第106話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ➉ ~
第106話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ➉ ~
序章
今を遡る事、約3500年前……
この惑星が大氷河期を迎える少し前には南北の2つの大きな大陸には高度に発達した魔術文明が存在していた
この惑星の地形は特殊で大陸移動により南北の極部に陸地は集まっており赤道付近には大海が広がっていた
大海のほぼ真ん中、赤道付近に僅かに3つの島があるだけであった
南側のピオ-ネ島、約300ゲール(Km)離れて真ん中より少し北側へベレス島、そこから約400ゲール北側にシラク島である
赤道直下の熱帯のこの3つ島は南北の大陸から距離的に丁度、中央に位置し両大陸から約4000ゲール離れている
季節がなく気温は日中の最高気温40度を超える
そして、3つの島は南北両国家の国境の島でもあった、ピオ-ネ島を南の国家がへベレス島とシラク島を北の国家がそれぞれの領土としていた
この地の人が暮らすには過酷な環境であるために北側の大陸では古くからへベレス島、シラク島の2つを流刑地として使っていた
一方で南側の大陸ではピオ-ネ島をその気候を利用しリゾート保養施設として使っていたのだった
これは、両国の国家体制の違いによるものである
今現在、この島(大陸)に生き残っているのはその時にこの島にいた人々の末裔である
大氷河期が到来した時に余りに急激な気温低下に海は凍てつき船を出すこともままならず、南北両大陸にいた人々は脱出する手段を失い全滅してしまう事となる
やがて、南北両大陸に降り積もった雪は氷山となり海面は低下し3つの島の間に広がっていた浅い海底が干上がり一つの大きな島となったのである
島の形はイギリスの大ブリテン島に似ているが、大ブリテン島の最北端から最南端まで南北1200km,東西700kmよりも小さく最北端から最南端まで南北1000km,東西600kmほどである
この3つの島に残された人々は生き残るために過酷な環境の下で必死の努力をすることとなるのである
その努力が実り今日に至るまで人類は何とか存続し続けているのである
当初3000人余りだったその数は現在、400万人近くにまで増えている
因みに、爺の時代には350万人ほどであった……ゆっくりだが確実にその数を増やしているのである
第106話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ➉ ~
「ああ~いい朝~」
目覚めたアレットは両手を組んで挙げると大きな伸びをした
隣には裸のマノンが体を少し丸めて横向きに寝ている
"まだ、寝てるのか……"
窓から、町の時計台が見える……
"まだ、7時前か……ひとっ風呂、浴びるかな……"
アレットはそう呟くとマノンを起こさないようにそっとベッドから出る
タオルを手にすると肩に掛け裸のまま露天風呂へ向かう
「ああ~いい湯……」
お湯に浸かってぼんやりしていると昨日の夜の事が思い出してしまう
"……ちょっと、強引だったかな……"
"しかし、ああでもしないと……なにもしないからなぁ~"
"私ってそんなに女として魅力ないのか……"
"確かに乳もデカくなきゃ、美人でもないし、若くも無い……"
そんな事を考えているとアレットは段々と虚しくなってくる
(マノンに好意を持った女子の全てが何かしら一度は同じように悩むことである)
何げなく、アレットは温泉の中で自分の体をチェックする
"やっぱり、以前より肌の艶も張りも良くなっている"
"どう考えても、これは温泉の効能というより、マノンと……"
アレットの顔がだらしなくニヤけてくる
"やっぱり、アレって適度にすると体にはいいんだ……"
"それに……凄く気持ちいいし……"
アレットの顔は更にだらしなくニヤける
"今度も深酒した後だしな……"
アレットは小さなため息を吐くと立ち上がる
タオルで体を拭くと部屋に戻る、マノンはまだ寝ている
アレットはマノンの寝顔をそっと覗き込む、マノンの顔を見ていると……
"それにしても……ホントに美形だよな……"
"マノンの顔を見ていると……見ていると……"
アレットの脳裏には昨日の夜、快楽に悶えるマノンの表情が鮮明に浮かんでくる
"美少年が快楽に悶える表情は……たまらんわっ!……"
そんな事を考えてしまうアレットは自分が危ない人なのではないかと思ってしまう
「んんっ……」
「あ~おはようございます……」
目を覚ましたマノンは虚ろな表情でアレットに挨拶をする
「もう……朝ですね……」
そう言うとマノンはベッドから立ち上がり
「ちょっと、眠気覚ましに風呂に入ってきますね」
裸のままフラフラと温泉の方へと歩いて行く、アレットはそれを黙って見送るのであった
温泉の熱めのお湯に浸かったマノンは徐々に眠気が無くなり頭がスッキリとしてくる
"あ~また、ヤっちゃった……"
マノンは、前回に続きまたしても背徳感に苛まれているのだった
"アレット導師はああ言っていたけど……"
"アレットさんと私は導師と生徒なんだよな……"
"もしも、本当にアレットさんが妊娠とかしたら……"
"アレットさんに凄い迷惑をかけてしまう……"
マノンはアレットの事が凄く気懸りで仕方がなかった
アレットさんの事だから"余計なお世話よ"って言うだろうなと思いながらもマノンはアレットの事が心配でならないのである
マノンが心配する理由は、医療技術の進歩していないこの時代ではアレットの年齢での出産は文字通りの命がけになるかもしれないからだ
"今更、そんな事を考えても仕方がないか……"
"その時は、私にできる限りの事をするだけだよね"
マノンはそう呟くと温泉を出て部屋へと戻っていった
朝食が運ばれてくる、厚切りにして焼いたパン、川魚の塩焼きに山菜のサラダと卵のスープが付いていた
朝食を食べて少し休んでいるとアレットが私に話しかけてくる
「昨夜はごめんね……少し強引すぎたわね」
「反省してるわ……」
アレットは本当に反省しているようだった
「そんな事よりも……」
「もしも、妊娠してしまったら……できる限りの事はします」
私は温泉に入りながら考えていたことを言う
「あのねぇ……マノン……何か勘違いしてない」
「わ・た・し・は妊娠することを心から望んでいるのよ」
「自分でもどうしてか分からないけど……」
「あなたの子供が欲しいと本気で思っている」
「私にとっては……危険を冒すだけの価値があるのよ」
アレットの言葉には何の迷いも無いのがわかる
「でも、いろいろと……心配で……」
私が本当にアレットの事を心配しているという事がアレットにも伝わる
「そうね……マノンは優しいから……」
「でもね、マノンも同じ事よ」
「アカデミ-の人達もそうだけど……」
「もし、私が妊娠したらレナさんはどう感じるでしょうね」
アレットの言葉に私は自分でも血の気が引いていくのを感じる
「そうでしょう……お互い様よ」
「その時は、一緒に頑張りましょう」
「それでいいじゃない」
そう言うと、蒼い顔をして固まっている私を見てアレットは笑う……
その屈託のない笑顔に私の心配は何故か消えてなくなってしまうのであった
それから、程なくして2人は王都行の馬車に乗っているのであった
昼過ぎに馬車に乗り込み、ゆっくりと王都へと帰っていく
「マノン、あれ見て」
アレットがタクサの空の方を指さす
私がアレットの指さす方を見ると、タクサの町の上空に雄大なピオ-ネ山脈の頂上に向かって渦を巻くように雲が伸びている
「綺麗ね……」
アレットはそう言うと私の手を握りしめた
「そうだね……」
そう言って私もアレットの手を握り返すのだった
そんな2人を乗せてゆっくりと馬車は王都へと進んでゆく
第106話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ➉ ~
終わり