第103話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ⑥ ~
第103話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ⑥ ~
序章
"ちっ! 来ちまったか……"
アレットはトイレの個室の中で呟いた
アレットはマノンとの"交わり"の後、好きな酒もピタリと止めて健全な生活を送っていた……それには理由があった
トロペの漁村の食堂で店の小母さんがアレットの耳元で囁いた言葉
"飲み過ぎはお腹の子供によくないよ……"
その一言は身に覚えのあるアレットの心に深く突き刺さったのだった
アレット自身も妊娠しているかもしれないと思ったからである
"それなりに感触があったのにな……"
"やっぱり、普段から酒ばっかの飲んでるからかな……"
アレットは呟くとトイレから出る、手を洗いハンカチで拭きながら
"もう一回、ヤッてみるしかないな……"
"それに……凄く……いいし……"
あの日の夜の事を考えるとアレットは自分でも顔がニヤけてくるのがわかる
"今度は何処の温泉がいいかな……"
廊下を歩きながらアレットは口元に手を当てて思案するのであった
因みに、アレットは次に備え禁酒を続けるのであった
"そう言えば……マノン君……"
"留学生の教育係になってたな"
"それも、若い女ばっか4人……"
"オマケにシラクニアの王女様……"
"しかも、凄く可愛いし……"
アレットはルメラ達の事を考えると何となくモヤモヤするのであった
そんなアレットの事など全く知らないマノンはその頃、ルメラ達の勉強に付き合わされていたのであった
第103話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ⑥ ~
大変な長旅をしてマノンに会いに来たルメラ達4人だったのだが……
ルメラ達4人が王立アカデミ-に来て早くも1週間近くが過ぎていた
いざマノンに会えたからと言ってもそれほど積極的なわけでもなくルメラ達4人は初めて体験する学生生活と云うモノに困惑しつつも日々を楽しんでいるように見える
シラクニアには王立アカデミ-のような本格的な教育機関は無い……
と言うよりもゲルマニア帝国との戦いが続く中でそんな余裕はなかったというのが本当だ
4人とも王立アカデミ-の生活に慣れ、勉強の方も要領が分かってきたようである
今日の休日は、エレーヌとレナを誘って6人での王都ガリアンの観光(視察)とショッピングである
マノンは、ルメラ達に付きっきりだったので自分のレポート課題が溜まってしまい来られない
当然、王国騎士の護衛付きである……
「なんか、落ち着かないわね……」
エレーヌが後ろにベッタリとついて離れない王国騎士をチラ見しながら小さな声で言う
女子6人が後ろに6人の王国騎士を引き連れて歩いているのだから目立って仕方がないのである
事情を知らない者からすれば、高貴な身分の方達が護衛を連れているのだなと思う程度だが……
実際はそうではない、6人の王国騎士は一対一で完全にエレーヌとレナも含めてルメラ達を監視しているのである
これも、ルメラ達が王立アカデミ-へ留学する際にガリア王国とゲルマニア帝国との間で交わされた条件の一つなのである
王立アカデミ-でも同様で絶えず誰かが監視しているのである
思っているほどルメラ達は自由ではないのである
当然、ルメラ達もその事を十分に理解している
なので、何処にいるのか誰なのかすら判らないゲルマニア帝国の監視者を刺激しないように"大賢者"であるマノンに不用意に近付かなかったのである
皇帝マキシミリアンはそれほど警戒してはいないが一部の側近や重鎮たちはそうではない
シラクニア第一王女のルメラが大賢者であるマノンと結ばれることを帝国の脅威と感じ異常に警戒しているのである……
ゲルマ宮殿の件で大賢者の超常の力を目にしたものも多く無理も無いことであるのだが……
それでも、ルメラ達の留学が叶ったのはひとえに皇帝マキシミリアンの"よかろう"という鶴の一声である
ゲルマニア帝国はガリア王国の情勢を探るために以前からガリア王国内に複数の密偵を忍ばせていた
王立アカデミ-の生徒の中にもゲルマニア帝国と通ずる者がおりマノンやルメラ達の事を監視しているのである
「仕方ないわよ、来賓なんだから」
レナが何事も無いように言う
「すまねえな……」
ルメラ申し訳なさそうにエレーヌとレナの方を見て言う
「マノンの野郎が来てくれたらよかったんだけどな」
「護衛としちゃ、最強だろうしな」
「あの野郎は何があっても俺達を確実に守ってくれるぜ」
ルメラの口調とその表情からマノンを信用しきっていることが窺える
「そうですね……」
「あの方に敵う者など思いつきません」
ユーリアの冷静な言葉にアイラ、エルナも大きく頷くがエレーヌとレナには実感がなかった
それを聞いていたエレ-ヌはルメラに問いかける
「マノンって……そんなに強いの」
エレ-ヌにしてみれば、何かある度に床の上で正座してレナに叱られているイメージがあまりにも大きいからだ
「確かに剣の腕は一流みたいだけど……」
エレ-ヌは思った事を口にする
「えっ!」
エレ-ヌの言葉にルメラ達4人は驚いたような顔をする
「何言ってんだ……おめぇ……」
そう言うとルメラは呆れたような表情でエレ-ヌの方を見る
「マノンの奴……無茶苦茶、強ぇえぞ」
「俺の国にゃ、マノンと互角に戦える奴なんか一人もいねぇ」
ルメラの言葉に驚くエレーヌとレナを他所にユーリア達3人は大きく頷いている
「へぇー、マノンってそんなに強いんだ」
エレーヌは少しマノンの事を見直したようだった
シラクニアとはまるで違う王都ガリアンの佇まいを珍しそうに見ながら歩くルメラ達4人にエレーヌとレナは観光ガイドのように説明をする
ルメラ達4人が一番驚いていたのは、市場の店先に並ぶ食材の豊富さだった
「なんだこれ……」
初めて見る物も多くルメラ達4人にとっては驚きの連続だったようだ
市場を出ると大通りへ、そこには大きな店が並んでる
「これが全部、お店なんですか……」
店のあまりの多さにエルナは驚いている
「この服、素敵ですね……」
「でも、布地が薄くて寒そう……」
「シラクニアではちょっと……でも、室内ならいいかな」
などと言いながらウインドに飾られた服を見いてる
エルナはこういった物に興味があるようだった
一方でアイラは酒屋の前で足を止めている
「ワインの種類が豊富ね……」
「それにしても……デッカイ酒樽ね……」
「どれぐらいの量の酒が入るのよ……これ……」
店の横に置かれた巨大なワインの大樽を見て感心している
ユーリアは宝石商のウインドに並べられた宝飾品に目を奪われている
「綺麗……」
そう言いながらうっとりと輝く宝飾品を見ている
普段のユーリアとはまるで違う乙女の表情である
そして……ルメラは日用雑貨を売る店に目を奪われていた
「これ、いいんじゃないか」
そう言うとルメラは色革紐を編み込み手の込んだ装飾を施された小さな革のバックを手にする
「……」
バックを持ったまま暫く考えていると店の主人がやっている
「お気に召しましたか」
40代半ばの男性の主人が愛想よく話しかける
王国騎士の護衛付きともなれば相当な両家のお嬢様に違いないからだ
「お安くしておきますよ」
そう言うと店の主人はバッグの肩紐をルメラの肩にかけた
「よくお似合いですよ」
店の主人の言葉に嘘はなかった、本当によく似合っているのだ
「200ガリア・フランですが……」
店主の言葉にルメラがニッコリと微笑む、その後ろでは王国騎士が店主をジッと見ている
「ん~ん~ん~」
店主は額に汗を掻きながら相当考え込む
「わかりましたっ! 100ガリア・フランに値引きいたします」
その言葉にルメラの表情が明るくなる
「買ったっ!」
そう言うと自分の鞄から皮袋に入った銀貨を取り出す
「これでいい」
ルメラはそう言うと銀貨を手渡す
「……」
「ゲルマニアのライヒス・マルク銀貨ですか……」
「ちょっとこれでは……」
店の主人は困った顔をする
それには理由があった、以前にシルビィの頭を悩ませていたゲルマニアのライヒス・マルク銀貨の大量流出問題対策のために王都ガリアンではライヒス・マルク銀貨での決済は制限されているからである
そんな様子を見ていたエレーヌがルメラの傍に行くと話しかける
「ああ、なるほどね」
エレーヌはそう言うと自分の財布が100ガリア・フランを取り出して店の主人に支払った
「ありがとうございます」
そう言うと店の主人は領収書を書いてエレーヌに手渡してくれた
「ありがとな」
ルメラはエレーヌにお礼を言う
「なんだそれ」
領収書を不思議そうに見るルメラ
「ああ、これは領収書だよ」
「この店で確かに100ガリア・フランで、そのバックを買いましたという証明書になるのよ」
「これがあれば保証を受けれるんだよ」
エレーヌの説明にルメラは目をパチクリさせる
ルメラはガリア王国の進んだ商業システムに驚いているのである
「良く出来てんな……」
ルメラはそう言うと大通りにズラリと立ち並ぶ商店を見回す
「こりゃ……学問だけじゃ済まなさそうだな……」
ルメラはそう呟くとエレ-ヌの方に目をやる
「借りた金は後で返すからな」
そう言うと大通りを行き交う馬車を眺めていた
ルメラは革のバッグ、アイラはワインのお試しセット、エルナは服を買っていた
そして、ユーリアは銀のブレスレットを購入したのだがこれが結構、値の張る代物だった代金を建て替えたエレ-ヌの財布はカラカラに干乾びて微風でも吹き飛ばされるほどになってしまうのであった
……と言っても、アカデミ-から世話役として支給されたお金なのでエレ-ヌ自身の懐は全く痛んではいない
日も傾き始め、6人は王立アカデミ-へと帰る
夕食を食べ終わり少し休憩した後に風呂に入る
大きくはないが10人程度なら入れる浴室があるのでレナとエレ-ヌも一緒に入ることとなった
お互いに少し気にしつつ服を脱ぐ、女子同士の裸体チェックの始まりである
"生で見てもホントにデカい乳だな……"
レナの胸を見て他の5人は同じ事を心の中で呟いていた
一方、レナはユーリアの裸体を見てうっとりとしていた
"凄く綺麗だわ……"
"ウエストも引き締まっているし……"
レナは次にルメラに目を向ける
"本当に妖精みたい"
"胸も大きいし形もいい……"
そして、最後にアイラとエルナに目を向けた
"普通ね……"
"でも二人とも引き締まっているわね"
レナは自分のお腹に目を向ける
「どうにかしないとね……これ……」
少し肉付きの良い自分のお腹を見てため息交じりに呟くのであった
お風呂での裸のお付き合い……
それから一時間以上も女子6人の会話は続くのであった
第103話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ⑥ ~
終わり