表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
157/382

第155話 ~ 王立アカデミ-での日々  ~

第155話 ~ 王立アカデミ-での日々  ~



 序章


マノンが王宮へ薬を届けに行っている頃……

レナとマリレ-ヌは温泉に浸かりながら微睡んでいた


つい2日ほど前までは、お世辞にもお互いに仲が良いとは言えない関係であった

お互いが同じ趣味の重度のビブリオ・マニアであると分かった瞬間に全ての(わだかま)りは消えてなくなってしまった


共通の趣味を持つことは共通の話題を持つことでもあり、それは話が通じる相手でもあり理解してもらえることでもある

そして、同じ価値観を有することでもある

これは友として最良の条件を満たしている事となる……即ち"心の友"である


 「ねぇ、マリレ-ヌさんていつから読書好きになったの」

何気なくレナが尋ねる


 「うちは両親が商売をしていたので忙しくて」

 「幼いころは、あまり相手をしてもらえませんでした」

 「気が付いたころには本が話相手でした」

 「女学校に通うようになっても図書室で本を読んでばかりでした」

 「人に興味がなく、当然ですが友達もいませんでした」

マリレ-ヌはそう言うと大きなため息を吐く

 「ですが、マノン君に出会って……」

 「本では得られない大切な物があるという事が分かるようになりました」

そう言うとマリレ-ヌは両手を組んで大きく伸びをする

 「私はマノン君の事が、もうどうしようもないぐらいに好きです……」

 「こんなになるなんて自分でも信じられないです」

レナはそんなマリレ-ヌを優しい目で見ているのであった


そうしているとマリレ-ヌもレナの方をジッと見ている事に気が付く

 「どうしたら……そんなにデカくなるんでしょうか」

マリレ-ヌがジッと見ていたのはレナの大きな胸であった……


 「そんなのっ! 分からないわよっ! 」

レナは慌てて胸を両手で隠す


マリレ-ヌがこんな事をレナに尋ねるのは……

どこを探しても胸を大きくする方法を書いた本も薬もないからであった

同じように、どこを探してもブヨブヨのお腹のぜい肉を無くす方法を書いた本も薬もないことをレナも知っているのであった





第155話 ~ 王立アカデミ-での日々  ~





魔法工房からの帰りに魔法図書室から"禁じられた恋"の完全写本を持ち出したいとレナとマリレ-ヌが願い出ると爺は快くそれを承諾した


レナとマリレ-ヌを連れて魔法工房から王都に帰還する

2人の手には"禁じられた恋"の完全写本が全7冊があるのであった



王立アカデミ-の宿舎に帰るとベッドに寝転がる

 "持ち出していいの"

いつもとは少し様子の違う、そんな爺に私が問いかける


 "あれは良い……原書はダメじゃがな……"

小さな声でそう言うと

 "原書があるという事はあの2人には内緒にしてくれぬか"

爺にしては珍しく私に懇願するかのように言うのであった


 "わかったよ、絶対に言わない"

いつもと違う爺の様子に私は不思議に思いながらも答えるのであった

 "魔法工房の図書室にそんな本があるなんて意外だったな……"

魔法工房の図書室にある本は小難しい本ばかりだと私は思っていたのだった

すると、爺が魔法工房の図書室の事を話し始める


 "魔法工房の図書室には歴代賢者が収集した"

 "その時代、その時代の書物の殆どが所蔵されておる"

そう言うと爺は少し小さな声で話を続ける

 "ここだけの話じゃがな……"

 "魔法工房には3つ図書室があるのじゃ"

爺の説明だと魔法工房には蔵書に応じて3か所の図書室があるそうなのだ


1つは、いつも食堂代わりに使っている定番図書などの書物を集めた一般図書室……

もう一つは、魔法の書などの石板図書室……

そして最後の一つは、いわゆる雑誌のような書物を集めた俗書図書室があるそうなのだ


 "俗書図書室……そんなのがあるんだ"

 "どうして、今まで教えてくれなかったの"

私は爺に問いかける


 "まぁ……なんじゃ……その……"

なんだか爺はとても言い難そうである


 "もしかして……禁書とか……"

私がポツリと言うと爺は黙り込んでしまう

 "そんなのまであるんだ……"

 "その俗書図書室ってどこにあるの"

私が爺に問いかける


 "んん……それは……"

口調から爺が躊躇っているのがわかる


 "嫌ならいいよ、私はそんなに本に興味がないから"

 "この事は、レナ達にも言わないよ……"

私がそう言うと爺は安堵のため息を吐くのであった

その後は、何事も無く一週間が過ぎ去っていくのであった……


仲良くなったレナとマリレ-ヌはいつの間にか互いに行き来するようになっていた

どうやら……最近、その輪にルシィとエルナも加わったようである



その日、マノンはいつものように実験室での実験を終えて1人で誰もいない廊下を歩いていた


暑い真夏の夕暮れ、沈みかけの西日が差し込みマノンの影が長く廊下の床に映し出されている

提出した自主研究課題に選んだ"エイペック"骨を使った薬と一緒に提出したそのサンプル薬に関して薬学科と医術科の導師達から詳細な説明を求められたために帰りが遅くなってしまったのだ



薬学科と医術科の導師達がマノンに詳細な説明を求めたのには訳がある

導師課程は講義を受けてレポートを提出し単位を修得するのではない


自ら課題を決めてこれを研究・実験して得られた成果を最終的に論文としてまとめそれが評価されることによって修了認定を受けるのである


マノンの提出した中間報告は、既に最終的にまとめられた論文としてのレベルに達していると導師達に評価されたのである

導師達は僅か数ヶ月で修了認定を出すべきかをマノンとの直接対談で決めようとしたのである




 "ああ~疲れた……"

 "あれじゃ、まるで尋問だよ"

 "いくら何でも明日が休みだからって言ったて……"

 "半日も……"

私は1人で疲れ切って呟くと何処からか爺の声が聞こえてくる


 "楽しようとしてシルビィちゃんに送った薬を自主研究の課題などにするからじゃ"

 "あの薬は儂のオリジナルじゃから……"

 "導師共が興味を持つのは当たり前じゃ"

 "楽した分がまとまって返ってきただけじゃな"

爺がそう言うと肩にパックが乗かった感覚がある


 "最近はずっと認識阻害の魔術を発動しているけど……"

私が爺に問いかける


 "仕方ないじゃろう……"

 "四六時中、オウムが飛び回っていては不自然じゃ"

爺の言う事はもっともであった……突然、何者かの気配を感じる

 "んっ!"

同じように爺も何かの気配を感じ取り声を上げる


 "誰かが付けてきているようだね……"

私は後ろから何者かの何とも言えない不思議な気配を感じ取る


 "悪意や殺意は感じられないようじゃが……"

爺も何とも言えない不思議な気配に困惑しているようだ

 "害はなさそうじゃ……"

 "気が付かないフリをしてさっさと宿舎へ戻るのが得策じゃ"

私も爺と同じ考えだったので宿舎へと足を速める……


その時、何者かがものすごい勢いで背後から近付いてくる気配と足音を感じる

 "!!!"

 "全周囲完全防御魔法……えっ……"

私も爺もとっさの事に慌て防御魔法を発動しそうになる


 "あのっ! マノン・ルロワ君これをっ!!!"

マノンが振り返るとそこには頬を真っ赤にした女子生徒が私に手紙を差し出していた


 "えっ……"

一瞬、脳裏にセシルの姿がよぎる

あまりに突然に事に呆然している私の手に1通の手紙を渡すと女子生徒は何も言わずにダッシュで走り去っていくのであった


 "なっ何なの……"

私が唖然として呟く……

暫くして我に返った私の手には1通の手紙があるのであった


 "お前さん……あの女子生徒に心当たりはあるのか"

爺が私に尋ねてくる


 "……無いよ……"

私は呟くように爺に言うのであった

……と言うよりも突然だったのと傾いた太陽の強烈な西陽の逆光のせいで顔はおろかその姿すらよく覚えていないのである



宿舎の自室に帰ったマノンは受け取った手紙を机の上に置くとベッドに寝転がる


 "アレ(手紙)はどうするのじゃ……"

爺が私に問いかけてくる


 "今日……なんだか疲れたし……"

 "明日でいいよ……休みだし……"

その日、マノンは体を拭きも食事もせずに寝てしまうのであった



昨日、早く寝てしまったせいかマノンにしては珍しく早起きをしてしまった

 "お腹が空いた……"

マノンはそう呟くとゆっくりとベッドから起き上がる

部屋の隅でパックはまだ寝ている……爺の反応はない

 "この時間じゃ食堂も開いてないし……"

 "ここには食べ物なんてないし、困ったなぁ……"

マノンは部屋の中を見廻しながら呟くと机の上の手紙に目が留まる

 "昨日の手紙か……"

マノンは机の上の手紙を手に取ると封を切る

手紙の内容は……




  親愛なる大賢者の弟子マノン・ルロワ様へ



  私は"ロクサーヌ・ルメール"錬金科に身を置く者です

  我が家は代々、王室ご用達のガラス細工工房を営んでおります

  今回、私が無失礼けにもこのような行為に出たのには訳があり

  ます


  それは、受注を受けた熱に強いガラス細工がどうしても上手く

  作れず父のイレネーは大変に苦悩しております

  日々、苦悩する父の姿を見るに堪えず筆を執る事となりました


  大賢者の弟子様のマノン・ルロワ様であれば何かしらの知恵を

  授けていただけるものと思いこのような行為に出ました

  これは、私の独断によるもので父には全く関係ありません

  

  お力添え頂けるのであれば一週間後の夕刻6時頃に男子寮裏手

  の庭でお待ちしております


  何卒宜しくお願い致します 



          王立アカデミ-錬金科二回生

          ロクサーヌ・ルメール




 "1週間後か……"

 "それにしても、熱に強いガラス……"

 "いったい何の事だろう……"

マノンには手紙に書いてある事に心当たりがない

すると突然、爺の声が聞こえてくる


 "おそらく……耐熱ガラスの事じゃな"

 "儂らが死熱病の薬を作った時に使った器具に使われている"

 "特殊なガラスの事じゃよ"

爺はそう言うと話を続ける

 "あれは普通のガラスではないからのう……"

 "今のガラス素材ではいくら頑張っても無理じゃよ"

そう言う爺に私が問いかける


 "なんでそんな物が必要なんだろうね……"

私の問いかけに爺は何も言わないった

それは当然で、私や爺には分かるはずもない事である

 "その耐熱ガラスって簡単に作れるの"

私が耐熱ガラスの事を尋ねる


 "材料さえあれば普通のガラスと製法は同じじゃよ"

 "ただ材料を集めるのは一苦労じゃな……"

 "苦悩する父のために……なんと天晴な娘じゃ"

 "ここは一肌脱がねばならんな……"

爺はそう言うとウンチク講座が始まるのであった

その長い話を高圧縮すると……


普通のガラスの材料に加え硼砂という材料が必要になるがゲルマニア帝国の北西部の端にあるコレビと言う不毛の大平原にあるという事だった

ただ、魔法工房に20Kg程度のストックがあるのでそれを使えばよいと爺は言っていた


 "それじゃ……今日にでも魔法工房へ行って"

 "少し持ってくることにしようか"

私が爺に言うと爺は快く承諾するのであった

爺はこの手の話には弱いのである


 "グゥーーーーッ!"

そうしているとマノンのお腹が断末魔の悲鳴を上げる

 "そう言えば、昨日は夕食を食べてなかったな"

 "魔法工房に行く前に……何か食べないと……"

マノンは断末魔の悲鳴を上げるお腹を擦りながら呟くのであった


その頃、リリアーヌは1人自室で父に書いてもらった"儀礼の書"の入った手紙をジッと見ているのであった

 "どうやって、渡せばいいのかな……"

他の生徒たちに気付かれずに確実にマノンに受け取らせる手段を考えているのであった……



第155話 ~ 王立アカデミ-での日々  ~


終わり



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ