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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第157話 ~ 似て非なる者 ➁ ~

第157話 ~ 似て非なる者 ➁ ~



序章



王立アカデミ-内にある会議室……

医術科3人と薬学科3人で計6人の導師達が会議をしている、会議の内容は"マノンの修了認定"についてである

因みに、ルシィは既に"修了認定"を出すと他の導師達に宣言しているので出席していない


 「ルシィ導師が既に宣言しているように……」

 「マノン・ルロワのこの中間報告は既に修了認定の条件を満たしております」

薬学科導師のパトリス・モンタニエがマノンの中間報告書を手に言うと他の導師達も軽く頷くのだが……


 「しかしながら……」

 「いかに"大賢者の弟子"とは言え半年もしないうちに修了認定とは……」

医術科導師のファブリス・ネルヴァルが異を唱えると他の導師達も軽く頷く

導師達にとって二人の言い分はどちらも正しいのである


結局、その日は結論が出せず……

主張中のマノンの担当導師であるバロー導師の帰りを待ち意見を聞いた上で判断するという事となった


そのバローは未だオージャオ村へ旅の途中であった



その頃、レナやマリレ-ヌ達は爺の好意で魔法工房の図書室から持ち出した数十冊の一般書籍(いわゆるノベル作品)に埋もれている生活をしているのであった

思い通りの書籍の入手が困難なこの時代にレナやマリレ-ヌのような重度のビブリオ・マニアが読みたいと思っていた本を一度に大量に入手し欲望に埋もれてしまうと"引きこもり"状態となり深刻な中毒症状を起こしてしまうのである

……今の日本で言うなら"依存症候群"である……

近年の俗例なら"ネットゲーム依存症"に近いものである


後に、マノンと爺はレナやマリレ-ヌの更生のために苦労することとなるのである

幸いなことに、ルシィやエルナはそのような状況には至らなかった




第157話 ~ 似て非なる者 ➁ ~



私が急いで迎賓寮に行くとルメラ達は講義でおらず、ルシィ一人だけであった

マノンはルシィに薬の入った小瓶を手渡すと急いで実験室へと戻っていくのであった


そんなマノンを見送りながらルシィは少し微笑む

 "マノン導師か……悪くはないわね……"

そう呟くと小瓶の中の薬をジッと見つめるのであった



急いで実験室へ戻っている途中で何処からか爺の声が聞こえてくる

 "なぁ……お前さん……"

 "薬を作る前に一度、ルイーズちゃんの母上に会った方が良いぞ"

 "母上の状態次第では薬を変える必要が出て来るしのう……"

私は、爺の提案に同意するのであった


実験室にたどり着くと窓からルイーズが椅子に座って待っているのが見える

私に気付いたルイーズは椅子から立ち上がるとこちらの方に向かって来るのがわかる


 「ルイーズさん、一つお願いがあるんだけど……」

 「お母さんの容体を確認させてもらえないかな」

私がルイーズに相談する


 「……」

ルイーズは少し考えると小さなため息を吐く

 「投薬前の確認事項……当然の事よね……」

 「いいわよ」

そう言うと足早に歩き始める、私はその後に付いて行くのであった



ルイーズは、王立アカデミ-を出ると大通りに面した通りを歩いていく

そして、王都でも一際目を引く立派な建物の前で立ち止まる

 「ここよ……」

ルイーズは何だか少し言い難そうに言うと建物の中に入って行く


 「お嬢様……お帰りなさいませ」

豪華な装飾が施された玄関(エンタレンス)に控えていた品の良さそうな中年女性がそう言うとルイーズの傍に来る

 

 「母上の所に、この人を案内して」

ルイーズがそう言うと使用人らしき4人の若い女性が私を案内してくれる

広い廊下の床には上等な赤い絨毯が敷かれ木目調に金箔の縁取りをした壁には高価そうな絵画が何枚も飾られている


突き当りの細密な彫刻を施された大きな扉の前に来るとルイーズがドア越しに話しかける

 「母上様……お入りしてもよろしいでしょうか」

 「本日は男性の客人を一人同行させております」

 「アカデミ-の同科の者にございます」

私は、ルイーズの母に会うにしては仰々しい対応に驚いているとドアの向こうから小さな声が聞こえてくる


 「あら……珍しい……」

 「貴女が友達を連れて来るなんて……」

 「しかも、男性ですか……」

 「お入りになって結構よ……」

弱々しく力の無い声だったが気品のある言葉遣いである

ドアの両脇に控えていた女性がドアを開ける

 "ギッギギギ~"

少し耳障りな重々しい音を立ててドアが開くと天幕の架かった立派で大きなベッドに一人の女性が半身を起こして座っている

長い金髪が印象的な顔立ちの整った女性だが線が細く頬はこけ、ひと目で衰弱している事がわかる

その横で二人の女性が大きな団扇でゆっくりと女性を扇いでいる

その雰囲気は、まるでシルビィと同じ王侯貴族のようだ


 「母上様、お体の調子はよろしいでしょうか」

ルイーズが問いかけるとベッドの上の女性が優しそうに微笑む


 「変わりないわよ……」

ルイーズの母のフェリシテはそう言うと私の方を見る

 「初めまして、ルイーズの母のフェリシテです」

 「見ての通り病弱なもので、このままで失礼するわね」

フェリシテが挨拶をするとルイーズがフェリシテの直ぐ横に近付いていく


 「母上様、紹介するわね」

 「同じ科の"マノン・ルロワ"君です」

 「母上のお体のお力になるやもしれません」

ルイーズがそう言うとフェリシテは不思議そうな顔をする


 「私の体の……」

フェリシテは小さな声で呟くように言う

そうしていると何時ものように爺の声が聞こえてくる


 "衰弱しているようだな……しかし、顔色が優れぬな……"

 "内臓に異常があるやもしれぬ、触診するのが良かろう"

どうやら、爺には何か心当たりがあるようだ


 「あの、もしよければ一度」

 「お体の具合を拝見させて頂けないでしょうか」

爺の言う通りに触診を願い出る


 「……」

ルイーズとフェリシテは無言で顔を見合わせる

暫くするとフェリシテは小さく頷く


 「それでは失礼いたします」

私はそう言うとフェリシテはゆっくりとベッドに横になる

薄い生地の夏用の服の上から、腹部を手を当てて触診をするが服が邪魔をして状態が良く把握できない

 「すいませんが直にお腹に触れさせてた頂けないでしょうか」

私が申し訳なさそうに言うとルイーズが厳しい視線を私に向ける


 「なに馬鹿なこと言っているのよ!」

 「若い男がご婦人のお腹に直に触れるなんて……」

ルイーズが不機嫌そうに強い口調で言っているとフェリシテが割って入る


 「いいのよ、マノン君の気の済むように」

気の立っているルイーズに落ち着いた様子で話しかける


 「母上がそうおっしゃられるなら……」

ルイーズは仕方なさそうな顔をして私の方を見る


私は小さく頷くとフェリシテの腹部に手を当てる

 「なるほどね……そう言う事か……」

私が小さな声で呟くと爺の声が聞こえてくる


 "このご婦人が虚弱なのは、お前さんの見立て通りじゃな……"

 "これは、滋養強壮剤よりも別の薬が必要じゃな……"

爺の言う通りルイーズの母のフェリシテが虚弱な原因は別にあるのである


 「ルイーズさん、お母さんの体の不調の原因がわかりました」

私がそう言うとルイーズは目を細めている


 「ホントに……」

 「お腹に触れたぐらいで分かるの……」

ルイーズは不機嫌そうに疑いの眼差しを向ける


 「お薬が出来ましたらお持ちいたします」

私はそう言うとニッコリと微笑んだ

フェリシテに挨拶をすると部屋を出て行こうとするとルイーズが急いで私の傍に駆け寄る


 「ホントにホントなのね……」

 「口から出まかせたったら許さないわよっ!」

ルイーズは私を威嚇するように言うので困っていると……


 "グハハハハッッ!!"

 "随分と気の強い娘じゃのう"

 "ところで、何か当てがあるのかの……"

爺が豪快に笑う声が聞こえてくる



とりあえず魔法工房に行こうと考えていたのだが……

ルイーズがくっ付いて離れないのである

 "どうしよう……困ったな"

 "これじゃ、魔法工房に行けないよ"

私が困っていると爺の笑い声が再び聞こえてくる


 "モテモテじゃのう~"

 "認識阻害の魔術でも使って姿をくらませば良いじゃろうが"

簡単そうに言う爺に私は姿をくらまさない理由を伝える


 "確かに姿をくらます事は簡単だよ……"

 "でも……その後はどうするの……"

私が困ったように言うと爺の笑い声が止まる


 "確かに……あの娘は一筋縄ではいかんのう……"

 "後の始末が面倒くさそうじゃな……"

爺もルイーズの始末の悪さに気付いたようである


 "仕方がないから、アカデミ-の実験室で作るしかないよ"

私が諦めたように爺に言う


 "アカデミーの実験室で何とかなるのか"

爺は少し疑問を持っているような口調で言う


 "エマの書に書かれているの覚えているから"

 "そんなに難しい物じゃないし……"

 "材料も器具もそんなに特殊な物は要らないから"

私がそう言うと爺は何も言わなかった


そんな私を訝しげに見ていたルイーズが私に話しかけてくる

 「なに一人でブツブツ言ってんのよっ!」

 「言いたい事があるならハッキリと言いなさいよっ!」

どうやら……私が爺と念話をしている様子が気に障ったようである


 「薬を作るのに必要な物を考えていただけだよ」

私は慌ててその場を取り繕う

 「そうなの……」

ルイーズは納得してくれるのであった



ルイーズと一緒に市場に買い出しに出る……


 「ちょっと待ってよっ! マノン君っ!!」

 「ここって日用品を売ってる市場よっ!!」

 「こんな所に薬の材料何てあるのっ!!」

ルイーズは少し怒っている


 「ここにあるんだ」

私が少し笑って言うとルイーズはムスッとした表情で何も言わなくなった


市場で買い物を始める……

 「これで全部だね」

私が買った物を確認しているとルイーズが体をプルプルと震わせているのに気が付く

 「どうしたの……ルイーズさん……」

私がルイーズに問いかけた瞬間……


 「なんなのよっ! これっ!!」

 「広葉樹の薪に牛脂にお(ワイン・ビネガー)に土鍋って……」

 「料理でもする気なのっ!ふざけているのっ!!」

ルイーズは怒りをあらわにする

期待が大きかった分、怒りも大きいのである


 「まぁまぁ、怒るのは後にして」

私はそう言ってルイーズをなだめると一緒に荷物を抱えて王立アカデミ-へと帰っていくのであった




第157話 ~ 似て非なる者 ➁ ~



終わり



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