第133話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ➁ ~
第133話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ➁ ~
序章
マノンはよく寝る……
とにかくよく寝る……
それにはちゃんとした理由がある……
魔法工房の実験室の鏡の前で裸のまま座り込み打ちひしがれているマノンに爺が申し訳なさそうに話しかける
「すまんが……」
「もう一つ言っておきたい事があるんじゃがの……」
爺の言葉に涙と鼻水にグチョグチョになった顔をパックの方に向ける
「なんちゅう顔しとるんじゃ……」
「とりあえず温泉にでも入ってくるがよい」
「話はその後で構わぬ……図書室で待っておる」
爺がそう言うとパックは飛び去って行くのであった
その爺の言葉に甘えるように私は温泉に浸かっている
「はぁ~」
「私の体って一体どうなっちゃったんだろう……」
得体の知れない不安に襲われるマノンであった
私が図書室に入るとパックは餌を啄んでいた
「おおっ 戻ってきたか……」
「話と言うのはじゃな……」
「その……」
爺の意志とは全く別にパックは無心に餌を啄んでいる
「膨大な魔力量にお前さんの体が追い付いておらぬ」
爺はいきなり結論を言う
「へっ?」
私は爺の言っている事がよく分からずに凍り付いてしまう
「ああ……すまんかった」
「結論を急ぎ過ぎたわい……すまん、すまん」
爺は少し恥ずかしそうに謝ると詳しく事を話してくれた
爺の分析によれば、私は桁外れの魔力容量がある代わりに身体的な負担が大きくそのために体力の消耗が激しく人より多くの休息を必要とするらしい
その最たるものが睡眠である、それ故に深刻な悩み事があったり、ここで寝ては絶対にいけないと言う時にでも直ぐに寝てしっまたりするだそうだ
言われてみれば、魔力を多く消費するとその日はすぐに眠ってしまう事がよくある気がする
「なにか、害はあるの……」
私は一番心配している事を爺に問う
「……んん……」
「全く害がないわけではない……」
爺は少し口を濁すので私は不安になる
「やっぱり……」
私は諦めたように言うと爺は続きを話し始める
一度に大量の魔力を使ったりするなど一定量を超えると魔力行使時の負荷に身体的に追い付かず体に何らかのダメージを受ける事になるのだが……
それを瞬時に修復することができるようになっているらしい、その代償として休息時間が必要となり節操のないKY爆睡体質になってしまったとの事である
とういより、身体的なダメージを回復させるために本人が気付かぬ間に驚異的な再生能力を会得してしまい、不死身の肉体と性転換能力はその副産物とし得られたとの事だった
「そうなんだ……」
私は爺の言葉に素直に納得するほかなかった……
マノンには、ふと疑問に思った……
"私って歳を取るのかな……"
"どの位、長生きするんだろう……"
マノンはこの質問を爺に問う事はしなかった……
それは、本能的にマノンが知りたくなかったからかもしれない……
例え、質問していたとしても爺にも答える事が現時点では出来なかった
既に自分は人間ではないような気がしているマノンであった
黙り込んでいるマノンに爺が話しかける
「どうじゃ、この三連休……」
「暇なら……辺境の鄙びた秘境の村にある秘湯にでも行かんかの」
爺の言葉に無意識に反応してしまう
「行くっ!!」
"辺境の鄙びた秘境の村にある秘湯"と言う爺の言葉に、無意識のうちに即答してしまうマノンであった……
第133話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ➁ ~
ここは少し前に亜麻の布の件で訪れたバイユーとは逆方向のピオ-ネ山脈南側の端……ガリア王国の南西部の隅……
疲れを癒すために訪れた辺境の地……
爺の話では人知れずの秘湯がある小さな鄙びたリゾラムと言う村のはずだったが……
"何なのよ……この人混みはっ!"
"完全に観光地じゃないのよっ!!"
私は爺から聞いていた話とは全く違う光景に怒りを爆発させる
"おかしいのう……"
"確か……儂の記憶では茅葺農家が15軒ほどのはずじゃが……"
爺も目の前の光景が信じられないようである
"もしかして……"
"それって、何年前の話なの……"
何となく嫌な予感がしてくる
"んん~300年ほど前かの……"
爺は少し考えると自信なさげに言う
"そうだった……"
"爺の記憶は300年ぐらい前で止まっているんだった"
私が後悔の念に囚われていると肩に乗っていたパックが空高く飛び立つと上空を円を描くようにくるくると回るように飛んでいる
暫く飛び回った後で降りてくるとパックは私の肩に止まる
"儂の言っていた秘湯はここではないぞっ!"
"ここから少し離れた山の中のようじゃ"
爺がそう言うと肩に止まったパックが進む方向に首を前後させる
私はパックの首が指し示す方へと歩いて行くのであった
「まだ……着かないの……」
歩き始めて、かれこれ1時間近くが経っている
既に辺りに人家はなく獣道のような険しい山道を歩いている
すると、何処からともなくアノ匂いがしている
「この臭いはっ!」
マノンの嗅覚は温泉の匂いを嗅ぎ分ける事が出来るのである
重かった足取りは一気に早くなり温泉の匂いの方向へと近づいていく
「あった……」
「ここなの……」
私の問いに爺が同意する声が聞こえてくる
爺の言葉に嘘はなかった……
大きな岩と岩の間に挟まれ洞窟のようになったところの窪みからコンコンとお湯が沸き自然の大浴槽となっていた……
「これ……いい……」
私は感動して呟くとさり気なく辺りを見回す
「お前さんは、ゆっくりと湯に浸かるが良い」
「儂はちょっと、この辺りを散歩してくるからの」
爺がそう言うとパックは森の方へと飛んで行った
「ありがとう……あまり無理はしないでね」
そう言ってパックを見送ると私はいそいそと服を脱ぎお湯に浸かる
「はぁ~いいお湯~」
「でも、結構……深いね……」
岩と岩の間に出来た自然の浴槽は深さが1メートル以上はある
静かな空間と風の通り草木を揺らす音がマノンの心を癒す、そして険しい山道を1時間歩いた後でもあり肉体的にも癒されるのであった
暫く温泉に浸かり微睡んでいると、洞窟の奥の方に人影らしきものが見えた
「えっ……誰かいる」
私が驚いて声を上げると薄暗い洞窟の奥の方から人影がこちらに近付いてくるのがわかる
「えっ……どうして……」
「そこに誰かいるの……」
私の事を呼ぶ若い女性の声がする、どうしようかと戸惑っている間に直ぐ傍まで来てしまった
「驚いた……私のほかにもここを知っている人がいたのね」
そう言うと若い女性は私の顔を見てクスッと笑った
「私は"アメリー・コルネイユ"よろしくね」
初対面なのに人見知りすることなくフレンドリーに話しかけてくる
「あ……私は"マノン・ルロワ"と申します」
全く人見知りしないその態度に少し驚いたが親しみの持てる人だと直感する
「地元の方ですか」
私はアメリーに問いかける
「そうよ……」
「あなたは……どうなの……」
そう言うアメリーは私の方をジッと見る
「いいえ、王都から来ました」
そう言うとアメリーは"えっ"と言わんばかりに驚いた表情をする
「王都って……そんな遠い所からここまで……」
「何しに来たの……」
「それも、一人で……」
アメリーは私が王都からたった一人でこんな所に何をしに来たのかが気になるようだ
「別になんて用はありませんよ」
「この辺りに秘湯があると知り合いから聞いたので」
「話のネタにでもと思い足を運んだだけです」
私がそう言うとアメリーは呆気にとられた表情をする
「モノ好きなのね……」
アメリーはそう言って私の顔を覗き込むとクスっと笑う
「ところで……あなた……男なの女なの」
不思議そうに私の顔を見ている、洞窟で薄暗い上に深い温泉なので肩までお湯に浸かっているの姿も顔立ちもよく分からないのである
「私は……」
私は男だと答えようとしたのが、アメリーに妙な警戒心を抱かせないためにもここは女だと答える方がよいと判断し性転換することにした
「私は女よ……」
私がそう言うとアメリーは不思議そうな顔をする
「えっ……そうなの……」
アメリーは意外そうな顔をする、どうやら私を男子だと思っていたようである
「私も女よ……」
アメリーは自分が女であることを何故か強調する
「それは……声でわかります」
私はそう言うとアメリーの方をジッと見る
「あっ、あんまり見ないでよね」
アメリーは少し恥ずかしそうな態度をとる
「自分で言うのもなんだけど……」
「私……よく男と間違えられるのよ」
「その理由は……」
アメリーは少し言い難そうに話すと、途中で言うのを止める
私はアメリーの言わんとする事、どうして途中で言うのを止めたのかを何となく直感で理解した
"間違いない……この子は同胞だ……"
私はアメリーが自分と同じような悩みを抱えているのだと確信しいていると
「少し熱くなってきたわね……」
そう言うとアメリーは洞窟の出口の方に行くと温泉から上がる
温泉から上がったアメリーの裸体が私の目に映る
"えっ……"
温泉から上がったアメリーの裸体を見て私は驚きを隠せなかった
綺麗な長い黒髪に括れたウエスト……私の予想に反し、どこから見ても立派な女子だった
しかも、清楚な顔立ちの美人(大和撫子のような感じ)である
"裏切られたっ!"
私は身勝手に心の中でそう叫ぶが……
"あれっ"
私の視線はアメリーのある部分に釘付けになる
"無い……胸が無いっ!"
見事なまでにペッタンコのアメリーの胸を見て私は嬉しくなる
"やはり……アメリーは我が同胞だっ!!"
"私の勘に狂いはなかったっ!!"
私は心の中で歓喜の声を上げる
「ちょっと……あんまり見ないでよ」
私の視線が自分の胸に向いているのに気付いたアメリーが恥ずかしそうに胸を隠す
「凄く、気にしてるんだからねっ!」
アメリーは少し不機嫌そうに言う
「ごめん……」
「私もあなたと同じようなものよ」
私はそう言うとアメリーの傍に行き温泉から上がる
「凄っ!!!」
温泉から上がった私の裸体を見てアメリーが驚きの声を上げる
「マノンさんって……騎士かなにかなの」
私の体をジッと見ながら問いかけてくる
「まぁ……あまり詳しい事は聞かないでね」
私がそう言うとアメリーは軽く頷き笑顔を見せた
「こんなのだから、皆に男だと思われるのよ」
そう言って私は少し苦笑いをする
「だから……アメリーの気持ちは何となく分かるのよ」
私がそう言うとアメリーもコクコクと首を何度も縦に振り頷くのであった
暫くの間、温泉に足を付けたまま二人で話をする
アメリーが髪の毛を長く伸ばしたのは男と勘違いされないためだそうだ
"結局、男は乳なのよっ!!!"というアメリーの言葉が印象的であった
アメリーは他にもいろいろとこの辺りの話を聞かせてくれる……
この辺りは少し前(10年程)までは温泉があるぐらいで他には何もない辺境の集落だったのだが、その温泉に療養効果がある事が分かり徐々に湯治客が訪れるようになり
やがて、多くの人々が湯治目的で訪れるようになると宿ができ、湯治客目当ての商店や飲食店が立ち並びいつの間にか観光地になってしまったとの事である
この洞窟風呂は、あまりにも険しい山の奥にあるので地元の人ですら滅多に来ない超穴場なのだそうだ
アメリーがこの温泉に来るのは人目を気にせずにゆっくりできるから……
らしいが何か、他に理由があるような気がする……
そう思いながらも私はアメリーに何も聞いたりはしなかった
「そろそろ、帰り支度をしないとね」
そう言うとアメリーは立ち上がり岩陰に隠してあった荷物の入ったリュックを引き出してくる
「マノンはどうするの」
アメリーは着替えながら私の方を見る
「私も相棒が帰ってきたら帰り支度をしようかな」
パックが飛んで行った森の方を見て私が言う
「誰か連れがいるんだ……」
「お先に失礼するわね……お連れさんによろしくね」
アメリーはそう言うと荷物を背負い森の方へと歩いて行った
「爺……そこにいるの」
アメリーの姿が見えなくなると岩陰に向かって話しかける
「気付いておったのか……」
爺声がすると岩陰からパックが姿を現す
「ねえ、森の方に街に抜けられる道はあるの」
私が爺に問う
「無いの……あの森を越えればすぐに海じゃからの」
爺の言葉に私はアメリーが何者なのか不安を感じるのであった……
第133話 ~ 大賢者・マノン・ルロワ ➁ ~
終わり