優しい問いかけにルイーズは少し頬を赤らめて小さく頷くのであった

しかし、セルジュの心の表情は険しかった

 "私の思惑通りなら……"

 "これで奴も黙ってはいまい……"

 "遅かれ早かれ、通らねばならぬ道……"

 "マノン君が傍にいてくれればルイーズだけは安心だ"

セルジュはルイーズのしぐさを見ながら心の中で呟くのであった




そんなマノンの事を恨んでいる者が一人いた……

 "マノン君……来てくれなかった……"

 "すっと待ってたのに……"

恨めしそうに呟くと大きなため息を吐くのは、マノンに手紙を手渡した王立アカデミ-錬金科のロクサーヌである


彼女は父フィルマンが熱に強いガラスの開発に行き詰まり疲弊しているのを見るに見かねて"大賢者の弟子"と言われるマノンに最後の願いを込めて助けの手紙を出したのであるが……

その日、マノンは最後まで姿を見せなかったのである


 "無理なら無理って一言だけでも欲しかったわ……"

 "無視するなんて……"

 "他の生徒の噂じゃ、そんな人じゃないはずのに……"

 "もう、寝よう……マノン・ルロワの馬鹿っ!!"

ロクサーヌはそう呟くとベッドに横になるのであった



同じ頃、マノンもベッドに寝転がっていた

 "ああ~疲れた……"

 "まさか……私が治療しないといけなくなるなくて……"

マノンはフェリシテと同じような症状に悩まされている貴族や富裕層の治療にここ暫く連日のように駆り出されているのである

 "でも、どうして医師でもない私に治療を依頼してくるのかな"

 "そもそも、私がこんなことしてもいいの……"

 "アカデミーの導師達も許可しているなんて……どうしてだろう"

マノンは不思議に思ってはいるのだが疲れていたせいもあり深くは考えずにいるのであった


ふとベットの横を見ると手紙が挟まっている

 "あれっ……なんだろう……"

マノンはベッドの横に挟まっている手紙を手に取ると内容を確認する

 "あっ! これは……"

マノンの顔から血の気が引いていく




  親愛なる大賢者の弟子マノン・ルロワ様へ


私は"ロクサーヌ・ルメール"錬金科に身を置く者です

  我が家は代々、王室ご用達のガラス細工工房を営んでおります

  今回、私が無失礼けにもこのような行為に出たのには訳があります


  それは、受注を受けた熱に強いガラス細工がどうしても上手く作れず

  父のイレネーは大変に苦悩しております

  日々、苦悩する父の姿を見るに堪えず筆を執る事となりました


  大賢者の弟子様のマノン・ルロワ様であれば何かしらの知恵を

  授けていただけるものと思いこのような行為に出ました

  これは、私の独断によるもので父には全く関係ありません


  何卒宜しくお願い致しますお力添え、何卒宜しくお願い致します 

  ご返答は急ぎません

  一週間後の夕刻に男子寮裏手の庭でお待ちしております



     王立アカデミ-錬金科二回生 ロクサーヌ・ルメール




手紙を持つマノンの手が震える

 "どうしよう……完全に忘れてたよ……"

 "ロクサーヌさんに悪いことしちゃった……"

 "明日、会ってちゃんと話そう……"

そう呟くとマノンも深い眠りにつくのであった




第162話 ~ 王都の商人達 ③ ~



朝起きるとマノンは直ぐにロクサーヌがいる錬金科へと向かう

 "そんなに急いで何処へ行くのじゃ"

爺の声が聞こえてくる


 "ロクサーヌって子の所だよ……"

 "手紙の事をすかっり忘れちゃってて……"

 "返事するの忘れて、悪いことしちゃたよ"

私がが爺に理由を説明すると


 "あっ……そう言えば、そんな事があったのう"

 "儂も忘れておったわ……"

どうやら爺も忘れていたようだった……

一週間と言う微妙な猶予時間が悪かったようだ



この世界の錬金科は現在の地球で言う黄金を作り出す術ではなく化学や治金学に近い学問である

幅広く応用の効く実践的な学問であり王立アカデミ-の理学科で最も多い生徒がいるのが錬金科である


 "うわぁ……大勢いるなぁ……"

 "ロクサーヌさんは……"

 "あれっ……考えてみれば……"

 "ロクサーヌさんてどんな顔してるのか知らないや……"

そう……マノンはロクサーヌから手紙を貰った時に太陽の逆光でロクサーヌの顔が良く見えなかったのである

マノンの覚えているのは走り去っていくロクサーヌの後姿だけである

 "困ったなぁ……"

マノンが困っていると後ろから誰かが話しかけてくる


 「マノン・ルロワ君……」

私の名前を呼ぶ声に後ろを振り向くと見覚えのない一人の女生徒が不機嫌そうな表情をして立っていた

身長165センチほどで中肉中背の標準体型、短めの黒髪の容姿共に普通女子である

 「あの……どちら様で……」

マノンが女生徒に尋ねる


 「……ロクサーヌ・ルメールです……」

女生徒は少しムッとしたよう表情で答える


 「あなたがロクサーヌさんですか」

 「この前はごめんなさい……」

私はロクサーヌに事情を話す


 「そう……なの……」

ロクサーヌは納得してくれたようだ


 「手紙の件ですが……お力になれると思います」

私がそう言うとロクサーヌの表情に歓喜が溢れていくのがわかる


 「ありがとうっ!!」

感極まった、ロクサーヌは少し大きめの声でそう言うと私に抱き付いてくる


 「えっ……」

ロクサーヌに抱き付かれ呆然としている私を他の生徒が遠巻きに見ている

生徒たちのヒソヒソ話が耳に入ってくる

 「あの……ロクサーヌさん」

私が周りを気にしながらロクサーヌに話しかける


 「あっ! ごめんなさい!!」

 「私ったらつい嬉しくて……」

ロクサーヌは慌てて私から離れる


 「時間の都合が付けば連絡するね」

 「そしたら、お父さんの工房に行かせてもらうよ」

私はそう言うとロクサーヌはニッコリと微笑んで頷くのであった


当然、今の出来事を目の当たりにした生徒の中にはロクサーヌとマノンの関係に疑惑を持つ者が出たのは確実で……

その次の日には、生徒たちの間で噂となり……

ロクサーヌは仲の良い友達からマノンとの関係について執拗な尋問を受けることになるのである



ロクサーヌとの話が終わった後、私は実験室へ行くと牛脂から分離した例の塊を調べる

そして、一人で(爺もいるのだが)何度も何度も実験を繰り返す

 "やっぱり、油分を分解するんだ"

 "しつこい油汚れが簡単に落とせるんじゃないかなぁ"

私が呟くように言うと爺の声が聞こえてくる


 "コレは……何かとお役に立つ代物じゃな……"

 "牛脂だけではなく他の油からも作れるのかのぅ"

私も爺と同じ事を考えているのであった


私はすぐに市場へ行くと普通に売られている油を買い求める

ガリア王国で一般に流通し簡単に手に入るオリーブオイル、菜種油、向日葵油、亜麻仁油の四種類を1リットルづつ購入し土鍋も3つ購入した

土鍋と油の入った壺を抱えて実験室まで帰るのは結構大変であった


牛脂と同じようにオリーブオイルを土鍋に入れて人肌に加熱する

この前に作った灰汁の結晶を取り出して温水に溶かし土鍋のオリーブオイルを掻き回しながらゆっくりと入れていく……

基本的に牛脂の時と同じ作り方でやってみる


暫く掻き回しているオリーブオイルが濁りはじめドロドロになってくる

牛脂のように固形物と液体に分離しなのでそのまま陶器の型枠に流し込み蓋をして布に包んでおく


 "こんなものかなぁ……"

私が呟くと爺が話しかけてくる


 "動物由来と植物由来では油の成分が違っておる"

 "この前に作った牛脂から分離した物とは性質が違うやもしれぬな"

爺の言っている事と私の考えている事は同じである


 "上手く固まってくれるといいんだけど……"

私は布に包まれた陶器の型枠を見ながら呟く


同じように残りの三種類も同じようにやってみるが菜種油はやや高めの温度で固まったが、向日葵油、亜麻仁油は上手く固まらないのであった


 "思ったようにはいかないね"

上手く固まらなかった向日葵油、亜麻仁油の入った土鍋を見て呟く

 "そろそろ、お昼か……"

 "お腹も減ってきたし、これぐらいにしよう"

私が土鍋に蓋をしていると背後に気配を感じ慌てて振り向くとそこにはルイーズが腰に手を当てて仁王立ちしてるのであった

それと同時に爺の気配かスッと消える


 「マノン君、今日の予定なんだけど……」

ルイーズがいつものように治療以来の事を話し始める


 「分かったよ、今日の夕刻だね」

私はいつものようにルイーズと治療の打ち合わせをする

 「悪いんだけど、明日は用があって行けないんだ」

私がルイーズに申し訳なさそうに言う


 「明日ね……分ったわ……」

 「で……その、用ってのは何なのよ」

ルイーズは凄く気になるようだ

とても誤魔化せそうになので素直に訳を話す

 「……そう」

ルイーズは小さな声で呟くように言う……

そんなルイーズに私が気になっていた事を問いかける



 「薬の方は上手く作れている」

先日、ルモニエ商会の取引先に教えた薬の作りが上手く行っているのかを聞いてみる


 「まぁまぁかな……」

ルイーズの口調からそれなりに上手く行っているようだ

 「副産物の固形物なんだけど……」

 「マノン君に、言われた通りに陶器の型枠に入れて保管しているけど」

 「アレは、どうするつもりなの」

固形物の事がルイーズは気になっているようである


 「アレはね……」

私はルイーズに実際に実験をしながら固形物の事を話す


 「油落とし……」

ルイーズは小さな声で呟くように言うと私の方をジロリと睨む


 「あの……何か……」

ルイーズの物凄い形相に私は恐怖を感じ恐る恐るお伺いを立てる


 「コレは使えるわ……」

ルイーズはボソっと呟くと私に詰め寄る

 「マノン君! この事は私とマノン君だけの秘密よっ!!」

 「わかった、いいわねっ!!!」

鼻息を荒くして迫るルイーズの迫力に思わず頷いてしまうマノンなのであった


その後、ルモニエ商会からこの世界で初めての"石鹸"が売り出される事となるである



第162話 ~ 王都の商人達 ③ ~


終わり


 


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