第135話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ④ ~
第135話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ④ ~
序章
アメリーはダキア王国へと帰路に就くガレー船の船上で海を見つめながらマノンの事を考えていた……
漕ぎ手がオールのタイミングを合わせるためのドンドンという太鼓の音が聞こえてくる
マノンと別れたアメリーは森の中に入ると、すぐに倒れている3人を見つける
"この3人……確か……護衛の騎士……"
"どうしてこんな所で倒れているの……"
倒れている3人が護衛の騎士であることに気付いたアメリーは死んでいるのではないかと不安になり慌てて駆け寄る
"息はしている……気を失っているだけなの"
倒れている騎士の体には傷らしきものは見当たらなかった
アメリーはとりあえず一人の体を軽く揺すってみる
「ふぁ~……」
眠そうな声を上げて目を覚ます
「あっ! 姫様……どうしてここに……」
「いったいどうしたんだ……私は……」
目を覚ました騎士は何が起きたのか分からないよで混乱しているようだ
「他の二人は大丈夫なの」
アメリーはそう言うとすぐ傍に倒れている二人に目をやる
混乱していた騎士は正気になると慌てて隣で倒れている二人に声を掛ける
「あっ……何だ……」
残りの二人も目を覚ますとゆっくりと起き上がる
「……」
二人とも何が起きたのか全く分からずに困惑している
「あっ! あの男はっ!!!」
一人の騎士が何かを思い出したように叫ぶ
「姫様、無事で何よりです」
そう言うと急いで木陰から洞窟の様子を窺う
「もういないのか……」
そう呟くと他の二人も安心したかのようにため息を吐く
「3人とも怪我もなさそうだし船に戻りましょう」
アメリーがそう言うと3人は顔を見合わせると服に付いた土や枯葉を叩き落とす
狐にでも化かされたような気分で船に戻っていく3人であった……
そんな3人の姿を後ろから見ながらアメリーは心の中で呟く
"これって、間違いなくマノンさんの相棒の仕業よね"
"この3人は護衛の騎士の中でも特に腕の立つ者……"
"そんなのが気付く事すら出来ずに倒されるなんて"
"しかも、傷一つつけていない……"
そう考えただけで恐ろしくなるアメリーであった……
"ただ者ではない事は確かよね……"
"こんな事が出来るなんて……もしかしたら……"
"マノンさんの相棒って……"
アメリーの頭にはある人物の名前が思い浮かぶのであった
第135話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ④ ~
ダキア王国の港で、ひと騒動を起こしてしまったマノンは途方に暮れていた
"これから、どうしようかなぁ……"
私が困り果てていると爺の声が聞こえてくる
"とりあえず男に性転換して……"
"身なりを変えれば誤魔化せるんじゃないかの"
今は私にも爺の言っている事以外に思いつく方法が無かった
ご自慢の"認識阻害の魔術"も狭い船の中で何時間も姿を消し続けることは難しいからだ……気付かれた場合、狭い船の上だと逃げることも隠れることも出来ない
とりあえず、男に性転換するといつも愛用している茶色のローブをリュックに収めて明るい青い色の上着を羽織る……
これは、自分で錬成した魔装服である……中性的なマノンの容姿もあり女子のように見える
少なくとも、港で騒動を起こした同一人物とは思えない事は確かである
マノンはそのままゆっくりと港の船着き場の方へと歩いていく……
肩には姿を消したパックが乗っかっている
ついさっきコレットやお付の騎士たちと騒動を起こした場所にはもう誰もいなかった
乗船券を見せて何事も無く、無事に高速船に乗り込むと船は出航しペントンへと向かって航海を始める
じつはマノンは、今までこのような大きな船に乗った事がないので少し楽しみにしているのである
"思ったより上手く行ったね"
私の肩の上に乗ったまま姿を消しているパックの爺に話しかける
"少し魔力を使い過ぎたようじゃから"
"あまり長くは持たんかもしれん"
爺は少し不安そうに言う
"だったら、私が術を発動してパックと一緒に姿を消すよ"
私はそう言うと認識阻害の魔術を発動する
"すまんのう……"
"暫く、お前さんの肩の上で休憩し少し魔力を回復するからの……"
爺はそう言うと自らの術を解除し休息モードに入ったようだ
私は何することも無く、ただ暫く海を眺めていると太鼓の音と船が波を切る音に交じって他の乗客の話し声が耳に入ってくる
「ついさっき、港で騒動があったらしいな」
「なんでも、コレット王女がこっ酷い目に合ったらしいぞ」
小太りの中年男性がうわさ話をしているのが聞こえてくる
「あの暴君姫がか……」
「どんな目にあったんだ」
もう一人の痩せた背の低い中年男性が興味深そうに尋ねると、小太りの中年男性は笑いそうになりながら話し始める
「なんでも、いつものように通りすがりの男に難癖付けたらしいんだけどな」
「その男がめっぽう腕の立つ騎士だったようでな……」
「お付の騎士諸共に仲良く皆、尻をブッ叩かれたらしいんだ」
そう言うと小太りの中年男性は必死で笑いをこらえて続きを話し始める
「それでな、コレット王女はスカートを捲り上げられパンツを脱がされてな」
「生尻をこれでもかっていうぐらいに叩かれまくったって話だよ」
そう言うと小太りの中年男性はこらえきれずに笑い出す
「本当かい……それ……」
「その騎士様は、そんな事して大丈夫なのかい」
痩せた背の低い中年男性が心配そうに尋ねる
「それがさ、忽然と姿を消したって話だよ」
「皆、"大賢者様"じゃないかって噂してる」
「本当に"大賢者様"ならあの暴君姫もとうとう年貢の納め時って事だな」
「それに、あの暴君姫でも"大賢者様"が相手じゃどうすることも出来まい」
「いゃ~、大したもんだ……流石は"大賢者様"だよ」
「あ~俺もあの暴君姫が生尻を叩かれているのをみたかったなぁ~」
そう言うと小太りの中年男性は嬉しそうに腕を組んで満足そうに何度も頷いている
「それが本当に"大賢者様"ならコレット王女は……」
「例の"大賢者の呪い"が掛けられているんじゃないのかい」
痩せた背の低い中年男性は怯えたように言う
「それは無いらしい……」
「"大賢者の呪い"の事は口にしなかったて話だよ」
「どうせなら、特大の"呪い"をくれてやって欲しかったよな」
小太りの中年男性が悔しそうに言う
「あまりそう言う事は、こういう所ではいない方がいいぞ」
「誰に聞かれるか分かったもんじゃない」
痩せた背の低い中年男性がそう言うと小太りの中年男性は慌てて辺りを見回す
「そうだな……そうするよ」
小太りの中年男性は笑うのを止めると真剣な口調て言うのだった
"あの姫様、随分と民衆から嫌われておったようじゃな"
"何にせよ、暫く女の姿にはならぬ方がよさそうじゃな"
"儂は船のマストの先で休むことにするわい"
爺がそう言うとパックは私の肩から飛び立ち魔術を解除するとマストの先端に止まるのが見える
私も認識阻害の魔術を解除すると、適当な場所を見つけて座り体を休めることにした
"ああ~お腹が空いたな……"
"もう、とっくに昼飯時を過ぎている"
そんな事を考えているとマノンのお腹は"グゥー"という悲鳴を上げるのであった
"性転換するとお腹も凄く減るんだなぁ~"
マノンは悲鳴を上げるお腹を擦り空腹に耐えながらペントンに付いたら何を食べようかと考えているのであった
そして、船の漕ぎ手のタイミングを合わせる太鼓の音とマノンのお腹の音が絶妙なタイミングでハーモニーを奏でているのであった
あれからどの位の時間がたったのだろうか……
空腹の中でも私は眠りについていたようである、目の前に美味しそうな"鳥の丸焼き"がある
"ああ~美味しそう……"
私がそれを手に取り食べようとすると"鳥の丸焼き"が暴れて何か言っている
"どうして、鳥の丸焼きがしゃべるんだろう……"
ふと、目を覚ますと私はパックの首を掴み食べようとしているのであった
"危うく食われるところじゃったわいっ! "
爺は息も絶え絶えに死にそうな声で言う
"ごめん……寝ボケけていたみたい"
爺に素直に謝るマノンであった
"それより、もうすぐペントンに着くぞっ!"
爺がそう言うとパックがくるりと体の向きを変える……
その方向には港が見えているのであった
"港に着いたら何でもいいから何か食べよう"
マノンの頭の中から温泉の事は完全に消え、目先の食べ物の方に行っているのであった……
第135話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ④ ~
終わり