第105話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ➈ ~
第105話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ➈ ~
序章
マノンとアレットが温泉旅行に出かけたその日、レナとエレ-ヌはルメラ達の部屋にいた
「今頃、マノンの奴は温泉か……」
ルメラが呟くように言う
「シラクニアには温泉はありませんからね」
「一度は行ってみたいものですね」
ユーリアが少し残念そうに言う
「マノンが来るまでは、シラクニアでは熱いお湯に浸かるって事が自体ありませんでしたからね」
エルナがそう言うとルメラ達は頷く
「それが今じゃ……」
「老若男女問わず、国民皆が風呂好きだからな」
ルメラが呆れたように笑う
「そうですよね、特に薬湯の効能は絶大ですから」
「薬湯と塗り薬のおかげで、悩みの肌荒れも解消しましたし」
「ハーブのお湯は本当に癒されます」
ユーリアは自分の腕を軽く擦りながら言う
「それよりもストーブの方が凄いんじゃない」
「あれと泥炭のおかげでシラクニアの冬の生活がガラリと変わったし」
「食べ物もそうね、ハーブティーとスコーンのティータイムとか……」
「それに、あの得体の知れない"赤いスープ"も」
アイラがそう言うとルメラ達も頷く……
ルメラ達4人のマノン話は尽きることなく次々と思い出話に花を咲かせている
そんなルメラ達の話を聞いていたレナとエレ-ヌはキョトンとしている
「マノンってシラクニアではどんな事してたの」
レナがルメラ達に尋ねる
「この前にも少し話したけど、いろいろだな……」
ルメラが言葉にユーリアたちの表情に笑みがこぼれる
シラクニアであった事をルメラ達4人が代わる代わる話し出す
ユーリアの腰痛を治した事や、その時のマノンのマッサージにユーリアが甘美な声で喘ぎ悶えていたこと……
武術の試合でアイラのお尻を叩いた時に怪我をさせてしまったと勘違いしてアイラのズボンを引きずり下ろしてお尻を撫でまわしアイラを昇天させてしまったこと……
寝ぼけたマノンがエルナを自分の布団(寝袋)に引きずり込んでいたこと……
(因みに、エルナは寝ぼけてマノンがオッパイを吸った事の秘密は守っている)
シラクニアの騎士たちから次々と試合の申し出を受けた事、全戦全勝だった事……
最後に4人に魔剣を授けてくれたこと……
等々……そして……素焼きの皿の事……
「何なの、その"素焼きの皿"って」
エレーヌは興味津々で質問するとルメラ達は視線を逸らして黙り込む
「言えないことなの」
エレーヌは更に好奇心を膨らませる
「まぁ、簡単に言えば……恋文……かな……」
ルメラは少し恥ずかしそうに言う
「恋文っ!」
エレーヌが嬉しそうな声を出すその隣でレナは無表情で目を細めている
「ルメラさん、詳しく話していただけませんか」
レナの無言の圧にルメラの表情が引き攣る
「おっおう、いいぜっ!」
レナの無言の圧にルメラは全てを話すしかないと直感するのであった
かくして、一発券付きの恋文の事がレナに知られてしまうことになるのであった
それを聞いた、レナの笑った顔にその場にいた全員が恐怖を覚えたのは言うまでもない……
そして、同時にこれから待ち受けているマノンの運命を同情するのであった
第105話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ➈ ~
タクサの温泉旅館で昼食をとった後にのんびりと寛ぐマノンとアレット……
朝が早かったこともあり、いつの間にか二人とも居眠りをしてしまう
マノンはいつもの夢を見ているのだった
歴代の大賢者の記憶にある過去の出来事ではない本当の夢のような出来事
それは、スナップ写真のように静止した夢……語り手のない紙芝居のようだ
マノンはオウムのパックと一緒にピオ-ネ山脈にある行った事も無い山を登って行く、大きな岩が目の前に立ち塞がる、暗い洞窟の中、石の扉、そして……
マノンはハッとして目を覚ます、すぐ隣でアレットが気持ちよさそうに寝息を立てている
"何だったんだろう、今の夢……"
"いつものとは違っていたな……"
マノンは一人呟くと起き上がり伸びをした
何げなく部屋の中を見回すとある事に気付く
"アレットの大荷物がどこにもない"
"今回は本当にあの少し大きめの鞄だけのようだ"
私は、温泉にでも入るかなと思い立ち露天風呂の方へと歩き出す
「おおっ!」
私は思わず感嘆の声を上げる
大きめの自然石を組んで造られた湯船の周りには自然石の岩が違和感なく配置され所々に木々が植えらている
まるで、人知れず山奥にひっそりと湧き出している秘湯のような雰囲気を醸し出している
「これは……なかなか……」
思わず私はそう呟くと服を脱いで温泉に入る
「はぁ~」
自然とこの声が出てしまう
"アレットの言った通りお湯が少しヌルヌルする"
"それに思ったより、熱い湯だな……"
"美肌の湯か……"
いかにも女子が喜びそうな温泉だなと思うマノンであった
マノンが温泉に浸かり微睡んでいると
「ああっ!やっぱりここにいた」
「一人だけ先に入るなんてズルいわよ」
アレットが少し不機嫌そうに言うと自分も服を脱いで温泉に入る
「はぁ~」
「あ~いいわぁ~」
アレットの少し年寄り染みたような口調とその素振りに私はほっこりとした気分になる
「やっぱり、アレットはこうでないと……」
私は何故か、そんな年寄り染みたアレットに親しみを抱くのだった
暫くするとアレットは何か違和感のあるような表情になる
「変ね……こんなに熱かったかしら」
アレットは温泉のお湯が以前来た時よりも熱く感じているようだ
「長湯するとのぼせそう」
そう言うとアレットは立ち上がると浴槽の石に座り足だけを温泉に入れる
「この方がいいわ」
その様子を見て私も同じようにアレットの隣に座り足だけを温泉に入れる
「この方がいいですね」
私がアレットの隣に座るとアレットは少し身を竦める
「どうかしましたか……アレット導師」
私はアレットに違和感を感じて問いかける
「何でもないわよ……」
「それより、"アレット導師"っていう呼び方は止めてね」
「アカデミ-の中では"アレット導師"だけどプライベートでは"アレット"でいいのよ」
アレットは少し不機嫌そうに言うとにっこりと笑う
「それじゃ……私の事もプライベートでは"マノン"でいいよ」
私がそう言うとアレットは嬉しそうな表情を浮かべた
二人で並んで浴槽の脇の石に座り足だけを温泉に入れているとアレットの指の魔石がキラリと輝く
「その魔石の指輪、気に入ってもらえたようですね」
私が何気なく問いかける
「うん……凄く気に入っているのよ」
「命の次に大切な物かな」
アレットはそう言うと左手の薬指に嵌められた指輪を見つめる
「気に入ってもらえて光栄です」
「この温泉にご招待していただいたお礼にもう一つ錬成して差し上げましょうか」
私が少し冗談交じりに言う
「えっ……本当に」
アレットの表情が少しニヤける
「アレットさん……お顔が緩んでますよ」
アレットの邪な考えに気付いた私は細い目で見る
「これ一つで十分よ……」
指輪を見つめながら言うアレットの言葉に嘘は感じられなかった
「まぁ……マノンがお礼をして言って言うのなら……」
アレットの表情に邪な思考が浮かび上がる
「……アレットさん……何考えてるのですか」
私はアレットから立ち上る邪なオーラに背筋に悪寒が走る
そうしていると、"カーン"と教会の鐘が夕方の五時を告げる
「もうそんな時間なの」
「そろそろ夕食の時間だわ」
アレットはそう言うと立ち上がり温泉を出て行く、私も暫くしてから温泉を出た
今に入るとアレットは以前のような少しエッチな寝間着ではなく普通の貫頭着を着ていた
どうもいつものアレットと違うような気がする……
夕食の時間になると豪華な食事が運ばれてくる、食いしん坊のマノンにとっては至福の時間である
新鮮な川魚と山菜などが主体の食事は実に美味であった
"でも……何かがおかしい……"
"あっ! そうかっ! アレットが酒を一滴も飲んでいない"
マノンがずっと感じている違和感の原因が何なのか分かったのてあった
「アレット、お酒は飲まないの」
私がアレットに問いかける
「まぁ……少し事情があってね」
少し間をおいてアレットが答える
"流石に妊娠・出産のため"だなんて言えないアレットであった
そんなアレットの事情を全く知らない私はお礼のつもりでお酒をアレットに奢ろうと考える
「ちょっと用を足してきますね」
私はトイレに行くフリをして離れを出ると上等のワインを壺に2本分と酒の肴を注文する
急いで離れに戻るとアレットも食事を終えてベットにもたれかかり本を読んでいた
「お帰り」
アレットはそう言うと再び本を読み始める……
少しすると女将と女中さんがワインの入った壺を2本抱えて入ってくる
「お待たせいたしました」
女将がそう言うと2リットルのワインがなみなみと入った壺を2本とチーズ、乾燥肉、干した川魚を炙ったものなどの酒の肴をテーブルに並べる
「えっ……こんなの注文していないわよ」
覚えのないアレットは少し慌てたように言う
「私からのささやかなお礼だよ」
私がそう言うとアレットは何とも言えない複雑な表情をする
そんなアレットを見ていた女将さんが大きな木のコップにワインをなみなみと注ぐとアレットに差し出す
「アレットさんがお酒を注文しないなんてことはないですからね」
女将さんはそう言うともう一つの大きな木のカップにワインを注ぎ私に差し出す
「ごゆっくり」
そう言うと女将と女中さんはそそくさと部屋を出て行った
木のコップになみなみと注がれたワインをみてアレットの頭の中では激しい葛藤が起きていた
"これは……良いワインだわ……"
"それに、ここの名物の山羊のチーズに川魚の炙りもの……"
"最高の込み合わせ……絶対に美味いっ!!! "
禁酒をしていたアレットの口の中に生唾が溢れ出す
"ダメよアレットっ!! ここで、誘惑に負けたら今までの努力は何だったの"
もう一人の自分が問いかけてくる……
「ああ~っ!」
「最高ッ! やっぱ美味いわっ!!」
アレットは誘惑と欲望にあっさりと敗北しているのであった
久しぶりに口にする上等のワインと名物の酒の肴に否応なしにお酒の進むアレットはいつものように陽気にいろいろと話し始める
マノンに対するお説教、父や同僚、生徒への不満に愚痴……などなど……
お世辞にもあまり良い話とは言えないがアレットのそれは不思議と嫌悪感が全くない
マノンはそんなアレットが好きだった……
同じ温泉マニアとして気が合うだけではなく本当の姉のような気がしてくる
そんなアレットにマノンもついついワインを飲んでしまうのであった
そうこうしているとアレットは猛烈な睡魔に襲われる
"ヤバい……暫く酒を断っていたから、思ったより酒の回りが速い……"
"このままだと、確実に朝まで爆睡してしまう……"
"何とかして、最終目的(子作り)を成就せねば……"
"耐えるのよっ! アレットっ!!"
アレットは自分で自分に言い聞かせるかのだが……
徐々に意識が遠のいていく……マノンの声がする
"アレットさん、大丈夫……"
マノンが何か言っている……そこで、アレットの意識は途絶える
"アレットさん、酔い潰れて寝ちゃったのかな……"
"それに……私も限界……景色が二重にダブって見るし……"
"このままだと風邪ひいちゃうな……"
私はアレットを抱きかかえると少しふら付きながらベッドへと運んでいく
"おやすみなさい……"
私はそう言うとアレットの隣に倒れ込むように横になると直ぐに眠りについてしまった
マノンは、深い眠りの中で再びスナップ写真のような静止した紙芝居の夢を少し垣間見る
黒い石壁の長いトンネル……
前回と違っていたのは、何故か心臓がドキドキするのを感じた事だった
私はハッと目を覚ますとアレットが心配そうに私を見ている
いつの間にから蝋燭の火も消えて部屋の中は真っ暗だ
アレットが星明りの中で予備の蝋燭に火をつける
(月は無いが近くに恒星系があるために僅かにその光が届く)
「大丈夫……マノン……何か魘されてたけど」
「悪い夢でも見たの……」
アレットは小さな声で囁くように聞いてくる
「それが……よく分からないんだ」
「凄く心臓がドキドキするのを感じていたような……」
私が困ったように言う
「まぁ……夢ってそう言うモノよ」
アレットはそう言って微笑んだ
「それより、その夢のせいで寝汗が凄いよ」
「一緒に温泉にでも入る」
アレットが労わるように私に問いかける
「うん……」
私は素直に返事をする
私が蝋燭の光の中で薄暗い部屋の窓から外を見ると星が明るく光っている
その位置から午前3時ぐらいだと見当がつく
薄暗い蝋燭の光の中で露天風呂に2人で入る
少し熱めのお湯が体に染み渡る
「はぁ~」
2人同時にいつもの気の抜けたような声を出すとお互いに見つめ合い笑う
「この雰囲気……なかなか、乙なものね」
アレットの言葉に私も無言で頷く
「ねぇ……マノン……」
「前にも言ったと思うけど……」
「私、マノンの子供が欲しいんだ……」
アレットは素直な気持ちをマノンに打ち明ける
「……」
私は何も言えずに黙っている
「ホントにマノンって真面目なんだね……」
アレットは少し呆れたように笑って言う
「マノン、女がこういう事を言うのは余程の覚悟がないと言えないんだよ」
アレットの言葉にマノンはレナも同じ事を言っていたのを思い出す
「そんな時はね……マノンが嫌じゃなければね」
「その思いに答えてあげるものなんだよ」
「マノンは凄くモテると思うからこれからも同じような事を言われると思うよ」
「1人の女だけに拘るのは悪い事じゃないけど……」
「同じように大事にしてあげられるのなら殆どの女は何も言わないわ」
アレットの言葉にレナがどうして今回の温泉行に何も言わなかったのか鈍いマノンにも分かってくる
"ああ……やっぱりこの人は私を導いてくれる導師なんだ……"
"そして……私はこの人がレナと同じぐらい大好きだ……"
アレットの言葉にマノンは愛おしいという気持ちの容を知ることになる
「アレット……ありがとう……」
私は神妙な顔でにお礼を言う
「別に大したことじゃないわよ……」
アレットは少し照れたように言う
「それじゃ……そろそろ温泉から出ましょうか」
アレットはそう言うと立ち上がる、私も少し遅れて温泉を後にした
"アレットは本当に良いお姉さんだな……"
"私にお姉さんがいたらアレットのような人がいいな……"
マノンはアレットの事を尊敬するほどになっていた
が……温泉から出て部屋に戻ってくると……
「さあっ! マノン始めましょうか」
アレットが私の手を引く
「へっ?」
私は何の事か分からずにしていると、あっと言う間にヘッドに引きずり込まれる
「えっ……!」
アレットの突然の行動に驚いている間に私は丸裸にひん剥かれる
「あれっ……」
「ちょっと待って~っ!!!」
マノンの言葉も虚しく……アレットの最終目的は見事に成就するのであった
第105話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ➈ ~
終わり