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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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 第109話 ~  王国騎士セシル・クレージュ  ➂  ~

第109話 ~  王国騎士セシル・クレージュ  ➂  ~



序章



 訓練を終えたノエルはカカシの部屋から出ると倉庫へと上がる階段を素通りしてその横の鉄格子の入った部屋へと向かう

 "今頃どうしているのかな……"

 ノエルは鉄格子の中を見て呟くと再び階段の方へと歩いて行く、階段を上り倉庫から店の方へ行くと何やら外が異様に騒がしい


 「何かあったの」

店の外を不安そうに見ている母のブリジットに尋ねる


 「……」

ブリジットは何も言わずに物悲しそうに微笑んだ


 不審に思ったノエルがブリジットに声をかけようとすると父のデジレが血相を変えて店に駆け込んでくる

 「バルが殺られた」

真っ青な顔でそう言うとブリジットが信じられないという表情をする


 「そんなっ! バルが殺られるなんて」

 「魔剣使いでも居合わせたの」

ブリジットはそう言うと焦りを隠せないでいる


 「何の事っ!」

 「バルが殺られたってどういう事」

話が全く分からないノエルは父のデジレに詰め寄るように問い質す



 デジレとブリジットは顔を見合わせると一呼吸置き息を整えると事の次第をノエルに話し始めた


 「良くお聞き、ノエル……」

 「母さんと父さんは、もう……この裏家業から足を洗うつもりだったんだ」

 「これ以上、周りの人々を欺くのは嫌になったんだよ」

 「それで、帝国の監視者の目を欺くことにした」

そう言うとデジレは大きく深呼吸をする


 「町にバル(幻獣)を解き放ち、帰巣本能を利用してこの店を襲わせるように仕向けたんだ」

 「そうして、父さんと母さんとお前は幻獣に襲われて死んだように見せかけ」

 「どこか遠くの土地で平凡に暮らそうと考えていた」

 「しかし……」

デジレの話を聞いていたノエルが途中で割って入る


 「そんな……そんなことしたら大変な事になる」

 「どれだけの住人が犠牲になると思ってるのっ!」

ノエルは涙を浮かべて父のデジレに詰め寄る


 「仕方がなかったんだよ……」

 「それぐらいしないと帝国の監視者の目は誤魔化せない」

デジレは申し訳なさそうに言う

 「でもな……悪い事は出来ないものだよ」

 「バルはあっさりと殺られてしまったよ……」

 「安心おし、町の人は一人も犠牲になってはいない」

そう言うとデジレはノエルの頭を優しく撫でる


 「これからどうするつもりなんだい」

ブリジットがデジレに不安そうに尋ねる


 「監視者はバルの脱走は事故だと思っているはずだ」

 「帝国の指令通りにマノン・ルロワを監視する」

 「時間稼ぎにはなるはずだし、指令通りに動いていれば大丈夫だ」

 「今回の任務は我々でなければ遂行は難しいからな」

そう言うとデジレはブリジットとノエルの手を握りしめた


 「でも、誰がバルを」

ノエルの問いかけにデジレは自分が見たままを話すと最後に言う


 「あれは……魔剣なんかじゃない」

 「大賢者が持つと言われる光の剣だ」

 「偶然に、とんでもない大物に当たってしまったんだよ」

デジレはそう言うと黙り込んでしまった



 少し前、ゲルマニア帝国とガリア王国が戦っていた頃に、立案され計画された対ガリア王国の後方撹乱作戦の一つとして王都ガリアンに幻獣を解き放つというものがあり準備されていた


 しかし途中で休戦となり計画は中止され、刃物の店"バルテ"の地下室で飼育されていた幻獣(バルは暗号名)は数日前に極秘裏に別の場所に移されていた


 デジレは、その場所を知っていたので忍び込みバルを脱走させたのだ

 本来は、この作戦が計画通りに実行された場合には家族3人で事故を装い死亡したように見せかけ姿を眩ませて別の土地で暮らすつもりであったのだ


 それは、自分達が気心の知れた多くの町の人々の命を奪ってしまう事への罪悪感から逃げるためでもあったのだった


 "呪われているな……"

 "100年間も人々を欺き続けたからな"

 "簡単には終われそうにないし、逃げれもしないか……"

 "しかし……ノエルだけは何としてでも……"

デジレは心の中で呟くのだった




 第109話 ~  王国騎士セシル・クレージュ  ➂  ~



 幻獣騒ぎから一晩明けて王都も平穏を取り戻しつつある

 王立アカデミ-からは不要不急の外出は出来るだけ避けるようにと指示が出ている

 しかし、私は今日中にセシルに会っておきたかった

 明日にはポルトーレに帰ってしまうからだ


私はルシィに事情を話し外出許可を得る事が出来た、そしてレナに事情を話す


 「そう……セシルさんが来ているの……」

 「行ってあげなさい……きっと心待ちにしているわよ」

レナはそう言うと優しく微笑んだ

既にレナはセシルのマノンに対する気持ちを知っていたからであった

 "セシルさんも私と同じ……"

 "その気持ちは止められない……だから……"

レナはそう自分に言い聞かせるように心で呟くと部屋を出ていくマノンの後姿を優しく見つめているのであった


 レナの思いとは裏腹にマノンにそのような気は全くなく、ただ会いに行くだけなのだが……



 私は王立アカデミ-を出るとルシィに貰ったメモを頼りに表通りに出る

 いつもに比べて人通りは少なく、代わりに多くの王国騎士が完全装備で町の警戒に当たっている姿が目立つ


 セシルの滞在している宿に到着すると受付の係の人にセシルの事を尋ねる


 「セシル・クレージュ様……確かに当宿に宿泊しておいでです」

 「何かご用件でしょうか」

受付の係の人に私の名前と用件を伝えると二階の階段を登っていった

そして、暫くすると階段を降りてくる

 「二階の突き当りの角部屋201号室です」

そう言うと係の人は階段に通じる通路を手で案内する


 「ありがとうございます」

私は係の人にお礼を言うと階段を登り指定された201号室のドアをノックする


 「マノンっ!」

聞き覚えのある声がするとドアが勢いよく開く

 「ああっ、やっと会えたわ」

セシルの目に少し涙がにじんでいるのが分かる


 「久しぶりだね、王国騎士就任おめでとう」

私がセシルに祝いの言葉をかけるとセシルは私にそっと抱き着く

 「どうしたの……」

少し慌てる私にセシルは無言でいる


 「ごめんなさい……」

そう言うとセシルは私から離れる

 「マノン……あなたのお陰で願いが一つ叶いました」

 「ありがとう……」

 「そして……もう一つの願いを叶えるために私は今、ここにいます」

そう言うとセシルは呼吸を整えると大きく息を吸い込む

 「わ……私にマノンの子を授けてください……」

セシルは小さな声で私にそう言うと恥ずかしそうに俯く


 「……」

予想もしていなかったセシルの言葉に私の思考が停止してしまう


 「私と"交わって"ください……」

セシルはそう言うと頬を赤くし潤んだ眼をして私を見つめる


 あまりに突然なセシルの言葉に私の頭の中でセシルとの思い出が走馬灯のように流れる

 そして……


 "マノン、女がこういう事を言うのは余程の覚悟がないと言えないんだよ"

 "そんな時はね……マノンが嫌じゃなければね"

 "その思いに答えてあげるものなんだよ"

 アレットの言葉が私の脳裏に響く


 "アレットさんの言った通りになっちゃった……"

 "私はどうすればいいのかな"

私は居ないはずのアレットに問いかける

 "そんな事はね……自分で決めなさいっ!"

アレットの声が聞こえてくるような気がする

そして、セシルに視線を向ける

 「王国騎士になったばかりなのにいいの……」

 「それに、それなりの段取りはしておかないと」

私は後々の事を考えてしまう


 「大丈夫よ」

セシルはそう言うと微笑み一枚の紙きれを私に手渡す



アルフレッド・ルロワとジルベール・クレージュは双方の同意のもとアルフレッドの息子マノン・ルロワとジルベールの娘セシル・クレージュの交わりを認めるものとする


 交わりにより生まれた子供は男女を問わず親権はクレージュ家のものとする



 王国歴×××年 △月〇〇日


  アルフレッド・ルロワ   ジルベール・クレージュ



 「なっなっなっなんじゃこりゃ~」

まるで身に覚えのない私は思わず声を上げてしまう


 「私も知らなかったのよ……」

そう言うとセシルは少し申し訳なさそうな表情をする

 「それに、騎士団はね出産・育児に関しては凄く理解があるのよ」

セシルはマノンが懸念していることを打ち消そうとする

(これは、事実である)

(この世界の女性に対する産休や育児休は今の日本よりも遥かに手厚く、認知され実践されいてる)


 マノンは自分の事を話しておくべきだと決心する

「セシルに話しておきたい事、知っていてもらいたい事があるんだ」

私はセシルに言う


 「……」

私の真剣な口調と表情にセシルは沈黙してしまう


 「一緒に来てくれる」

私がそう言うとセシルは小さく頷く

宿を出ると広場の塔へと向かう、塔の階段を登っていく……

セシルは何も言わずに私の手を握りしめたままでいる


 「着いたよ……」

 「私にしっかりと掴まっててね」

そう言うとセシルは私の腕に強く掴まる

 私は転移魔法を発動するのだった



  第109話 ~  王国騎士セシル・クレージュ  ➂  ~



   終わり




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