第160話 ~ 王都の商人達 ① ~
第160話 ~ 王都の商人達 ① ~
序章
マノンがルモニエ邸で豪勢な食事をしている頃……
王立アカデミ-の女子寮ではリリアーヌが一人でベッドに座り手にした"儀礼の書"の入った封筒を眺めていた
"はぁ~"
"どうやってマノン君にこれを渡そう……"
リリアーヌはポツリと呟くと大きなため息を吐く
マノンは学部が違う上に講義に出ることが少なく直接渡せる機会がなかなかないのである
悩んでいるリリアーヌは背後から忍び寄る陰に全く気が付かなかった
「ひぃっ!!!」
リリアーヌは、いきなり後ろから胸を揉まれて悲鳴を上げる
「あっ! ちょっと待ってっ!!」
リリアーヌは後ろから胸を揉み回す手を抓る
「痛たたたたっ!!」
今度は、リリアーヌの胸を揉み回していた手の持ち主が悲鳴を上げる
「もうっ! いきなり何すんのよっ!!」
少し不機嫌そうにリリアーヌが言う
「酷いよ……」
「ちょっとお茶目しただけなのに……」
手の持ち主のメラニーは抓られた手を擦りながら不貞腐れたように言う
「人が真剣に悩んでいるっていうのに……」
いつもとは違うリリアーヌの様子にメラニーは少し慌てている
「ごめんなさい……」
「何だか落ち込んでいるみたいだったから……」
メラニーはそう言って床に正座をすると素直に謝る
リリアーヌが本当に怒ると凄く怖いからである
「もういいわ」
リリアーヌは床に正座して申し訳なさそうにしているメラニーを見て言う
「あれっ……」
「封筒っ!!!」
リリアーヌは手にしていた"儀礼の書"の入った封筒が無い事に気づき慌てる
「ああっ!!!」
メラニーに胸を揉み回された拍子に"儀礼の書"の入った封筒は真っ二つに破れて床に落ちているのであった
「メラさん……」
真っ二つに破れた封筒を手にリリアーヌが体をプルプル震わせながら言う
リリアーヌがメラニーのことを"メラさん"と呼ぶ時は激怒している時なのである
リリアーヌが激怒するには理由があるのである……
それは……ガリア王国では非常に"縁起が悪い"とされているからである
"儀礼の書"か破れるという事は、この話も破れるという事である
日本で言えば受験生の"落ちる"と同じようなものである
「ひぃぃぃーーーっ!」
「ごめんなさいっ!」
メラニーはリリアーヌから立ち上る異様なオーラに気付き床におでこを擦り付けるほど必死で謝る
「お仕置きです……」
リリアーヌの一言にメラニーの顔から血の気が引いていき真っ青になる
「ひぃぃぃぃぃぃーーーーーっ!!!!」
メラニーは慌てて逃げようとするがリリアーヌにあっさりと取り押さえられてしまう
リリアーヌは外見は、お上品でおっとりとしているように見えるのだが……
じつは……リリアーヌは日本で言うなら保健・体育の導師志望であり、体術の腕は一流の武闘家でもある
一方、メラニーは家庭科の導師志望である
当然、メラニーはあっと言う間にリリアーヌに技を決められ悲鳴を上げる
「痛ででっ!」
「ワザとじゃないんだよっ!!」
「ごめんっ!!許じてぇっ!!!」
メラニーは断末魔の悲鳴を上げながら必死で許しを請う
「何言っているんですか……メラさん……」
「まだまだこれからじゃないですか……」
「タァ~プリと可愛がってあげますよ」
リリアーヌは冷酷な目でメラニーを見て言う
「あはっ、あはっ、あははは……」
メラニーは真っ青な顔をして力なく笑う
メラニーの悲鳴が女子寮の両隣の部屋に響き渡るがいつもの事なので両隣の生徒は全く気にしていない
日本でもレ○○レス○○の賃貸アパートなんかで薄い壁の向こうから夜中に隣の部屋から如何わしい声が聞こえてきても隣の部屋の住人は知らないフリをして何も言わないのがマナーであり……
この世界でも同じ事が言えるのである
流れるようなリリアーヌの体術で幾つもの技を次々とかけられズタボロの半裸状態になったメラニーの体を最後に襲うのは快楽地獄である
あっと言う間に丸裸にひん剥かれ体中の感じるツボを責めまくられて快楽に悶え苦しむ
今度は女子寮の両隣の部屋にメラニーの悩ましい喘ぎ声が響き渡るのだが……
これも、いつもの事なので両隣の生徒は誰も気にしていないのであった
メラニーは、三十分後には昇天しベッドの上で幸せそうな顔をして涎を垂らし痙攣しているのであった
リリアーヌは体中のありとあらゆる感じるツボを熟知しているのである
しかし、これはメラニーにとっては罰であると同時に最高のご褒美でもある……
メラニーは、いわゆるネコなのである
ある意味では、マノンにとってはリリアーヌは最悪の"交わり"相手であるかもしれないのであった
と言う訳で……リリアーヌは実家でもう一度"儀礼の書"を書き直してもらわないといけなくなりマノンには数日の猶予が与えられる事となるのであった
第160話 ~ 王都の商人達 ① ~
マノンが帰った後のルモニエ家の食卓……
セルジュ、フェリシテ、ルイーズの3人が食事の後の一時を過ごしていた
ここ暫くはフェリシテの体調の事もあり家族3人が一緒に食事をとる事は殆ど無かった
「マノン君……いい子ね……」
不意にフェリシテが呟くような小さな声で言う
「ああ……そうだな……」
セルジュがそう言って顎に手を当てると何度も何度も小さく頷くように首を上下させる
その場に居合わせた全員がセルジュのその姿を見守っている
セルジュのその仕草を見てフェリシテもルイーズも控えている使用人たちもセルジュが何か考え事をしているのだと気付く
これは、セルジュが何かしら考え事をしているときの癖なのである
セルジュの考え事は、ここにいる全員には大体の見当がついていた……
が……その大体の見当は当たっているようでそうではなかった
つい最近までセルジュは非常に強欲で傲慢であった
しかし、"大賢者の呪い"がそんなセルジュの心情を大きく変えてた
20年前までは、セルジュ・ルモニエと彼のルモニエ商会は王都の裏通りの一角に軒を並べていた小さな商店であった
死熱病が蔓延する中でセルジュは徴兵から帰ると同時に、死熱病で他界した親から商店を受け継ぎ僅か20年ほどで王都でも1位、2位を争うような大商会へとのし上げたのである
セルジュと同世代の者達はいわゆる思春期に死熱病の地獄を体験した事もあり生きる事に貪欲であったと言える
国中が混乱した時代の中で、生きるため、のし上がる為には何でもしてきたし、そのためには強欲で傲慢でなければならなかったのは当然の事であった
因みに、フェリシテはルイーズの実の母ではない……
ルイーズの本当の母のアリーヌはルイーズが幼い頃(3歳)に亡くなっておりフェリシテは後妻である
フェリシテはセルジュより8歳年下の31歳である
フェリシテは死熱病で家族全員を亡くしており、家族ぐるみで付き合いがあり面識のあったセルジュの商店で家事手伝いとして住み込みで12歳の時から働くようになったのである
アリーヌが亡くなった後、フェリシテはセルジュと"交わる"事となるが2人の間に子供は出来なかった……
セルジュの商店で家事手伝いとして住み込みで働くようになった頃から商売に忙しいセルジュとアリーヌに代わりにルイーズの面倒も見ていたこともありフェリシテはルイーズを実の子のように可愛がり育てるのである
ルイーズもその事を知っており、記憶にすら殆ど残っていない実の母よりもフェリシテの事を実の母以上に慕っているのである
諺にある"産みの母より育ての母"の典型例だと言える
ルイーズがフェリシテに対して妙に仰々しい態度なのはそのためなのである
セルジュの首が上下するのがピタリと止まる……
そして、ルイーズの方に視線を向ける
「ルイーズ、マノン君をルモニエ商会にスカウトできないか」
突拍子もないセルジュの一言にルイーズもフェリシテも周りの使用人たちも凍り付く
「……」
ルイーズは呆気に取られて何も言えずにいる
「マノン君をうちの商会へスカウト……」
ルイーズは小さな声で呟くように言う
「えっ……!」
「ちょっと待ってお父様っ!」
「マノン君は"大賢者の弟子"って知ってて言ってるの」
「それに彼は完全に商人向きじゃないわ」
セルジュの提案に驚いた事もありルイーズは少し声を大きくして言うのだが……
そんなルイーズを見てセルジュは少し微笑んでいる
「そうだろうね……」
「マノン君は金儲けには全く向いてはいない」
「しかし、彼は人の"信用と信頼"を得ることに卓越している」
そう言うとセルジュはテーブルの上のワイングラスを手にする
すると控えていた使用人がグラスにワインを注ぐ、セルジュはそのワインを一口だけ口にする
「私は20年ほど商いをしている……」
「商人として商いをするうえで最も必要なモノは何か……」
「それは……"信用と信頼"を得る事だ」
「これが全てだ……」
「商人にとって"信用と信頼"を失う事は死ぬことに等しい」
落ち着いたセルジュの言葉はルイーズもフェリシテも使用人にも理解する事が出来る
「マノン君のような人物が家にいてくれるだけでルモニエ商会は安泰だよ」
セルジュはそう言うとグラスのワインを飲み干した
「もしも、マノン君が家に来てくれるのであれば」
「ルイーズ……お前にその気があるのなら……」
「マノン君と"交わり"子を儲けるのも良かろう」
セルジュがそう言うとルイーズの顔があっと言う間に真っ赤になっていく
「なっ、何言っているんですかっ! お父様っ!!」
セルジュの言葉にルイーズが声を荒げるのだが……
セルジュにもフェリシテにも周りの使用人達にもルイーズが嫌そうにしているようには見えないのであった
かくして。マノンは王都でも指折りの大商人に気に入られ目を付けられる事となるのである
そんな、ルモニエ家の食卓での会話を爺はこっそりと聞いているのであった
第160話 ~ 王都の商人達 ① ~
終わり