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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第137話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ➅ ~

第137話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ➅ ~



序章



 ダキア王国では"大賢者の尻叩き"の伝承は有名である

 刑罰に取り入れられているぐらいであるから知らない者はいないといっても過言ではない


 以前からもそうであったが、爺は剣の試合でも相手の尻を叩くのが当たり前のようになっている

 当然、それには相手にできるだけ怪我をさせないと言う、ちゃんとした理由があるのであるが……

 それとは違う、実際に本当の"大賢者の尻叩き"に遭った者は数少なく最近ではコレットぐらいである


 埠頭での一件が知れ渡ると"大賢者の尻叩き"の言い伝えが本当の事だとダキアの民は信じるようになる

 何故なら、あの暴君姫のコレットが"大賢者の尻叩き"一回(30発)で心を入れ替え別人のようになってしまったからである

 実際に、埠頭でコレットがマノンに生尻を叩かれている現場を目撃した者も多く疑う余地は全く無かったからである


 「出来の悪い、うちの倅や娘の尻も叩いてもらえないものかね」

と言う言葉がダキア王国の街のあちこちで耳にするようになるのであった……


かくして、マノンは"大賢者の尻叩き"と言うダキア王国だけのマイナー伝説を大陸中に広める事となってしまったのであった……当然、本人は全く予想もしない事である






第137話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ➅ ~



ブリジッタの店を出ると私はサボンへと向かうために港の海沿いの通りへと出る

爺は何も言わずに沈黙を保ってる、肩にパックの重みを感じるので認識阻害の魔術を発動したままのようだ

今は、何も言わずにそっとして置くのが良さそうだ


通りすがりの若い男性にサボンへの道を尋ねる

どうやら……サボンの村はペントンから4ゲールほど山に入った所にあり、ここからそう遠くはないが山道なので注意した方がよいとの事であった


私は黙々と山道を一人で歩いて行く、狭くて曲がりくねった上り下りの多い山道ではあるが路面はキチンと整備され歩き易い道である


一時間ほど歩くと山間のなだらかな斜面に家々が立ち並んでいるのが見てくる

どうやら……あれがサボンの村のようである


村に入ると長閑な村の雰囲気が伝わってくる、戸数は50戸程で観光客や旅人の姿は全く見当たらない……どうやら、爺の言う通り穴場の温泉のようである


ふと、私の頭に不安要素が浮かんでくる

 "もしかして……宿屋も食堂も無いのでは……"

私は急いで村の中を見て回ると宿屋の看板を見つける

 "あったっ! 良かった……これで野宿しなくて済む"

私は胸を撫で下ろし宿屋に入って行くと40代前後の中年の男性と女性が対応してくれた


 男性の身の丈は165センチ程で黒髪の瘦せ型、女性は160センチ程で金髪のショートヘアでかなり太っている

 二人とも人の好さそうな感じがする


 私が宿泊したいと言うと快く受け入れてくれた

 宿屋と言うよりは民宿に近い感じである、母屋の隣にある納屋の2階部分を改造して2部屋が作られている……今日の宿泊客は私だけであるであった


 ○○の宅急便の主人公が貸してもらった部屋ような作りである

 宿屋は副業で、本業はダキア王国の主食のポテになる芋を栽培している芋農家である……村の近くの山の斜面には一面の芋畑が広がっている 


 部屋は質素な作りであるが寝泊まりするには十分な部屋である

 何よりも驚いたのは、その料金の安さである……1泊3食付きで50ガリア・フラン(4000円)である……王都の素泊まり食事なしの宿屋の半額以下である


 "本当に何もかもが安いな……"

 "王都ガリアンの方が建物も立派だし人も多いし物も豊富だけど"

 "ダキア王国の方の人々の方が時間も心にもゆとりがあるように感じるな……"

ガリア王国よりもダキア王国の方が時間がゆっくりと流れているような気がするマノンであった


 荷物を降ろすと、ずっと沈黙を続けている爺に話しかける……勿論、温泉の事を聞くのである


 "ねぇ……少しいいかな……"

私は肩に止まっているパックの方を見て話しかける


 "ああ、すまん……温泉の事じゃろ"

 "お目当ての温泉はこの村の近くの山の中にある"

爺がそう言うとパックは私の肩から飛び立ち窓枠に止まる

 "あそこに天辺が凹んだ山が見えるじゃろ"

 "あの山の麓に温泉がある"

パックが見ている方を見ると、確かに天辺の凹んだ山が見えるのだが……


 "あれって凄く遠いんじゃないの……"

私は不安そうに爺に言う


 "あの山の麓じゃからの……距離にして……"

 "ここからじゃと……2ゲールぐらいかの"

爺は何事も無いような口調で言う


 "また……山道を歩くんだね……"

私は温泉に入りに来たというよりは登山に来たような気分になるのであった



私は一人で山道を歩いている、爺は何やら用があるようで村に残っている

温泉への山道は整備されておらず歩き難い……


爺の言った通りに歩いていると何やら大きな岩がゴロゴロした場所に出る

この辺りに秘湯があるはずである


岩の間に入って行くと何やら暖かい空気が流れてくる

 "コレは……間違いない"

いつもの通りなら匂いで分かるのであるが今回は全く分からなかった

 "爺の言っていた通りだ……"

大陸でもここにしかない硫黄の匂いがしない泉質の温泉……


私は目の前に現れた完全な自然の温泉に目を見張ると人らしき姿がある

どうやら……誰か先客がいるようである

 "地元の人かな……まぁ……いいや……"

 "ダキア王国も混浴が当たり前のようだし……"

予め爺からダキア王国の温泉マナーは一通り聞いてる


私は服を脱ぐと背負っていたリュックと一緒にを岩陰に隠し温泉に入る

透明でサラサラした泉質は今まで入ってきた温泉とはまるで違っている

暫くすると体に無数の気泡が付いている

 "これが爺の言っていた、炭酸泉ってやつなのか……"

 "爺の話だと血行を良くする効果があるとか言ってたな"

体に着いた気泡を手で触ると簡単に取れるがすぐに気泡が付いてくる

 "何だか……楽しいな……"

私は体に着いた気泡を手で触って遊んでいると、人の声がする

声からして、若い女性のようである

 "もう一度、性転換して女性になった方が良いかな"

などと考えている間にすぐ傍までやってくる

 "間に合わないや……"

このまま、男の姿で対応するしかなそうである



 「こんにちは、見かけない顔ね……」

 「旅の人、ここ初めて」

初対面なのに気さくに話しかけけてくる、私はゆっくりと声の方に振り向く

そこには私と同じぐらいの年齢の女子が立っていた


別段、恥ずかしがることも無く、私が男子だからと言って警戒している様子もない

歳の頃なら17~18ぐらい、背丈は167センチ程の普通体型で黒髪のロングヘア、大きな胸に大きなお尻、くびれたウエスト……顔かたちは普通だが、かなかなかのナイスバディである


彼女の体付きや筋肉の付き方を見て何か武術の心得があるような感じがする

 「初めまして……」

私は、愛想笑いを浮かべると挨拶をする

 「おっしゃる通りの旅人です」

 「この温泉の事は知人から聞きまして……」

 「何でも大陸にもここにしかない温泉だと言うのものですから」

 「知人の言う通り不思議な温泉でする」

私は体に着いた気泡を手で触るとプクプクとお湯に泡が立つ


 「そうでしょう、私も初めての時は驚いちゃった」

 「あっ! 私は"カルラ・コルネート"よろしくね」

そう言うとカルラはにっこりと微笑んだ


 「私は"マノン・ルロワ"です……こちらこそよろしく」

 「ガリア王国の王都ガリアンから来ました」

私も自己紹介するとにっこりと笑う

私の方を見ていたカルラが"えっ"と言う表情になる


 「もっ! もしかして……男の人なの……」

カルラの態度が急に余所余所しくなる

私は、王都ガリアンと言う遠方から来たことに驚いたのかと思っていたので予想外のカルラの言葉だった


 「そうですが……」

私は少し悲しそうに答える

 "女に性転換してたら男と間違えられたんだろうな……きっと……"

私は心の中で嘆きながらため息を吐く

 「……よく間違えられるんですよ……」

 「いつもの事ですから……」

私は愛想笑いをしながらカルラに気にしないように言う


 「そう……」

カルラはそう言うと私の頭から足の指先までを観察するかのようにジッとみている

何だか、私は少し恥ずかしくなってくる

 「ごめんね……この村に若い男なんて殆どいないから……」

 「少し慌てちゃったのよ……」

カルラは少し照れ臭そうに後ろ頭を掻きながら言う……どうやら、私を女と勘違いした事には全く違和感がないらしい

悪気は全くないと分かってはいても何処か心の片隅が痛むマノンであった



 カルラと暫く話をする……



 本当は、もう少し早くここに来る予定だったが……さる高貴な方が来ていたので時間を遅くしたそうである

 その高貴な方が"アメリー"の事だと私には分かった


 カルラは移住者で出身はイベリア王国、3年ほど前にここに移住してきたようである

 今は、空き家と畑を無料で借りて芋農家をしているとの事


 どうして、遠くのこの村に来たかについては話もしなかったし、聞く気も無かった……

 何か、理由があるのだろうが、相手が話さない限りこの事には触れないし聞かないのがこの世界の旅人のルールのような物である


 我々の日本と同じく、この世界でも御多分に漏れず地方の山村では過疎化が進んでいるようで、村の若者たちは年頃になると村を出て行くそうである

 ただ、この村は他国からの移住が多ので村も受け入れ態勢が整っており今では住民の過半数が移住者という事である

 皆それなりの訳があってここに移り住んできた者達ばかりであるが相手が話さない限り詳しい事は聞かないし勘ぐらない事がこの村の掟だそうである


 「みんな、この村の雰囲気が好きな連中ばかりよ……」

 「私もそうなんだけどね……」

そう言って微笑んだカルラの表情は本当に幸せそうに見えたマノンであった

 「私ね、この村に来るのでは農業なんかしたことも無かったの」

 「……っていうより土に触ったことも満足になかったわ」

 「この温泉は疲れた私の体にとっては最高の癒しなのよ」

 「という訳で初めの1年は筋肉痛やらなんやで苦労の連続よ……」

 「今年なってやっとこさ芋農家になってきたかなっていう感じ……」

そう言うとカルラは笑う……でも、その表情は満足げだった……


 "引き締まった体は武術じゃなくて農作業のせいなんだ……"

私は、楽しげに話すカルラの体を見ていて思うのであった


 「何見てるの……」

私の視線に気づいたカルラが疑惑の視線を向ける


 「カルラさんって凄く鍛えられた体をしているので……」

 「武術の心得でもあるのかと思っていたんだけど、そうじゃなかったんだね」

私は疑惑の視線を向けるカルラにそう言うと


 「ああ~、そう言う事ね……」

 「自慢じゃないけど……3年前はブヨブヨの体だったわよ」

 「それに、今よりも太ってたしね……」

カルラはそう言うと自分の両掌を握ったり広げたりしている

 「多分、3年前の私を見たら今の私だとは分からないと思うわよ」

そう言うとカルラはケラケラと笑う


 「そんなに変わったの……」

私は興味深そうに聞く


 「そうね……体よりも、心……気分の方がもっと変わったかな」

カルラはそう言うと少し黙り込み小さなため息を吐くと何かを話し始めた

 「こう見えても、私……貴族のご令嬢だったのよ」

そう言うと自分の身の上話を始めた

 

カルラの家族はイベリア王国のスカーナ地方のある下級貴族だった

決して裕福ではなかったが領民と関係はとても良好だったそうである

 

しかし、4年前に渇水による大凶作があり領民は飢えに苦しんだ

見るに見兼ねたカルラの父親は国の倉庫を解放し蓄えられていた食料を領民に配布した

それに、腹を立てた国王のテオドロ・カデーナ三世はカルラの父親を反逆者とし軍を送り込んでくる

カルラは領民の助けを借りて船でイベリア王国を脱出し逃げ伸びたが、カルラの父親と兄は自分たちまで逃げると領民がその責任を取らされる可能性があるとして館に残った

後に、風の便りで父と兄は処刑されたという事を耳にしたそうである



 「まぁ、その無慈悲な国王も"大賢者の呪い"で一族郎党、地獄行きなんだけどね」

 「大賢者様には感謝してるわ……」

 「家族の仇を取ってくれたとかじゃなくて……」

 「イベリアの人々を解放してくれたことにね……」

 「今ではイベリア王国も随分と住み良い国になったて聞いてるしね」

カルラは話を終えると大きな伸びをして空を見上げる

 「不思議ね……どうしてこんな事、話しちゃうんだろう」

カルラは私の方を見て微笑んだ

 「あなたも、訳アリね……」

 「何となくわかるのよね……」

そう言うとカルラは私の顔を覗き込む

 「私……会ったばかりの貴方にすごく興味があるの」

 「どうしてかは、自分でも分からないわ」

カルラはそう言うと少し照れ臭そうに後ろ頭を掻いた……

どうやら、こう言った時に後ろ頭を掻くのはカルラの癖のようである

この事から、カルラは本心で言っているという事が私にはわかる


私は少し悩んだが、本当の事を話しても良いのではないかと思い始める

 "こんな時は、爺やアレットさんだったらどうするのかな"

などと考えていたがカルラの目を見ているとどうでも良くなってくる


 「もし私が……"大賢者です"って言ったら信じてくれる」

私の言葉にカルラは口をポカンと開けて唖然としている

 "やっぱり無理があるよね……"

私は諦めたように心の中で呟く


 「そう……」

カルラはため息を吐くと失望したかのように言うと、軽蔑したような目で私を見る

 

 「そんな目で見ないでよ」

私が嫌そうに言う


 「だってさ、ふざけているようにしか聞こえないじゃない」

カルラは私を細い目でジッと見る……気まずい空気が流れる


 「仕方ないか……」

私はそう呟くとスッと立ち上がりカルラの目の前で性転換を始める


 「ええっ!!!」

カルラは我が目を疑うしかなかった

 「あっアレが無くなって、胸が……胸が……」

カルラは目の前で起きている事が理解できずに完全に混乱している


 「どう……信じてもらえた」

 「この事は、カルラと私だけの秘密だよ……」

私がそう言って問いかけるとカルラは何度も大きく頷く


 「本物の"大賢者様"……」

カルラは呆然と私を見ているといきなり私の胸を掴んだ


 「ひっ! ちょっと! 何するのよっ!!」

いきなり胸を掴まれて吃驚している私を他所にカルラは自分の手の感触を確かめている


 「この感触……本物だわ……」

私の胸の感触を確かめるように言う

 「凄いわね……ホントに何でもできちゃうんですね」

カルラは私の顔をジッと見る

 「でも男の時より、女の方が凛々しくてカッコいいですね」

そう言うとカルラは私の方にゆっくりと近付いてくる


私は少し身の危険を感じてしまう

 「そんなに警戒しないで下さい……もう、胸を触ったりしませんから」

そう言うとカルラは私に頭を下げる


 「この度は、イベリアの民を解放して頂き……」

 「誠に感謝しております」

 「イベリアの全ての民に成り代わり、厚く御礼申し上げます」

凄く丁寧なカルラの言い回しに、私に彼女がかつて貴族のご令嬢だった頃を思い起こさせるのであった

 "それにしても、どうして初対面の人に正体を明かしてしまったのだろう"

自分でもどうしてなのかよくわからないマノンであった……



かくして、マノンはカルラに凄く気に入られてしまうのである

(勿論、それはカルラにとっては"交わり"の相手としてである)


いつものことながら……

この邪な下心(欲望)の無さが返って多くの女性たちの安心感と危機感の両方を煽るのである

当然、本人はそんな事は全く気が付いていないのである



そして、カルラの猛烈な求愛行動が始まる事となるのである……



第137話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ➅ ~


終わり


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