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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第114話 ~  異変  ①  ~

第114話 ~  異変  ①  ~



序章



 "バルテの事件"から2週間が過ぎた……

 アカデミーも平穏を取り戻し以前と何も変わらない時間が流れている


 この所、自分で転移魔法を発動できるようになったオウムの爺は頻繁に魔法工房に通い詰めておりアカデミーに帰ってこない日も多々ある


 "何かあるな"……というのは何となく予想できるマノンであった


 ルメラ達は4人で何やら企んでいるらしく、それにエレ-ヌが手を貸しているとルシィから聞かされている

 レナはと言うと半期レポート(中間テストのような物)の作成に苦労しているらしく、ここ暫くは部屋に閉じこもっているようである


そんなレナを見るに見兼ねた私は手伝おうとするが

「自分でやらないと意味がないのよ」

少し疲れた顔をして言うと微笑む

「ありがとう……マノン、心配してくれているのね」

「これが終わったら、魔法工房の温泉に連れて行ってね」

そう言って再び自室に籠ってしまった


 入学して半年以上、この辺りが初めの学力査定の山場であり壁でもある

 これを越える事が出来なけれは2年間でのアカデミー卒業は難しいとさえ言われているのである


大賢者の知識を受け継ぎ余裕のあるマノンとは違い、殆どのアカデミーの一年の生徒はレナと同じ状況なのである

 それにマノンは、既に"導師候補生"となっており"大賢者の弟子"という肩書もあってその卓越した能力はアカデミーすべての導師や生徒の知るところであり……

 本人に自覚は無いがアカデミーでは"浮いた存在"となっているのである


 それでも、他の生徒から反感を買わないのはマノンが"大賢者の弟子"であるという事もあるが、

裏表の無い大らかな性格と人の良さがそれ以上に大きかった




 そして……アレットには人生の最大の山場が訪れようとしていた

 

 アレットは、ここ1週間ほど前から猛烈な倦怠感と吐き気に襲われるようになっていた

 当然、アレットはこの原因が何なのか直ぐに気付いた

 そう……妊娠である

 「そろそろ"年貢の納め時"かな……」

アカデミーのトイレの個室で口をハンカチで押さえながら呟く

 「とりあえず、オヤジに報告するか」

そう呟くとトイレの個室を出る


 その日の夕刻に実家を訪れてマノンの子供を身籠った事を父のヴァーレルに報告する

 以前のマノンとの"交わり"の報告の時もそうであったがヴァーレルは予想もしなかったあまりの急なアレットの言葉に意識が飛んでしまった

 しかし、しばらくして我に返ると

 "うぉぉぉぉーーーっ!!! "

という雄叫びを上げると嬉しさのあまり我を忘れ踊り出すほどであった


 そんな父を見ているとアレットは急に不安になる

 嬉しさのあまり我を忘れていたヴァーレルもアレットの不安そうな表情に気付くと正気に返る


 「父上、私は無事に出産できるでしょうか」

いつもとは違う不安に満ちたアレットの表情と口調にヴァーレルはニヤリと笑う


 「お前なら大丈夫だっ! 」

 「そこいらの王国騎士なんぞより遥かに根性がある」

 「大丈夫だっ! 」

そう言うとヴァーレルはアレットを抱きしめる


 「父上……痛いです」

アレットの言葉にヴァーレルは慌てて離れる


 「マノン君には、もう話したのか」

ヴァーレルの問いかけにアレットは黙って首を横に振る

 「そうか……マノン君に話すか話さないかはアレットが決めなさい」

 「ワシは何も口出しはせぬつもりだ」

 「お前の思うとおりにしなさい」

そう言うと少し悩んでいるアレットに目をやりながらヴァーレルは話を続ける

 「とりあえず、アカデミ-には事情を話し休暇を申し出なさい」

 「そして、暫くはここに戻って無理をせずに体を労われ」

ヴァーレルの言葉にアレットは軽く頷いた


 そして、その日のうちにアレットの休職がアカデミーの掲示板に張り出されることとなるのであった


 本人の希望により休職の理由は"家の諸事情"とのみ記載され本当の理由は伏せられた


 アカデミ-側も前代未聞である、現役の男子生徒と女性導師の"交わり"による女性導師の妊娠という事実を伏せたかったこともありアレットの妊娠を知るものは導師総代のジェルマンのみである


 マノンがアレットの妊娠を知るのはこれより1ヶ月以上先の話である


 そして、マノンにも大賢者として初めての大きな試練が訪れようとしていたのである




第114話 ~  異変  ①  ~




 魔法工房の最奥部にある監視室、オウムの中の爺は取り乱していた


 "何という事じゃ……"

 "このままでは、この大陸は大変な事態になるやもしれん"


 1ヶ月以上前に見た不思議な渦巻き状の雲に胸騒ぎを覚えた爺は魔法工房の監視室に入り浸り大陸の南側のピオ-ネ山脈の監視をずっと続けていたのだった


 そして、得られた情報からはじき出した結論が長年に渡り管理されることなく放置され続けた休止しているはずの"南側の魔力変換炉の暴走"であった


 このままだと大陸の半分が甚大な魔力災害に見舞われ大陸全土に影響を及ぼすことは明白であった


 "なんとかせねば……"

 爺は呟くと急いで転移室へと飛ぶ、転移を終えて広場の塔からアカデミ-の寮の窓を目指し飛んでいく


 寮の窓から部屋の中でマノンがベッドに寝っ転がっている姿が見える

 "悠長に昼寝なんかしておる場合ではないぞっ!!! "

爺はオウムの中で叫ぶように言う


 「はへぇ~」

 「何か聞こえたような……まぁいいか……」

気の抜けた声で爺の呼びかけに反応するマノン……

 (心の友を失いフテ寝しているのであるから上の空である)


 マノンは尋常ではない緊迫した爺の呼びかけにもどうも気が入らない

 その理由はと言うと……アレットとノエルという心の友(温友)をほぼ同時に失ってしまった喪失感によるものである

 "アレットさんもノエル君もいなくなっちゃった……" 

 "ノエルはともかく、アレットさんは一言も無く休職しちゃうし"

 "せめて一言ぐらいは……"

 (マノンに余計な心配をさせないためのアレットの配慮であるのだが……マノンには知る由もない)

 ノエルやアレットの事で頭がいっぱいのマノンには爺の叫び声など全く耳に入っていないであった


 ベッドに仰向けになって一人でブツブツなにか言っているマノンに痺れを切らした爺のオウムはマノンの股間めがけて手加減なしでくちばしの一撃を突き立てた


 「ふごっ!!!」

マノンは雷にでも打たれたように仰け反ると股間を押さえてベッドの上でのたうち回る

 「あがががーーーっ!!! 」

 「うっうっうっーーーっ!!! 」

余りの痛さに呻きながらもマノンはなんとかベッドから起き上がる

 「いきなり何てことするんだよっ!!!」

爺の股間攻撃にいつもよりも切れ気味な口調のマノン……


 「大変な事になっておるっ! 」

 「このままじゃと大規模魔力災害が起きる!!」

 「下手をすれば、この大陸は死の大陸と化すぞっ!!!」

爺の尋常ならぬ口調と感情がマノンに伝わってくる


 「それ……どういう事なの……」

冷静を取り戻したマノンは爺の言っている事の重大さを理解する


 「ピオ-ネ山脈の何処かにある南側の魔力変換炉が暴走状態になっている」

 「このまま放置すれば遅かれ早かれ確実に魔力崩壊を起こす」

 「そうなれば……大陸の半分は一瞬で灰燼に帰する」

 「残りの半分は生き地獄のような世界になるじゃろう」

爺の言っている事はこの世界の終わりを意味している


 「どうすれば魔力変換炉の暴走を止められるの」

私は爺に問い質す


 「南側の魔力変換炉へ直接行ける転送ゲ-トはないし正確な位置も分からん」

 「直接、ピオ-ネ山脈の何処かにある南側の魔力変換炉に行くしかない」

 「そして、魔力変換炉の地下に掘られている竪坑に溜まっていると思われる魔力を開放するしかない」

私には爺の言っている事がよく分からない


 「どういう事……」

私が質問すると爺の長いウンチク話が始まる

いつもなら途中で寝てしまうのだが今回はそんな余裕はなかった



 爺曰く……

 所在はハッキリとしないがピオ-ネ山脈の何処かに大氷河期以前に旧世界の南極大陸国家が造った魔力変換炉があるとの事

 伝承では三千年以上前に閉鎖され休止状態にあったのだが何らかの事情で再稼働し暴走し始めているとの事だった

 このまま放置すれば、魔法工房に伝承されている資料から南側の魔力変換炉の設計と構造上の特性である地下深くまで掘られた竪坑に魔力が蓄積され徐々に高温になっていき構造上の強度限界を越えれば魔力崩壊を起こし大惨事を招くという事である


 魔法工房にある旧世界の記録によれば南側の魔力変換炉の暴走による大規模魔力崩壊は一度だけ起きており、一つの小国が全国民もろとも跡形もなく消し飛び周辺諸国にも甚大な被害をもたらしたとある

 その後、数十年に渡りその付近は草一本は生えない不毛の土地と化したそうである

 因みに、国ごと全国民も吹き飛んだために魔力変換炉の暴走の原因は不明との事である

 


 爺の説明を聞いた私の脳裏に今まで出会ってきた人たちの顔が浮かんでくる

 

 「何とかしないと……」

私が呟くと爺の意志も伝わってくる

 「これから、すぐに魔法工房に行こう」

 「出来うる限りの準備をして必ず暴走を止める」

私がそう言うと爺も同じように呟くのが分かる


 "レナに話そうか……"

 "いや今はダメだ……勉強で大変な時だし……"

 "やはりここは、ルシィだけに話しておくのが一番いい"

私はそう思いルシィのもとへ出向き事の次第を話す


 「そんな……」

ルシィは信じられないという表情をして呆然としている


 「この事は、ルシィ導師だけにしかお話いたしません」

 「ルシィ導師もその心に留め置くだけにしてください」

私の言葉にルシィは何度も小さく頷くのだった


 認識阻害を再び発動するとルシィの部屋を出て私はそのまま魔法工房へと向かう

 出来うる限りの装備を整えピオ-ネ山脈に最も近い場所へと転移する


 そこは、山の中の何も無い小さな祠であった


 「こんな所にも転移ゲ-トがあるんだね」

私が少し驚いたように言う


 「儂もこの転送ゲートを使うのは三百年ぶりかの……」

 「ここの転移ゲートはタクサ温泉の南側、約10ゲールほど行った所のはずじゃ」

そう言うと爺のオウムは私の肩から飛び立ち空高く舞い上がると辺りをぐるりと回った後で私の肩に降りてくる

 「ここから南東へ5ゲールほどの所に何かありそうじゃな」

 私は爺の言う通りに南東へと歩き出すが道も無い草木が生い茂った山の中を重い荷物を背負い移動するのは予想以上に困難だった


 時より、爺のオウムが上空に舞い上がり位置を確認しながらの移動である

 南側の魔力変換炉の明確な位置情報がないために、時より休憩を取り手探り状態で探索しながらの移動は思った以上に時間と労力を必要とした


 「この辺りに人は住んでいないの」

私が爺に問いかける


 「この辺りは幻獣の住処じゃからの誰も住んでおらんはずじゃ」

爺の言葉に王都に出現した"幻獣"の事を思い出す


 探索しながら移動を始めて約4時間以上が過ぎているが未だにそれらしき物は見つけられていない


 「今日中に見つけられるかな」

私は爺に不安そうに尋ねる


 「んん~どうかのう……」

 「南側の事はよく分かっとらんからの」

 「三千年以上は放置されておるから……」

 「土砂なんかが堆積して地中に埋もれていることは確かじゃの」

爺は少し自信なさそうな口調になるが……

 「普通なら無理じゃろうが、今は魔力変換炉が暴走し始めている」

 「魔力の流れを注意深く探れば必ず見つかる」

力強い口調で爺は自信たっぷりに言う


 「だといいんだけとね……」

 「ところで、タイムリミットはどのぐらいなの」

私は爺にずっと気になっている事を問う


 「ここ一が月間の観測じゃと……」

 「早ければ4~5日……遅ければ半年かの……」 

爺は少し申し訳なさそうに言う


 「ええっ!」

 「ちょっと、誤差が酷くない……」

あまりにアバウトな爺の予測に呆れたように言う


 「まぁ……そう言うでない」

 「これが精一杯なんじゃよ」

爺は仕方がないと言わんばかりである

 「止まれっ!」

いきなり爺が叫ぶ……

 「幻獣じゃ……」

爺のオウムが首を向けた方向に灰色をした生き物らしきものが動いているのが見える


 "気付かれたかな……" 

爺に念話で問いかける


 "大丈夫じゃ……阻害魔法で臭いと姿、気配は消している"

 "鼻の効く奴らにも分からんはずじゃ"

 "気付かれていたら逃げているか、襲い掛かってくるかのどっちかじゃ"

爺の言っている事に納得した私は動かずに息を潜めてジッとしている

暫くすると幻獣の姿も気配は消えてなくなった


 「幻獣は魔力に敏感じゃからのう、この辺りに何かあるやもしれぬ」

そう言うと爺は私にある事をするように言う

 「お前さんは、高位魔術師じゃから魔力の流れを感じる事が出来るはずじゃ」

 「儂の言う通りにしてもらえんかの」

私は爺の申し出を了承する

 「目を閉じて息を吸って止めよ」

 「そして、全身の肌に神経を集中させるのじゃ」

私は爺の言う通りにする 

 「何か感じぬか……」

少しすると爺が私に問いかけてくる


 「……右の頬が暖かく感じるような気がする……」

私がそう言う


 「そうか……では右に行くとするか」

爺のオウムは上空に舞い上がると辺りをぐるぐる回ている

 「それらしいものはないの……」


同じような事を何度も繰り返しては少しづつ進んでゆくと平らで開けた場所に出る

 「この辺りから暖かい空気の流れを感じる」

私がそう言うと爺のオウムが空高く舞い上がり同じようにぐるぐると辺りを回っている

 

 「上から見た感じでは何やら、建造物の跡のようじゃな……」

 「間違いなく、ここが魔力変換炉の入口じゃな」

 「その前に……大掃除と行くかな」

爺は確信したように言うと背中のリュックから緑色の魔石を取り出すように言う


 爺に言われたとおりに緑色の魔石を取り出し爺の言う通りに魔石を発動させる


 魔石は緑の閃光を放つ、一瞬で閃光が収まると辺りの景色は一変していた

 生い茂っていた下草は無くなり、黒い石の床が現れその真ん中に地下に通じる大きな石の扉がある

 "あれ……どこかで見たような……"

何故か、私にはこの石の扉に見覚えがあるような気がする

 "まぁ……いいか"

あまり気にする事も無く石の扉へと進んでいくと爺が私に話しかけてくる


 「ここからが正念場じゃぞ……」

 「この扉、そう簡単に開く代物ではない……」

私は爺の、この言葉の意味を思い知ることになる


 ピオ-ネ山脈に入り既に7時間以上が過ぎ、日も傾きだしているのであった



第114話 ~  異変  ①  ~


 終わり


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