第102話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ➄ ~
第102話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ➄ ~
序章
現在、マノンたちの住む惑星は半球凍結状態にある
これは、生物たちが生存していくには極めて過酷な自然環境であると言える
かつて我々の住む地球でも約19万5000年前に同じような状況があり、全人類の数が1万人程度まで減少したことがあるという
地球を襲ったこの氷期の間に,人口は危機的と言えるほど急激に減少し,子どもを作ることができる年齢の人は,1万人以上からほんの数百人になったと推測されている
現在、この地球にいる全人類77億人は全てその苦境を乗り越えた1万人の内の数百人の子孫なのである
故に人類の遺伝情報である遺伝子の30億の塩基対の約99.9%は隣の人と似通っている
残りの僅か0.1%に肌や髪の毛や目の色から糖尿病や癌など特定の病気にかかりやすいかどうかまでの全ての遺伝情報が詰っているのである
よって、肌の色の違いなどによる人種差別などいかに愚かな行為なのかは言うまでもない
マノンたちの住む惑星は、惑星軌道の変動と太陽活動の減衰による極めて急速な寒冷化により大氷河期を迎え惑星の主な南北の極部大陸は全て凍て付き分厚い氷に覆われた
僅かに生き延びた人類は、種の存続のためにありとあらゆる手段を行使しすることとなる、その主なものが魔術による人体強化である
自らの子孫に少しづつ魔術的な強化を施しそれを遺伝させていくように何世代にも渡って強化を図っていったのだった
(植物の品種改良のようなことを子孫に魔術を用いて施した)
そして、強靭な肉体と優れた生殖能力を手にすることとなるが、それと引き換えに魔力を無くしてしまう事となる。
しかし、彼らはいつの日か魔術の復活が訪れる日の事を信じ後世に可能な限りの遺産を残そうと考えた
持ちうる英知を全て結集しへベレス山脈に魔法工房を造りあげ後世に残した
更に、その管理者として特異な存在を残す、それが今日"大賢者"と呼ばれるモノである
"大賢者"とは、古代魔法文明を築き上げた者たちが最後に残した子孫たちへの彼らの"遺志"そのものである
そして、三千年以上にわたりその"遺志"は極稀に生まれてくる魔力持ちという器(人)変え脈々と今日まで受け継がれてきたのである
歴代の大賢者達は無意識にその"遺志"により目的や手段は違えどもこの世界の人々を見守ってきたのである
やがて、それをマノンもそれを背負うことになるのである……
しかし、マノンは今迄の歴代の大賢者達とは決定的に違うものがある
それは、生殖能力である、マノンは大賢者として初めて自らの子孫を残す事が出来る大賢者なのである
これは、古代魔法文明を築き上げた者たち"遺志"の最終目的の一つを実現した事になるである……
第102話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ➄ ~
ルメラのマノンとの"交わり"宣言に対するレナの意外な対応にエレーヌは呆然としている
"レナどうしちゃったのかしら……"
"でも、私にとっては結果オーライってやつかな"
などと思いながらエレーヌは、楽しそうに語り合うレナとルメラ達の様子を窺っている
レナは病に侵され死を覚悟したことがある
人の命の儚さ……それが、レナの心境を大きく変化させたのである
「それにしても……レナさん、あんた乳もデカいが人もデカいな」
ルメラが感心したかのように言うとユーリアたち他の三人も小さく頷く
レナは両手で胸を隠すように抑えて少し恥ずかしそうにする
「これで、コソコソせずに堂々とあのヤローと……」
ルメラは途中で口籠ってしまうと他の三人も少し恥ずかしそうにしている
そんなルメラ達を見ていたレナが優しそう微笑む
「皆、マノンが"大賢者"だという事をご存じてすね」
レナの言葉にルメラ達が頷く
「だったら、話は早いわ」
「いずれマノン本人の口から伝わると思うけど……」
そう言うとレナは少し躊躇ったように黙り込む
「マノンは……その……」
「マノンは特殊な体質のために……」
「その……普通の女子の間には子供のできにくいのよ」
レナの言葉にルメラ達は口を開けてポカンとしている
「……それが」
ルメラの言葉にレナは"えっ"という表情をする
「子供なんて運任せじゃねーか」
「できたらできたでいいし、できなきゃできないでそれでもいい」
ルメラの何の迷いもない言葉にレナは安心したかのような表情になる
「そうね……」
レナはルメラ達に目をやると笑った
"この人達なら大丈夫……"
"きっと、マノンを支えてくれるわ"
レナはルメラ達を信頼するに値する者達だと確信するのであった
この世界の人々、特に女性は本能として自らの子孫を残すことに積極的である
それは、女性には出産に適した年齢的な制約もあるからである
厳しい自然環境の中で少しでも子孫の生存性を高めるため自らに欠けている遺伝情報を持つ最適な相手を探し出す術が本能として備え付けられているからでもある
これも、古代魔法文明が人体に施した魔術的な遺産の一つでもある
一方で、そんな事になっているとは全く知らないマノンは宿舎のベッドに座り込み一人頭を抱え苦悩しているのであった
そんなマノンをオウムの中の爺は無言で鳥籠の中から見下ろしているのであった
"あ奴も苦労するのぅ……"
"しかし、多くの女子と"交わる"ことは悪い事ではない"
"もしかしたら、本当に子供ができるやもしれん……"
爺にはこの思惑が既に成就しているなどとは思いもよらないのであった
"変わらんの……"
マノンは、頭を抱え悩みながらも……十分後には爆睡しているマノンを見て爺は呆れたように呟くのであった
"いづれにしてもこ奴も大賢者としての宿命を背負うことになる"
"多くの者の支えがあれば……良いことなのじゃが……"
爺の脳裏に自らの記憶が蘇る
"ワシも出来うることは全てやらねばな……"
"エルマーナ……もう少し待ってくれるかのぅ……"
爺は爆睡するマノンを見て呟くのであった
一夜明け、マノンは戦々恐々とアカデミ-の講義へと向かう
"う~不安だな……"
"ルメラ達が変な騒ぎを起こさなければいいんだけど……"
マノンは、起こりうる最悪の事態を頭の中でシュミレーシュンしながらトボトボと歩いていると
「よっ! マノンっ!」
後ろから私を呼ぶ声がする
"ルメラだ"
私は声と口調でルメラだと瞬時に分かる
「ルメラ……おはよう……」
私は少し怯えたようにルメラに挨拶をする
「どうしたんだ……調子でも悪いのか」
少し心配そうにルメラが私の傍に寄ってくる
「心配しなくても、"大賢者"の事は誰にも言わないぜ」
「他の3人も口は堅いから心配ないし」
「これから、半年よろしく頼むな」
ルメラは私の耳元で囁くように言うと微笑んだ
「ありがとう……」
「これで、もう暫くはここにいられるよ」
私もルメラの耳元で囁くように言う
「じゃあな……」
ルメラはそう言って片手を軽く上げると去っていった
"思っていた最悪の事態は避けられた"
私はホッと胸を撫で下ろすのであった
何事も無く、講義を終え部屋を出ようとするマノンをバロー導師が引き留める
「マノン君、これを……」
「君が適任だ、私もそう思うよ」
そう言うとバローはマノンに1通の封書を手渡し去っていた
「なんだろう……」
私はその場で封を切ると手紙を読む
「なんですとぉ~!!!」
マノン・ルロワ、貴殿に留学生
ルメラ・オールステット
ユーリア・ハルヴァリ
アイラ・ハールス
エルナ・エスコラ
上記4名の教育係を命ず
王立アカデミ-導師総代 ジェルマン・ベクレル
安心したのもつかの間……マノンはルメラ達の学業面での世話役を導師総代のジェルマンから申し渡されることとなるのであった
選考の理由は"学業優秀でほかの生徒にくらべ勉学にも大きな余裕がある"からであったのが……それは表向きの建前で、本当は"女子に対して邪な下心を持つ事も無いだろう"
というのが本当の理由であった
一国の姫君に何かあれば大変なことになるからである、初めから女生徒を宛がえば良かったのだが、ルメラが希望する薬学方面で学業面の世話役が務まるような女生徒の人材がいなかったのである
だが……ジェルマンは致命的な過ちを犯していた……
それは、邪な下心を持っているの当のルメラ王女様だとう事である
しかも、マノンを信用しているジェルマンは来賓者寮への出入り自由り許可まで出したのである
ジェルマンの目論見は物の見事に完璧に裏目に出てしまったのである
かくして、マノンはルメラ達4人の家庭教師的な立場となってしまうのであった
因みに、ジェルマンにマノンを教育係にと推薦したのはエレーヌである
レナの許しが出たので安心してルメラ達4人の当初の希望通りにマノンとの間を取り持ったのである
エレーヌ・ベクレル、17歳……
彼氏いない歴17年、じつに見事な仕事であった……
第102話 ~ 大賢者の災難(女難第二波の到来) ➄ ~
終わり