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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第118話 ~  異変  ➄  ~

第118話 ~  異変  ➄ ~



 序章



 南側の魔力変換炉室の中心にある魔石がガタガタと振動し始めていた頃、イスパニア王国のアンダルーサ大神殿にある3女神像の最後の一体である"ルノン"像も赤く変色し始めていた


 「ああああああああ!」

 国王のベルナルトが断末魔のような叫び声を上げる

 「もうダメだ……終わりだ……」

 絶望したベルナルトはゆっくりと立ち上がると虚ろな目をし亡霊のようにフラフラと祭壇の前に組まれた舞台へと歩いて行く……


 「国王陛下……」

 精神的に消衰しきったベルナルトの姿を見て蒼白い顔をした侍従長のダリミルが呟く

 祭壇の前に居並ぶ重鎮たちもベルナルトをただ茫然と見つめている



 舞台の上では7人の呪術師達が精魂尽きて呆然と赤く染まった3女神の像を見つめている


 そんな呪術師達を尻目にベルナルトは3女神像の前に立つと無表情でジッと見ている


 ……すると、眩い閃光と共に3女神像の前に突如として茶色いローブを羽織った人物が姿を現す……何故か、肩にオウムを載せている


 何が起きたのか分からないが、ベルナルトにはこの人物は"大賢者"であると直感する


 「だっ大賢者様っ!!!」

 ベルナルトは大声で叫ぶとその前で顔面を祭壇の床に擦り付けるほどに平伏す

 ベルナルトの叫び声を聞いた呪術師も同じように平伏す

 そして、祭壇の前に居並ぶ重鎮たちも同じように平伏す、警備の騎士も同じように平伏す


 「大賢者様に申すっ!!!」

 「この、ベルナルト・トリニダード・デ・パウラ・マリーア・デ・ロス・イスパニア」

 「今、この時より全ての謀を断ち、騎士の鏡の如き心掛けを以って余生を送りまする」

 「この言葉に偽りなきことをここに鎮座いたしまする三女神に誓いまする」

 「何卒っ! 何卒っ!! 呪いをお解き下さりますよう」

 「お願い申し上げまするっっっ!!!」

ベルナルトの必死の願いが静まり返った大神殿に木霊する


 

 茶色いローブを羽織った人物は、少し戸惑い慌てているような素振りをしていたが"ニヤリ"と笑うとスッと姿を消す


 静まり返った大神殿に暫くの時が流れる……突然、一人の呪術師が叫ぶ

「3女神像がっ!!!」

 呪術師の突然の叫びにベルナルトが慌てて3女神像を見ると3体とも白い女神像に戻ってる


 「許されたのか……」

茫然と呟くベルナルトの声……すると、次の瞬間……

 

 「おおおおおおおおおおーーーっ!!! 」

大神殿は大歓喜の声に震える


 "大賢者の呪い"が解けた事にベルナルトは安心感のあまり腰が抜けその場にへたり込んだまま立つ事が出来ない

 それは、7人の呪術師達もそうであった……笑う者、泣くもの、呆然とする者……7人皆、まちまちではあった心情は皆ベルナルトと同じである



 この後、ベルナルトはこの場で誓った通りに全ての謀を断った……

 イベリアとは対等な立場で協定を結び荒廃したその国土の再建に尽力する、また、対立関係にあったダキア王国が深刻な飢饉に襲われた際には国家備蓄の食料を無償で送るなどし次第に他国からも名君として称えられるようになっていく


 謀らずしも、10数年後にはイスパニア王国はピオ-ネ3か国の盟主となっているのであった……

 王位を子に譲った後に、晩年のベルナルトは良くこう言っていたそうである


  "もしも、今一度お目通りが叶うのならば……今度は、礼を言いたい……"と

 



  第118話 ~  異変  ➄  ~



 南側の魔力変換炉の暴走を何とか食い止める事の出来たマノンは疲れ切った体を引きずるように通路を歩いていた

 魔力供給の途絶えた遺構の照明は徐々に薄暗くなっていく

 「少し急いだ方が良さそうじゃな……」

爺がそう言うとマノンは肩に乗っかたパックの方を見る


 「いいよな……パックは……」

 「私は歩くのも辛いよ……」

ブツブツ文句を言いながら歩いていると遂に通路が真っ暗になってしまう

 「真っ暗だね……」

 「ライティングの魔法を発動するね」

疲れてはいるがこの程度の魔術なら発動する事は出来る、私がライティングの魔法を発動すると……眩いばかりの光が満ち溢れる


 「あれっ……」

光が収まり……ふと、前を見ると何処かの大聖堂の祭壇の上にいるという事に気が付く

後ろを振り向くと高さ2メートル程の女神像が3体並んでいる

 「なっ、なんで……」

 状況がまるで理解できずに焦る私の前に、とても偉い人らしき人物が私の前に平伏すと鬼気迫る物凄い表情で懺悔を始める

 少し視線を変えると大勢の人々も同じように平伏している


 「爺……なんか……ヤバくない」

私は肩の爺にボソッと語り掛ける


 「……そうじゃな……」

 「とりあえず、愛想笑いでもして姿を眩ませるかの」

 私は爺の言う通りに引き攣った笑顔をすると偉い人らしき人物の顔が安堵したような表情になる

 その隙に"認識阻害の魔術"を発動し足早にその場から逃げ出す


 外に出ると……そこには、まるで見覚えのない街が広がっていた

「ここ何処……」

 戸惑う私に爺が話しかけてくる


「見覚えがある……どうやら……ここは……」

「イスパニア王国の王都トレリアにある大神殿アンダルーサのようじゃの」

爺の言葉に私は愕然とする


「なんで……」

事情の読めない私は爺に問いかける

 

「儂にも分からん……」

爺にも事情が分からないようだ


「夢じゃないよね……」

あまりに予想外の出来事に私は夢落ちを期待して自分の頬を抓る

「痛っ!!! 」

夢ではなく現実だった……僅かな期待が潰え去りその場に膝をつく私……

「どうやって……王都ガリアンに帰ればいいんだよ……」

絶望感に苦しむ私に爺が何事も無かったように話しかけてくる


「来てしまったものは仕方なかろう……」

「心配せんでもいいぞ……」

「ここから徒歩で半日程の所にある村に転移ゲ-トがあるはずじゃ」

爺の言葉に私はホッと安心するが……


「でも、私達……無一文だよっ!」

「どうやって食べ物や寝床を確保するんだよっ!!」

私にとっては最重要事項でかつ現実味のある問いかけに爺はため息を吐く


「あ~、お前さんが今着ている魔装服の内側に……」

「ゲルマニアの帝国マルク金貨が縫い込んである……」

爺は少し呆れたように言う


「えっ……」

 少し驚きながらも魔装服の内側を探ると貨幣らしきものが全部で16枚縫い込まれている事に気が付く

 その内の1枚を取り出してみるとゲルマニアの1000帝国マルク旧金貨だった

 (2000ガリア・フラン、16万円の価値がある)

「よかった~これだけあれば、3度のご飯がちゃんと食べられる~」

「それじゃ……その村に行くねっ!」

食べ物の心配がなくなった私は急に元気になる

そんな私に爺は呆れたようだったが、その声は嬉しそうであった


 心配事が無くなった私はパックを肩に乗せて初めて見るイスパニア王国の王都トレリアを観光気分で歩いている


 イスパニア王国の王都トレリアも王都ガリアンと同じような堅牢な城壁に囲われた城壁都市である

 王都に出入りするためには城壁の門に設けられた四か所の関所を通らなければいけないようになっている


 王都ガリアンほどではないが、ピオ-ネ3か国で最大の都市だけの事はあり賑やかであるが、何処となく荒んだ感じがする



 ピオ-ネ3か国は地質的に良質な建築用石材が乏しいために、石材ではなく茶褐色の焼きレンガで作られた建物の壁が独特の雰囲気を醸し出している

 建物は木組みの窓枠と木の板で葺かれた屋根が特徴的だった、ピオ-ネ山脈が近くにあるので木材は大変豊富なのである


 廻りの人々が私の事を何故か気にしている事にふと気が付く……

「もしかして……私達、注目されているのかな」

私の問いかけにパックが首を動かして周囲を見回している


「どうやら……そのようじゃの」

爺も今になって気付いたようである……


 肩にオウムを乗せ、全身茶色尽くめでローブを羽織ったその姿は明らかに周囲から浮いた存在であることに気付く一人と一匹……であった


「とりあえず、両替商で銀貨に替えて服を買うとするかの」

「それに、必要な物も買い揃えんとな……」

 爺の言う通りに"御用達"の看板が掲げられている正規の両替商で換金する事にする

 手数料として3%を取られるが鐚銭(偽金)混じる事はないし適正相場で両替してくれるそうである

 ガリアと経済的な繋がりが強いピオ-ネ3か国ではガリア・フランが通貨として通用しているので貨幣価値感の違いに困る事はない

 "御用達"の両替商と言えども流石に大陸で通用している最高額の帝国マルク旧金貨は滅多に目にする事がないようで換金に少し手間取ったが換金レートは爺の言っている額とほぼ同じであった

 (両替商の人が本物かどうか調べるのに手間取っていた)

 旅慣れしている爺はこういう時には本当に頼りになるなと感心する私であった


 

 買い物をしている時に店の主人から気になる話を聞く事になる

 私が行こうとしている村はどうも治安が良くないという話である

 王都から近い村であるにもかかわらず柄の悪い連中が村を仕切っているとの事であった

 「認識阻害の魔術を使えば問題なかろう」

爺の言葉に私は何も考えることなく納得するのであった


 日も傾いて来たので王都の宿屋で一泊することにする

 宿代は先払いで一泊100ガリア・フラン(8000円)であった



 王都だけの事はありそれなりの宿屋があり寝床には困らなかった

 お腹もペコペコだし、この国の名物料理を楽しみにしているマノンであった

 店で買った新しい服に着替えると部屋を出る、草木染で薄い青色に染められた上着を羽織り薄い黄色のズボンをはいている


 宿屋の主人にお勧めの店を訪ねるとすぐ隣の店を紹介してくれた

 米を魚介のスープで煮込んだもの(パエリヤ)がこの国の名物だそうである

 店に入ると躊躇うことなく2人前を注文する、暫くすると特殊なフライパンに入った料理が運ばれてくる


 「美味いっ!!」

 「これ凄く美味しいよっ!!!」

爺に話しかけるが爺は不機嫌そうである……自分は食えないから当たり前なのだ

そんな爺の事情などお構いなしに私は2人前をペロリと平らげてしまった

 "美味しかったな……"

 "今度、アレット導師と一緒にくるのもいいな"

食事をしたりするのはアレットとの楽しい思い出がマノンの心に強く残っているのである

 "今頃どうしているのかな……"

休職してしまったアレットの事を考えてしまうマノンであった

(因みに、その頃アレットは実家で悪阻で苦しんでいる)


 食事の時に、店の店員にそれとなく明日行く村の事を聞いてみる

 店の店員も昼間に聞いた店の主人と同じことを言っているのだった


 料金を払う時に麦の粒を少し分けてもらえるように頼むと店員は快く一握りの麦粒を分けたくれた……オウムの餌である

 因みに、麦粒の代金は不要との事だった……ここも食事代は先払いで30ガリア・フラン(2400円)だった


 宿に帰ると疲れている事もありお腹も一杯だったのですぐに寝てしまうマノンと爺であった


 朝になり目覚めるオウムのパックが居ない事に気が付く、慌てて部屋の中を探していると窓が開いている事にも気が付く

"何だか妙に身体が火照るような感じがするな……"

"パックが居ない、朝から何処かに出かけているな……"

"何処へ行ったんだろう……"

などと考えているとパックが戻ってくるのが見える


 窓から部屋に入ったパックから爺の声が聞こえてくる

"早く王都を出ないと足止めされるやも知れん……"

爺が少し焦ったように言う


"どういう事なの……"

慌てた私は爺に尋ねる 


"昨日の大神殿アンダルーサの騒ぎで関所が封じられておる"

爺の言葉に私は驚く

"昨日、ワシらの前で懺悔しておったのは……"

"この国の国王ベルナルトのようじゃ"

爺は早朝から外が騒がしい事に気が付き様子を見に出ていたのである


 慌てて部屋を出ると宿の主人に事情を聴いてみる

 宿の主人の話だと既に3日前から何か重要な儀式があるとかで王都への関所が閉ざされているとの事であった

 そのせいで誰も王都から外に出られずに困り果てているとの事であった

 "そんな……"

私と爺は同じ言葉を口にするのであった




第118話 ~  異変  ➄  ~



  終わり




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