第153話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ⑨ ~
第153話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ⑨ ~
長い長い序章
恋愛とは、異性間のみで成立するものではない……
同性同士であったとしても互いに惹かれ合い求めあうのであれば、それぞれに形は違えどもそれは立派な恋愛として成立するのである
この世界では、同性間同士での恋愛は認められている
ただ、同性間で子孫を残すということは出来ないために互いが条件に合った異性の相手と交わるという事もごく普通に行われている
異性間の交配で子孫を残す……ただ、それだけのためならば恋愛などというものは必要ないからである
この世界では、"恋愛"と"交わり"を完全に割り切ることにより同性間同士での恋愛が認められているのである
そして、王立アカデミ-の女子生徒の中にもそのような境遇の生徒は存在する
王立アカデミ-の文学科に在籍する"リリアーヌ・テリエ"と"メラニー・ソニエール"の2人もそうである
2人は、全く違った境遇で生まれ育った
"リリアーヌ・テリエ"は王都ガリアンで下級貴族の長女として生まれ、それなりの環境でなに不自由なく育ち王立アカデミ-へ入学した
一方の"メラニー・ソニエール"はガリア王国でも特に辺境とされる南西部にある山村で猟師の次女として生まれ、恵まれているとは言えない環境で育ち大変な苦労して王立アカデミ-へ入学している
この2人が出会って同性間同士での恋愛に落ちるなどとは本人達も考えもしなかったことである
人により趣味趣向は違ってくるが、往々にして自分にないものや手に入れられなかったもの持った相手に惹かれる事はよくあることと言える
この2人にはこれが当て嵌まった例だといえる
"リリアーヌ・テリエ"は身長165センチほど、やや太めの体形に大きな胸、長い綺麗な金髪で貴族の娘だけの事はあり何処となく上品で気品がある
性格は見た目通りで、おっとりとしたのんびり屋さんであるがその割には肝が据わっており多少の事では動じない
一方の"メラニー・ソニエール"は身長175センチ瘦せ型であるが出る所と出なくて良い所はハッキリとしたグラマラスで運動神経もよく短めの銀髪がよく似合うイケメン女子である
見た目とは裏腹に性格は優しく乙女チックであり、よく気の利くタイプである
以外に料理や裁縫などが得意である
真逆ともいえる人生を送ってきた2人が出会ったのは入学当日で偶然にも女子寮に数室しかない2人部屋のルームメイトであったからである
一緒に生活しているうちに自然とお互いに惹かれ合い良きパートナーとして今日に至っている
この2人に転機が訪れたのはリリアーヌに実家から"交わり"の話があったことに始まる
今までならば、下級とはいえ貴族のリリアーヌは多くの貴族のご令嬢と同じように親の決めた相手と"交わり"を強要される運命にあったのだが……
大賢者によるシルビィ王女誘拐事件が公の事となってからは貴族の中でも親の決めた相手との"交わり"を拒否する者が多くなってきている
リリアーヌもそうであり親の決めた相手との"交わり"を拒否したのである
しかし、実家としては跡取り問題の事もありリリアーヌ自身が決めた相手との"交わり"で決着がついたのであった
夜も深まった女子寮の一室……薄暗いランプの灯が揺らめいている
2つあるベッドのうち1つは誰もいないが、もう1つのベッドには2人が寝ている
「嫌だなぁ~」
ベッドの中でメラニーがリリアーヌの耳元で呟く
「仕方がないでしょうっ!」
「好きでヤるわけじゃないんだらねっ!」
「そういうメラはどうなのよ」
不機嫌そうにリリアーヌが言う
リリアーヌはメラニー事を"メラ"と呼ぶ
「私はそんなの関係ないよ……」
「家出同然に、ここに来たからね」
「向こうに帰る気も全くないし」
メラニーはそう言うと小さなため息を吐く
「貴族様の長女ともなると大変だね」
「で……相手はいるの……」
メラニーが呟くように言う
「……いいなって思うのは……」
「いるにはいるんだけど……」
リリアーヌは少し悩んでいるような口調で言う
「誰……なの……」
メラニーが少し不機嫌な口調で問う
「……マノン・ルロワ……」
リリアーヌは小さな声で呟くように言う
「えっ!」
「マノン・ルロワって"難攻不落の要塞"っていうアノ人……」
女子からのお誘いを断りまくったマノンは文学科の女子からはそう呼ばれている
「まぁ、性格は良いようだし学問も武芸も超一流……」
「他の生徒や導師達からの評判も良い」
「おまけに大賢者の弟子なんだろう……」
「リリ、いくら何でもそれは……ちょっと無謀じゃないの」
メラニーは少し困惑したかのように言う
メラニーはリリアーヌの事を"リリ"と呼ぶ
「確かにそうね……」
「でも、手段はあるのよ……」
リリアーヌは何か良い手があるように言う
「アレット導師の事……知ってるでしょう」
「実家で聞いた話なんだけどね……」
「アレット導師……妊娠しているようなのよ」
リリアーヌの話にメラニーが凍り付いたように沈黙する
「えっ! もしかして……その相手って……」
メラニーは驚いたように言う
「そう、メラの想像の通りよ……」
「正式に筋を通して申し入れればアノ人は断れないのよ」
「家の両親もすでに了承済み……」
「そしてコレが……」
そう言うと裸のリリアーヌはベッドから起き上がりベッドの横に置かれたチェストの引き出しの中から一通の封書を取り出す
「"儀礼の書"……家の父が書いた正式なやつよ」
リリアーヌが手にした封書をメラニーに手渡す
「コレをあの人に渡すわけね……」
メラニーはベッドから起き上がると裸のままでランプの傍に行き"儀礼の書"に火を付けようとする
「あっ! ちょっとなにすんのよっ!」
焦ったリリアーヌがベッドから飛び出してくる
「なんちゃって……」
メラニーはそう言うと意地悪そうに笑う
「もう……」
リリアーヌは不機嫌そうに言うと
「嫌なら……燃やしてくれてもいいのよ」
小さな声でリリアーヌが言うとメラニーは小さなため息を吐き手にしていた"儀礼の書"をリリアーヌに返した
「一つだけ聞いていい……かな……」
メラニーは真剣な表情でリリアーヌにそう言うとリリアーヌは小さく頷いた
「どうして……マノン・ルロワなの……」
リリアーヌはメラニーの問いかけに少しモジモジしている
「……それは……それは……」
「……マノン・ルロワがどことなくメラに似ているからよっ!」
リリアーヌはそう言うと顔を赤くする
「……ふぅ~ん」
そう言うとメラニーはニヤリと笑うとリリアーヌをギュッと抱きしめ豊満な胸に顔を埋める
「もう、メラったら……」
「大きな赤ちゃんみたいなんだから……」
リリアーヌが照れくさそうに言うと2人はベッドへと倒れ込むのであった
第153話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ⑨ ~
オージャオ村の夜が明ける……
寝室でレナとマリレ-ヌが同時に目を覚ますとレナが鼻をクンクンさせる
「なんか変な匂いがしない」
レナは部屋の中に立ち込める何とも言えない匂いに思わず鼻を押さえる
「これは……間違いなく何かの薬の匂いですね」
薬師のマリレ-ヌには直感で何となくわかる
そんな中でマノンは何事も無いように気持ちよさそうに寝ている
"エイペックの生き血も大したことないのね……えっ……"
"そっ、そうでもないかな……"
気持ちよさそうに寝ているマノンを見て二人が同じ事を心の中で呟く
本当は"エイペック"の生き血のせいで寝付きがよくなかったためである
ただ、普通の人間なら一晩中目が冴えて眠れないのであるが……
寝ているマノンを残してレナとマリレ-ヌは寝室を出ると玄関に向かう
「外からね……」
レナがそう言うとマリレ-ヌも頷く
2人が外に出るとラナハヤとサラヤタが何かしている姿が見える
「おはようございます」
レナとマリレ-ヌ挨拶をするとラナハヤとサラヤタがこちらの方に振り向く
「やぁ! おはよう!」
ラナハヤが挨拶をするとサラヤタも頭を少し下げる
「丁度いい所に来た、阿膠が出来たよ」
ラナハヤはそう言うと鍋の中のドロドロの物を四角い木の型枠に流し込む
「まだ、生でドロドロのままだが冷えれば固まる」
「それをゆっくりと自然乾燥させれば良い阿膠になる」
木枠の中では濃い琥珀色の阿膠が湯気を立てている
「これが阿膠ですか……」
マリレ-ヌはそう呟きながら木枠の中の阿膠をジッと見ている
「そう言えば……もう一人はどうしたんだい」
ラナハヤはそう言うとレナとマリレ-ヌの方を見てニヤリと笑う
「まぁ……仕方がないさなぁ……」
「昨日の夜は、大変だっただろうし」
ラナハヤはレナとマリレ-ヌの二人を見てニヤリとすると
「ふげぇ!」
サラヤタの拳骨が脳天を直撃する
「あがががが……」
悲鳴上げ頭を押さえて地面に蹲るラナハヤを軽蔑したような目で見降ろす
「すまないねぇ……デリカシーの欠片もないクソ爺で」
サラヤタはそう言うと地面に蹲っているラナハヤの尻に蹴りを入れる
「うげっ!」
ラナハヤは小さな悲鳴を上げると尻を擦りながら立ち上がる
「ホントに気の強いババァだなぁ……」
小さな声でボソッ呟くとサラヤタの厳しい目に怯えているのが分かる
「ぁっ、あと一時間もすれば冷えて固まるから」
「木枠から出して紙か布にでも包んで持ち帰ればいいさなぁ」
「儂らは、これから朝飯にするからの……」
ラナハヤはそう言うとサラヤタと一緒に家へと帰って行った
その頃、マノンは一人呆然と寝室の布団の上に座っていた
「……爺……これどうにかならないかな……」
私は自分の股間を見詰めて爺に言う
「……どうにもこうにも生理現象じゃから仕方あるまい」
爺は諦めたように言う
「それにしても……"エイペック"の生き血の威力は凄いのう……」
姿を現したパックが傍に来ると私の股間を凝視して言う
「こんなのじゃ、恥ずかしくて表に出れないよ……」
臨戦態勢を維持したままの股間のモノを何とかしようと手で押さえるがどうにもならない……
マノンのモノは非常に立派なので大変なのである
「とりあえず大きく息を吸って精神を落ち着けるのじゃ」
私は、爺の言う通りに何度も大きく深呼吸をして精神を落ち着かせようとする
……が、一向に収まる気配がない
「はぁ~どうしよう……」
私が途方に暮れていると爺が私に話しかけてくる
「仕方がないのう……性転換するしかないか……」
爺は私に性転換するように言う
「ちょっと待って、マリレ-ヌさんになんて言えばいいんだよ」
私は困惑したかのように言う
「仕方がないのう……それならば、最終手段じゃ」
爺がそう呟いた瞬間……パックの嘴が私の股間を直撃した
「う゛っ!」
私は声ならないような呻き声をあげると股間を押さえて布団の上で身悶えする
「あがっ! うぐぐぐぐっ!」
「いきなり、酷いよ……」
あまりの痛さに下腹も痛くなってくる……下腹を押さえて苦しんでいるとレナとマリレ-ヌが慌てて部屋に入ってくる
「どうしたの……マノン、大丈夫……」
「ものすごい悲鳴がしたけど……」
蹲っている私を見てレナがそう言うとマリレ-ヌも心配そうに私の方を見ている
「なんでもないよ……」
私はそう言うと股間のモノ状態を確かめる
"よかった……収まっている……"
私は安心し立ち上がるとレナとマリレ-ヌは何も言わずな私の方をジッと見ると2人が顔を見合わせてクスッと笑った
"何かおかしいのかな……"
私にはどうして2人が笑っているのかが分からないのであった
実はレナとマリレ-ヌが起きた時には寝ているマノンのモノは既に臨戦態勢になっており……
まるで、幸せそうに寝(永眠)ているマノンの墓標のように見えた2人なのであった
かくして、私たちは"エイペック"の出来たてホヤホヤの阿膠と角そして骨を背負い、生き血の入った壺を抱えてオージャオ村を後にするのであった
そんな、マノン達を見送りながらラナハヤが呟く……
「あの方は"大賢者様"だな……」
ラナハヤの呟きにサラヤタも頷く
「子供の頃に爺さんが言っとったのと同じさなぁ……」
オージャオ村には"エイペック"を1人で捕らえられるのは"大賢者"だけという伝承があり……
それに……マノン達が帰って行った方向には"無人の廃墟"と"大賢者の社"しかないからである
「また来てくれるかねぇ……」
サラヤタがそう呟くとラナハヤの顔に笑みが浮かぶ
「また来るさなぁ……」
「それまで、"エイペック"の薬は預かっておく事にするさなぁ……」
2人はマノン達の姿が見えなくなくなるまでその場に立っているのであった
第153話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ⑨ ~
終わり