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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第131話 ~  光を導く者の日常  ④  ~

  第131話 ~  光を導く者の日常  ④  ~


 序章



 南側の魔力変換炉の遺構から魔法工房に戻った爺は実験室へと向かう

 もう一つの気掛かりであるマノンの体についての事である……


 爺はマノンの抜け落ちた髪の毛を実験材料としていろいろと調べ実験を繰り返していたのである

 "やはり……そう言う事か……"

実験装置の中のマノンの髪の毛の様子を見て呟く

 "早々に手を打たねばならんな……"

 "しかし、どうやって……"

爺は考え込んでしまうのであった

 "あ奴にも、説明せねばならんな……"

 "儂の取り越し苦労であればよいのだが……"

爺がそう呟くとパックは転移ゲ-トへと飛んで行くのであった





  第131話 ~  光を導く者の日常  ④  ~




その頃、マノンはアレットの家を出て夕日の中を王立アカデミ-へと向かう途中であった

シルビィ王女のご懐妊を祝して教会からは大きなタペストリーが入口に掛けられ多くの人々がそれに祈りを捧げている


 シルビィの出産と生まれてくる子供の無事を祈っているのである


 この時代は出産に伴う母体の死亡率は決して低くはない、また同時に生まれてきた子供の存命率は逆に高くはないのである

 王国に跡取りが出来るという事は国が安定する事でもあるのだが、最悪の場合、シルビィと生まれてくる子供の双方が命を落とすという事も考えられるのである

 そうなると、王国は大変な事になり自分たちの平和な日常が失われてしまう、そんな切実な平民たちの願いも込められているのである

 そうならないために、こうして多くの平民たちが真剣に祈りを捧げているのである

 

 

 私はそんな様子を横目で見ながら王立アカデミ-へと歩いて行くと広場の高札が目に留まる


 "シルビィ王女のご懐妊を祝し、

  休日明けよりの三日間を祝日とする"


と書かれいてる


 「えっ……休み……」

朝寝坊のマノンはこの事を今の今まで知らなかったのである

 「だったら……このまま魔法工房の温泉にでも入ろう」

マノンは広場の塔へと歩む方向を変える


階段を登り当の頂上に近付いてくると誰かがいるのが見える

 "困ったな……誰かいる……"

私が心の中でそう呟いた瞬間、その人物がこちらを振り向く

 "あっ! 拙いっ!!"

私は咄嗟に心の中で叫ぶと身を屈めようとする


 「なに、コソコソ隠れようとしてるんですかっ!」

何処かで聞いたような声が私に向けられる


 「えっ……アネットなの……」

意外な人物との遭遇に私は少し慌ててしまうと同時に嫌な予感がする

 「何か……用……」

恐る恐るアネットに話しかける


 「用があるからここで待っていたんです」

私はアネットの鼻息が荒さから嫌な予感が的中したと感じる

 「シルビィ様がご懐妊された事はご存知ですよね」

アネットは私に問いかけてくる


 「あ……知っています」

 「ご相手はたしか……」

 「そうっ! 古参貴族のジラール家のクレイマン・ジラールと言う人物だそうですね」

 「おめでとうございます!」

私は知っている事をそのまま言うと愛想笑いをするのだが……

そんな私をアネットはギロリと睨む


 「何言ってんですかっ! 」

 「このスットコドッコイっ!!」

アネットはいきなり私に食って掛かる

 「本当にそう思っているのですかっ!!! 」

 「シルビィ様のお腹におられるお子様は……」

 「貴方の子供ですよっ!」

 「覚えがないなんて言わせませんよっ!!」

私は予想外のアネットの権幕と言葉の意味に呆然とする


 「私の子供……ホントに……」

子供が出来難いと思い込んでいた私には、アネットの言っている事に若干の疑いと迷いを感じてしまう


 「そうです、古参貴族のジラール家のクレイマン・ジラールって人はとっくの昔に亡くなってますよ」

 「あれはお国の事情によるガセ情報です」

 「"大賢者"との間に子供が出来ると何かと不具合がありますから」

 「まぁ……あなたが知らないのも無理はあませんがね」

アネットはそう言うと小さなため息を吐く

 「この事は、本当は極秘事項なのですが……」

 「どうしても、あなただけには知ってもらいたかったのです」

アネットはそう言うと塔の階段を降りていくのであった 


マノンはそんなアネットの後姿を呆然といして見送るしかなかった

アネットの様子からこれは本当の事だと認識するまでに少しの時間を必要とするマノンであった

 "しかし、アネットの奴……"

 "極秘事項を漏らしてもいいのかな……"

マノンは無意識にアネットの立場を案ずるのであった


暫くの間、塔の頂上から夕陽を眺めているとパックが転移してくる

 「おおっ! 丁度いい所じゃった」

 「じつは……どうしたのじゃ……」

爺はマノンにいつになく元気がない事に気づき話しをする事を止める


 「あ……パック……」

 「私……お父さんになるみたいだよ」

 「シルビィのお腹に私の子供がいるみたいなんだ……」

マノンの言葉に爺は吃驚して言葉を失う


 「それは誠か……」

流石の爺も我が耳を疑っているようである

 「もし本当ならば、確認する必要がある」

爺はそう言うとパックが飛んでくると肩に乗る


 「これから行かないとダメなの……」

 「少し時間を貰っても構わないかな……」

 「やっておきたい事があるんだ……」

私の思い詰めた言葉に爺は逸る気持ちを抑える


 「まぁ……いいじゃろう……」

爺の了承を得ると私は魔法工房へと転移する

 

実験室の魔石錬成陣の前に来ると私は錬成陣に魔力を送り込み魔石の錬成に執りかかる

 "シルビィが無事に出産できますように"

 "無事に子供が生まれますように"

一心不乱に願いを込めて魔力を流し続ける

魔法陣はいつもよりも遥かに青白く光り輝きやがて魔法陣の中央に透き通った小豆程の大きさの真青の魔石が姿を現した


 "見事なものじゃな……"

 "純度は、ほぼ100%に近い……"

出来上がった魔石のクオリティの高さに爺も関心するほどであった


ポケットの銀貨で指輪を錬成し魔石を嵌め込む

広場の塔へ転移すると認識疎外の魔術を発動し王宮へと向かう


 "ここにシルビィがいるのか……"

警備の兵士に気付かれる事も無く王宮の内部へと侵入する

 "まるで泥棒みたい……シルビィは何処にいるのかな……"

広い王宮の中でシルビィの部屋を探すのは一苦労だった

案の定、王宮の中で迷い彷徨い歩く事となるが幸運にもアネットに遭遇することになる


認識疎外の魔術を発動しているのでアネットも私には気が付いていない

私はアネットの直ぐ傍まで近づくと小さな声で話しかける

 「アネット、アネット」

私の声に気付くが姿が見えないので、アネットは少し慌てている

 「ここだよ」

私はそう言うと認識疎外の魔術を解除して姿を現す


 「えっ!」

いきなり目の前に私が姿を現したのでアネットは驚いて大きな声を上げてしまう


 "なんだっ! 今の悲鳴はっ! "

アネットの悲鳴を聞きつけた警備の兵士たちの足音がこちらに向かって近づいてくるのが分かる

私は慌てて再び認識疎外の魔術を発動して姿を消す、集まってきた兵士の一人がアネットに今の悲鳴の事を尋ねる

 「すいません、目の前にG"ゴキブリ"が現れまして……」

 「いつ悲鳴を上げてしまいました」

 「騒がせて申し訳ございませんてした」

そう言って頭を下げると、兵士たちはその場を去っていく……

 

 "私はGなんかいっ!"

マノンは突っ込みを入れたい気持ちを押さえてシルビィの部屋が何処にあるのかをアネットに聞く


 "……なにか、シルビィ様にご用ですか……"

 "それにしても……なんですか……"

 "その肩のオウムは……"

アネットは迷惑そうに小さな声で周りに気付かれないように言う


 "このオウムはパックていうんだ……"

パックに驚いているようなのでいつもの癖でパックの事をアネットに紹介してしまう

 "シルビィに渡したいものがある……"

 "出来れば、少し話がしたい……"

私がそう言うとアネットは少し考える


 "わかりました……あまり、時間は取れませんが"

 "なんとかしましょう"

アネットはそう言うと私をシルビィのいる部屋まで案内してくれる

部屋の前には警備の兵士が二人立っていた


アネットがシルビィの部屋のドアをノックすると中から女官の声がしてドアが開く

控えの間には3人の女官が待機していた


私はアネットの後ろにピタリと着いていき控室に潜り込む

 "困りましたね……"

アネットの呟く声が聞こえてくる


 "大丈夫だよ……"

私はそう言うと眠りの魔術を発動する3人の女官はすぐに眠ってしまった

 "これでいいかな"

アネットの方を振り向くとアネットも爆睡している

 "こいつ……意外と単純なんだな……"

寝ているアネットを軽く揺すって起こす


 "はへっ~"

目を覚すと口の涎を手で拭い少し恥ずかしそうにする

 "シルビィ様の部屋やあちらです"

アネットの示す部屋のドアを開くと椅子に座っているシルビィの姿が目に映る


 「シルビィ、久しぶり……」

私が話しかけるとシルビィがビクッっと反応するとゆっくりとこちらに振り向く

私の顔を見たシルビィの目から涙が溢れ出すのが分かる

大きなお腹を庇いながら慌てて立ち上がろうとするがバランスを崩して倒れそうになる

 「危ないっ!」

私は咄嗟にシルビィに駆け寄り体を支える

 「無理しないで、座ってて」

私がそう言うと小さく頷き椅子に座る


 「ごめんね……気付けなくて」

私はシルビィに謝る


 「何を言っておられるのですか」

 「私にはマノンが謝罪する理由が分かりません」

シルビィは不思議そうに言うと涙を手で拭い微笑む

 「それよりも、こんな所まで来て下さるなんて」

 「それだけで私は嬉しいのです」

 「ですが……その……肩のオウムは……」

シルビィは私が肩にパックを載せているのを見て少し理解に苦しんでいるようだ

 

 「これは、ペットのオウムのパックだよ」

 「ここまで着いてきちゃったんだよ」

私が少し困ったかのように言う


 「そうですか……」

 「よろしくね!パック、私はシルビィよ」

 「パックもマノンが大好きなのですね」

シルビィは肩に乗っかったパックに優しく話しかける


 "お前さん……すまぬが……"

 "シルビィちゃんのお腹に触れてはもらえぬかの"

爺の声が聞こえてくる


 "分かったよ……"

私はシルビィのお腹にそっと手を当てる

 「ここにいるんだね……」

私がそう言うとシルビィは小さく頷く


シルビィのお腹の温もりが掌に伝わってくるのが分かる

 "掌に伝わってくる、この波動……"

 "間違いない……"

私はシルビィのお腹の子が自分の子であることを確信する


私はポケットから真青な魔石の入った指輪を取り出すとシルビィの右手の薬指に嵌める

 「これは……魔石ですか」

自分の右手の薬指に輝く真青な魔石をみて言う


 「そうだよ……」

 「シルビィとお腹の子が無事を祈って……」

私がそう言うとシルビィは右手を抱きかかえるようにする


 「ありがとうございます」

 「以前に頂いたものと共々、一生大事にいたします」

私は幸せそうに笑うシルビィの表情には何処となく寂しさを感じる


 「どうしたの……」

私の問いかけにシルビィの目に涙が滲む


 「何でもありません……」

 「気になさらないで下さい……」

シルビィは手で軽く目の涙を拭うと微笑む

すると、ドアをノックする音とともにドア向こうからアネットの声かする


 「そろそろ、医官の回診の時間です」

アネットの声の様子から少し慌てているようだ


 「それじゃ……」

 「また来るからね……」

私がそう言うとシルビィはゆっくりと立ち上がり私にそっと抱き着くとキスをする

大きなお腹が少しつかえてしまう


 「ぷっ」

思わずシルビィが笑いを堪えずに吹き出してしまう

 「嬉しかった……」

 「会いに来てくれて……」

シルビィはそう言うと私の手を自分のお腹にそっとあてる

 「元気な子でありますように……」

シルビィはそう言うと目を潤ませて微笑むのであった


 「必ず、また来るから……」

私はそう言うとドアを開けるシルビィの視線を背中に強く感じる

後ろ髪を引かれるとはこういうのを言うんだなと思いながら外に出るとアネットが待ち構えている

 

 「お早く……すぐに医官が参ります」

ドアの外の兵士が医官に挨拶をする声が聞こえてくる

私は認識疎外の魔術を発動すると女官にかけた眠りの魔術を解除する


 「ふぇ~」

3人の女官が眠そうな声を上げると目を覚ます

 「あれ……私達……寝てたの……」

自分達、三人が同時にどうして眠ってしまったのか分からず不思議そうに顔を見合わせていると……

"ガチャ"という音がするとドアが開き二人の助手を連れた医官が入ってくる


三人の女官は慌てて整列すると何事も無かったかのように振る舞う


私は、空いたドアからそっと外に出るとアネットも部屋から出てくる

 「この辺にいるのでしょう」

アネットが私に小声で話しかけてくる


 「いるよ」

アネットの耳元でそっと囁くように言う


 「ひぃ!」

アネットは小さな悲鳴を上げる……

護衛の兵士が不思議そうな顔をしてこちらを見ているのが分かる

 「ぃっいきなり、耳元て喋らないで下さいよ」

そう言うとアレットは耳元を手で掻くように撫でながらこちらを見ている兵士に愛想笑いをする

 「今度、シルビィ様にお会いに来られる時は」

 「以前に来られた私の実家にご連絡ください……」

 「家の者に話は通しておきます」

すると、アネットの表情が急に険しくなる

 「そしてもう一つ大切な事があります」

 「シルビィ様のお腹の子は、あなたの子であることは極秘です」

 「どんな事があろうとも絶対に他人には話さぬようにお願いします」

 「いいですかっ! 絶対にですよっ!!」

アネットは小声でそう言うと再び部屋に戻って行くのであった


何事も無く宮殿の外に出ると王立アカデミ-の帰路のゆっくりと歩んでいく

 「お父さんか……」

私がポツリと呟くのを爺は複雑な心境で聞いているのであった


本来ならばこの大賢者3000年の歴史的な快挙に爺も口上手になり説教染みたウンチク長話の一つでも始まるのだがそうはならかった

 "……親子の名乗りを上げられぬか……"

 "シルビィちゃんのお腹あの子は……"

 "一生自分の父が誰なのかを知らずに終わるのか……"

 "酷なものよのう……"

爺は心の中で呟くのであった


この時代の王侯貴族には良くある事と言うのは爺にもマノンも知っている事ではあるのだが……


 「シルビィとお腹の子がそれで幸せになれるのであれば……」

 「それでいい……」

私は小さな声で呟くと爺のすすり泣く声がするのであった






第131話 ~  光を導く者の日常  ④  ~


 終わり





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