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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第139話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ➇ ~

第139話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ➇ ~



 序章



ダキア王国の王都モダンテ、夕暮れの港にアメリーの軍船が到着する

港の埠頭には数名の騎馬兵と共にダキア王宮からの向かいの馬車が待機している


船から降りてくるアメリーに迎いの騎士が敬礼をする

 「お帰りなさいませ、アメリー様」

 「父上のバルバート王がお待ちしております」

騎士はそう言うと馬車のドアを開きアメリーを馬車の中へエスコートする


 「出迎え、ご苦労」

アメリーが労いの言葉を騎士に掛けると騎士は微笑み馬車のドアを閉める


 「出立!」

騎士の号令と共に馬車はダキア王宮へと走り出すのであった


 「それは本当なのですかっ!」

ダキア王宮へと向かう途中の馬車の中でお付の女官から港での騒ぎとコレットの豹変を聞かされる

 「あの、姉上がですか……」

信じられないという表情で女官の方を見る

 「その、姉上の……お尻を叩いたという騎士ですが……」

 「出来るだけ詳しくお教えください」

真剣な表情で問いかけるアメリーに女官は少し驚きながらも知っている事を話し始める


 「……」

女官の話を聞き終えたアメリーにマノンの事が思い浮かぶ

 "間違いないわ……"

 "お姉さまのお尻を叩いたというのはマノンだわ"

 "でも……マノンは女性……大賢者様ではない"

 "という事は…マノンの言っていた相棒と言うのは、間違いなく大賢者様"

 "マノンは大賢者の弟子なんだわ……"

普通に考えればマノンと大賢者が同一人物だとは思わないし、その相棒がオウムだなどとは思いもしないのである


何やら考え事をしているアメリーに女官が話しかける

 「それともう一つ、お話したい事がございます」

女官は少し言い難そうな感じである

 「アメリー様もご存じですが……」

 「姉君のコレット様は……その……何と申しますか」

 「その……男より女の方がお好きなようでして……」

女官は顔を真っ赤にして落ち着かない様子で何やらモジモジしている


 "ああ~そう言う事ね……"

アメリーは女官の態度を見て直ぐに何が言いたいのかを察した

 「お姉さまの悪い癖ですね……」

アメリーは姉のコレットの女癖の悪さをよく知っているのでいつもの事と呆れたようにため息を吐く

 「それで、今度はマッ……その女騎士に夢中って訳ですね」

 「どうせすぐに醒めるか飽きるかでしょう」

 「いつもの事じゃないですか……」

そんなアメリーの様子を見ていた女官が何度も首を横に振る


 「それは……そうなんですが……いつものとは違うんです」

 「何と申しますか、どうも……マジ惚れしてしまったようでして」

女官が困ったように言う


 「はぁ……マジ惚れ……ですか……」

 「あの、お姉様がですか……」

アメリーは唖然としたように呟く

 「ええっ!マジ惚れですってぇ!!!」

暫くして、アメリーは女官の言っている意味に気が付き慌てる

 「あの、お姉さまを屈服……じゃなかった……手懐ける……でもない」

 「ああああああああ!なんて言ったらいいのっ!」

あまりの衝撃にアメリーは完全に混乱してしまい言葉が出てこない


 「落ち着いてください……アメリー様……」

 「言いたい事はよくわかります」

混乱して慌てふためくアメリーに女官が落ち着くように声を掛ける

 「私だって驚きました」

 「しおらしいコレット様を見ているだけで全身に虫唾が走り湿疹が出てきそうで……」

 「あっ……失礼しました……今のは聞かなかった事に……」

少し恥ずかしそうに女官が言うとアメリーは笑いながら小さく頷くのであった


 そうこうしているうちに馬車は王宮に到着するのであった




第139話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ➇ ~



 マノンは、すんなりと帰ってしまったカルラの事を考えているとある事に気が付く

 "もしかして、これは……やっぱり夢なんじゃ……"

私はこれが夢なのだと思い込もうとする


 "そんな訳あるかいっ! "

爺の言葉が私を現実へと引き戻す

 "まぁ、その気持ちは分からんことも無いがの"

 "カルラちゃんの心意気も少しは考えてやってはどうかの"

爺の言葉を聞いているとアレットの言葉が脳裏をよぎる


 "女の子がこういう事を言うのはよほどの覚悟があるって事よ"

 "そんな時はね、マノンが嫌じゃなかったら……"

私には恋愛感情というものがないという事は頭では理解できている


何も言わずに黙り込んでいる私を見て爺は物思いに耽る

 "皮肉なものよな……"

 " 世に言う無償の好意を愛と呼ぶならば、こ奴は愛の精神に満ちておる……"

 "にもかかわらず、こ奴は恋愛というものが分からんし知らぬ……"

 "生きとし生けるもの全てを尊び同じ様に愛おしむ博愛の精神を持ちながらも"

 "自らが何故ここまで皆に愛されるのか……その者達の心もこ奴には分からんのじゃろうな……"

 "生きとし生けるもの全てにおいて慈しみ平等に扱うべし……"

 "それが大賢者の定めとはいえ……"

 "やはり……このままではいかんの……"

爺は暗闇の中で黙り込んでいるマノンを見てそう心の中で呟くのであった



窓から光が差し込んでくる……

 "もう……朝か……いつの間にか寝ちゃったんだな"

いつもの事だが悩み事があっても知らないうちに爆睡してしまうのは、こういう時には幸せなのかもしれないと思いもするマノンであった


ベッドから起き上がり窓の傍に行くと大きく伸びをする、窓際に置かれた机の本棚の上でパックが寝ている

 "今、何時ぐらいだろう……"

マノンは窓から太陽の位置を確認すると魔装服のポケットから携帯式の日時計を取り出すと窓際に置く

 "朝の七時過ぎってとこぐらいかな"


日時計を魔装服のポケットに戻しベッドの下に何気なく視線を移す

 "こんな所に……こんな物が……"

マノンはそう呟くとベッドの下に落ちていたカルラの下着(ブラジャー)を拾い上げる

 "そういや……昔、私もレナの家に忘れてきたことがあるよな"

昔の事を思い出し少し恥ずかしくなってくるマノンであった

 "仕方ないな……後で届けに行くか……"

そう呟くとマノンは下着を奇麗に折りたたみ机の上に置く、するとドアをノックする音と共におばさんの声が聞こえてくる

 

 「朝食の用意が出来たのでお持ちいたしました」

私は返事をすると急いでドアを開けると朝食を乗せたトレイを持ったおばさんが立っていた

 「どうぞ、お召し上がりください」

そう言うと私にトレイを手渡すと部屋の中をちらっと見て少し微笑んだ

私が不思議そうな顔をしているとおばさんの視線が机の上に置かれたカルラの下着に行っている事に気が付く


 「あっあれはっ! そのっ! 何と言いますかっ! 」

カルラの下着を目にした、おばさんの表情がニンマリとするのがわかる

 「違いますっ! 本当に違うんですっ!!」

あらぬ誤解を与えないように必死に言い訳をしようとするが返って墓穴を掘る結果となってしまうマノンであった



何故か嬉しそうに帰っていくおばさんを絶望して見送った後で食事を食べながら大きなため息を吐く

 "完全に誤解してるよね……あれは……"

ポテの上に焼いた肉と新鮮な野菜を乗せたピザのような朝食を食べながら呟く

 "そう言えば、あのおばさんは味方とかカルラが言ってたな"

おばさんが嬉しそうに帰っていた訳、そんな事は何故か理解できるマノンであった



朝食を食べ終わり、服を着替えると庭にいたおばさんにカルラの家の場所を尋ねる

おばさんは物凄く嬉しそうにカルラの家の場所を丁寧に教えてくれるのであった


当然、変な誤解していると分かっているのだが言い訳すれば余計に悪化する可能性の方が高いので何も言わない事にしたマノンであった



 「ここか……」

カルラの家は宿から歩いて三分もかからない所にあった、崩れかかった古い石垣に囲まれた木造の古い農家だった


とても古そうだが庭先も家もよく手入れされているので古民家の好い雰囲気を醸し出していた

 「ごめんください」

玄関先で何度か声を掛けても返事が無い……どうやら……留守のようだ

 「家には居ないみたいだな……」

玄関先でどうしようかと考えていると通りがかりのおじさんが声を掛けてくれる

訳を話すとおじさんは、"今頃は畑にいるはず"だからと言って畑の場所を教えてくれた


教えてもらった通りに行くと畑で農作業をしているカルラを見つける

カルラも私に気が付いたようでこちらに向かって手を振ってくれている


 「どうしたの……こんな所まで……」

カルラは不思議そうに尋ねてくる


 「これを……届けに……」

私は少し困ったように布の小袋に入れた下着を差し出す


 「えっ……私に……」

何だかカルラは嬉しそうだ……これは誤解していると直感して中身の事を話そうとするが、それよりも早くカルラは小袋の中を覗き込む


 「あっ……」

カルラの顔が見る見るうちに真っ赤になっていくのがわかる

 「……ありがとう……届けてくれて」

私も以前に同じような事を経験しているのでカルラの今の心境をきわめて正確に理解するのであった


 「一緒に手伝ってもいいかな」

小袋を手に俯いているカルラに話しかける


 「いいの」

カルラは顔を上げるとポケットに小袋を押し込んだ


 「どうせ暇だしね」

私はそう言うと上着を脱いで畑の片隅に置かれてあった石の上に乗せる


それから、ほぼ一日をカルラと一緒に畑仕事をするのであった

お昼に畑で一緒に食べたポテの中に肉や野菜を詰め込んだ日本のおにぎりのような食べ物はとても美味しかった


カルラは一人で結構な広さの畑を耕作していた、芋畑、野菜、ハーブ、果物の樹まである

 「凄いね……全部一人でやっているの」

私が驚いて尋ねる


 「そうよ、完全な自給自足ね」

 「大変だけど、今の生活が凄く気に入っているの」

そう言って汗と土に塗れ幸せそうに笑ったカルラが凄く輝き綺麗に見えるマノンであった


 「今日はもういいかな……」

 「マノンに手伝ってもらったから、随分と早く終わったわ」

 「どう、時間も早いし……これから温泉にでも行かない」

 「一仕事終えた後の温泉は最高よっ!!」

カルラは鼻息を荒くしてそう言うと私の方を見て微笑む


 「いいね……行こうか」

私はそう言うとカルラと一緒に山の中の温泉へと向かうのであった



温泉への道を歩きながらカルラと畑の話をする

カルラ曰く、芋は手間のかかるのは苗の頃ぐらいで後は放って置いても勝手に成長してくれるので手間いらずだそうだ

ただ、野菜、ハーブ、果物の樹は結構な手間がかかり大変らしいがペントンに持って行けば良い値で売れるので貴重な現金収入になるようだ


温泉に着くと二人でのんびりと湯に浸かる、疲れた体に炭酸の泡がくっ付いてくる

二人とも無言でぼんやりと湯に浸かっていると何処からか爺の声が聞こえてくる

どうやら……認識阻害の魔術を発動してこの辺りにいるようである


 "二人仲良く、随分と寛いでいるようじゃな……"

こんな事を言っているが、爺はカルラとマノンが畑仕事をしている時から二人を見守っていたのである


 "うん……働いた後の温泉は最高だよ"

私は何処にいるか分からない爺に言う


 "そうか……"

 "でもな……明日には帰らんといかんぞっ"

爺の言葉に私は休みが明日で終わる事に気付く


 "あっ……そうだった"

完全に休みの事を忘れているマノンであった


そうしているとカルラが傍に近付いてくる

 「ねぇ、マノン……今日のお礼って言うのもなんだけど」

 「夕飯うちで食べてかない」

カルラは私の方を見て微笑む


 「……うん、ご馳走になるよ」

私は少し戸惑ったがそれは宿にも夕食があるからであってカルラの家で夕食を食べる事には何の躊躇いも無かった


 "やはり、この二人は波長が合うようじゃな"

 "こ奴にとっては良き話し相手、そして良き相談相手になる事じゃろう"

会って二日で旧知の友のように話をする二人を見て爺は微笑ましく呟くのであった


 "それしても……まぁ……こ奴は本当に女子にモテるの……"

 "まぁ……あまりモテ過ぎるのも、それはそれで……"

 "困った事にならなければよいのじゃのう……"

爺は少し心配そうにそう呟くと、楽しそうに語らう二人を見守っているのであった



後日、爺の心配は爺が予想したのとは全く違った形で現実のものとなるのである……




第139話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ➇ ~


終わり



 


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