第143話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ⑫ ~
第143話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ⑫ ~
序章
「ここは何処……」
アメリーはコレットの部屋のベッドで目を覚ます
"あっ……そうか私昨日、占術をしたんだ……"
"うう~頭痛い……"
アメリーはコレットのベッドから起き上がると窓の方へと歩いていく
"今、何時頃だろう……"
コレットの部屋から見える中庭の中心に置かれている大きな日時計を見る
"……もう、昼過ぎじゃない……"
そう呟くと辛そうに重い足取りでコレットの部屋を出て行くのであった
コレットの部屋を出て自分の部屋に戻ると巫女の白装束からいつもの服装に着替える
"なんか妙に静かね……"
"ここに来る途中も警備の兵士や騎士に一人も会わなかったし……"
"まぁ……いいか……"
"もう暫く、ベッドで横になっていよう……"
ベッドに寝転ぶとアメリーはいつもと違う王宮の様子を疑問に思いながらも二日酔いの頭痛に悩まされてそれ以上は考えようとはしなかった
どのくらいの時間が経ったのだろうか……アメリーは目を覚ますとベッドに寝転んだまま大きな伸びをする
「ああ~随分と楽になったわ……」
アメリーはそう呟くとベッドから起き上がり窓の外を見る
「なんか……お腹が空いたわね」
「そう言えば、昨日の夜から何にも食べてないんだ」
アメリーは部屋を出ると食堂の方へと歩いていく
"やっぱりおかしい……警備の兵士も騎士が一人もいない"
"コレは……コレット姉さんが何かやらかしたわね……"
アメリーはいつもの事かのように呟くと食堂に入る
食堂の中央に立派なテーブルと椅子が2脚置かれている
"誰か、来賓者でもあるのかな……"
"ああそうか、だから兵士や騎士が一人もいないんだ"
ダキア王国では王宮に来賓者が来場するときに兵士や騎士が総出で出迎えるのが慣わしなのである
"でも……誰なんだろう"
"そんな話は聞いていないし……"
来賓者が誰なのか疑問に思いながらもいつも自分が座っている椅子に座ると王宮の料理長がこちらに来る
「これはアメリー様、何かご所望でしょうか」
料理長がアメリーにお伺いを立てる
「何でもいいから、食べさせてくれる」
アメリーがそう言うと料理長が申し訳なさそうな顔をする
「昼食の残りしかございませんがよろしいでしょうか」
料理長が申し訳なさそうに言うとアメリーは軽く手を振り
「いいわよ、それで」
「あっ……それと、ワインは不要よ、代わりに温めのお茶をお願いね」
アメリーの許しを得たので料理長は軽く挨拶をすると厨房へと戻っていった
暫くすると料理が運ばれてくる
ポテの上に肉と野菜を乗せた物とスープだった、空腹だったアメリーはそれを綺麗に食べるとスープも飲み干す
暫くすると給仕がデザートとお茶を持ってきてくれる
デザートを食べ終わりゆっくりとお茶を飲んでいると、一人の兵士が駆け込んでくる
「間もなくコレット様が客人を連れて来られる」
「食事の準備を」
兵士の言葉に厨房が慌ただしくなるのがわかる
その様子を見たアメリーが兵士に言葉を掛ける
「誰か来客ですか」
アメリーの問いに兵士は敬礼する
「私は"大賢者様の弟子"だと聞いております」
兵士は姿勢を正すと大きな声で答える
「大賢者様の弟子……マノンが王宮に来るの」
アメリーはマノンがここに来るという事に首を傾げる
何故なら、アメリーが見た未来予知では王宮に来るのは"大賢者"本人だったはずだからである
"どういうことなのかしら……"
"港に現れるのはマノンで、王宮に来るのは大賢者様……だったような"
"あれっ……どうなってんのかな……"
アメリーはそう呟くと食堂の中央に用意されたテーブルの方を見る
大賢者とマノンが同一人物だとは思いもしないアメリーであった
第143話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ⑫ ~
マノンは豪華な馬車に揺られてダキア王宮へと向かっていた
4人乗りの馬車の対面式の座席で、私の向かいにコレットと護衛の長身の女騎士が座っている
何故か二人とも私の方をジッと見ている
"仕方がないよね……大賢者の弟子って事なんだから"
"ホントは本人なんだけど……"
マノンは自分が物珍しく見られているのだと思っているようだが……
じつは、そうではない事にマノンは気付いてはいなかった
何処となく落ち着かない雰囲気の中、馬車は王宮に到着する
馬車の扉が開かれると足元には赤い絨毯が馬車と王宮の入り口までの間に敷かれている
その両脇には騎士と兵士が整列している
"えっ……何なのコレは……"
あまりに仰々しいお出迎えに少し慌ててしまう
そんな私を気遣かっているのかコレットと女騎士が付き添うように王宮へと案内してくれる
何本もの太い木の柱が立ち並ぶ廊下(日本の寺院の伽藍のような造り)を歩いていくと彫刻が施された立派な木の大扉の前にたどり着く
女騎士が扉を開けると、そこは広い食堂であった
「あっ! やっぱりマノンだ」
聞き覚えのある声がする
「アメリー……」
私はアメリーがダキア王国の王女である事を知っていたので驚きはしなかった
「久しぶりね……って、まだ二日前か……」
「お連れさんは何処にいるの」
そう言いながらアメリーはこちらの方にゆっくりと歩いてくる
「連れ……ああっ!」
「紹介するね、私の連れのパック……」
私は肩の上に載っているパックをアメリーに紹介する
「へっ……」
アメリーは目をパチクリしながらパックを見つめる
"あれっ……なんで……オウムなの……"
マノンの連れが大賢者だと思い込んでいたアメリーは混乱してしまう
オウムの中には大賢者パトリックがいるのであるからアメリーの予知は間違ってはいないのだが……
頭を悩ませいてるアメリーを他所にコレットが私に食事の用意が出来た事を伝えに来る
「先ほどはお食事の途中なのに申し訳ございませんでした」
「大したもてなしは出来ませんが、どうぞお召し上がりください」
コレットの勧めるままに椅子に座ると大きなゴンドラで見るからに贅沢な料理が運ばれてくる
そして、大きなテーブルいっぱいに料理が並べられる
"コレは……美味そう……"
食い意地の汚いマノンの悪い癖が出る、それを悟った爺がマノンに警告をする
"お前さんっ! 食い物に釣られてはならんぞっ!! "
私は爺の言葉に我に返る
"危なかった……完全に我を忘れていたよ"
"ありがとう……爺……でも、美味そう……"
懲りないマノンであった
食べようかどうかを迷っている私にコレットは少し困ったような顔をする
「どうなさいましたか……」
「料理がお気に召さないのでしょうか」
コレットは悲しそうな表情で私を見る
"どうしよう……"
コレットの悲しそうな表情に困った私は爺に助けを請う
"それよりも、厨房を見るがよい"
爺の言葉通りに厨房の方に目をやると不安そうにこちらの様子を窺っている料理人たちの姿が見える
"もしも、お前さんがこの料理に手を付けなければ……"
"あそこにいる料理人たちはどうなるか分からないじゃろうな"
"流石に毒を盛っていたりはすまい"
爺はそう言って私に料理を食べるように促す
"うんっ! わかったよ"
私は爺の言う通りに料理に手を付ける
美味しそうな料理を目の前にして、本当は食べたくて仕方なかったのである
「美味しいよ」
私は料理を食べるとコレットの顔を見て微笑む
厨房では料理人達がホッとしている様子が窺える
かくして、私は並べられた豪勢な料理を次々と胃袋に収めていくのであった
私が食事をしている頃、王の間では国王バルバートが側近のデュドネから"大賢者の弟子"が王宮に来ている事を知らされる
「何とっ! それはまことかっ!!」
何も知らされていなかった国王バルバートは驚きの余り大声を上げてしまう
「それで、"大賢者の弟子"様はどこにおられるのだ」
そう言うと慌てて玉座から立ち上がる
「今は、大食堂にてコレット様とお食事中との事です」
デュドネはそう言うと、少し表情が曇る
「コレットと食事中……とな……」
バルバートはあの男嫌いのコレットが"大賢者の弟子"とはいえ一緒に食事をしている事に違和感を覚える
「どうしたのだ……何かあるのか」
バルバートはデュドネの表情がさえない事に疑問を持つ
「その……何と申し上げればよいのか……」
デュドネの顔に徐々に危機感が滲みでてくる
「まさか……」
同じようにバルバートの顔にも徐々に危機感が滲みでてくる
「その、まさかにございます」
「"大賢者の弟子"様は女性にございます」
「それも、若く"軍神・女神"ルノン"の如き風貌にございます」
「失礼ながら……女色であらせまする……」
「コレット様の理想を絵に描いたような御方にございますっ!!」
この世の終わりの如き表情でデュドネが言う
コレットの女色の趣向など宮廷の皆が知ってい事なのである
「……それは、まことか……」
バルバートはそのまま王座の前にへたり込む
"これは、えらい事になってしまった……"
"もしも、コレットが大賢者の弟子様に変な事をしようものなら"
"大賢者様の怒りを買い……"
"この王都モダンテが消えてなくなってしまう"
大賢者の力により一瞬で消え去ったゲルマニア帝国の都市ワッヘンの伝承がバルバートの脳裏をよぎる
"如何に節操なしのコレットと言えども……"
"流石に大賢者の弟子様に卑猥な事などは……"
バルバートは少し考えこむが
"……あの娘なら……やりかねんな……"
そんなバルバートの様子をデュドネが心配そうに窺っている
「何とかせねば……」
バルバートは小さな声で呟くと青白い顔をしてゆっくりと立ち上がる
「至急、"大賢者の弟子様"を保護せよっ!!!」
「コレットの毒牙からお守りするのだ」
バルバートの言葉にデュドネは大きく大きく頷くと慌てて王の間を出て行く
"何とか、間に合ってくれ"
心から神に祈るバルバートであった……
第143話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ⑫ ~
終わり