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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第149話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ➄ ~

第149話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ➄ ~



序章


 「おおっ! 大きくなってきたなっ!」

大きくなり始めたアレットのお腹を見てヴァーレルが嬉しそうに笑う


 「少し大きくなってきたわね……」

大きくなり始めたお腹を擦りながらアレットが優しそうな笑みを浮かべる


 「男か女か……」

アレットのお腹を見てヴァーレルが呟く


 「そんなの出て来るまで分からないわよっ!」

気の早いヴァーレルにアレットが呆れたように言う

 「まぁ、私はどっちでもいいけどね」

そう言うアレットの表情にヴァーレルは今までにはない優しさを感じる……

そして、亡きアレットの母"ドリアーヌ"の姿が重なるのであった


 "似ても似つかぬと思っておったが……"

アレットの表情の変貌に心の中で呟くヴァーレルであった


そんなアレットを見ていると、ヴァーレルは王宮でのある噂を思い出す

 "シルビィ様のお子がお流れになりそうだ……"

 "宮廷医のカミーユ様が随分と腐心されているそうだ……"

王宮ではそれなりの地位にいるヴァーレルには嫌でも王宮内の秘密事項が耳に入ってくるのである


そして、ヴァーレルにはそれ以上の悩みがあった……

それは、シルビィ様の本当のお相手が"大賢者"であるという事が耳に入っていたからである

"これが事実ならば大変なことになる……"

何故ならば、アレットのお腹の子は次期国王と異母兄弟になってしまうからである

王宮のそこいらにいる欲塗れの貴族共であれば、"良い道具が手に入った"として小躍りして喜ぶだろうがヴァーレルそんな権力の亡者でもなければ器の小さい小者でもない


 "最悪の場合……アレットやお腹の子にも害が及ぶやもしれぬ"

長年の王宮勤めで吐き気がするような薄汚い貴族共の謀を嫌なほど見聞きしていたヴァーレルには自分の子や孫がそんなものに巻き込まれるのはまっぴらごめんだからである

 "アレットには子を産み落ち着いたら話すべきか……"

 "何にせよ、この事は墓まで持って行くのが良かろう……"

ヴァーレルは心に固く誓うのであった






第149話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ➄ ~



 「空き家にしては随分と綺麗ね」

サラヤタに案内されて入った空き家の中を見てマリレ-ヌが呟く


 「サラヤタさんの話だとつい最近まで人が暮らしていたからじゃないの」

そう言うとレナは空き家の居間に置かれたテーブルを手でそっと撫でる

 「そんなに埃が積もっていないは……」

 「本当につい最近まで人が住んでいたようね」

手の平に着いた埃を見てレナが言う


 「寝室はこの奥だってサラヤタさんが言っていたよね」

私はそう言うと奥の扉を開くと一段高くなった板の間に絨毯が敷かれていた

 「ここが寝室なのかなぁ……」

ベッドがあると思い込んでいた私は少し戸惑っていると爺の声が聞こえてくる


 "オージャオ村にベッドは無い……"

 "この絨毯の上に布団を敷いてい寝るのじゃよ"

 "敷かれている絨毯はこの地方の羊の毛で作った物での凄く暖かい"

 "部屋の隅に木の箱があるじゃろう……"

 "その中に布団が入っておるはずじゃよ"

爺の言う通りに木の箱を開けると5組の布団が入っていた……


 "どうやら……5人家族だったようだな……"

私は布団を見てそう呟くのであった


木の箱に収められていた布団の状態は非常に良好で凄く軽く暖かそうだった

試しに絨毯の上に敷いて寝てみる……

 "ああっ! この布団……最高っ!!!"

あまりの寝心地の好さに心の中で歓喜の声を上げるマノンであった


そんな私をレナとマリレ-ヌが"何をしているの"と言わんばかりの目で見ている

すると、サラヤタが手提げ籠を持ってそこに入ってくる

 「あら……お布団の場所が分ったの」

 「オージャオ村にはベッドがない事も知っているのね」

そう言ってサラヤタは少し驚いた表情をする

 「だったら、説明することも無いわね」

 「この中に外の人でも食べられそうな物が入ってるから」

 「井戸や竈、薪や食器も使ってくれていいわよ」

そう言うとサラヤタは手提げ籠をレナに手渡した


 「こんなに親切にしていただいて、本当にありがとうございます」

レナがお礼を言うと深々と頭を下げる、隣にいたマリレ-ヌも同じように頭を下げるが……私はお布団の中で寝たままだったのであった


突き刺さるようなレナとマリレ-ヌの視線に気付いた私は慌てて布団から出るとサラヤタにお礼を言って頭を下げる

サラヤタは、そんな私を見て楽しそうに笑うのであった



夏季とは言え標高2000メートルの山中ともなれば少し日が陰ってくると急速に気温が下がってくる

レナが竈に火を入れ寝る、マノワール村では日常的にしていたので実に手慣れたものである

竈に火が入り薪が燃え出すとマリレ-ヌが木桶に沢の水を汲んできて鍋に入れる


レナがサラヤタの持ってきてくれた籠の中の食材をテーブルの上に並べている

 "これ何かしら……"

見慣れない食材の調理法にレナは少し戸惑っているようである

味付けの違いからサラヤタさんに尋ねることも出来ないので困っているのが分かる


 "レナちゃんが戸惑うのも無理はない……"

爺の声が聞こえてくる……

パックもこの部屋にいるはずなのだがずっと姿を消したままである


 "それはそうとして、パックの特別食なら私のリュックに入っているよ"

私は、この前に爺と一緒に作った魔石入りのパック用の特別食の事を話す

 

 "ああ、分かっておる……"

 "アレのお陰で魔力切れの心配はなくなったしの……"

そう言うと爺は話を続ける

 "この村の食材はかなり癖があるからの"

 "儂の言う通りにお前さんが調理するのかよかろう"

食材を手に考え込んでいるレナの傍に行き食材を手渡してもらう

爺のアドバイス通りに調理を始める



岩だらけの荒地の広がるオージャオ村の主食は、いわゆる雑穀である

アワやキビやヒエ、それに緑豆などの荒地でも育つ植物である


厳しい環境でも育つ穀物自体は生命力も旺盛、栄養価が高く、生命力にあふれる穀物は体の活力を高めてくれる

さらに、繊維質も豊富なので体内をきれいにし代謝をよくしてくれる働きもあるのだ


いつものように、爺のウンチク講座を適当に聞きながら調理をする

レナとマリレ-ヌは興味深そうに見守っている


出来あがった料理は見た目には地味で派手さは全くない

レナとマリレ-ヌが皿に盛りつけてくれる


3人仲良く並んで椅子に座り並べられた料理を前に沈黙する

互いに視線を交わすが……明らかにレナとマリレ-ヌの視線は私に向けられている


私は二人の眼圧に負けスプーンで雑穀の煮物を掬うと口へと運ぶ……

 "南無三"

私は心で叫ぶと口に流し込む、その様子をレナとマリレ-ヌは固唾を呑んで見守っている


 「あれ……美味しい……」

以外にも、ほんのりと甘みがあり美味しかったのだ……

 "結構、行けるよ……"

私は爺にお礼を言うと……爺の満足げな小さな笑い声が聞こえてくる

そうすると、レナとマリレ-ヌも恐る恐る口へと運ぶ


 「……結構……いけるわね……」

マリレ-ヌが意外そうに言うとレナも頷く

3人揃って無言で料理を食べ始める、3人とも空腹だったのである


食べ終わるとレナとマリレ-ヌが後片付けをしてくれた

暫く寝室の絨毯の上に寝転がって寛いでいるとレナが鍋のお湯を木の桶に入れ持ってきてくれる


 「お疲れ様、料理ありがとう、美味しかったわよ」

 「これで、体を拭いてね」

そう言うとレナは寝室の外へ出て行くのであった

私は服を脱ぎ適当に体を拭く、拭き終えた後に桶を持って寝室から出るとレナとマリレ-ヌが何か話をしている

 「ありがとう、終わったよ」

 「次はレナ達が寝室を使いなよ」

私がそう言うとレナがマリレ-ヌの手を引いて寝室へと入って行くのであった

何だか、マリレ-ヌは気が乗らないように見る


レナとマリレ-ヌが体を拭いている間、私は居間の椅子に座って爺と"エイペック"の捕獲について話をする

 "何せ、用心深い上に動きが素早い生き物じゃ"

 "本来ならば、罠を仕掛けてそこに追い込むのが常套なのじゃが……"

 "如何せん人手が足りん……"

 "儂が居場所を探るからお主が雷撃呪文で一撃で仕留めよ"

爺の作戦を聞いていると寝室の方からレナとマリレ-ヌの声が聞こえてくる


 "何食べたら、そんなにデカくなるんですか"

どうやら……マリレ-ヌがどうしたらレナのような巨乳になるのか質問をしているようだ

昔、私がレナに聞いた言葉と一字一句違わない……


 "私の胸をあんまり見ないで下さいっ!"

レナの声が聞こえてくる……


マリレ-ヌが自分の胸の無さにコンプレックスを持っているのが良く分かる

 "マリレ-ヌさん……その気持ち、痛いほど良く分かるよ……"

私は心の中でマリレ-ヌの言葉に共感するのであった……

さっき、マリレ-ヌが気が乗らなさそうにしていたのはこのせいだったのだなと確信した私であった


そして、暫く寝室から2人の声が全くしなくなる

 "あれっ……何かあったかな……"

 "もしかして……"

私が2人の間に何か良くない事があったのではないかと心配してしまう


 "背中拭いてあげるわよ"

レナがマリレ-ヌに言ってるのが聞こえてくる

どうやら……お互いに背中を拭き合いしているようである


 "あの2人って、仲良かったかな……"

などと疑問に思いがらも2人とも、仲良くしているようなので一安心する私であった


寝室の絨毯の上に"川"の字に布団を敷く

当然、私が真ん中である……と言うよりレナとマリレ-ヌの2人の間でいつの間にか決められていたようである


三組の布団は近過ぎず離れ過ぎずのちょうど良い間隔である

 "これなら今夜は気持ちよく寝れそう"

 "このぐらいの保安距離があれば寝惚けて、レナやマリレ-ヌのオッパイに吸い付いたりしないな……"

私は心の中で安心したように呟くのであった


そして、夜も深くなり三人揃って布団に潜り込む……

 「少し湿っぽい匂いがするわね……」

 「でも、有難いわね」

 「サラヤタさんやラナハヤさんには感謝しないとね」

マリレ-ヌがそう言うとレナも"そうね"と言って同意する


私はレナとマリレ-ヌとは違い布団の湿っぽい匂いなど全く気にならないのであった


かくして、急な山道を歩いて疲れていたこともあり何事も無く三人は深い眠りにつくのであった


本当は、レナとマリレ-ヌが寝室で体を拭いている時に……

 "お互いにエイペックが獲れるまでは抜け駆けなし"と言う密約を交わしていた事をマノンは全く知らないのであった


その頃、パックの中の爺は一人寂しく特別食を啄んでいるのであった

 "レナちゃんもマリレ-ヌちゃんも、正々堂々とした騎士道精神があるのう"

2人が体を拭いている時に寝室の片隅で姿を消してジッと見守っていたエロ爺が呟くのであった




第149話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ➄ ~


終わり






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