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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第147話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ③ ~

147話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ③ ~



序章


ここは、マリレ-ヌの自室……

マリレ-ヌは困っていた……

依頼伝票を手に王立アカデミ-に行ったまではよかったのたが、既に自分が卒業して生徒ではなかったために校内に入れなかったのである

 "仕方がないわね……"

マリレ-ヌはそう呟くとクローゼットの中から一着の服を取り出す……手にしているのは王立アカデミ-の制服である

 "あまり気が進まないのだけど背に腹は代えられないわ……"

マリレ-ヌは今着ている服を手早く脱ぎ捨てると王立アカデミ-の制服を着る

つい最近まで着ていたのでサイズには全く違和感がない

 "これなら大丈夫ね……たぶん……"

少し不安そうに鏡に映った自分の姿を確認すると部屋を出て行くのであった



その頃、レナはルメラ達の買い物に付き合って別れた後で女子寮へと戻る途中だった


新しく買った下着の入った手提げ鞄を持って歩いていると見覚えのある顔が目に留まった

 "えっ! マリレ-ヌさん……なの……"

既に卒業しているはずのマリレ-ヌが王立アカデミ-の制服を着て校内をうろついている事に疑問を抱く

 "コレは……何か訳アリね……"

こういう時のレナの直感は恐ろしいほどに敏感で正確なのである

レナはゆっくりとマリレ-ヌに近付いて行く、マリレ-ヌはレナの事に全く気が付いていない


 「マリレ-ヌさんっ」

マリレ-ヌの背後からレナが声を掛けるとビクッとするのが分かる


 「れっレナさん……お久しぶり……」

そう言って挨拶をするマリレ-ヌの顔は明らかに引きつっているのだった


 「どうしたんですか、そんな格好して……」

制服姿のマリレ-ヌをジッと見つめて問いかける


 「……」

 「はぁ~仕方がないわ……」

マリレ-ヌは観念したかのように大きなため息を吐くとレナに事情を打ち明けた


 「ああ……そう言う事ですか」

 「マノンにその"阿膠"の事を聞きに来たって訳ですね」

じつは、レナは"阿膠"がどのような物であるかを知っているのである

自分が"不妊症"であるかもしれないという不安から魔法工房の医学書を読み漁っているうちに必然とこの希少生薬にたどり着いたのであった


しかし、どうして王立アカデミ-のバロー導師が阿膠の入手を依頼したのかは分からなかった

 「分かったわ……マノンには私から話しておく」

 「連絡が取れたらマリレ-ヌさんのお店に行くようにするわね」

レナがそう言うとマリレ-ヌは何か言いたそうにしている

 「どうしたの……」

レナが問いかける


 「その……こっこの事はマノン君には内緒にしてほしいのよ」

どうやら、マリレ-ヌは今頃になってコスプレしている事が恥ずかしくなったようであった


 「分かたわよ……」

レナが少し笑って言うとマリレ-ヌは恥ずかしそうにお辞儀をすると足早に帰っていくのであった


レナがマリレ-ヌの願いを聞いたのには理由があった、自分もこの希少生薬の"阿膠"に大変興味があったからである




第147話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ③ ~



 「魔術で"阿膠"を錬成できないの」

私はふと疑問に感じた事をオージャオ村へと旅立つ準備をしながら爺に問いかける


 「出来ない事はない……」

私の問いかけに爺は困ったようにため息を吐く

 「"阿膠"の材料となる"エイペック"がどうして希少なのか……」

 「そこから説明せねばならん」

かくして、久しぶりの爺のウンチク講座が開講される事となったのであった


爺のウンチク話を100倍速に短縮すると……


"エイペック"と言う動物は体長は1メートルほどで体重は45kg程度の山羊に似た動物で大きな角が特徴、ヘベレスト山脈の標高の高い険しい断崖などの岩場に生える特定の植物しか食べない

当然、生息域はその植物の生える地域のみとなり個体数の上限も限られる、その上に単体で行動するために生殖機会が限られるため極端にその数が少ない


そして、魔術で"阿膠"を錬成できない理由は"エイペック"が好んで食べる植物が良質な薬草のみであり、長年に渡ってその薬草を食べ続ける事によりその体に薬草の有効成分が蓄積されていく

それ故に"エイペック"は体毛の一本から内臓・血・肉・骨に至るまで体自体が生薬の塊のようなもので"生きた薬"と呼ばれるほどなのである


魔術で"阿膠"を錬成するには"エイペック"が食べたのと同じ量の薬草が必要となりそれだけの量の良質な薬草を集める事が困難であるからだそうである

因みに、一頭の"エイペック"からとれる"阿膠"の量は1㎏にも満たないそうである

数が少ない上に取れる量も少ないので"阿膠"は恐ろしいほどに希少で高価なのだそうである


爺曰く、300年前でも市場に出回っている"阿膠"のほぼ全てが他の動物の皮で作られた偽物だったそうである


私は準備を終えてから温泉に入るとこれからの事を考える

 "レナはキチンと言っておかないと……"

 "それに、レナにも阿膠をあげたいな"

 "……でも、捕まえられるかな……"

なんだか不安になってくる……両手を組むと上に伸ばして首をコキコキすと爺の声が聞こえてくる


 "まあ、色々と不安かもしれんが……"

 "儂はエイペックの事はある程度はわかる……"

 "それに、今のこの体は用心深いエイペックを見つけるのには有利じゃ"

爺はそう言うと景気よく笑うのであった


いつものように広場の塔へと転移し王立アカデミ-の自室に戻ると誰かがドアをノックする

 「マノン~いるかな……」

レナの声がドアの外から聞こえてくる


 "おっ……レナちゃんのようじゃな……"

爺はそう言うと魔術を発動して姿を消す

最近、こういう時に爺は姿を消すことが多くなっているような気がする


 「いるよ、開いてるから入っていいよ」

私がそう言うとドアが開きレナが部屋に入ってくる

 「どうしたのかな」

どうもレナの様子がいつもと違う事に気付いた私が問いかける


 「今日ね、マリレ-ヌさんと会ったのよ……」

 「それでね……マノンに用があるらしいから店の方に行くって……」

 「勝手に約束しちゃったのよ……ごめんねマノン」

私に無断でマリレ-ヌと約束してしまった事をレナは申し訳なさそうに言う


 「いいよ、気にしていないから……」

 「私もレナに話しておきたい事があるからちょうど良かったよ」

私はそう言うと事の次第をレナに話す


 「えっ! それホントなの……」

私の話を聞いたレナは驚いているようだ

 「じつは、マリレ-ヌさんの用件って言うのもその"阿膠"の事なのよ」

私はレナにマリレ-ヌの用件が"阿膠"の事だと知らされて驚く


すぐに二人でマリレ-ヌの店へと向かうのであった

その途中で姿を消している爺が話しかけてくる

 "お前さん、マリレ-ヌちゃんにはお前さんの正体の事をいつ明かすのかの"

爺はもうそろそろマリレ-ヌにも私が大賢者であることを打ち明けても良いと思っているようだ

私も近いうちに打ち明けよう、そのつもりでいたのだった

 "話の都合次第では、今日にでも打ち明けるよ"

私の言葉に爺が満足そうにしている気配がしたのだった


マリレ-ヌの店に着くとマリレ-ヌの両親が迎え入れてくれたのだが……レナの事をやたら気にしているのが分かる……

 「初めまして、マノンの同郷で幼馴染のレナ・リシャ-ルと申します」

レナの丁寧な挨拶にマリレ-ヌの両親も同じように挨拶をする

 「こちらこそ……マリレ-ヌの父のモーリスです」

 「そして、母のレリアです」

マリレ-ヌの両親と挨拶をしているとマリレ-ヌの声がする


 「こっちよ……入って」

マリレ-ヌの声がする方を見ると店の奥のドアが開きマリレ-ヌが顔を出す、私とレナはマリレ-ヌの両親にもう一度、挨拶をするとマリレ-ヌが手招きする方へと行くのであった


私とレナの姿が見えなくなるとモーリスとリレアが顔を見合わせリレアが呟く


 「誰なんだろうね……あのお嬢さん」

 「まさか……マノン君の……」

リレアが少し心配そうに言う


 「同郷の幼馴染って言ってたな……」

 「美人でしかも巨乳じゃないか」

根っからのスケベオヤジで巨乳好きのモーリスはニヤけた表情で思わず心の声が出てしまった瞬間……

 「ぐへっ!」

リレアの肘鉄がモーリスの脇腹に食い込んでいるのであった

 「うぐぐぐっ」

脇腹を押さえて床に蹲るモーリスの前に羅漢仁王像の如き表情のリレアが立っているのであった

 「あっ……すまんっ! ちょっと待てっ!」

モーリスの謝罪の言葉も虚しくリレアの蹴りがモーリスの股間を蹴り上げるのであった

 「ふごっ!」

モーリスの何とも言えない苦痛の声を上げる



 「なんか、変な声が聞こえなかった」

私が二人にの問いかける


 「気のせいじゃないですか」

マリレ-ヌが何事も無かったように言う


 「そうかな……なにか死にそうな声だったような」

私がそう言ってもマリレ-ヌは何も言わなかった

リレアに股間を蹴り上げられたモーリスの悲鳴が僅かにマリレ-ヌの部屋にまで聞こえたのだった

その後のモーリスがどのような運命を辿ったのかは言うまでもないことである



そんな、下の階で繰り広げられるモーリスの災難とは全く関係なくマリレ-ヌの部屋に集まった私とレナは"阿膠"の件で話を始める

どうやら、マリレ-ヌは"阿膠"の買い付けに私に同行して欲しいようだった


そんなマリレ-ヌに私が"阿膠"の生産地がオージャオ村と言う王都から三週間ほどもかかる遠方だと知らされると悲しそうな表情を浮かべる


そんなマリレ-ヌを気遣ったのかレナが私の方を意味ありげな表情で見る

私が少し悩んでいると爺が話しかけてくる

 "もう、マリレ-ヌちゃんにも話したらどうじゃ"

 "転移ゲ-トを使えばアッと言う間じゃとな"

 "お前さんが手に入れてきてやるとな……"

そんな爺の言葉に背中を押されながらも私は未だに躊躇していた

すると、レナが私の耳元で囁くように言う

 「話しても、いいんじゃないの」

レナの言ったその言葉に私の憂いは一瞬で消え去る


 「マリレ-ヌさん、私の話を聞いてくれるかな……」

私が優しく言うとマリレ-ヌは"何かな"という表情でこちらを見る

私は、自分が大賢者である事、転移ゲ-トを使えば一瞬でオージャオ村に行ける事などを話す

マリレ-ヌは暫く呆然としていたのだが……

 「そうですか……以前から何となくそんな気がしていました」

そう言うとさほど驚くことも無く嬉しそうに笑うのであった

 「そんなに早く行けるなら、私も連れて行って下さい」

マリレ-ヌは私の目をみつめて言う


 「えっ!」

私とレナはマリレ-ヌの願いに思わず声を上げてしまう

私も驚いたが、もっと驚いていたのはレナの方だった


 「ダメっ! ダメったらダメっ!!!」

レナは物凄い勢いでマリレ-ヌの申し出に反対する


 「別にいいじゃないですか」

 「決めるのはマノン君なんですからね」

マリレ-ヌそう言うと目を潤ませながら懇願する……その横でレナの厳しい視線が私に刺さる


 「うっ!」

私はどうすることも出来ずに固まってしまう、ダメもとで爺に助を請う

 "じっ爺っ! 助けてぇ~"

案の定、私の必死な呼び声に爺が答える事はなかった

 

暫くすると、レナが大きなため息を吐く

 「私も行く」

レナは少しむくれたように言うと呆然としている私をジロリと睨む


 「はい……分りました……」

私にはそう言う以外に選択肢はなかった

かくして、女子二人連れで山奥の辺境へと旅立つ事となってしまったのであった


そんな私を見ていた爺が呟く

 "こ奴は一生、女難が付いて廻るのかのう……"

爺の予想は正しかった……

この先もマノンには生涯に渡り女難が付いて廻る事となる

……そして、伝説に語られるほどの数多くの偉業を成し遂げながらも、殊に女に関しては後の世に"甲斐性ナシの大賢者"と言う不名誉な通り名も戴くこととなるのである




第147話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ③ ~


終わり



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