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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第154話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ➉ ~

第154話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ➉ ~



序章



 "どうしよう……どうしよう……"

王宮から自宅に帰ったアネットは自室に籠り頭を抱えていた

シルビィからアレ(マノン)には絶対に伝えないでほしいと言われてしまったからである

 "もう言っちゃったよ……"

 "もしも、アレが阿膠を持って直接シルビィ様の下にひょっこり来られたら……"

 "確実に私がアレに喋ったことがシルビィ様にわかってしまう"

 "そうしたら……"

 "ああああああああ!ホントにどうしようっ!!"

アネットは自室で一人頭を抱えて苦悩するのであった


 "仕方がないわ……背に腹は代えられないっ!"

 "アレ(占い)をやるしかないわっ!!"

アネットは例の儀式を行いマノンの行動を予知することを決めるのであった



第154話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ➉ ~




 「えっ!」

 「それホントなの……」

私は魔法工房に持ち帰った阿膠の取り扱いの事を爺に聞かされて愕然とする


爺の話だと、阿膠は時間をかけてゆっくりと乾燥・熟成させなければその効力を十分に発揮できないそうなのだ

乾燥・熟成期間は最低でも一か月間……

爺曰く……

 "ワインと同じような物じゃ……"

爺のこの一言はワイン農家の倅の私にはよく理解することができた


 「でも、それじゃ……間に合わないよ……」

 「阿膠を、せっかく手に入れたのに……どうすればいいの……」

私が爺に困ったよう問いかける


 「なにも阿膠だけが"エイペック"の薬ではない……」

 「骨を砕いて数種類の薬草と調合すればのう……」

 「今のシルビィちゃんの体調にあった良い薬が出来るのじゃ」

 「阿膠の乾燥・熟成が済むまでの時間稼ぎはできる」

爺は私に薬の調合をするように言う

 「それはそうとして……レナちゃんとマリレ-ヌちゃんはどうしたのじゃ」

爺が私に問いかけてくる


 「あの2人なら図書室だよ……」

 「"禁じられた恋"とか言う本の事で盛り上がってるよ」

 「私には何の事かサッパリ、分からないや……」

私がそう言うと爺はそれ以上は何も言わなかった


 実験室へ行くと、私は爺の指導の下で"エイペック"の骨を使った薬を作る

"エイペック"の骨を砕いて磨り潰し2種類の薬草を混ぜて繋ぎに少量の小麦粉を加え"エイペック"生き血で練り込み小さな粒にすると言うシンプルな薬であるがその効能は抜群とのことである


 "どんな効能があるの"と爺に聞こうとしたが長いウンチク講座が始まりそうな気がしたので敢えて問わなかった



薬を作り終えると私は久しぶりに温泉へと向かう

ゆっくりと湯に浸かり暫く微睡んでいるとレナとマリレ-ヌの声が聞こえてくる


 "ここには温泉があるのよね……"

 "読書の後の肩コリには凄く良く効くの"

レナが温泉の事を話しているのが聞こえてくる


 "へぇーそうなんですか……"

 "私は生まれてこの方、温泉というモノに入ったことがないもので……"

マリレ-ヌの声も聞こえてくる……

どうやら、マリレ-ヌは温泉に入った事が無いようだ


 "2人仲良く話すこともあるだろうし、そろそろ上がるかな……"

本当は、私には2人の濃ゆい本の話題には付いていけないので早々に退散しようとしているのだ


 「あら、マノンもいたの」

温泉から上がろうとしている私を見つけたレナがそう言うとマリレ-ヌもこちらの方に視線を向ける


 「もう出るのですか」

マリレ-ヌが浴槽から出ようとしている私を見て問いかける


 「もう十分に浸かったからね……」

 「あまり浸かりすぎるとのぼせて鼻血が出ちゃうからね」

私はそう言って笑うとレナも笑う


 「そんな事もあったわね」

レナはそう言いながら服を脱ぎ掛湯をすると温泉に入る

 「はぁ~、いいわ~」

 「マリレ-ヌさんもどうぞ」

レナがそう言うとマリレ-ヌのそそくさと服を脱ぎ見様見真似で掛湯をすると温泉に入る


 「ふへぇ~」

 「これは何とも……」

マリレ-ヌも気持ちよさそうな声を出すと眠そうな目をしているのがわかる


そんな2人を残して私は温泉から上がると実験室へ向かうとさっき作った薬を小瓶に詰めていると……

 "早くシルビィちゃんに届けてやるがよい"

何処からか爺の声が聞こえてくる


 "レナとマリレ-ヌさんが、まだ温泉に入ってるんだけど……"

 "2人を魔法工房に残していく事になるんだけど"

私は、レナとマリレ-ヌを魔法工房に置き去りにするような気がして悩んでいる


 "あの2人なら大丈夫じゃよ……"

 "事情を話せばわかってくれる"

 "それに図書室の中で一生暮らしていけるわい"

爺はそう言って笑うのであった……

爺にとっては冗談のつもりなのだろうが私には笑えなかった


とりあえず、温泉に行ってレナとマリレ-ヌに事情を話す

 「いいわよ~」

レナがそう言うとマリレ-ヌも頷く……その一言だけであった

爺の笑えない冗談が本当になるような気のするマノンであった



実験室に行って薬をポケットに入れるとパックと共に王都へと転移する

いつもの通り広場の塔の天辺、見慣れた景色が広がっている

昼過ぎの王都には夏の日差しが燦燦と降り注いでいる


 "それにしても、暑いなぁ……"

標高が高く涼しいオージャオ村から帰ってきたので余計に暑く感じられるマノンであった

 "ルメラ達、大丈夫かなぁ……"

ルシィからルメラ達が夏バテしていることを聞かされているので少し心配していると爺の声が聞こえてくる


 "後で、ルメラ達にも同じエイペックの薬を調合してやるとよい"

 "まぁ、生き血の方が良いのじゃが……"

 "あの4人には飲ません方がお前さんの身のためじゃな……"

爺はそう言うとスケベそうに笑うのであった


爺のスケベ笑いを聞き流して私はゆっくりと階段を下りていく

認識阻害の魔術を発動して人通の多い大通りの隅を他の通行人とぶつからないように注意深く歩いていく


王宮の前に来ると警護の兵士の傍をそっと潜り抜け王宮へと入っていく……

一度来たことがあるので迷うことなくシルビィの私室へと歩いていく


シルビィの私室の前に来るとそっとドアを開けて中の様子を窺う

 "儂が中の様子を見てくる……"

爺がそう言うと、肩に乗っていたパックが部屋の中へ飛んでいくのが分かる

 "誰もいないようじゃ……"

 "シルビィちゃんの姿も見えんな……"

 "どこかに行っているようじゃな……"

爺はそう言って部屋の中から戻ってくると再び私の肩に乗っている


 "困ったなぁ……"

 "せっかく薬を持ってきたのに……"

私が心の中で呟く


 「お待ちしておりましたっ!」

いきなり背後から声がする


 「ひぇっ!」

魔術で姿を消しているのに背後からいきなり声を掛けられて吃驚してチビリそうになる

爺も流石に驚いたようで耳元でパタパタとパックの羽ばたく音がしている

慌てて後ろを振り向くとアネットが腰に手を当てて立っていた


 「なんだ……アネットか……」

アネットが魔力持ちである事を知っているので納得する

私は認識阻害の魔術を解除するが、爺は魔術を発動したままである

 「シルビィは何処にいるの……」

 「薬を持ってきたんだよ」

私はそう言うとポケットから薬の入った小瓶を取り出す


 「これが……阿膠……ですか」

アネットは小瓶の中の薬を珍しそうに眺めながら言う


 「いや……それが……」

 「これは、阿膠じゃないんだよ……」

私は申し訳なさそうに言うと事情をアネットに説明する


 「なるほどね……そう言う事ですか」

 「だったら仕方ありませんね」

 「この薬は私が後ほどシルビィ様の専属医のカミーユ様に渡しておきます」

そう言ってアネットは私の手から薬の入った小瓶を受け取る

 「それでは、お引き取りを……」

アネットはそう言うと表情一つ変えないで冷酷な目で私を見ている


 「あの~シルビィに少しだけでも会わせてもらえませんか」

私が申し訳なさそうにお願いする


 「ダメです」

アネットにキッパリと断られた


 「どうしてでしょうか」

アネットの態度に不信を持った私は食い下がる


 「ダメなものはダメなんです」

アネットはダメな理由も言わないので私が困っていると爺の声が聞こえてくる


 "この娘、何か隠し事をしておるな……"

 "ここは儂に任せてもらえぬじゃろうか"

マノンよりはアネットの性格を理解しいてる爺は私に自分の言う通りにして欲しい言ってくる


 「それでは、改めて出直すとするよ」

 「近いうちに会いに来るとシルビィに伝えてほしい」

私は爺の言う通りにアネットに言う


 「えっ……あの……」

 「近いうちにとはいつでしょうか」

アネットは少し焦たように訪ねてくる


 「今日の夕方かもしれんし夜かもしれんし」

 「明日か、明後日か……」

爺が適当な事を言う


 「ちょっと待って下さいよっ!」

 「ハッキリさせていただかないと困ります」

アネットが困っているのがよくわかる


 「私がシルビィと会うと何か都合が悪いのかな」

私がポツリと言うとアネットの態度がよそよそしくなり

そして、大きなため息を吐く


 「はぁ~仕方がありません」

 「白状します……」

観念したアレットは事情を話し始める


 「なんだ、そんな事か……」

 「初めから素直にそう言えばよかったのに」

 「アネットが私にシルビィの容態の事を話したことは言わないよ」

 「それでいいかい」

私がそう言うとアレットの目に安堵の涙が浮かぶのが分かる


 「なにも……泣くほどの事じゃ……」

私は涙ぐむアネットを気遣うように言う


 「貴方には分からないと思います」

アネットの言葉に私が戸惑っていると爺の声が聞こえてくる


 "この娘はシルビィちゃんの事が大好きなんじゃよ"

 "お前さんも性転換体質の事をレナちゃんに話す時に戸惑ったじゃろ"

 "それと同じ事じゃよ"

爺に言われて納得するマノンであった


アネットの案内でシルビィのいる所へと向かう

夏の暑さを避けるために王宮でも風通しの良い涼しい場所に移っているとアネットが説明してくれた


部屋に入るとシルビィは、大きなお腹に手を当てて半身を起こした形でベッドの上に座っていた

2人のお付きの女官が大きな団扇でゆっくりとシルビィを扇いでいる


 「シルビィ……」

私が声を掛けると少し驚いたように体をビクッとさせてこちらに振り向く

女官は見慣れない私に鋭い視線を向ける

彼女達はもしもの時にはシルビィを護衛する役目も兼ねているからだ

アネットが女官の傍に行くと事情を説明している


事情を理解した女官は深々と頭を下げると部屋の隅に身を寄せた


 「来たよ……」

私がそう言うとシルビィはニッコリと笑うが少し苦しそうなのが分かる

以前よりも少しやつれたようにも見える

 「調子はどう……」

私が体の具合を尋ねる


 「少しですが……苦しいですわ」

小さな声で言うと自分のお腹を大事そうにさする

よく見ると額に汗が滲んでいるのが分かる

 

 「少し暑いかな……」

私はそう言うと冷却魔法を発動する、あっという間に部屋は涼しくなりシルビィの額の汗が引いていくのが分かる

 「少しは涼しくなった」

私が問いかけるとシルビィは小さく頷いて微笑む

部屋の隅で様子を窺っていた女官が驚いているのが分かる


私はシルビィの傍に近付くと中腰になりお腹にそっと手を当てる


 「時より動くのですよ……」

シルビィはそう言うと私の手の上に自分の手を乗せる

私はそっとシルビィを頬に手を当てると挨拶のキスをすると爺の声が聞こえてくる


 "思った通り、随分と衰弱しているようじゃな……"

 "例の薬を2粒飲ませてやるとよい"

アネットから薬の入った小瓶を受け取ると爺の言う通りに薬の粒を2つシルビィに飲んでもらった

 

 "この薬は特に弱った体に効力を発揮する"

 "2~3日もすれば体力は回復していくはずじゃ"

爺はシルビィが衰弱している事を予測しているようだった


30分ほどだが私とシルビィは話をする事が出来た

 「また来るね……」

私はそう言うと帰り際に爺の説明通りに薬の用法をアネットと女官に説明すると私は認識阻害の魔術を発動しその場を去るのであった



私が帰った後でシルビィがアネットに話しかける

 「ありがとう……アネット」

シルビィがお礼を言うとアネットは少し慌てる

 「私の言付を守らなかった事など気にしなくていいのよ」

 「感謝しているわ……」

優しそうに微笑むシルビィを見ているだけでアネットの心は満たされるのであった

 「でもね……嘘を吐いて誤魔化すのは良くないわよ」

シルビィはそう言うとアレットの目を優しく見る


 "ひぃぃーーーっ"

 "完全に見透かされてるぅーーーっ"

アレットの心は天国から地獄へ真っ逆さまに落ちていく……

顔が引き攣って冷や汗をかいているのが自分でもわかる

 「申し訳ございませんでしたっ!」

反射的に土下座をして素直に謝るアネットであった……


その後、薬が効きシルビィの体力と食欲は順調に回復するのであった

驚異的な薬の効力を目の当たりにしたカミーユは小さくため息を吐くと一言……

"世の中とは広いものだな……"

そう言って笑ったという



第154話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ➉ ~



終わり



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