第158話 ~ 似て非なる者 ③ ~
第158話 ~ 似て非なる者 ③ ~
序章
「どうだ、調子は……」
ヴァーレルが大きくなったアレットのお腹を見て心配そうに言う
「"これぐらい大したことないわよっ"……って言いたいんだけど」
「流石に苦しいわ……」
大きくなったお腹に加えてこの暑さに気丈なアレットもややバテ気味である
「冷えたワインをググッていきたいところだけど……」
額から汗を流しながらアレットが言う
「無事に子を産んだあかつきには……」
「好きなだけ飲むがよいわ」
ヴァーレルは目を潤ませて言うとアレットはニヤリと笑う
しかし、その笑顔には余裕が全く感じられないのであった
幸いな事にアレットには流産の兆候は無く、お腹の子の発育状態は順調であった
そしてアレットは、本当に気合と根性でこの夏を乗り切るのである
因みに、爺は以前マノンと共にアレットの自宅を訪ねた際にアレットが妊娠しているかもしれないという事に気付いていた
その後に何度か、マノンには内緒で姿を消しアレットの自宅を訪ねている
そして、アレットが妊娠している事に確信した後も爺はこの事をマノンには話さないでいた
爺がマノンに話さなかったのは偶然にアレットとヴァーレルの会話を耳にしてしまったからである
「マノン君には心配させたくないから……」
アレットのこの一言は爺の心に強く響いたからだった
しかし、シルビィの件もありアレットが妊娠している事を伝えるべきかと悩んでいた
そして、ほぼ同時にセシルからも自らの妊娠を伝える手紙が届く事となる
マノンにとっては驚きと戸惑いの時が訪れる事となるのである
第158話 ~ 似て非なる者 ③ ~
私は、薪と牛脂と土鍋とお酢を抱えて王立アカデミ-に戻ると実験室の裏庭で薪を焚き始める……
ルイーズは呆気にとられた表情で私を見ている
「あの……マノン君……」
「本当に料理するつもりなの……」
ルイーズは呆れ返ったように言う
「違うよ……」
「必要なのは"灰"なんだよ」
私がそう言うとルイーズは不思議そうな顔している
2時間ほどして薪が燃え終わると灰を集める
その灰を実験室へ持ち帰り、ろ過フィルターに灰を詰め上から水をかけて灰汁を抽出する
その灰汁を煮沸して水分を飛ばし残留物をかき集める
土鍋を持って再び薪に火を点け土鍋に牛脂を入れると少し温めて溶かす
土鍋を火から降ろすと、その中に灰汁の残量物に少し水を加えた物を少しづつ入れてはゆっくりとかき回す
土鍋の中の牛脂は白濁していき白い固形物と液体とに分離する
土鍋から固形物を取り除き残った液体をろ過する
私の一連の作業をルイーズに目をパチパチさせながら見ている
始めは明らかに軽蔑していたルイーズの目が次第に興味深そうに変わっていく
「出来たよ……」
私はろ過し終えた液体の入った器を見て言う
「これが……薬なの……」
ルイーズは少し感動したように言う
「これを飲むと良いのね……」
ルイーズの目は少し涙ぐんでいるのがわかる
「……」
「……その……これは飲むんじゃないんだよ」
私は少し困ったように言う
「えっ……飲まないの……」
ルイーズは少し困惑したように言う
「この液体と蒸留水を一対一で混ぜて……」
「それを……それを……」
「お尻の穴から流し込むんだよ……」
私は凄く言い難そうに言う
「へっ……」
ルイーズは私の言っている事が理解できずに固まってしまう
「おっお尻の穴っ!」
「何考えてんのよっ!!」
「この変態っ!!!」
ルイーズは顔を真っ赤にして大声で私を怒鳴りつける
「ルイーズさんっ! そんなに興奮しないでっ!」
「落ち着いてよっ!」
私は必死でルイーズをなだめると、この薬とルイーズの母のフェリシテが病弱な原因が腸にある事を話す
「……それ……本当なんでしょうねっ!」
「嘘だったら、一生恨んでやるわよっ!!!」
ルイーズは物凄い形相で私を威嚇する
「とりあえず、お酢を数滴たらして……」
「2日ほど涼しい所に置いて……」
「それからだね……」
「ルイーズさんはお母さんにこの事を話して納得してもらって」
私がそう言うとルイーズは少し躊躇いながらも頷くのであった
その次の日にマノンは魔法工房で必要な器具を作っていた
「出来た……こんな物でいいかな」
マノンがそう言って作ったばかりの特大の注射器を手にする
"まさか……これをご婦人の尻の穴に……"
爺は絶句するかのように呟く
「そうだよ、これをお尻の穴に突っ込んで……」
何の疑問もなく注射器の使い方を説明するマノンに爺は呆然とする
"こ奴には何の下心も無い……"
"じゃが……ここまで来ると恐ろしいのぅ……"
"下手すりゃ、ルイーズちゃんに殺されるやもしれん"
爺はマノンの無神経さに返す言葉も無いのであった
当然、ルイーズもコレをぶち込まれることとなるフェリシテもこの特大の注射器の事など知るはずも無いのである
それから2日後に運命の日はやってきた
マノンは愛用のリュックに薬の入った瓶と秘密兵器の特大注射器を入れてルイーズの家へと向かう
ルイーズが私の姿を見つけると……
「来たわねっ!」
どうやら……屋敷の玄関先で待ち構えているようだった
「母には話は通してあるわ……」
「ホントに大丈夫なんでしょうねっ!」
ルイーズは目を細めて私の方を見る
本当は、マノンに貰った"エイペック"の骨の薬を2日飲程んただけで母のフェリシテの体調が良くなったのでかなり期待しているのである
部屋に入るとフェリシテが私の方を見る
以前よりも顔色も表情も良くなっているのがわかる
「マノン・ルロワくん……」
「この前はありがとうございました」
「頂戴致しましたお薬、良く効きました」
そう言うとフェリシテはにっこりと微笑んだ
「話はルイーズから聞いております」
「その……何と申しますか……」
「お尻……穴……」
フェリシテは凄く言い難そうにしている
「ルイーズさんに言った通りです」
私はそう言うとリュックの中から薬の入った瓶……
そして、秘密兵器の特大の注射器を取り出す……
特大の注射器を見たルイーズとフェリシテの表情が見る見るうちに青褪めていく
「まっ!マノン君っ!!」
「まさか……それを母のお尻の穴に……」
ルイーズは震える手で私が手にしている特大の注射器を指さす
「こっ!こっ!!このド変態っ!!!」
顔を真っ赤にしてルイーズが怒鳴る
その横でフェリシテは頬を引き攣らせ力なく笑っている
"やはり……"
爺は心の中で呟くのであった
そんなルイーズに対してマノンは冷静だった
「これで、お母さんは随分と楽になると思いますよ」
私が手にした特大の注射器と瓶に入った薬を差し出す
「……」
黙ってフェリシテは特大の注射器と薬の入った瓶を見ている
「その瓶の中のお薬……飲む事は出来ないのですか」
フェリシテはマノンの方を見て力の無い声で尋ねる
「これは腸に作用する薬です」
「直接、腸に投与する必要があるのです」
私は冷静にフェリシテの方を見て話す
「……わかりました」
「やってください……」
フェリシテの言葉にルイーズが慌てているのがわかる
「母上っ! ちょっと待って下さいっ!!」
ルイーズはそう言うと私の方を睨みつける
「ちょっと、マノン君っ!」
ルイーズはそう言うと私の手を引っ張って部屋の外へ連れ出す
「アンタっ! 何考えてんのよっ!!」
「頭おかしいんじゃないのっ!!!」
ルイーズはそう言うと私の方を睨む
「ルイーズさん……一つ聞いてもいいですか」
「お母さんはどうして具合が悪いのかわかりますか」
私の問いかけにルイーズは少し困った顔をする
「母上は体が弱いのよっ!」
ルイーズは少し躊躇ったかのように言う
「違いますよ……」
「お母さんは体か弱いのではありません」
私がそう言うとルイーズは"えっ"と言わんばかりの表情をすると黙り込む
そんなルイーズに私はフェリシテの体の事を説明する
「それ……本当なの……」
わたしの説明を聞いたルイーズは呆気にとられ驚いている
「わかったわ……アンタの言う事を信じるわよ」
「でも、嘘だったら……」
「アンタの尻の穴にアレを100発ぶち込んでやるからね」
ルイーズは鼻息を荒くして言うと再び私の手を引いて部屋の中へと入って行く
ルイーズはベッドの上で呆然と座っている母のフェリシテの方へ歩いていくと耳元で何か言っている
暫くするとルイーズがこちらの方へやって来る
「母上には説明して納得してもらったわ」
「それ、私に出来ないの」
「母上は、マノン君にされるのは抵抗があるみたいなのよ」
「分かるでしょう……」
ルイーズは頬を赤らめて小さな声で言う
「出来るよ……」
「でも、注射器をお尻の穴に入れる時には注意してね」
「誤って腸に傷をつけると大変な事になるかもしれないからね」
私は注意点を言うとルイーズは少し考え込んでいる
「やっ、やっぱりアンタにがやって……」
ルイーズは少し迷っていたが、再び母の元へと歩いていき耳元で何か言っている
「それじゃ……お願いしますわね」
フェリシテは小さなため息を吐くと覚悟を決めたようだ
私は、この薬を投与したらすぐに便意を促す事、暫く我慢してほしい事などを話す
フェリシテが下着を脱ぐと四つん這いになってお尻を突き出す
「それではやりますね」
私はフェリシテのお尻の穴に注射器の先ををゆっくりと突き刺す
「あんっ……あっあっあっ……」
フェリシテが体を捩らせながら甘美な喘ぎ声を上げる
ルイーズは頬を赤らめながらも視線を逸らすことなく様子を見ている
ゆっくりと少しづつ注射器の中の薬を全て入れていく
「終わりましたよ」
私はそう言うと注射器をゆっくりと引き抜く
「あはっ……あっぁぁっ」
再びフェリシテが甘美な喘ぎ声を上げた
そして、暫くするとフェリシテの顔が急に蒼くなっていくのがわかる
「お腹がっ!!!」
フェリシテが苦しそうに言うと"ギュルルル~"とフェリシテのお腹が悲鳴を上げる
「暫く我慢して下さいっ!」
私がそう言うとルイーズがフェリシテの傍に駆け寄る
「母上っ!!!」
心配そうに言うと私の方をギロリと睨む
「もう少し我慢して下さい」
私はルイーズの殺意のこもった視線に怯えながらも冷静に言う
「頑張ってください、もう少し我慢して下さい」
私はルイーズの殺意のこもった視線に怯えながらも冷静に言う
「あっあっあっ、もう駄目ですっ!」
フェリシテはお腹を押さえて苦しそうに言う
「もう少しですっ!」
「堪えてくださいっ!!」
私がそう言うとフェリシテは呻き声をあげて我慢しているのがわかる
「マノン君っ!!!」
「いい加減にしてよっ!!!」
「母上がこんなに苦しんでいるのに平気なのっ!!!」
ルイーズは再び私の方に殺意のこもった視線を向ける
そんなルイーズの視線に怯えながらも私は冷静に時間を測っている
「もういいと思います、トイレに行って下さい」
私がそう言うとフェリシテは血相を変えて簡易トイレのある隣の部屋にへと飛び込んでいった
その次の瞬間……
隣の部屋から物凄い音(下品な音)が聞こえてくると同時に、昇天したかのようなフェリシテの幸せそうな声も聞こえてくるのであった
「どうやら……出たようだね」
私が心の中で呟く
"そのようじゃな……しかし……"
"あれは……治療と言うよりは……拷問じゃな……"
何処からともなく爺の声が聞こえてくるのであった
暫くすると。隣の部屋からフェリシテがルイーズと共に出て来る
「マノン君……」
「アレは一体……何なの……」
今にも吐きそうな青褪めた表情のルイーズが私に尋ねてくる
「大腸寄生虫だよ……」
「それと重度の便秘がお母さんが病弱だった本当の原因です」
私がそう言うとルイーズは口を押え納得したかのように何度も小さく頷くのであった
因みに、この世界の大腸寄生虫は宿主の腸に住み着き栄養を横取りする
この世界の人間には少なからず寄生している人体には無害な寄生虫である
地球の大腸寄生虫とは違い大腸以外に寄生する事は無く人体に無害である
本来は、宿主が弱らない程度に寄生しているのであるがフェリシテのような例外もある
その原因は、裕福で贅沢をしていい物を食って栄養状態が良いと大腸寄生虫が増えてしまい結果として宿主が衰弱してしまう事になる
同時に体を動かさないので腸の働きが鈍りさらに悪化しフェリシテのように重度の便秘となるのである
要するに質素な生活をしている平民はこのような事にはならないが、贅沢して体を動かさずいい物を食っている富裕層に多い贅沢病の一種でもあると言える
かくして、出すモノを出し切ったフェリシテは日増しに回復し元気を取り戻すことになる
そして、この秘薬と特大の注射器は重度・軽度を問わず同じような症状に悩まされていた富裕層の婦女子たちの秘密の治療薬と秘密の器具となるのであった
当然、ルイーズのマノンに対する見方が激変した事は言うまでない……
マノンがフェリシテの病を治療した事をルイーズの父親のセルジュが知るのは少し後の事である
第158話 ~ 似て非なる者 ③ ~
終わり