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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第103話 ~  大賢者の災難(女難第二波の到来)  ➆  ~

第103話 ~  大賢者の災難(女難第二波の到来)  ➆  ~



  序章



 ここは、王都の表通りに面した刃物を取り扱う商店"バルテ"……

 剣から始まって包丁まで刃物なら何でも取り扱う刃物の専門店である

 家族経営の小さな店ではあるが商品の質が良く信用があることで王都ではよく知られている名店である


 店は繁盛しているが店を大きくして商いを広げるような事はせずに、地道にコツコツと真面目な商いをしている優良店でもある


 店の中には、ズラリと剣や包丁から鎌や鉈までありとあらゆる刃物が所狭しと並んでいる

 店主の名前はデジレ・バルテと言う人物である

 年齢は40歳で黒髪で背丈は170センチほどやや小太りである、温厚な性格で近所からの評判も良い人物である

 妻と息子が一人の3人家族、妻のブリジットは35歳で金髪のショート・ヘア、背丈は165センチほどでやや細身の体型、気立てが良いことで近所でも知られている

 息子のノエルは17歳、長い黒髪のおかっぱ頭、背丈は160センチほどで小柄でまるで女子のような容姿であるが学問が良く出来る控えめな性格で現在、王立アカデミ-の錬金科に在学中である

(錬金科とは化学や治金学などをひとまとめにしたようなもの)


 外からは、なんの変哲もない平凡な家庭にみえるのだが……

 実はこのバルテ家はゲルマニア帝国の密偵一家なのである


 息子のノエルで6代目、バルテ家はガリア王国の王都ガリアンに定住して既に100年を超えている最古級の密偵なのである

(戦国時代の"草"と呼ばれる忍びと同じようなもの)


 ひと月に一度の割合で母国と連絡を取り合っているのである

 そして、ある日バルテ家に届いた1通の命令書……

 



  王立アカデミ-に在学中のマノン・ルロワに接触しその心中を探れ

  最優先事項である



 (因みに、余計な先入観を持たせないためにマノンが"大賢者"であることは知らされていない)


 

 この短い命令文が後に、この一家の運命を大きく変えることとなる





  第103話 ~  大賢者の災難(女難第二波の到来)  ➆  ~




  レナとエレ-ヌ、ルメラ達はお風呂に入りながら他愛のない話題から徐々に女子ならではの話題へと変わっていく

 それは……女子だけの露骨で生々しい恋バナである


 当然、話題のネタはマノンであり……そのターゲットはレナである


 ルメラがポツリといった一言

 「なぁ、レナってマノンとヤったんだろ」

ルメラらしいストレートなこの一言が全員の好奇心に火を付けた


「えっ……その……」

レナは動揺して口籠ってしまう

全員の視線がレナに集中する

「……その……ヤりました……」

全員の刺すような視線に耐えかねて呟くように自白する

今の風呂場はレナにとってまるでどこかの刑事ドラマの取り調べ室のようになっている


「それでぇ、どうだったのぉ」

エレ-ヌはスケベ臭そうにレナに問い質す

皆の視線が更に深くレナに突き刺さる


「……その……」

「あの……」

レナは耳まで真っ赤になっている

「ぃぃ……」

小さな声で呟くように言う


「良く聞こえませんけど」

エレ-ヌは意地悪そうに言う


その様子を見ていたルメラが割って入る

「まぁ……そんなのはさておいて」

「で、どうやって、マノンをその気にさせた」

ルメラがレナにグッとに詰め寄る


「えっ……」

レナは少し慌てて体を背けると

「ええっ!」

気が付けばレナはユーリア、アイラ、エルナに取り囲まれていた

「あははは……」

レナは笑って誤魔化そうとしたが……

もはやレナに逃げ道は無かった……

 かくして、レナはマノンとの出会いから始まり、アノ時の事まで洗い(ざら)()かされる事となったのであった




 レナが風呂場でルメラ達の過激な取り調べを受けている頃、マノンは爺とこれからの事についての話をしていた


「ここも(王立アカデミ-)も随分と賑やかになってきたの……」

爺は楽しそうに言うのだが……

「じゃがな……身バレするのも時間の問題じゃぞ」

爺は急に真剣な口調になる

「お前さんは、その時はどうするつもりなのじゃ」

爺の言葉に私は自分の思っていることを話す


「旅に出ようと思っている」

「大陸中を旅してみたい……」

これは、私が昔からずっと思っていたことなのだ


「そう言えば……以前にもそんなことを言っておったの」

「レナちゃんや他の子たちはどうする気なのじゃ」

爺の問い質すような言葉に私は黙り込んでしまう

「まだ先の話じゃが……お前さんは望もうが望まなかろうが"大賢者"となる」

「お前さんも、徐々に大賢者の記憶を受け継ぎ分かってはおるじゃろうが」

「一つ所に留まり安寧に過ごすことは叶わぬ……」

爺は少し心苦しそうに言う


「うん……わかってる」

私は冷静に爺の言葉に返事を返す


「そうか……ならばよい……」

「己の信じた道を行くがよい」

爺は、それ以上は何も言わなかった

マノンの言葉に固い決意を感じたからであった

"こ奴も……変わったの……"

爺は心の中で少し悲しそうに呟くのであった

鳥籠から下を見下ろすとマノンは既に眠りについていた

"変わらんの……"

爺は呆れたように呟くのてあったが、何処となく嬉しそうだった



 ここ最近、眠りについたマノンは時より子供の時に見たリアルな夢を見るようになっていた

 ただ一つ子供の時と違うのは、その夢は夢ではなく"大賢者の記憶"で実話であると分かっている事だった


 まるで自分がその場にいて体験したような感覚……バーチャルリアリティーな夢の世界……

 マノンはそこから眠りながらにして多くの知識と経験を我がものとしているのである


 これにより、マノンは習得に膨大な時間と労力を必要とする高度な技や豊富な知識を我がものにしているのであるのたが……

 それと引き換えに、マノン・ルロワとしての自我が徐々に削られていくこととなるのである

 つまり、最終的にはマノン・ルロワはマノン・ルロワでなくなるということになる

 完全にマノンとしての意志がなくなるわけではないが大賢者として受け継がれた遺志が優先されることになるのである


 当然、爺もマノンもその事を分かっている……

 ただ、幸運な事に大賢者の寿命は長く150年は生きられる、この世界の人々の3倍である

 そして……マノンが完全な大賢者となるまで後20~30年はかかる、この時間がマノン・ルロワという存在に残された自由な時間なのである


 既に大賢者として覚醒しつつあるマノンの肉体は17歳の時のままで然程(さほど)、老いることなく100年はそれを維持する、100年以上を経て老化が始まりやがては精神体となり、次の大賢者へと受け継がれていくのである


 今、この時間に存在しているマノンと同じ時間を過ごす者たちは50年後には殆どが既にこの世には存在しない……

 マノンは100年近い時間を孤独に生きる事となるのである、これも大賢者の宿命の一つである




 そんなこんなで夜は深まり、そして夜は明けていく……


 珍しく早起きしたマノンは出来上がった1週間分のレポートを提出するために特別級の担当導師であるアレットの私室へと向かうのであった……正に飛んで火にいる夏の虫である


 出来上がったレポ-トを手にマノンはアレットの私室のドアをノックする


「どなたですか……」

ドアの向こうからアレットの少し眠そうな声がする


「早朝から申し訳ありません」

「マノン・ルロワです、提出が遅れていたレポートを持ってきました」

私がドアの前で要件を言う


「えっ! マノン君っ!!」

ドアの向こうからアレットの慌てる声がする

"ガサガサ……ゴトゴト……ガラガラ…ガタン"

何やら中から騒々しい音が聞こえてくる

暫くするとドアが開く

「おはよう……マノン君」

「待たせてごめんね」

そう言うとアレットは私を部屋に招き入れようとする


「遅れていたレポートです、遅くなってすいません」

私はそう言うと部屋には入らずにアレットにレポートを手渡そうとする


「まぁ、遠慮せずに入んなよ」

そう言うとアレットは私の手を掴むと部屋の中に引きずり込もうとする


「あっ、あの、ちょっとアレット導師っ!」

抵抗する間もなく私はアレットに部屋の中に引きずり込まれた


「どうぞ、そこに座んなさいよ」

アレットはそう言うと部屋のテーブルの椅子を指さす


「どうもありがとうございます」

私はお礼を言って素直に椅子に座るとアレットは私のレポートに一通り目を通している


「OKっ!」

アレットはそう言うとササっと評価帳に提出済みのサインをする

「で……マノン君」

「少しお話があるんだけど……いいかな」

そう言うとアレットはマノンに微笑む


"なにか……嫌な予感がする"

マノンの背筋に悪寒が走る

「何でしょうか……」

私は恐る恐るアレットに言う


「じつは、今週末にタクサの温泉に行く予定なんだけど……」

「一緒にどう……」

アレットは私にお願いするかのように言う


「タクサの温泉っ!」

そう、マノンは根っからの温泉好きなのである

「どんな温泉なんですか、行ったことないので」

思わずアレットに問いかけてしまう


「お湯は無色透明でややヌルヌルするわ」

「美容にいいわ」

アレットが不敵にニヤリと笑う

タクサの温泉は、既にお肌の曲がり角に差し掛かかっているアレットのお気に入り温泉である

王都から1泊2日で気軽に行ける距離にある


「いいですね!」

「是非ともお供させていただきたいです」

温泉に目の眩んだ私は後先考えずに返事をしてしまうのであった


「それじゃあ、決まりね」

「今週末の土日でよろしくねっ!」

「王都の馬車乗り場に朝6時に来てね」

「手続きとか面倒な事は全部私に任せてね」

アレットはそう言うと嬉しそうに笑った


「はい……わかりました」

私はアレットの嬉しそうな表情がとても愛しく見えるのであった


かくして、アレットとの温泉旅行第三弾が決定するのであった




第103話 ~  大賢者の災難(女難第二波の到来)  ➆  ~


 終わり


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