第122話 ~ 平穏な日々の始まり? ➀ ~
第122話 ~ 平穏な日々の始まり? ➀ ~
序章 ~ 爺の午前の暇つぶし ~
マノンの部屋で餌を食べ終えたパックは半分開いた窓の枠に止まり外を見渡している
"平和じゃな……"
王立アカデミ-の中にも賑やかな王都の街の喧騒が少し届いてくる
爺は暫く外の様子を見ていると、マノンとレナが術を発動しアカデミ-の外へと歩いて行くのがぼんやりと見える
"いいのう~若いもんは……"
そう呟くと爺は二人の姿を見送るのであった
"しかし……あ奴どうレナちゃんに説明するのかの……"
"あ奴の乳を見た時のレナちゃんの様子が目に浮かぶわい"
"儂はちと、暇つぶしに散歩でもしようかの"
爺は少し意地悪そうに呟くと認識疎外の術を発動して外へと飛び立つのであった
爺は何かを探しているように王立アカデミ-の中を飛び回る
そして、中庭のベンチでおしゃべりをしているごく普通の女子生徒三人を見つけるとベンチの後ろの木の枝に止まり聞き耳を立てる……
"人の会話を盗み聞きするのは気が引けるが……"
"ここの情報収集はこれが一番じゃからのう"
"特に、女子の情報網は馬鹿にならんからの"
爺は心の中で自分に言い聞かせるように呟く
すると、爺の地獄耳に女生徒の会話が聞こえてくる
(年寄りの耳は男の声は良く聞こえないが、女の声は良く聞こえるのである)
「もうすぐ、卒業ね……」
「2人はどうするの」
小柄で金髪の女生徒が二人に話しかける
すると、やや大柄で黒髪の女生徒が答える
「私はもう卒業確定だから、故郷に帰るわ」
「出来れば王都でいい男捕まえて王都で暮らしたいんだけど……」
「結局、相手も見つからなかったし両親も戻ってこいって煩いのよ」
そう言うとフランセットが意味ありげな深いため息を吐く
その様子を見ていたもう一人の金髪で大柄な女生徒がフランセットの方を見る
「フランセットの故郷って……ドルトンじゃなかった」
「たしか、実家が商家だっよね」
ジャネットの言葉にフランセットが小さく頷く
「そうよ、なんも無い山間の町で薬草なんかを扱っているのよ」
「王立アカデミ-でも薬学を専攻する条件でここへ来てるの」
フランセットはそう言うと再び大きなため息を吐く
「地元に帰ったら"交わり"の相手も決まっているみたいだし」
「子供産んでそのまま家業を継ぐのよ」
何処か寂しそうにフランセットが呟く
「フランセットって……マノン君の事が好きなんでしょう」
フランセットのそんな姿を見ていたアリエルが突然に言う
「何の事よ……」
フランセットは平静を装って言っているが顔が赤くなっているのが分かる
「ヤっちゃいなよ」
アリエルの単刀直入な身も蓋も無い言葉に
「はぁ~」
フランセットは大きなため息を吐くと
「あのねぇアリエル……」
「それが出来れば苦労しないわよ」
「それよりアリエルそう言うアンタはどうなのよ」
フランセットがアリエルに問い返す
「ああ……私は故郷に帰ったら女学校の導師見習いになるよ」
「内定ももらっているし、ちゃんとした"交わり"相手もいるから」
「うちの家はカルベネの郊外にあるルドネルって村の農家だし普通に村人Aになるだけだよ」
「それに、私はマジで普通が一番いいって思っているし」
キョトンとした表情でアリエルが言う
「いいわね~アリエルは」
そう言うとフランセットは再び大きなため息を吐いた
「ところでジャネットはどうなの」
「あんたの実家は王都の酒屋なんでしょう」
フランセットの問いかけにジャネットは少し俯く
「私は……その……」
「卒業したら……その……」
ジャネットは何故か言葉を濁してもじもじしている……
その様子を見ていた二人は同時に何かを悟る
「ジャネット……まさか……アンタ……」
震える声でアリエルがジャネットを見て言う
「できちゃたの……」
間髪を入れずフランセットがダイレクトな質問をする
「……」
ジャネットは俯いたまま顔を赤くして小さく頷くのであった
「ぇっ……ホントに……」
「冗談のつもりで言ったのに……」
フランセットは唖然として言う
「この裏切り者っ!!」
「1人だけいい思いしてっ!!」
アリエルが悔しそうに言う
「そうなの……おめでとう……」
「幸せにね……」
「で……お相手は誰なの」
重要な本題に入るフランセットの問いにアリエルが身を乗り出すようにジャネットに詰め寄る
「……」
小さな声でジャネットが何か言うと二人の動きがピタリと止まる
「それ……ホントなの……」
アリエルが驚いて言うとジャネットは小さく頷く
「そう……」
アリエルとフランセットが小さな声で呟く
その後、3人の間に重苦しい無言の沈黙が暫く続く……
その雰囲気に耐えかねたアリエルが状況打破を図り話題を振る
「そう言うばさぁ……噂なんだけどさ……」
「マノン君って留年するかもしれないらしいよ」
アリエルの言葉を聞いたパックがピクリし反応する
"何じゃとっ! りっ留年となっ!!"
"大賢者が留年など沽券に係わるわいっ!"
爺はもっと詳しく聞こうとベンチの直ぐ傍まで降りていき聞き耳を立てる
「……何でも、出席日数が足りないんだってさ」
「それともう一つ、これも噂なんだけどさ……」
「この前、休職したアレット導師さぁ……」
「どうも……妊娠していたらしいよ……」
「その相手が……マノン君って話なんだよ」
アリエルの話に他の二人は呆然としている
「そう言えば……」
「マノン君って確かアレット導師から"儀の礼"の申し込み受けたてよね」
アリエルがそう言うとジャネットとフランセットが顔を見合わせる
「でもそんな様子は全くなかったよ」
「それに、マノン君がそんな……」
フランセットが少し困惑したかのような口調て言う
「それ言うとジャネットもそうじゃないの」
「私もフランセットも全く気付かなかったしね」
アリエルの言葉にはそれなりの説得力がある
"何じゃとっ! あの吞兵衛のねーちゃんが妊娠じゃとっ!!"
"それが本当なら、大賢者3000年初の快挙ではないかっ!"
爺は心の中で歓喜の声を上げる
"しかし、女子の噂じゃからのう……"
"鵜呑みにはできんな……"
爺も半信半疑なのであった
暫くすると、三人の女生徒はベンチを立つと校舎の方へと歩き出す
"儂も行くとするかの……"
オウムのパックは翼を羽ばたかせると空に舞い上がる
この噂が全て事実であるという事が分かるのはもう少し先の話になるのであった
第122話 ~ 平穏な日々の始まり? ➀ ~
マノンは休憩室のベッドで目を覚ました、隣ではレナが気持ち良さそうな寝息を立てて寝ている
マノンは自分の胸の状態を確認する
"はぁ~やっぱり、あんまり変わっていないや……"
小さなため息を吐くと寝ているレナに視線を移す
"レナは私がこんな体でも関係ないのかな……"
"心なしか、いつもより……レナってもしかしたら……"
まぁ……どうでもいいやそんな事"
マノンは首を横に何度も振ると、それ以上は考えようとはしなかった
この世界にも、いろんな形での同性愛は存在する
そういった趣向の"薄い本"も存在するほどである
我々の世界と違うのは、この世界においてそれは忌み嫌われる"禁忌"ではなくある程度は認知され黙認されているという事である
従って、レナにそういう趣向があるとしても"そうなんだ"としか思われないし、
周りから変な目で見られることは無いのであるのだが……
因みに、レナは自分が好きな相手であれば性別を気にしない……ただそれだけの事である
(セシルもレナと同じである)
「レナっ! そろそろ起きてよっ!!」
私の隣でぐっすりと眠っているレナを起こそうとする
「んん~」
「マノン~もう少しだけ……」
レナは眠そうな声でそう言うと全く起きようとする気配がない
「もう……」
私は裸で寝ているレナを抱きかかえるようにして上半身を起こすがぐったりとしていてどうしようもない
"レナって結構重いんだよな……"
本人には絶対に言えない事を心の中で呟く
「仕方がないな……」
そう呟くと私は、ポヨポヨのレナのお腹の肉をグニュっと掴んだ
「ひぃーーーっ!!」
レナは吃驚して悲鳴を上げ飛び起きる
「なっ何なのよっ!!」
レナはお腹のお肉を両手で隠すと私の方をジロリと睨んだ
「マ~ノ~ン……」
そう言うとレナはムクッと起き上がる
「あの……レナさん……」
「レナさんが起きてくれないので……」
私は素直にベッドの上で土下座してレナに謝る
「やっぱり……マノンもこのお腹のお肉の事、気になるの……」
以外にもレナは神妙な表情で私に聞いてくる
"そうだった、レナはお腹のお肉の事を気にしていたんだっけ"
"悪い事したな……"
私はレナが昔言っていたことを思い出して後悔する
「別に気にならないよ」
「それに……私の胸が大きくなったら違和感があるのと同じで」
「レナも今のままが一番いいよっ! 」
私は必死で取り繕うとするがレナは細い目をして私を見ている
「もういいわ……」
レナはそう言うとベッドから起き上がり上着を羽織ると部屋を出て言った
「機嫌を損ねちゃったかな……」
レナが出て行った後、私は暫くベッドに座っていたが部屋を出て温泉に向かった
温泉に着くとレナの姿が見える
裸で温泉の床に足を広げて座り頭の後ろで両手を組み体を何度も捩じっているのが見える
"何しているのかな……"
私はそのままレナの様子を見ていると今度は体を前に倒し前屈姿勢になる
"うっ!うっ!うっ~!"というレナの少し苦しそうな声がここまで聞えてくる
それが終わると今度は腹筋運動を始めた
そう、レナはこの頃はユーリアの助言を受けてウエスト周りに効果があるというストレッチ体操を朝夕の二回ほぼ毎日欠かさずにしているのである
まさに涙ぐましいレナの努力を目の当たりにして少し涙が出そうになるマノンであった
"しかし……レナって体が硬いんだな……"
"これは見なかったことにしておこう"
私はそう心の中で呟くと食事の用意をするためにその場を後にした
因みに、レナは体が硬いわけではない……本当は、前屈の時にお腹の肉と大きな胸がつかえて苦しいだけなのである
これはギャグではなく本当に腹にお肉が付くと前屈の時につかえるのである、あまりにも腹に肉が付きすぎると靴下を履くのに苦労したりするのである
それから20分程して、朝食の準備が終わった頃にレナが戻ってきたので2人で食事を取り終えると王立アカデミ-へと戻るのであった
流石に二人揃っての朝帰りは誰かに見られると何かとよろしくないので強力な認識疎外の魔術を発動して二人息を殺してのご帰還であった
だが……この時にマノンの体に再び異変が起きつつあることをレナも当人のマノンも気が付かないのであった
第122話 ~ 平穏な日々の始まり? ➀ ~
終わり