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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第152話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ⑧ ~

第152話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ⑧ ~



長い序章



マノンがエイペックを捕まえに行っている頃……

レナとマリレ-ヌは空き家の居間でゆっくりと激マズなお茶を飲んでいた


2人が綺麗に飲み干してしまったのでサラヤタさんが気を利かせて食材と共に持ってきてくれていたのであった


大昔のテレビ・コマーシャルにあった"まずいっ! もう一杯っ!"のオリジナル青汁と同じような代物である


 "それにしても、本当に酷い味ね……"

 "でも、美容と健康には絶大な効果があるのは実証済み……"

 "この味さえ何とかすれば、確実に売れるっ!"

商魂たくましいマリレ-ヌは、お茶を啜りながら心の中で呟く……

一方のレナはというと……


 "このお茶なら……このお腹のお肉も……"

ユーリアの指導の下でほぼ休み無く運動を続けるも全く揺るぎもしない下腹のお肉を恨めしそうに眺めるレナであった


それぞれ考える事、目的は違っても、その根源は同じであった……



沈黙の中、2人のお茶を啜る音だけがする

 "何だか……気まずい……"

2人ほぼ同時に心の中で呟いた言葉も同じであった


2人とも、マノンがいないだけでここまで気まずいものなのかと思いつつ、お互いの様子を探ろうと何度かお互いに相手に視線を向ける

偶然そのタイミングが合ってしまい目が合う


 「……」

2人とも何を言ってよいのか分からずに愛想笑いをする

その理由は簡単で、この2人が初めて会った時の状況が良くなかったのが原因である


しかし、状況というものはホンの些細な事でも何かきっかけさえあれば変わるものである


この息苦しい状況にたまりかねたレナは自分の鞄から一冊の本を取り出すとしおりの部分のページを開き読み始める


マリレ-ヌがこちらをジッと見ている事にレナが気付く

 "マリレ-ヌさん、ずっとこっちを見ているけど……"

 "何かあるのかな……"

レナはどうしてマリレ-ヌがこちらをじっと見ているのか気になって仕方がない

そうしているとマリレ-ヌの視線が本に向いていることに気付く

 "あれっ……本を見ているのかしら"

レナはマリレ-ヌの視線が本に向けられている事に気付くもどうしてよいのか分からないでいる


一方で視線を送るマリレ-ヌは本の背表紙をジッと見ていた

 "あの本は確か……"

 "'禁じられた恋'……なのでは……"

 "しかもっ! 完全写本じゃないのよっ! "

 "それに私がまだ読んでいない、最終巻じゃないのっっっ!!!"

そう、レナが読んでいる本はこの世界の"ロミオとジュリエット"なのである

特に読書好き若い女性に人気のある恋愛物語である


原書は全7冊からなる長編の恋愛ストーリーで何百年も前にあった実話がモデルとなっている

長年に渡り世代を超えて読書好きの若い女性を夢中にした名作である

当然、数多くの完全写本、部分写本が存在している

レナが読んでいるのは魔法書庫にあった希少な原書の完全写本であり、本好きのマリレ-ヌの視線がそこに行くのは当然の事であった


 "読みたいっ! 貸してほしいっ!!"

表情はマリレ-ヌは平静を装いながらも心の中では歓喜の雄たけびを上げているのであった


そんなマリレ-ヌの視線にレナに直感が働く

 "もしかして……マリレ-ヌさんも本好きなのでは"

自分も魔法工房の図書室でこの本の原書全7冊が並んでいるのを発見した時の思いと同じものをマリレ-ヌの視線に感じたからである


 「マリレ-ヌさん……この本のこと知ってるの」

レナはマリレ-ヌに恐る恐る問いかける


 「……知ってるわよ……」

 「"禁じられた恋"の完全写本の最終巻でしょう」

マリレ-ヌは少し恥ずかしそうに答える


 「もしかして……マリレ-ヌさんも読書が好きなの」

レナの問いにマリレ-ヌはゆっくりと頷く


 「そうなのっ!」

レナの大きな声にマリレ-ヌは体をビクッとさせると目をパチパチさせている

 「ごめんなさい、いきなり大声出しちゃって……」

 「この本はね、魔法工房の図書室で見つけたのよ」

 「完全写本を全巻揃えるのは私達のような平民には大変だから」

レナが楽しそう言うとマリレ-ヌの表情が緩むのが分かる

レナとマリレ-ヌの心が通じ合った瞬間であった

類は友を呼び……そして、オタ友は世界を敵味方をも超えるのである


かくして、レナとマリレ-ヌはこのやり取りだけで互いに心の友と認識するのであった……そして、後にルシィとエルナもこの輪に加わることとなるのである



 

第152話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ⑧ ~




レナとマリレ-ヌは昨日と同じように寝室で体を拭いている

しかし、その雰囲気は昨日とは全く違っていた

2人仲良く、時より笑い声も交え会話している様子がマノンのいる居間にまで聞こえてくる

 "あの2人ってあんなに仲が良かったかなぁ……"

 "まぁいいや……仲が悪いよりはいいし……"

マノンはそう心の中で呟くと爺に呼びかける

 "どこにいるの……"

私の呼びかけに爺からの返事はなかった

 "また、どこかに行っているのかな……"

いつもの通りの事なのでマノンは、さほど気にすることもなかった


爺がマノンの呼びかけに応じなかったのには理由があった

姿を消して寝室の隅でうたた寝している間にレナとマリレ-ヌが入ってきてしまいマノンの事で興味深い話し始めたからである

出て行こうにもオウムのパックにドアは開けれない……


レナとマリレ-ヌは初めは本の話題で盛り上がっていたのだが、やがてマノンの事へと話題が移る

 "マリレ-ヌさんもマノンの子供が欲しいの"

何気ないレナの一言がマリレ-ヌに踏ん切りをつける


 "そうよ、私はマノン君の子供が欲しい……"

マリレ-ヌの真剣な表情と眼差しにレナの脳裏にマノンの言葉が蘇る


 "……子供が出来難いんだ……"

マリレ-ヌさん、あのこと知っているのかな……レナは少し心配になる


初めて会った頃に比べてマリレ-ヌのマノンに対する視線とその表情の微妙な変化をレナは見逃してはいなかった

 "マリレ-ヌさんもマノンの支えになってくれるかもしれない"


当初、レナがマノンとマリレ-ヌだけでオージャオ村に行くのに反対したのは、マリレ-ヌがマノンを利用しようとしていると考えていたからである

実際に、マリレ-ヌも初めのうちはマノンを"条件の良い交わりの相手"としか思っておらず、レナはそれを見逃さなかったのである


自分にもしもの事があった時にマノンの支えとなってくれる人は多ければ多い方がいい……

レナにとってマノンは全てであり何としてでも支え守り抜かなければならない存在なのである

マノンは、この先も多くの偉業を成し遂げる事になるが、それらは多くの人々の愛情と献身に守られ支えられての事である


レナとマリレ-ヌのやり取りを聞きながら、どうして今まで自分を含めての歴代大賢者に成しえなかったことがマノンに成しえるのかを実感することになる

 "その存在が孤高である事が間違いであったのか……"

 "我らは守護者でいけなかったという事か……"

爺や歴代大賢者にとっては今まで正しいと信じて疑わなかったその信念を根底から否定される出来事であった

 "まだまだ、成仏するわけにはいかんの……"

 "すまぬが、もう少し待ってもらえぬかの……エルマーナ……"

爺は心の中で呟くと"いいわよ"というエルマーナの声が聞こえたような気がするのであった


 "にしても……女同士の歯に衣を着せぬ本音の会話というモノは……"

 "……あ奴には聞かせられんのう……"

今後のマノンとの関係についての折り合いをつけるレナとマリレ-ヌの超現実的な話を聞いていた爺は女の恐ろしさを改めて実感するのであった

 "恋は盲目……"

 "恋というのは間違いやもしれんのう……"

爺はそう呟くとマノンの事を少し気の毒に思うのであった

 

そんな事など全く知らないマノンはドア1枚の向こうで、明日帰ったら何を食べようかと悩んでいるのであった



その日の夜は何事もなく3人とも床に就くのであった

特にレナとマリレ-ヌの場合、お互いによく知る事が出来たために牽制し合うことが無くなったというのが大きく2人はすぐに深い眠りにつくのであった

……が、マノンは違っていた

 "目が冴えて……眠れない……"

そう……マノンは"エイペック"の生き血を飲んでしまったために目が冴えて全く眠くならないのである


 "どうした、お前さん眠れんのか……"

マノンの脳裏に爺の声が聞こえてくる

 "あの2人にエイペックの生き血を飲まされておったからのう"

 "明日の朝までギンギンじゃろうな"

爺はそう言って笑っている


 "ねぇ……ここに来にたことがあるの"

私は爺に問いかける


 "ああ、300年ほど前にな……"

爺は懐かしそうに答える


 "目的はやっぱりエイペックの阿膠なの……"

私は爺に問いかける


 "そうじゃ……"

爺が答える


 "私と同じ目的なの……"

私が問いかけると爺は何も答えなかった

 "言いたくないのなら……話さなくていいよ"

 "プライベートな事だし……"

私がそう言うと爺の小さな溜息が聞こえる


 "……そうじゃ……今のお前さんと同じじゃよ……"

爺はそう言うと昔の出来事を話し出す


爺の話は、300年程前の出来事だった……

ある女性と恋に落ち"交わり"、そしてその女性は妊娠した

だが、すぐに流産の危機を迎える

爺が頼ったのは"阿膠"の効能だった

このオージャオ村に来ると"エイペック"を捕らえて"阿膠"を手に入れる

女性に"阿膠"を処方すると一時的に流産の危機は持ち直したが、結局は流れてしまったという事だった


 "あれは儂にとって唯一の心残り……"

 "そして、許されぬ恋であった……"

そう語る爺の口調から未だに後を引いていることが容易に理解できた


 "その女性は、その後どうしたの……"

私の問いに爺は一瞬だが息を止めたような気配がした


 "死んだ……"

爺の一言に私の息も一瞬止まる


 "そう……なの……"

私にはそれ以上、何も言う事が出来なかった

もしも、レナやシルビィが死んじゃったら……

そう考えると、私は爺の心の傷がどれほどに大きいのかが分かるような気がする

 "一つだけ気になることがあるんだけど……"

 "聞いてもいいかな……"

私が遠慮しながら爺に問いかける


 "構わぬよ……"

爺は躊躇うこともなく答える


 "さっき、許されぬ恋って言ってたけど……"

私が気になっていた爺の言葉の意味を問いかける


 "んんん……"

爺は少し悩んでいるように言葉を詰まらせる


 "無理に話さなくてもいいよ"

私は言葉に詰まり躊躇う爺に言うが……


 "……恋に落ちた時、儂は55歳、エルマーナは15歳じゃった"

 "エルマーナは既に親の決めた相手と儀礼の書を交わしていた"

 "じゃが儂らは交わり、エルマーナは妊娠した"

 "あの時代では歳が離れすぎておったし……"

 "当時、騎士であった儂の目にも明らかに義に反することじゃ……

 "そんな儂に良家の娘だったエルマーナは全てを捨て付いて来てくれた"

爺は一気に堰を切ったかのように言うと一息つく


 "それまでに儂は、これぞと決めた何十人という女性と交わった"

 "じゃが……誰も妊娠はしなかった"

 "どうせ、今度も子なぞ出来まい……"

 "儂は初めからエルマーナとの間に子が出来るなどとは思いもしなかった"

 "なのにどうして、エルマーナは妊娠したのか……"

 "その答えをお前さんは教えてくれた……"

爺はそう言うと急に穏やかな口調になる


 "ありがとう……礼を言う……"

爺は一言お礼を言うとその後は何も言わなくなった


私には爺がどうしてお礼を言ったのかよくわからなかった

その後、爺とエルマーナさんはどうしたのかとても気になったのだが……

それ以上は爺に問うのを止めた方がよいような気がした


あれこれと考えている間に私もいつの間にか眠りに就いていたのであった




第152話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ⑧ ~



終わり


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