第107話 ~ 王国騎士セシル・クレージュ ① ~
第107話 ~ 王国騎士セシル・クレージュ ① ~
序章
マノンがタクサへ向かう途中で見た雲は王都ガリアンでも見る事ができた
「まさか……」
王立アカデミ-のマノンの部屋の窓から雲を見たオウムの中の爺が呟く
厳しい眼差しで爺が雲をじっと見ていると程なく雲は霧散する
「気のせいか……」
雲が霧散して無くなってしまったことに安心したように呟く
「南側で何かあったのか……」
爺は窓の外をじっと見ているのであった
それから半日後、マノンとアレットを乗せた馬車が王都に到着する
馬車から降りたアレットと私は荷物を置くと背筋を伸ばす
「ああ~」
アレットは腰を軽く叩きながら声を上げる
「大丈夫ですか」
私が問いかける
「大丈夫よ」
アレットはそう言うと笑う
「それじゃ……また……」
私に軽く手を振ると荷物を手に取り歩き出す
「家までお送りしますよ」
私はアレットを追いかける
「いいわ、ここで別れましょう」
「それがお互いのためよ」
私はアレットの言葉に軽く頷く
そのまま立ち去っていくアレットを見送るのであった
かくして、アレットとの温泉旅行の第三弾は終わったのであった
第107話 ~ 王国騎士セシル・クレージュ ① ~
聖・パトリック教会の大聖堂の祭壇の前にセシルが跪いている
その前に、国王のレオナールが王家の秘剣を両手で垂直に掲げるようにしている
「セシル・クレージュ、汝をこれより王国騎士とする」
国王のレオナールが、ガリア王家の秘宝の魔剣の切っ先をセシルの肩に軽く当てる
「これを以って、汝は正式な王国騎士となった」
「日々、王国騎士として士道に励むがよい」
レオナールの言葉にセシルが返答をする
「名誉ある王国騎士としてその名に恥じぬよう」
「日々精進することを誓います」
セシルの言葉にレオナールは軽く頷く
セシルは立ち上がると軽く会釈をして元の立ち位置に戻る
何事も無かったように無表情にしているが……
"はぁ~、何事も無く終わったぁ~"
心の中では安堵の声を上げていた
それから一時間後に儀式を終えて新任の王国騎士たちは解散していく
セシルも教会を出て宿へと戻ろうとしていると誰かが声をかけてくる
「セシルさん」
セシルが振り向くとそこには一緒に儀式に出ていた女騎士が立っていた
身長は170センチ程でやや細身の体型の金髪のショートヘア、たしか……
セシルは彼女の名前を思い出そうとする
「たしか……クリステルさん」
セシルは朧げな記憶を頼りに何とか彼女の名前を思い出す
「クリステル・ベアール、よろしくね」
女騎士は名乗ると愛想よく笑った
「セシル・クレージュ、こちらこそよろしく」
セシルも愛想よく笑いながら名乗る
「今期2人だけの女性騎士同士、仲良くしましょう」
クリステルはそう言うとセシルに微笑みかける
「そのマント、トルス騎士団のものよね」
「だとしたらポルトーレのご出身ね」
セシルのマントを見て言う
「そうです」
「あなたのそのマントはノルトン騎士団のものですね」
「だとしたら、ご出身はバイユーですね」
セシルの言葉にクリステルは微笑むと軽く頷いた
ガリア王国には、各地の要所に地方騎士団を置いている
騎士団員は地元民から選抜されるのが習わしである
地方騎士団の数は全部で27あるが、その規模はまちまちである
クリステルの所属するノルトン騎士団はガリア王国の最も西側に位置する
バイユーはへベレスト山脈の西の麓にできた人口2万人ほどの鉱業都市である
ガリア王国でも屈指の産出量を誇る金鉱脈がある事で知られていおり、その防衛のためにノルトン騎士団が置かれている
金鉱脈という要所警備のため規模は比較的大きく、騎士の数は40人で配下に約600人の兵士がいる
因みに、セシルの所属するトルス騎士団は騎士15名、兵士約200名で編成されている比較的規模の小さい騎士団である。
「バイユーから王都まで500ゲール近くあるわよね」
「王都までどれぐらいかかるの」
セシルがクリステルに質問する
「そうね……馬にのんびり揺られて……」
「20日ぐらいかな……」
「徒歩だと28日はかかるわね」
「王国の最西端の凄い辺境だから」
クリステルは少し自虐的に言うと笑う
「ポルトーレも辺境よ」
「同じように馬に揺られて10日はかかるわよ」
「徒歩だと14日ぐらい」
セシルも同じように田舎自慢をするとクリステルと顔を見合わせ笑う
「同じ田舎者同士、仲良く出来そうね」
クリステルが言うとセシルは笑顔でそれに答えた
「これから、王都見物にでも行かない」
そんなセシルにクリステルが問いかける
「嬉しい誘いだけど……私用があって……」
セシルが申し訳なさそうに言う
「そう……それじゃ……仕方ないわね」
そう言うとクリステルは軽く手を振って去っていった
そんなクリステルを見送った後、セシルは王立アカデミ-へと向かう
聖・パトリック教会からだと歩いて10分もかからない
高鳴る胸の鼓動を感じながらセシルは王立アカデミ-へと向かう……自然とその足は速くなっていく
「着いた……ここが王立アカデミ-……」
セシルは息を切らしながら呟くように言う
「勝手に入っていいのかしら……」
悩んでいるセシルに大きな女性が声をかけてくる
「どうかなさいましたか……」
「お見受けしたところ、王国騎士様のようですが」
「アカデミ-に何かご用でも……」
少し不思議そうに問いかけてくる
「あっあの……」
「ここにマノン・ルロワという生徒がいると思うのですが」
セシルが勇気を出して問いかけると大きな女性は"えっ"という顔をする
「マノン・ルロワさんのお知り合いの方なのですか」
大きな女性は驚いた表情で目をパチパチしながら言う
「はい、同郷の学友でした」
「私が王国騎士になれたのもマノン君のお陰なんです」
セシルの力強い言葉と口調に大きな女性は"なるほど"という表情をする
「わかりました……」
「申し遅れましたが、私はルシィ・ランベール」
「この王立アカデミ-で導師をしております」
ルシィが自己紹介をする
「こちらこそ申し遅れましたが」
「ポルトーレのトルス騎士団のセシル・クレージュと申します」
セシルも同じように自己紹介をする
「ところで…マノン・ルロワさんにどのようなご用で……」
ルシィがセシルに尋ねる
「あっ、そのっ、なんと申しますか……」
セシルの何やら慌てた様子と頬を赤らめた表情を見てルシィは"この子もそうなのか"と直感すると同時にやや呆れたように心で呟いた
「はぁ~、わかりました……」
「マノン・ルロワさんをお呼びしますね」
「ここでは目立ちますので……こちらへどうぞ」
騎士団の紋章の入ったマントを羽織った王国騎士がアカデミ-の正門の前で立っているのであるから目立って仕方がないのである
ルシィセシルを来賓者寮の面会室へと案内する
ルメラ達は講義に出ているので寮にはおらずルシィとセシルの二人きりである
(今日は、休日であるが転入生のルメラ達は補習講義がある)
「ここで、お待ちいただけますか」
セシルにそう言うとルシィは部屋を出て行った
セシルは落ち着かない様子で豪華な面会室を見回す、脈打つ心臓の音が伝わってくるのが分かる
"もうすぐ会えるのね……"
"何を話せばいいのか……"
"まさか……「子づくりしてください」なんて言えないし"
セシルはあれこれと想いを巡らせているとドアの開く"ガチャ"という音にビクッと驚く
「お待たせしました」
ルシィの声がするとセシルは慌てて振り向くがマノンの姿は無かった
「あの~申し訳ないのですが……」
「マノン・ルロワさんは、外出しておられるようで」
「アカデミーにはないようで……」
「いつ戻ってくるのも分からないようです」
ルシィの言葉にセシルに落胆の表情がにじみ出る
そんなセシルを気の毒に思ったルシィは話を続ける
「何でしたら、セシル様の連絡先をお聞きして」
「マノン・ルロワさんが戻られましたらお伝えします」
ルシィの提案にセシルは少し希望を取り戻したような表情になる
ルシィは自分の滞在している宿の住所と名前を伝えるとトボトボと王立アカデミ-を後にした……
あと二日しか王都には居られないからである……
その頃、そんなセシルの思いを知る事も無くマノンはアレットと共に馬車に揺られて王都への帰路についているのであった
第107話 ~ 王国騎士セシル・クレージュ ① ~
終わり