第120話 ~ 異変 ➆ ~
第120話 ~ 異変 ➆ ~
序章
王立アカデミ-の迎賓寮のリビング……
マノンがピオ-ネ山脈に用があって出ている事をルメラ達に話した後でルシィは空いている椅子に座ると大きなため息を吐く……
「どうしたんですか、いきなりため息なんか吐いて」
ルシィの大きなため息が気になったエレ-ヌが訪ねるとルシィはエレ-ヌの方を向くと少し躊躇っていたがため息の訳を話し出す
「じつは……マノン君の事なんですが……」
「このままだと……マノン君……留年するかもしれません……」
ルシィの言葉にその場にいた全員が"えっ"という顔をする
まともに考えてマノンが留年する理由などないからだった
マノンの留年の話を聞いて釈然としないルメラ達にルシィが話を続ける
「マノン君、成績は完璧で非の打ちどころがないぐらいんですけど……」
「欠席日数があまりにも多すぎて……」
ルシィは再び大きなため息を吐くと話を続ける
「成績面の進級条件は満たしてはいても……」
「講義にろくに出もせずに進級を認めては……」
「他の生徒に対しても示しが付かず良くないという一部の導師からの意見もありまして」
「その反対に、そもそも"大賢者の弟子"ともあろう者が……」
「今更、学生である必要も無いのでは……という意見もあります」
ルシィの口調と表情からマノンの扱いに付いては王立アカデミ-の導師の間でも大きく意見が分かれているのだという事が見て取れる
ルシィは、ここでは話さなかったのだが……
本来、"大賢者"と"大賢者の弟子"は王立アカデミ-のおいてはガリア王国初代王の言い付けにより最高位を示す地位にあり学生などではあり得ないのである
事実、現・王立アカデミ-導師総代ジェルマンは次期導師総代をマノンにする事をルシィにそれとなく漏らしているのであった
王立アカデミ-における自分の地位や立場の事などマノンや爺にはどうでもいい事なのだが、周囲はそうではないのである
入学当初の、普通の学生として普通の学生生活を送りたいというマノンの望みは次第に薄れつつあった
これもまた"大賢者"の背負う運命の一つなのである……
超常の力と知識を得たことによる、ごく普通の人々に誰にでもある普通の日常と生活の喪失……マノンには、あるべきものがないのである
……などと、ルシィが思い悩んでいると……
「マノンの野郎が留年っ!!!」
いきなり、ルメラが叫ぶと笑いだす
「笑ってはいけませんよ……」
「その内の2ケ月は我が国のために欠席したのですよ」
ユーリアの言葉にルメラは少しすまなさそうな顔をする
「そうだな……すまねえ……」
ルメラはそう言うと黙り込んでしまった
「マノンはそんな事、少しも気にしていないと思うわよ」
レナが落ち込んでいるルメラの方を見て言う
「だってマノンは……マノンは……マノンは……」
「筋金入りの超脳天気だからっ!!!」
レナは落ち込んでいるルメラを庇うつもりだったのだが……
逆にマノンを貶す結果になってしまったのだ
「ぶっ!!!」
「ぶっははははははーーーっ!!! 」
その場にいたレナ以外の全員が腹を抱えて大笑いする
「そうですね」
エルナが必死で笑いをこらえて言うと皆も笑いながら頷くのであった
レナの言う事は見事に正鵠を射ていた……
レナの言う通りマノンは三千年の歴史を持つ歴代の大賢者とは、そこが大きく違っているのである
それは……正にレナの言う"超脳天気"であるという事である……
イメージにして言えば歴代の大賢者が、丁髷に羽織袴、白足袋の下駄履き腰には大小の刀を差したお侍様であるのに対して、マノンはボサボサ散切り頭にTシャツ、ジーパンのサンダル履きのシティ・ボーイなのである
大賢者の三千年の歴史からすれば、"散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がする"……なのである
第120話 ~ 異変 ➆ ~
魔法工房の休憩室……
「……んん~」
「良く寝たな……」
そう呟くとマノンはゆっくりとベッドから起き上がる
良く寝て疲れが取れたのか体の火照りも倦怠感も無くなっている
「さてと……温泉にでも入るかな……」
マノンの人生の最大の楽しみの一つである朝温泉に入ろうとベッドから出て立ち上がり大きく背筋を伸ばす
「ふぁぁぁ~」
眠そうに大欠伸をすると歩き出す
「……何か変だな……」
何だかいつもより体が重く感じる
「えっ……」
「ええええええっーーーっ!!! 」
マノンの叫び声に部屋の隅の止まり木で熟睡していた爺も飛び起き止まり木から落ちそうになる
「何事じゃ! どうしたっ!!」
マノンのいきなりの叫び声に爺もパニック状態になっている
「爺……これ見てよ……」
マノンは泣きそうな声で爺の方に振り向く
「おお……見事な乳じゃな……」
爺はマノンの胸の見事な膨らみを見て呆然と呟く
「これ……本物だよ」
私はそう言うと自分の胸を両手で確かめるように触る
「何で……今頃、大きくなるんだよ」
「しかも、たった一晩でこんなに立派に成長するなんて」
世の無常さに私の頬に涙が流れる
「……で、お前さん……下はどうなのじゃ」
爺の問いに私は慌ててパンツの中を確認する
「付いてるよ……」
私は小さな声で呟いた
「ま、まっまぁ……とりあえず実験室で検査するとしようかの」
爺の言う通りに実験室に行くと石のベッドに裸で横たわる
「ちょっとピリッとくるが心配はないぞ」
爺がそう言うと体中にピリッと軽く針で突かれたような刺激が走る
「もういいぞ」
爺の言葉に私は石のベッドからゆっくりと体を起こす
「……で、どうなっちゃったの私の体……」
私は不安そうに爺に尋ねる
「これはな……以前にお前さんが一気飲みした……」
「"秘薬・ナイスバディの素"の効能じゃな……」
「高濃度の魔力に曝されたことで、ようやく効能を発揮したようじゃな」
爺は確信したように言う
「うんうん、やはり儂の作った秘薬は間違いなかったわいっ!!!」
そう言うと何故か爺は悦に入ったように笑う
「何笑ってんのよっ!」
「どうすんのよっ! これっ!!」
私は両手でGカップは余裕である胸を持ち上げて爺を問い詰める
「……まぁ……そのうちに引っ込むじゃろうよ」
そう言う爺の口調は、あからさまに自信なさそうである
「まぁ……温泉にでもゆっくり入ってくるとよい」
パックを横目に私は温泉へと歩き始める……
歩く度にプルンプルンと大きく揺れる胸に何故か私は喜びを感じてしまう……
そんな自分に哀しさを味わうのであった
温泉にある姿見の鏡の前に立ってもう一度、他に異常がないか自分の全身をよく確認してみる
形の良い張りのある大きな胸、くびれたウエストに綺麗なラインを描いたお尻……貧乳・寸胴女子だった頃に夢にまで見た理想的な姿が鏡に映し出されていた
……が、股間には……しっかりと立派なアレが付いている
「……」
「なんて……中途半端な……」
大きなため息を吐くと私は温泉に入る
「ふぅ~」
いつもの通り声が自然と出る
温泉に浸かりながら、ふと自分の胸を見下ろすと……
長年の憧れていた胸の谷間、そしてプカプカと浮いているのが分かる……
"ははは……浮いてるよ……"
プカプカと浮いている自分の胸を見て力なく笑う……
なんか、肩の荷が下りたような感覚がしてとても楽になったような気がする
"これって、温泉効果の一つなんだ……"
巨乳になって初めてレナの気分を実体験するマノンであった
温泉から上がり実験室へと向かうとパックが何かしているのが見える
私はパックの方に歩いて行くと何かを錬成しようとしているようだ
「何してるの」
私が問いかけるとパックがこちらに振り向く
「お前さんか、早かったの……」
「これから"秘薬・寸胴貧乳の素"を作るのじゃよ」
そう言うと爺は魔法工房の装置を作動させる……
何やら複雑な装置が青白く輝き始めると魔法陣の中央に置かれた小瓶に何やら怪しげな液体が溜まっていく
「どうやら出来たようじゃな……」
爺はそう言うとパックが魔法陣の中央に置かれた小瓶に飛んで行き中身を確かめる
「これでいいはずじゃ……」
そう言うとパックは私の方に振り向く
「飲んでみるが良い……」
爺が私に小瓶の中の怪しげな液体を飲むように言う
「……これ……大丈夫なの……」
私は疑い満ちた視線をパックに向ける
「初めて作るからのう……」
「なにせ"乳を小さくしてくれ"という女子は一人もおらんかったからのう」
そう言うと爺は高らかに笑う
「さぁ! グイッと一気に飲むが良い」
パックが私に詰め寄る
私は小瓶を手に取ると中身を覗き込む
「本当に大丈夫なの……」
私は再び疑惑の眼差しをパックに向けるとパックもこちらをジッと見ている
「分かったよ、それじゃ……飲むね」
私はそう言うと用心のために一気飲みせずに一口分だけ口にすると飲み込んだ
「ぐぇーーーっ!!! 」
「まっずぅーーーっ!!! 」
「とても飲めたもんじゃないわよこれっ!!! 」
私があまりの不味さに咳き込みながら言う
「不味いから、一気飲みするように言ったのじゃがの……」
爺は咳き込みながら苦しんでいる私に言う
「なんだよこれぇぇぇ~っ……」
急激に意識が遠のいていくパックが慌ててこちらに飛んでくるのと爺の声が聞こえるが段々と小さくなっていく
気が付くと実験室の天井がぼんやりと見える
「あれっ……ここは……」
私は何が起こったのかよく分からずに意識朦朧としていると途切れ途切れに爺の声が聞こえてくる
「気が付いたかっ! 大丈夫か……」
段々とハッキリと爺の声が聞こえてくる
「ああ……大丈夫だよ……」
私は起き上がると軽く体を動かして調子を見る
「何ともないみたいだよ……」
私がそう言うと爺は安心したようだ
「すまぬ……」
「儂の失態じゃ……」
そう言う爺の声がすると、床に転がって中身の怪しい液体が零れてしまった小瓶をパックが見ている
「別に何処にも異常はないようだし気にしなくていいよ」
「それに、私のためにやってくれた事だし」
私がそう言うと爺は少し申し訳なさそうにしている
「とりあえず、朝食べてないし……ご飯にしようよ」
私がそう言うとパックが私の肩に乗る、図書室の戸棚の中に置いてある保存食を温めて食事をする
隣でテーブルの横に置かれた小皿に入っている餌をパックが啄んでいる
「それにしても困ったな……」
「こんなに胸が大きいと普通の服装じゃ誤魔化せないよ」
私はどうしようかと悩んでいると"ノエル君"の事を思い出す
"確か、ノエル君ってかなり胸が大きかったのに上手く誤魔化してたよな"
"長い布を胸にぐるぐる巻きにしてたような……"
"一度やってみるかな"
私は休憩室の戸棚の中の予備のシーツを引っ張り出すと細く鋏で切って長いひも状にする
そして、上半身裸になると布をぐるぐると巻く……こんなものかな鏡に姿を映すと上手い具合に誤魔化せている
……が、かなり息苦しい
"こんなの毎日していたんだ……ノエル君って凄いよな……"
ノエルの母のブリジットが"ノエルには無理をさせている"と言っていた内の一つである
これで大きな胸は何とか隠せそうだしなんとかやっていけそうな気がしてくる
そこへパックが飛んで入ってくる
「おおっ!上手く乳を隠す方法があったのじゃな」
「さっき飲んだ、秘薬の事もあるし今日はここに泊まっていくことにせんかの」
爺の提案に私は同意する
夕方になり私は温泉に入ろうと胸に巻いた布を外す
「はぁ~」
何とも言えない胸の解放感に思わず声が出てしまう、これって絶対に体に悪いよな……
この日本にもある"無理やり寄せて上げるブラ"を外した時と同じ解放感である
因みに、本当に"ブラジャーの害"として論争されている事です
温泉に入りながら両手で両胸を持ち上げるようにして、さっき飲んだ"秘薬"の効果があるのかを確かめる
"変わらないや……"
"すぐに効果が出るもんでもないだろうしな"
暫く間、温泉に浸かりながら今後の事を考える……
"帰ったら……レナには話しておこう……"
"驚くかな……"
私は温泉から上がると図書室へと向かう、夕食を食べると休憩室のベッドに入り眠りに就くのであった……
第120話 ~ 異変 ➆ ~
終わり