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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第十四話 ~ 嵐と共に去り ~ 

  第十四話 ~ 嵐と共に去り ~


  ~ 序章 ~


 騎士登用試験から数日後……サン・リベール郊外のトルスにあるポルトーレ方面軍の寄宿舎ではマルティーヌ女子学校での出来事が話題となっていた。


 普通の女子学生が正騎士に圧勝し、騎士団長と互角以上の戦いをしたというのだから無理も無い事だ。


 雪の舞い散る夜、兵士とは別棟の騎士専用宿舎の居間ではエボラ、コンティーヌ、ドミニク、エドモンドの4人が夕食後に円卓を挟んで何やら話している。

 話題は勿論、マノンの事である……。


 エドモンドが周りを見回すとため息混じりに言う

 「この手の噂が広まるのは本当に速いな……」


 そんなエドモンドにコンティーヌがしかめっ面をして

 「ホントにっ! 何者なのよあの子」

 「あの強さ異常よっ! 」

 「軽くあしらわれて、お尻ぶっ叩かれていい恥さらしよっ!」

 「今度あったら……あの子のお尻思いっきりぶっ叩いてやるわっ!」


 鼻息を荒くしブチ切れそうなコンティーヌにエボラが笑いながら

 「まぁまぁ……落ち着きなさいよ」

 「普通の女子学生では無いわよね……絶対に……」

 「それに、この騎士団に団長以外あの子と剣で互角に戦える者はいないでしょうね」

 「もしも、あの子と打ち合ってたら皆仲良くお尻ぶっ叩かれてたでしょうね」


 それを聞いてエドモンドが辺りを気にしながら小声で

 「あの娘の事だが……あの日、帰り際に……団長が……」

 途中まで言いかけて少し躊躇うが

 「あの娘に……確かに……」

 「"大賢者殿によろしく"と言った……のを聞いた……」


 その言葉に他の3人は凍り付くがエドモンドは気にする事も無く話を続ける

 「つまり……あの娘は、"大賢者の弟子"……なのかも知れん」


 静まり返る4人……暫くするとドミニクが溜息を吐くと

 「だとすると……あの時、あの娘の剣が折れたのも偶然では無いな」

 「大賢者は人知の及ばぬ術を使うというしな……」

 「王都ガリアンでの大賢者騒動一件は皆も知っているだろう」

 そう言うとドミニクは黙ってしまった。


 そんな時に、伝令の兵士が血相を変えて入ってくる……

 何事なのかと皆が伝令の兵士の方を一斉に見ると、震える声で

 「ゲルマニア帝国別動隊、約7000、ポルトーレ方面に侵攻中」

 「約二日後にサン・リベール付近に到達の見込み」

 「救援部隊が王都から出撃、ほぼ同時にサン・リベール付近に到着との事です」

突然のゲルマニア帝国軍の接近を知らされ騒然となるが、何処からか大きな声が聞こえてくる。


 「皆、静粛に落ち着きたまえ……」

 声の主は団長のエルネストだった、辺りが落ち着いてくるのを見計らうと

 「諸君、時間も兵力も無い我々にできる事はそう多くはない……」

 「住民の避難を最優先に」

エルネストの言葉に騎士たちは"オー"という掛け声を出すと出撃準備を始める……嵐の到来である。


 その頃、当の大賢者はパンツ一丁で踊り狂っているなどとは、この4人は知る由も無い事である。



 ~ 嵐の到来 ~


 翌朝にはゲルマニア帝国軍の接近の報ははマノンのマノワール村にも届くこととなる。


 浅瀬が干上がって出来たポルトーレの西側は石灰岩質の高台の平地で木々は少なく下草の茂る荒れ地が広がり農耕には適さずごく少数の人々により羊の放牧が行われているだけであり定住者はいない。


 それも、秋口までで寒くなり羊の餌の草が無くなると羊を連れて南の方へ移動する、今頃は各々の村に帰り、今年の春先に刈った羊の毛で糸を紡いだり布を織っている頃だ。

 冬季の特有のヘベレスト山脈からの強風に雪が乗り、現在は既に1メートル近く雪が降り積もり無人地帯となっている。


 ヘベレスト山脈から雪解け水を湛え川幅が100メートルはあるエレペット川が南北に走り大地を分断しおり、やがてロール川に合流する。


 旧シラクニア王国軍はそんな中を進攻しているのだが彼らの故郷にすればさほどの事も無いのである。


 ゲルマニア帝国軍の接近の報を知った爺は急いでレナの家へと向かう。

 レナの家のドアをノックするとレナが出てきてくれた、何だかとても疲れているようだ。


 「どうしたのレナ、何だか疲れているようだけど」

爺が心配して訪ねるとレナは


 「たいしたことないわ」

 「この前言ってた、お話があるのね……」

そう言うと爺を家に入れてくれた、階段を上りレナの部屋に入るとレナが椅子をに座るように言う


 「ありがとう……」

爺は言われるままに椅子に座るとレナはベッドに腰かけた。

そして、爺は全ての事の経緯をレナに話すのであった。




 マノワール村から約一日の距離にあるエレペット川……


 深い雪の中に身を隠しエレペット川を望遠鏡で覗き込む者達がいる。

 シラクニヤ雪上部隊の先遣隊である。


 「まだ、ガリヤ軍の姿は見えません防御陣も見当たらないな……」

 「雪上に乱れなし、付近に潜んでいる気配もなさそうだ……」

 「これなら、楽に渡河できるぞっ!」

 「本隊に連絡……目的地に敵影なし、渡河可能」

先遣隊隊長のヤンが言う。


 「了解です!」

と部下の一人が叫ぶと空に向かって続けざまに二本の矢を放つ、暫くすると雪上に大部隊が姿を現した。

 旧シラクニヤ軍の雪上軍本隊である。


 彼らの装備・風貌は他国とは変わっており一目でわかる、馬の代わりに犬やトナカイが(そり)を引き、鉄ではなく革の鎧と兜に毛皮の外套(コート)である。


 毛皮に革の鎧兜というその独特の容姿から雪の獣の異名で他国から恐れられた。

 携行している剣も殆どの者が騎士の証たる大剣ではなく小振りの湾曲した剣であり、ほぼ全員が弓を装備している。


 極寒の地では金属で出来た鋼の鎧は冷えて凍り付きやすいからであり、降り積もった雪の地面では足元が不安定なので膝をついて使える弓の方が大剣よりも遥かに扱い易く効果的だからである。


 部隊は、川岸に到着すると犬やトナカイを橇から切り離す、羊の革でできた浮袋を膨らませ橇の横に括り付けると橇は犬と人を載せ川船となりトナカイは自力で凍てついた川を平然と渡河する。


 約七千の部隊はものの一時間程で渡河を終えた、冬季の雪上戦では大陸最強と謳われゲルマニア軍も手を焼いたシラクニヤ雪上軍の実力である。


 渡河し終えると装備を整え再び進軍を開始する。

 その中に一際、装飾の煌びやかな橇があった、旧シラクニヤ雪上軍司令官ナッセルの橇である。


 ゲルマニア帝国から"雪原の死神"と呼ばれる猛将ではあるが、その外見とは裏腹に大変用心深く思慮深くもある、ゲルマニア軍総司令官バルッァーですら二度と雪の上では戦いたくない相手といわしめるほどである。

 皮肉なことに今はそのバルッァーの配下であるのだが…。


ナッセルの横で少女が橇を操っている、ナッセルの娘のルメラである。

 年は16歳、身の丈160センチで程良い体格に短めの銀髪、透き通るような白い肌に清廉な顔立ち、見た目は妖精のような可憐な少女だが……じつは男勝りの性格で武に優れている。

 気取らない開けっ広げな性格もあり周りの皆からも好かれている。


 但し、女扱いもされていないのだが…そこらへんは誰かとよく似ている。

 ナッセルの5人の子供の末っ子で唯一の女の子でもあるので一番可愛がってもいるが残念な事に性格は一番男っぽい。

 今回は同行させる気は無かったのだが無理やり付いてきたのである。

 

 「オヤジっ! 後1日ぐらいで目的の村だっ!」

 「その村に大賢者ってのが居るんだろ、そいつをとっ捕まえるのが俺たちの仕事なんだよなっ!」

と大声でルメラが言う。


 「そうだっ! それとオヤジは止めろ父上と呼べと言っているだろうっ!」

 「その言葉遣いも、もう少しなんとかしろっ!」

同じぐらいの大声でナッセルが言い返す。


 「そんなことより、その大賢者ってのは相当な剣の使い手らしいんだってなぁっ!」

 「とっ捕まえるの俺にせてくれっ! なあっイイだろ!」

とルメラが言うと


 「ダメだっ!」

「おまえの手におえる相手ではない」

急に真顔になったナッセルは厳しい口調で言った。


 「ったく…なんだよっ…」

ブツブツ言いながらもルメラはそれ以上は何も言わなかった。


 マノンの村は騒がしかった。

 こちらに進軍して来ないはずのゲルマニヤ軍が既にエレペット川を越えて村に迫ってきているという情報が入ってきたからだ。


 村にガリヤ軍が向かっていると情報が入るといつもの平穏は取り戻したが暢気に構えている猶予もなかった。

 軍から女、子供、年寄、病人は後方の町へ避難するように退避命令が出たからである。


 長らく平穏だったマノンの村も戦禍に撒き込まれようとしていたのだった。

 村にガリヤ軍の先遣隊が到着するや否やすぐさま偵察隊が村を出て行った。


 村に残った部隊は村の教会に本部を設置しはじめる。

  続々と後発部隊が到着する、その中には純白のローブに身を包んだ王女シルビィの姿もあった。

 またもや側近の反対を押し切って最前線のこの村まで自ら出陣してきたのだった。

 (本当の目的は、大賢者探しである)


 「土地に詳しい者を連れてこれより即急に村の外周に防御陣を敷く、敵は間近に迫っているぞ」

 慌ただしい中でシルビィは適切な命令を下していく。


 「ご命令通り子供、年寄、病人の村人の退避は終わりましたが……」

 「村の女どもは陣の設営に協力したいと申し出ております」

 「如何致しましょうか?」

とシルビィ付き親衛隊の女騎士アネットが問いかける


 「そうか、村の事には詳しいだろうから世話になるとする」

 「但し、敵が見えたら村の外に即退避させよ」

とシルビィが言うと


 「御意!」

そう言うと走り去っていった。

 シルビィはアネットを見送った後にゲルマニア軍が迫りつつある方角を睨むのであった。


 レナの部屋からそんな様子をマノンと一緒にレナは見ていた。

 「随分と兵隊さんが集まってきたね」

 「兵隊さんの中には私達と変らないぐらいの子もいるね」

 「本当にこの村で戦争するんだ……夢みたい……悪い夢……」

とレナが泣きそうな声で話す。


 「そんな事はさせない、絶対に……」

 「せっかちな奴らじゃ、こちらから出向くと言うとろうに…こんなところまで大軍を差し向けよって」

 マノンが呟くとレナが不思議そうにマノンを見つめる。


 前回の戦いの後からマノンの意識はまだ戻っていない。

 爺は、意識のないマノンの為に一生懸命にマノンを演じているのだがやや無理があった……。

 魔法使い・剣士としは超一流なのだが……役者としてはそうではなかったようである。

 「マノン…最近変よ…」

 「なんだか聖書に出てくる昔の騎士みたい」

とレナがマノンを見て言った。


 少しの時間が過ぎ爺は

 「レナ……少し話があるんだけどいいかな…」

暫く二人で話す……


 当然、本物のマノンこの事を知らない。

 レナに事の経緯を話し終えた爺は窓の外のガリア軍の陣屋の方を見ると……


 「レナそれでは、ちょっと行ってくる」

 そういうと魔装ローブを羽織り爺は部屋から出て行く、レナはその後ろ姿をただみつめているだけだった。

 爺はレナの家を出ると教会のガリア軍指揮所へ早足で向かう。


 教会のガリア軍指揮所に近寄ろうとすると警備の騎士に呼び止められる。

 「そこの者!止まれ怪しい奴だっ!」

警備の騎士の一人が爺を取り押さえようとした瞬間に後ろに吹き飛ばされた。


 「一体何なんだっ!」

一瞬の出来事に周りの者たちが動揺しざわめく…。


 外の騒がしさに何事かと指揮所から顔を出したシルビィの目に映ったのは決して忘れる事のない顔だった。

 「大賢者様っ!」

 次の瞬間、シルビィの足は反射的に駆け出していた。

 「お会いしとうございましたっ!」

全力ダッシュで飛ぶように抱きついた、あまりに突然のシルビィの行動に周りの者が状況を把握できずに困惑している。


 シルビィの目から大粒の涙が零れる、王女シルビィが涙を流すところなど誰も見たことがないのだ。

 「もう、よいかな…少し相談があるのだが聞いてくれるかな」

 流石の爺も困惑して防御魔法すら発動する間もなかったようだ。


 「はいっ! 何なりとお申し付けくださいっ!」

とても一国の王女らしからぬ行動と発言にただ周りの者も困惑するしかなかった。


 殊にシルビィを良く知る女騎士アネットは開いた口が塞がらずただ唖然としているだけだった。


 「大賢者様はこちらへ」

 「アネット!お茶の用意よろしく」

言うとシルビィは爺の手を引いてさっさと陣屋に入ってしまった。


 「あの…シルビィさま…」

 ひとりとり残されたアネットは、トボトボとお茶の用意をしに歩き出した。


 爺が、陣屋の中で一通りの話を終えると

 「今ここに向かっているゲルマニア軍の目的は大賢者様自身だとおっしゃられるのですか?」

口元で手を組みシルビィは言った。


 「その通り、この村にゲルマニア軍が来たら取り合えず使者を立てて向こうの司令官と話がしたいと申し出てくれぬか」

 「敵とは言え、まともな者ならば話しぐらいは聞く耳があろう」

爺がジッと見つめると見る見るシルビィの顔が真っ赤になっていく


 「わっわかりました、そのように取り計らいます」

少しうつ向いてシルビィは小声で言った。

そして、慣れない手つきでアネットの入れたお茶を一気に飲み干すと

 「ゲルマニアの虜囚になられるおつもりなのですか?」

 「私から一つだけ条件があります」

 「自信を犠牲にするような無茶は決してしないでください。」

とシルビィはテーブルから半身を乗り出して言い聞かせるように

爺に言うのだった。


 それに対してにっこりと爺は笑うのであった。

それから数刻の後にゲルマニア軍"(シラクニヤ雪上軍)"が村の教会の時計台で監視をしていた騎士の目に入るのだった。


 手筈通りに白旗を挙げた使者が馬に乗りゲルマニア軍に口上を述べた上で交渉を申し出た。

 しばらくの間の沈黙の後に交渉に応じるとゲルマニア軍司令官からの返答があった。

「ゲルマニア軍の司令官はどうやら話の出来そうな者らしいな」

「それでは行くか……」

と言うと爺は歩いてゲルマニア軍の方へと向かう、もう少しで到着しそうな瞬間に無数の矢が爺に降り注ぐ。


 「大賢者様っ!」

と思わずシルビィは叫びそうになったが無用の心配であった。


 無数の矢は瞬時に消えてなくなる……ゲルマニア軍からは驚愕の声が地鳴りの如く響き渡った。

 それからしばらくの後に大きな声が響いた。


 一人の体格の良い人物が前に歩み出て来ると

 「失礼ながら本物か試させてもらった……非礼を詫びよう」

 「大賢者殿お初にお目にかかる、私が司令官のナッセル・バートンであります」

 「こちらで話を伺いましょう」

爺の若い姿に驚きつつナッセルは自陣の方を指差した。


 爺はナッセルに案内され陣屋に入ろうとした瞬間に何者かが剣で襲い掛かった。

 しかし、最初の一撃は爺に素手であっさりと打ち払われてしまう。

 襲い掛かったほうも驚きを隠せないようであった。

 「へえ~っ、凄いじゃん、噂通りの凄腕だね」

 「それに、結構いい男じゃない」

襲い掛かったのはルメラだった。


 「こらっ!馬鹿者何をするかっ!!」

ナッセルが烈火の如く怒る、正々堂々と交渉に望む者に正当な口上もなく不意打ちなど騎士として言語道断の行為だからである。

 「どうやら、ナッセル殿は何も知らぬようじゃな」

 「この者が勝手に行った愚行とお見受けするが……どうかな」

と爺は冷静にナッセルに問う。


 「お恥ずかしながらその通りごいます。」

 「この者は、この場にて勘当いたします」

 「処分は、大賢者殿のお好きなように煮るなり焼くなりしてくださって結構」

 と諦めたかのようにナッセルがいうと

 「心得た、嬢ちゃん何処からでも打ち込んでこられよ」

爺は足に落ちていた短い棒を拾い上げ構える。


 「そんな棒切れで俺と殺り合うのかっ、ふざけるなっ!」

 「うぉりゃ~! 」

凄まじい速さで斬りかかるが爺の棒切れに剣筋を狂わされ掠りもせず虚しく空を斬る。

 「とりりゃ~!!」

剣の型をを変えて斬り込むが爺はすんなりかわす。

 「はっ!」

「とうっ!!」

今度は突きを交えての連続技だが爺は呼吸一つ乱さずにかわす。


 「そろそろ、わしの番じゃな」

 「行くぞっ!」

と言うと一気に間合いを詰める


 「ヒィッ!」

爺のあまりの速さに付いてゆけず悲鳴を上げるルメラ…。

その瞬間

 「バシッ!」

という物凄い音がしたと思うと、持っていた剣を落とすルメラ

 「いでぇ゛~」

ルメラはお尻を抑えならうずくまっている。


 「こっ……このやろうっ! ふざけやがって このっ!」

地面に落ちた剣を拾い上げると再び斬りかかる。

 「ベシッ!」

また同じように尻を叩かれる

 「ふげっ!」

 「あうっ……ぁぁぁ……」

呻き声を上げのたうつルメラ

 「畜生めっ!」

大声を上げると再び剣を拾い爺に切りかかる


 「バチンッ!!」

鈍い跡と共にルメラはお尻を押さえて倒れ込む

 「あひっ! うっっっっ……」

三度も尻を叩かれても気力を振り絞って立ち上がる姿を見て爺は


 「なかなかに根性がある嬢ちゃんじゃの、大したものじゃ」

そう言って感心すると

 「お嬢ちゃん、もう気は済んだかい」

と爺がルメラに問いかける


 「くそ~っ! ちゃんと相手しやがれっ!!」

とルメラが憎しみを込めた目で爺を睨んだ。


 「よかろう…本気で行くぞっ!」

その瞬間、爺から途方もない気が溢れ出る。


 やや俯きラッセルが目を背けた。

 「ちょっとっ!たんまっ! 待って待ってっ!!」

 「ヒッヒッヒッッッッ~」

 「じょお~っっっ♨」

白目をむくとルメラは失禁して♨してしまった。


 「やれやれ、困った嬢ちゃんじゃ、いい年こいで♨しとはな」

 「これではもうお終いじゃな」

と爺は言うとナッセルの方に歩いて行った。


 「なかなか筋が良い娘じゃの鍛錬すれば強くなるぞっ」

 「実はなお前さんが何時斬りかかってくるか心配でのぉ、ここら辺が頃合いじゃろ」

 「それと、ガリア軍からも2人ばかし同席してもよいかの」

と爺はナッセルに言うと陣屋に入っていった。


 「誰か、あそこで♨てる大バカ者を何とかしてやってくれ」

 「臭くてたまらんわっ!」

 「ガリアに使者をだせ」

と言い残すと口元に薄ら笑いを浮かべながらナッセルにもまた陣屋へと入っていった。


 爺の望み通りにガリア軍からも二人が同席した話し合いの場が持たれた。


 ゲルマニア側からは、指令官のナッセルと副官のイーヴァルが

 ガリア側からは、シルビィとアーネットが同席した。

 冒頭、非公式であるため、双方一切の記録を残さない事を誓う。                         


 無言でお互い牽制し合う重々し空気の中で初めに爺が口を開いた。


 ① 今回の遠征が自分自身の捕獲が目当てでありること。

 ② そもそも、今回のガリア進行自体に領土的な野心は無く自分自身の捕獲が目的であること。

 この二つに関してナッセルは、明言をしなかったが大筋でこれを認めた。


 そして、本題とも言える三つ目の真の目的が爺から語られる。

 「ゲルマニア皇帝マキシミリアンの寿命が尽きかけておる」

 「わしの予想では後半年持つか持たぬかじゃ」

 「あ奴は、憑依転生の術で延命を謀るつもりなのじゃ」

 「そのための依り代としてこの体が必要なわけじゃ」

 そして、"まぁエマがマキシミリアンの意思を生かしておくとも考えられんしの……"エマと事とこれは口にしなかった。


 流石に爺以外の全員が驚愕したのは言うまでもない。

 あまりに唐突な発言に双方とも困惑しているのがわかるので

様子を見て爺が再び口を開く


 「わしがこうしてノコノコ出てきたからには……その……」

 「要するに……これからこの村で行われようとしている戦いは既に意味がない」

 爺の発言に双方とも唖然としている。

 真にその通りだからである。

 爺が更に問いかける

 「双方とも、このわしにほんの数日の時間をくれぬかの」

 「戦いが遅れたとてどちらが勝ち負けしょうと結果は同じ意味がないからの」


 沈黙を破りナッセルが口を開いた。

 「例え無益な戦いであったとしても避けては通れぬ道ゆえ進まねばならぬのが我ら属国の定め……残念ながらお受けできぬ」

と俯き加減でナッセルが言う。


 「ならば、数日の間一時休戦なされよ」

とシルビィが突然に言う


 「何を馬鹿なそのようなことが出来るか」

 「そんな事をすれば帝国領に残る我が民族は根絶やしにされる」

ナッセルは声を大きくして言う。


 「ほんの数日なんとでも口実はつこうが、ならば、戦って無為(むげ)に兵を損ない双方痛み分けを望むとでもいうのか」

とシルビィが問い返す。


 「我らが使命は大賢者殿の捕縛……それが叶わねば引くことはできぬ」

とナッセルは爺の方を見て言う


 「ならば、わしがゲルマニアに行けば丸く収まるのじゃな」

と爺がにっこりと笑いながら言った。


 「大賢者様っ! 絶対になりませぬっ!!」

 「自ら敵の術中に陥るなどと」

シルビィ声を荒げる。


 「わしの我が儘じゃよ」

 「どのみち、マキシミリアン殿には合わねばならぬしこちらから出向くとも伝えておるのじゃよ」

 「それでは、マキシミリアン皇帝殿にご面会させていただくとする」

 「これで良いかなナッセル殿……」

と爺がナッセルに語りかけるように言う


 「異論はございませぬ、明日にでも兵を引かせましょう」

 「大賢者殿っ…感謝いたします」

というとナッセルと副官のイーヴァルは深々と頭を下げ陣屋を出て行った。


 陣屋に残された三人は沈黙したままだった。

 「馬鹿です……大賢者様は大馬鹿者です」

下を向いたシルビィから大粒の涙が零れ出る。


 「シルビィ様っ」

とアーネットがシルビィに寄り添う。

 「少しはシルビィ様のお心もお考え下さい」

とアーネットが爺に訴えかけるような目をして言う


 「すまぬ……わしにはこうするしかなかったのじゃ……」

 「この戦は終わらせる……そして必ず帰る……それだけは約束しよう」

 「……そのローブ……よく似あっとるぞ」

と言い残すと爺は別れの言葉も交わさずに陣屋を後にした。


そして、次の朝には旧シラクニア軍は大賢者とともに霧の如く姿を消していた。


第十四話 ~ 嵐と共に去り ~ 終わり

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