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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第128話 ~  光を導く者の日常  ➀  ~

第128話 ~  光を導く者の日常  ➀  ~



 序章



 ここは、王都の閑静な住宅街…… 

 王都でも良家の屋敷が立ち並ぶ高級住宅街である


 その一角に、王立アカデミ-導師アレットの実家であるヴィオネ家の屋敷もある

 アレットが王立アカデミ-を休職して既に1ヶ月以上が経っていた

 (アレットは良家のお嬢様なのである)


 酷かった悪阻も治まり、アレットは実家でのんびりと暮らしていた

 ただ、たっぷりと時間があるにもかかわらず人生最大の楽しみである大好きなワインが飲めない事と温泉にも入れない事はアレットにとっては辛い事であった

 しかし、自分のお腹に子供がいる事を思えば我慢も苦にならないのである

 (この世界でも妊婦に"酒と温泉"は禁忌なのである)


 「調子はどうだ」

いつものようにアレットの父ヴァーレルがアレットの具合を聞きに来る


 「もう大丈夫よ」

 「それにしても……毎日毎日、暇さえあれば帰ってきて」

 「お勤めの方は大丈夫なのですか」

アレットは呆れたように言う


 「まぁ……そう言うな……」

ヴァーレルは少し照れ臭そうにするとアレットのお腹をジッ見る

 「まだ、大きくならんのか」

残念そうに言う


 「当たり前でしょうっ!」

 「出っ張ってくるのは、後2~3ヶ月先の話って言ってるでしょうがっ!!!」

アレットは少し怒ったように言うが本当は自分の事を心配しているのとお腹の子供が待ち遠しくて仕方がないのだと知っているのであった


 もはや顔を見る事はあるまいと思っていた孫がアレットのお腹の中にいるのであるからヴァーレルにとってその嬉しさ大きさは言うまでもない事である


 「それはそうとして……」

 「だいっ……マノン君には、いつ話すつもりなのだ」

ヴァーレルは真顔になるとアレットの方を見ていう


 「……話さないわ……」

そう言ってヴァーレルに向けられたアレットの目は真剣なものであった


 「そうか……」

ヴァーレルはこれ以上なにも言うことはなかった


 マノンに話せば必ずアレットの身を案じる

 そして、アレットにもしものことがあればマノンは一生後悔することは間違いない

 アレットには、それが自らの死よりも嫌なのだとヴァーレルには分かっているからである


 "我が娘ながら、その信念と根性には感心するわい……"

 ヴァーレルは心で呟くとアレットの方を見る

 「前にも言ったが、お前なら絶対に大丈夫だっ!」

そう言うとヴァーレルは部屋を出ていくのであった




第128話 ~  光を導く者の日常  ➀  ~




そんな、思慮深いアレットの心遣いなど妊娠すら知らずにいる、鈍感なマノンに分かるはずもないのであった


リドウの村から魔法工房に帰って来ると背負っていた荷物を図書室のテーブルの上に降ろし温泉に入る

 「はぁ~」

 「少し魔力を使いすぎたかな」

そう呟くと爺の声が聞こえてくる


 「お前さんは難無く使い熟しておるがの……」

 「本来はな……医療魔術はそう易い術ではないのじゃよ」

爺は呆れたように言う


 「そうなの……」

私は不思議そうに言う


 「そうじゃ……」

爺は少しムカついたように言うとパックがこちらを見る

 「んん~それにしても……」

 「乳は全く小さくならんのう……」

 「儂の"秘薬・寸胴貧乳の素"は失敗じゃったかのう」

突然、爺は話題を変える


 「そうなんだよね……」

私は自分の胸を両手で持ち上げるようにすると

 「ずっと、このままなのかなぁ……」

私は不安そうに自分の胸を見る


 「……」

不安そうに問いかける私に爺は何も答えなかった


私は温泉を上がると亜麻の繊維を袋から出す

 「どれぐらいの量の布になるのかな……」

 「下着を作るには十分かな……」


私は爺に問いかける


 「重さから幅が90センチで長さ20メートルと行った所かの」

 「女子の下着を作るなら6~8メートルもあれば十分じゃよ」

爺がおおよその量と目安を私に教えてくれる


 「魔術でなんとかなるかな……」

私にはどんな術を使えばよいのか行使方法がよく分からない


 「んん~儂にも分からん……」

どうやら……爺にも分からないようである

糸を紡ぎ布を織る……殆どの田舎の女子ならばできる事なのだが

(当然、一部例外もある)


損傷した脳神経を再生復元するという現代医学でも不可能な事を成しえる魔術でも意外と万能ではないと思うマノンであた



仕方がないので再び袋に詰めると担ぎ上げる

 「燻製肉はどうするのじゃ」

図書室のテーブルの上に置き放しの燻製肉のことを爺が問いかけてくる

 「このままでも、魔法工房の魔力の効力で腐ったりはせん」

爺がそう言うので私は燻製肉をそのままにして王都へと転移した



 いつものように広場の塔の頂上に転移すると、午後の王都の空は雲一つなく晴れ渡り一足早く夏の太陽の日差しが燦燦と降り注いでいる

頬に当たる暖かい風から気温も30度近くあるように感じられる

認識疎外の魔術を発動し王立アカデミ-へと向かうのであった


迎賓寮に入ると認識疎外の魔術を解除しルメラ達がよくいる居間へと向かう

居間に入るとルメラ達が上半身裸でぐったりとしている姿が目に入る


 「あ~あ……完全に暑さ負け(夏バテ)しておるのう……」

ルメラ達の惨状を見た爺が気の毒そうに呟く


 「皆、大丈夫……」

私が声をかけると4人が私の方を見る


 「あ……マノン……何か……」

ルメラが途切れ途切れに何かを言おうとする

 「このままだと……死ぬ……」

いつもの覇気がまるでないルメラは本当に死にそうに見える


 「このままでは本当に危ないの(熱中症)……」

爺はそう言うと私にある魔術の発動方を教える

 「この部屋の上の空気の動きを止める魔術を教える」

 「これは、空気を構成する物質の分子の運動を鈍くする魔術じゃ」

 「発動空間の制御を間違えるとこの部屋の中にいるルメラ達も凍り付くから慎重にするのじゃ」

爺はそう言うと私に魔術の発動方を教えてくれるのだが……


 「ちょっと待ってよ、いきなりそんな危ない事出来ないよ」

爺の説明を聞いて私が慌てて言う


 「どうせ、このまま放置して置けばルメラ達は……」

 「早く楽にしてやるが良い……」

 「四人とも」お前さんの手にかかって逝くのなら悔いはあるまい」

私には爺が本気なのか冗談なのか分からなくなってくる


 「わかったよ……」

私は細心の注意を払い爺に教えてもらった通りに術を発動する


 冷んやりとした冷気が部屋の中の温度を下げる

 ピクリとルメラが反応しているのが分かる

 「あ~気持ちいい~」

ムクッと起き上がるとルメラが大きく伸びをする

上半身裸なので大きな胸がプルンと揺れる


 「下着ぐらい付けなよ……」

ルメラのあまりに節操のない姿に私は視線を逸らすと呆れたように言う


 「いいじゃねーか、見られて別に減るもんじゃねーし」

ルメラはそう言うと他の三人もムクッと起き上がってくる

三人とも上半身裸(ユーリアも暑さに負けた)である……


 「マノン……何したんだ……」

ルメラは急に部屋が涼しくなった事に不思議そうに問う


 「空気を構成する物質の分子の運動を鈍くする魔術だけど」

私にも良く分からないので爺の言葉をそのままで答える


 「・・・・・・?」

ルメラは完全に固まっているように見える

 「まぁ……なんだ、これで夏は乗り切れそうだな」

 「と言う訳でマノンはここで俺達と一緒に住むという事で」

ルメラが嬉しそうに言うと他の三人も大きく頷くのだが……


 「そういうわけにはいきませんっ!」

何処からかルシィの声が聞こえてくる

 「ルメラさん……貴方は仮にも一国の王女なのですから」

ルシィの言葉にルメラは口を尖らせて舌打ちするのであった


 「あっ!」

私は大切な用事を思い出す

 「これ……レナに頼まれた……」

私はそう言って布の袋に詰まった亜麻の繊維を出してくる

 「これを紡いで布を織れば良い下着の生地になるよ」

私がそう言うとルメラが亜麻の繊維を手にする


 「これを紡いで布を織ればいいんだな」

ルメラはそう言うとエルナの方を見る


 「わかりましたルメラ様」

エルナは立ち上がると亜麻の繊維の詰まった袋を手にする


 「そんじゃ、一仕事するか」

ルメラがそう言うとエルナと一緒に上着を羽織り部屋を出ていくのであった

 (迎賓寮には別室に立派な糸車と機織り機がある)


 「……」

私はそんな二人を呆然と見送るのであった

 「アイラとユーリアはいいの」

部屋に残った二人の方に目をやって言うと2人はバツが悪そうすると視線を逸らす


 「えっ……それは……」

 「ダメなんです……」

ユーリアが恥ずかしそうに言う



 どうやら、アイラとユーリアはこの手の仕事が苦手のようである

 それに対してルメラとエルナは得意なようである

 

 そう言えば……シラクニアでルメラの私室に入った時にアスラクが言っていた事を思い出す

 "ルメラ様は良い伴侶となりまするぞ……"

マノンもルメラは意外と家庭的なのはシラクニアで一緒にいた時に感じていたのだった


そうしていると……死にそうな顔をしたルメラとエルナが居間に戻ってくる

 「暑くて……死にそうだ……」

 「こっちの部屋も涼しくしてくれ……」

そう言うとルメラは私に来るように言う

結局、私はルメラ達に付き合う事となるのであるが…… 


 エルナの糸を紡ぐ速さとルメラの機織りの上手さに呆然とするのであった

 2人が言うには、冬のシラクニアでは毛糸を紡ぎ、その毛糸で服を編んだり機を織るのは女子の嗜みだそうである


 かくして、爺の予想を上回る25メートルの亜麻布が織り上がったのであった


 「なんか、肌さわりもいいじゃねーか」

 「いい下着が出来るな」

織り上がった亜麻の布を手にしたルメラが言う



 ルメラとエルナは出来上がった亜麻の布で自分達やレナ達の分も下着を数枚仕立てるのだった

 "エマの書"の記述通りに肌触りが良く吸湿・発散性に優れた亜麻の布はルメラ達のお気に入りとなるのであるが……

 結局、その後も私はクーラー代わりに何度も迎賓寮に呼び出されるのであった……


 何のために、苦労してガリアの最西部まで足を運んだのか分からなくなっているマノンであったのだが……

 しかし、それは無駄足ではなかった……

 後にこれが大きな功績となりその地の人々を豊かにするのである


 マノンは1人の少女とリドウの村、やがてはバイユーの人々にも大きな一つの光を与えたことになる

 以来この地では"大賢者"の事を"光を導く者"と称するようになるのである


 そしてもう一つマノンにとって幸運な事が、夏バテで気力と体力を奪われたルメラ達は夏の期間は"交わり"の事は忘れ去っているのであった……



 因みに、残った15メートルほどの亜麻の布は私に返還されることになるのであった……

 この余った亜麻の布で胸に巻く布を作り、私の胸の汗疹も随分と解消される事となったのであった



第128話 ~  光を導く者日常  ➀  ~


 終わり


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