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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第145話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ① ~

第145話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ① ~


序章



マノンがダキア王国から帰還して2週間ほど過ぎた頃、王都の裏通り商店街にある"アルシェ商会"ではマリレ-ヌが日々悶々とした生活を送っていた


マノンに教えてもらった薬のおかげで店の売り上げは順調に伸び規模も2倍以上になった

従業員(パートの近所のおばさん)も2人雇い入れアルシェ商会は順風満帆であったのだが……


 「はぁ~」

順風満帆のはずの店のカウンターで大きなため息を吐くマリレ-ヌを心配そうに見る母のレリアにはその大きなため息の原因が何なのか分かっていた


 「マリレ-ヌ、元気がないね」

レリアは隣で薬を棚に収めている父のモーリスに小声で話しかける


 「ああ……マノン君の事か」

モーリスにもマリレ-ヌの大きなため息の原因は分かっていた

 「何とかしてやらんとな……」

 「儂らも早く孫の顔が見たいしな」

モーリスがそう言うとレリアも小さく頷くのであった

 「そう言えば……確か……」

 「王立アカデミ-から商品の発注があったような……」

モーリスは束ねられた受注伝票を捲る

 「有った有った、これだ……」

 「阿膠(あきょう)……やたら高価で希少な生薬なんだが手に入らなくてな」

 「偽物や粗悪品も凄く多くてどうしようかと困ってたやつだ」

 「直接、産地に行って買い付ける以外にないんだが……」

 「その……儂も阿膠の本物を見たことが無いので見分けがつかなくてな……」

 「もしかしたら、マノン君なら分かるかもしれんな」

そう言って王立アカデミ-から商品受注伝票を取りだすとそれを手にマリレ-ヌの方へと歩いて行く


モーリスが王立アカデミ-から商品受注伝票をマリレ-ヌに見せて何か言うとマリレ-ヌは商品受注伝票を手に慌てて店を飛び出して行くのであった


 「行ちゃったわね……」

リレアがそう言うとモーリスも微笑む

店を出て行った時に見せた我が娘の笑顔を微笑ましく思う二人であった



因みに、阿膠(あきょう)とは……

地球では漢方生薬の一種で、ロバの皮を水で加熱抽出して作られる。

2500年前の中国最古の医学書には血液機能を高める効果があり、主に貧血や婦人病への処方や、美容のために用いられている。

有名な逸話では中国の清代、習慣性流産に悩まされていた西太后が不妊治療にこの阿膠を服用し、同治帝を出産したことでも知られている。


この世界では、ヘベレスト山脈の険しい山岳地帯に生息するアイベックスに似た希少動物の"エイペック"皮を原料とし同じ効能のある物を製造している

ただ、この世界の阿膠は地球の阿膠に比べ遥かに強力な効能を有しているのである





第145話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ① ~




マノンはダキア王国から帰還すると直ぐに転移ゲートの魔石錬成に取り掛かる

双方向性の転送ゲ-トの錬成は容易なものではなかった

転移ゲートの魔石錬成は実験室の奥にある大物専用のドーム状の錬成室で行われる


暇を見つけては魔法工房の実験室に籠り爺の指導で巨大な錬成陣の作成に取り組んでいるのだった

転移ゲートの魔石錬成はその複雑さもさることながら、その巨大さゆえに錬成し終えた後の設置が更に大変な事を爺から聞かされている


魔石の錬成は膨大な魔力を必要とするために魔力変換炉から直接魔方陣に魔力を注ぎ込まないといけない

上手く錬成できたとしても、大きくて重い転移ゲートの魔石を転移させるのも一苦労である

大物専用のドーム状の錬成室には転移ゲ-トが設置されているが転移に必要な魔力も膨大なのである


2週間近くかけてなんとか錬成陣の準備を終えホッとしているとレナの声が聞こえてくる

レポート提出を無事に終え進級が確実になったレナも私と一緒に魔法工房に来ているのである

目的は……魔法工房の図書室にある医学書の原本と温泉であるはずなのだが……


 「ご飯の用意が出来たわよ」

レナは忙しそうにしている私のために夕食を作ってくれる


 「ありがとう……すぐ行くよ」

私が答えると、いつものように爺の声が聞こえてくる


 「レナちゃん、初々しいのう……」

 「まるで新婚さんみたいじゃ……」

スケベそうに爺が言うのも仕方がない事なのだ

その理由は言うまでも無く……レナが子作りに熱心だからである

 「話は替わるが、明日はいよいよ魔石錬成じゃ」

 「今のお前さんなら何の問題もないが……」

 「魔力許容量の多い女の体になっておいた方が楽じゃぞ」

 「そろそろ、レナちゃんにもこの事を話したらどうじゃ」

私も爺の言う通りだと思っているのだが……正直、レナに話すのが怖いのである

レナに人間離れした、この体の事を気味悪がられるのではないかと思ってしまうからである


 「怖いのか」

爺の一言が私の思念を遮る


 「そうだよ……」

私は言い訳などせずに素直に答える


 「カルラちゃんには、自分から進んで打ち明けたではないか」

 「どうして、遥かに付き合いの長いレナちゃんにはそれが出来んのじゃ」

爺の言う事はもっともだと思うのだが、私は踏ん切りがつかなかったのだ


 「嫌われないかな……」

私は爺に問いかける


 「レナちゃんの事を疑っておるのか」

爺の言葉に私は返す言葉が無かった


 「そうなのかもしれない……それ以上にレナに変な目で見られたくない」

私の言葉に爺は小さなため息を吐く


 「こんな事を言いたくはないがの……」

 「お前さんはもう十分に変なんじゃぞ、今更何を言っておるのじゃ」

爺の言葉に私は少し動揺する

 「いきなり男になったり、乳がデカくなったり」

 「その時、レナちゃんはどうじゃった」

 「お前さんの事を嫌ったり避けたりしたか」

爺の言葉には説得力があった、私は自分で自分の事を気味悪がっていたのだという事に気付かされたのだった


 「ありがとう……明日、錬成の時にレナに打ち明けるよ」

私はそう言うとレナが食事を用意してくれている図書室へと向かった



軽く焼いたパンに羊肉の燻製そして香草のスープにサラダ……レナの食事はマノワール村を思い起こさせてくれる


食事が終わり後片付けが終わると……

その次は……もっとも体力を消耗するお仕事が待っているのである


なんだかんだ言ってもマノンは、平穏な日々を送っているのであった



その頃、王立アカデミ-の薬学導師のバローのもとにガリア王宮より依頼書が届く

依頼書の内容は極めてシンプルで以下の通り



 拝啓、レイモン・バロー殿


 このほど、シルビィ王女のご懐妊につき

 下記の物を用意されたし


 希少生薬……阿膠(あきょう)出来るだけ多く調達されたし

 全量を適正価格にてガリア王室が買い上げる


 本件がガリア王室からの依頼である事は内密にするよう


                  以上

 

  ガリア王室・医務室長 カミーユ・バイヤール



これを受け取ったバロー導師は困惑した……

何故なら、阿膠(あきょう)は希少生薬でそう簡単に手に入る代物ではないからである

取引のある王都の商店に問い合わせても本物(偽物ばかりなのである)は無かった


依頼人のカミーユ・バイヤールはバローの恩師であり恩人でもあるので"手に入りませんでした"では済まされないのである


困ったバロ-導師は心当たりのある王都中の商店に手当たり次第に発注書を書いて出したのである

その中に"アルシェ商会"も含まれていたという訳である



 「どうしたの……元気がないね」

私の隣で寝ているレナに話しかける


 「……」

レナは何も言わずに考え込んでいる

 「私って"不妊症"なのかしら……」

レナの予想もしない言葉に私は少し驚く

 「マノンとは、かなりの回数……ってるじゃない」

 「なのに……出来ないなんて」

医学の知識があるだけにレナは凄く悩んでいるのが見て取れる

世の女性にこの手の悩みは多い、我々の世界でもそうであるように


 「そのうちに……必ず出来るよ」

私は気にしないよう言うが今のレナには気休めにしか聞こえないだろう


受胎能力に優れたこの世界の女性にも極稀だが不妊症はある

以前に悪性腫瘍で死を覚悟した事もあり、レナは自分の体に不安要素を感じているというのもある



この後で温泉に入り明日は休日なので、この日は魔法工房に泊まる私とレナであった


翌朝、私は意を決して性転換能力の事をレナに打ち明ける

 「何言ってるの……」

話を聞いたレナは信じられないようなので、"百聞は一見に如かず"の諺通りに私は裸になると性転換を始める


 「えっ!嘘っ!!」

見る見るうちに女体化していく私の体に目を見開き呆気に取られている


 「どう……信じてくれた」

私がそう言うとレナはいきなり私の胸を鷲掴みにするとグニュグニュと揉み回す

 「あんっ! ちょっと止めてっ!!」

私は痛さと擽ぐったさに悩ましい声を上げるとレナは驚いてすぐに手を除けた


 「まっまっマノンが……巨乳っ!」

レナは私が女体化した事よりの胸が大きい事に驚いているようだった


 「悪かったわねっ! 貧乳じゃなくてっ!!」

私は両手で胸を隠すと不貞腐れたように言う


 「ごめんなさい……あまりにも違和感があり過ぎて」

レナは申し訳なさそうに言う

 「そうそう、この事はルシィ導師には言わない方がいいと思うわよ」

 「たぶん……この前みたいに、体の隅々まで調べられるわよ」

レナが私の体を見ながら言う


私はレナの忠告は正しいと直感する、この前に胸が大きくなった時もそうだった散々、胸を弄り回されて悶絶死しそうになったからである


もしもルシィに知られれば、今度は無理やり股を広げられ大事な所を弄り回されるのが容易に想像できるからである

しかも、ルシィの腕力は尋常でないほど強く今の私ですら抗うのは難しい……

今度こそ、"別の世界の扉が開いてしまうかもしれない"、なんとなくそう感じるマノンであった

 「うん、そうするよ」

私はレナの忠告に心からの感謝するのであった



朝食を取るとレナは読書に、私は魔石の錬成に取り掛かる

パックが私の肩に乗ると爺の声が聞こえてくる

 「レナちゃんには話したのか」

爺の問いかけに私は首を縦に振る


 「そうか……それでは……始めるとするかの……」

爺はそう言うと私に錬成のコツを教えてくれる

 「とにかく、これは莫大な魔力を必要とする」

 「錬成そのものは魔方陣で制御されるからの」

 「お前さんは魔力変換炉から送られてくる魔力を安定して魔石化変換しながら魔方陣に流し込む事じゃ」

 「なぁ~に今の、お前さんなら心配ない」

爺はそう言うとパックは私の肩から飛び去り魔方陣から離れる


私は魔方陣の前に立つと錬成術を発動する

魔法陣が青白く輝きだすと魔力変換炉から大量の魔力が流れ込んでくるのを感じる

流れ込んでくる膨大な魔力を調節しながら魔方陣に流し込む


巨大な魔法陣の中心部に巨大な魔石が徐々に形作られていく、数分後には巨大(軽自動車ぐらい)な転移ゲ-トの魔石が魔方陣の中央に鎮座しているのであった


 「ほほう!大したもんじゃ!! 」

 「初めてにしては上々じゃ」

爺の感心した声が聞こえてくるが、私にはそれに答えるだけの気力が残されてはいなかった

ヘナヘナと床に座り込むと大きなため息を吐く


 「ああ~疲れた……」

疲れ切った私の言葉に爺の笑っている声が聞こえてくる


 「お疲れのところすまぬが、もうひと仕事じゃ」

 「これをサボンの村のマーカーに転移させる」

 「あれから早、2週間近くが過ぎている」

 「マーカーはそう長くはもたんからの」

爺がそう言うとパックがドームの中の転移ゲ-トの制御盤の所へ飛んでいく


 「分かったよ……」

重い体を引きずるように転移ゲ-トの制御盤の所に行く

 「どうすればいいの」

私がパックの方を見て尋ねる


 「簡単じゃ……念ずればよい」

あまりにも極端な爺の説明に私は困惑してしまう


 「念ずるって……」

私は転移ゲ-トの制御盤に手を乗せてサボンの村を思い浮かべると青白く輝き転移ゲ-トが開き巨大な転移ゲートの魔石は消えて無くなっていた

 「あれ……」

あまりにも呆気なく魔石の設置は終了した


 「おっおっおおお……」

流石の爺も少し驚いているようだ

 「本当に大したもんじゃ……」

 「この調子で大陸中に転移ゲ-トを設置すれば便利になるぞ」

 「後で転移ゲ-ト室で動作確認をするとしようかの……」

爺は嬉しそうに言うが私は疲れ果てて言葉の一つも出ないのであった


疲れ果てた体を引きずるようにして休憩室のベッドに潜り込むと直ぐに爆睡してしまうマノンであった


気が付くと隣でレナが寝息を立てている

 "今何時ぐらいだろう……"

私が呟くと爺の声が聞こえてくる


 "今は夜中の3時過ぎぐらいじゃ"

 "何か心配事でもあるのかな……"

どうやら爺は私の考えている事をお見通しのようだった


 "レナの事なんだけど……"

 "この前の病気と何か関係あるのかな"

私が爺に尋ねる


 "あの病気とは関係はない……"

 "……おそらく、早期流産じゃ……"

 "歴代大賢者に子供ができなかった理由の一つじゃよ"

爺は言い難そうに言う

 "今までの歴代大賢者と一般女子との間では妊娠しても、本人が気付く間もないほど早期に流産するのが普通じゃった"

 "レナちゃんはそれかもしれんな……"

そう言うと爺は黙り込んでしまった

爺の口調からどうしようもない事だと悟るマノンであった



現在の地球では"不育症"と呼ばれるものである

マノン達のような大賢者の場合は、旧世界の人類に先祖返りした大賢者という特異な存在に起因する"染色体異常"によるものである


ただ、マノンの場合は"染色体異常"と言っても事情が少し違う染色体そのものには異常がなのだ

極論を言えば、同じ人間でありながら魔術的に身体強化された現世界の人類とは同じ種でありながら微妙に違っているのである


そのために、妊娠しても母体が胎児を異常と判断し早期に流産させてしまうのである……

魔術強化され優れた現世界の女性の受胎能力が逆に仇となっているのである


そう、そして……これはレナだけではなく現在、妊娠しマノンの子供を身籠っているシルビィやアレット、セシルにも言える事なのである


この3人が早期流産しないのはマノンが歴代賢者の中でも三重螺旋構造と言う特異な遺伝子を持っていたことに起因する



バロー導師の恩師で今は王宮医でありシルビィの専属医でもあるカミーユ・バイヤールが阿膠の入手を依頼したのもシルビィに流産の兆候があると判断したためである

阿膠は流産を抑制する特効薬に必要不可欠な主原料であるからなのだ


この数日後にマノンはこの希少な生薬の入手に出向く事となるのである




第145話 ~ マノンにとっては平穏な日々 ① ~


終わり




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