第10話…冒険者ギルドへ
冒険者登録に行くため、今日は訓練休み…
あぁぁ、なんて素晴らしい日…
あんな訓練毎日続けてたら死ぬわ…
いや、死ぬより先に精神が限界を迎えてしまう…
早く、独り立ちしないと…
ロペちゃん、あなたの好意、ムダにはしない。
いつか絶対、あなたを幸せにしてみせる…
金貨を1枚ギュッと握りしめ、冒険者ギルドへ向かった…
登録は簡単だった。公国の身分書の存在が大きい。
一通りの説明を受ける。Eランクからのスタートだ。
「お嬢ちゃん、薬草採取かい」
あおりに似たひやかしを飛ばされたが、気にならなかった。
説明を受けている途中、入り口が騒がしくなった…
誰かが入ってきたようだ…
「オリバー、ジャックス、スゲーじゃねぇか、それ新調したんか」
「剣も防具も新品じゃねーか」
「へへへ、スゲーだろ、ちょっとツキが回ってきてな」
「見てみな、エクスキャリパーって言うんだ」
…うん、何か挟む武器なのかな?
受付も終わり、振り向いた、武器と防具を自慢している2人組が目に入る…
体がおびえる…
あの時の2人組だ…
2人がこちらに気がついた…
体が動かない…
あの時の恐怖がおそいかかる…
「お姉ちゃん、薬草採取かい。危険なところに行くなら、俺たちを雇いな、どんな危険な魔物が出てきても、エクスキャリパーの餌にしてやるぜ」
オリバーが自信満々に言ってきた…
私をずっと蹴り続けていた男だ…
…あ、エクスキャリパーって剣の名前なんだ…
2人は気づいていない。あの時とは着ている服も違うし、顔も腫れていない…
私はうつむいて少し震えていた…
怒りよりも恐怖が勝っていた…
情けない…
その時、騎士様の笑顔が浮かび上がる…
怒りがフツフツと沸き上がる。
負けない、もう私は負けるわけにはいかない、約束したから…
覚悟を決めた!
「カッコイイですねぇ、オリバーさん、ぜひ薬草採取の時にはお供して頂けますか?後その剣、外で見せてもらってもいいですか?」
「私、カッコイイ男と剣には目がないんですよぉ、見せてくれたら何かお礼しよっかな…」
…女は女優である…
「おぉ、おお、いいぜ」
…テレながらニヤついている。こいつ絶対モテないタイプだ…
2人組と外にでて、少し広めの路地に入った
「手にとって見せて下さいな、エクスキャリパー…」
「おう、傷つけんなよ、200金貨相当の値打ちもんだ…」
「うわぁ、剣って重いんですねぇ…」
「堅いのかなぁ」
近くにあった大きな岩に、剣の腹をコンコンと打ち付けた
「こら、傷つけんなっていってんだろ!」
「あら、ごめんなさい。この岩で名剣エクスキャリパーの試し切りしてもいいかしら?」
岩に向けて大きく振りかぶった…
「ま、まて、てめえ、それやったらタダじゃすまねーぞ」
「えぇ~名剣だったら、これくらいの岩スパッっと真っ二つにできるよね~」
「バカか、そんな事できる訳ねーだろ」
「えぇ~いいでしょ。どうせ盗んだ白金貨で買った剣なんだから…」
「え、なんでそれを…」
「おまっ、あんときの《はやり》の女か」
「正解で~す。白金貨返してくれたら、エクスキャリパー返してあげる」
「もうない…全部使っちまったんだ」
「でしょうねぇ、じゃぁこの剣もらっていいかしら…」
「そりゃ、できねぇ相談だな」
もう1人の男ジャックスが剣を抜いて答えた
「わかったわ、剣は返します、でも剣を返した途端に襲うつもりでしょ」
剣は振り上げたままだ…
「わ、わかった、手を出さないと約束する、約束するから剣を返してくれ」
「じゃぁ、契約して、今から1時間だけ、私を攻撃しないと」
「1時間だな、わかった。契約する。お前契約師なのか?」
「そうよ、1時間経ったら、あなた達の好きにすればいいわ」
――――
ルビィがエクスキャリパーを返却した時
オリバー、ジャックス両名不戦を許諾せよ
対象はルビィ
期間は1時間
懲罰はビリビリ
――――
「問題なければ、承諾すると言って」
「承諾する」
2人が答えた
「契約神ミスラの名の下に契約師ルビィが命ずる」
「アグリメント」
淡い光が2人を包んだ。成功だ…
「はい、じゃぁ、これ返すね」
「待ちな」
「あら、あら、早速ね…」
「約束を破る気かしら?」
「約束は守ってやらぁ、だがな、1時間ずっと張り付かせてもらうぜ」
「逃げられると思うなよ。時間が来たら楽しませてもらうぜ。口も閉じてもらわないと、こっちが困るからなぁ」
「てめぇもバカだな、1ヶ月にしておけば、逃げられたのになぁ…」
…人って状況が変わると、こうも顔色が変わるのだろうか…
「なるほど…よかったわ…」
「はぁ?」
「うん、前に襲われた時の事考えて、色々思ったの…」
「人って魔が差す時があるの。状況でね。衝動に駆られて、理性を失う事って多いのよ、それってちょっと、仕方ないなぁって思うこともあるの」
「何言ってんだぁ」
「だからね、あなた達、ほんと、クズで良かったわぁ」
…私今悪い顔してるのかな?
ジャックスに歩み寄る、歩く動作は簡単に間合いに入れる。
間合いに入った瞬間右ストレート、身体強化はかけていない。
「ぐぁっ」
おぉ、特訓の成果がわかる。小学生のパンチから高校生のパンチになってる。
ジャックスもさすが冒険者、大したダメージでは無いようだ。
凄く怒っているけど…
「っのヤロー」
…いや、わたし女…
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
ジャックスの体が悲鳴と共に直立不動になる。その後、直立したまま地面にドッシャーンと倒れた。受け身を取らない転倒を初めて見た。スゴイ
うつぶせで、ビクンビクンと痙攣している…
気絶はしていないようだが、だらしなく口をあけ、よだれを垂らしている…
ウッワァ~
わたし、ここまでとは思ってなかったよ。なんかゴメン、ジャックス…
設定、加減したつもりだったんだけどなぁ…
オリバーが口をパクパクさせて、こちらを見ている…
ショッキング映像見て、パニクってるのかな?
「お、おま、何を…」
「何をって、何もしていないわ、ただあなた達と契約しただけなんですけど…」
「だって、攻撃…」
「私は攻撃しないと言ってないわ。つまりね…」
「あなた達はこれから1時間、わたしにボコられる契約をしたのよ…」
「はい、惨殺ターイム」
…自分の顔を鏡で見てみたいわ…
オリバーが震える手を剣にかけている。
「正解です。エクスキャリパー抜いたら、ジャックスみたいになるからね」
「ひ、卑怯者っ…」
…どの口が言ってんだか…
「ありがとう。ほめ言葉よ…」
2,3発殴ったら、反撃してきた。まぁ、本能みたいなものかしら…
「ヒィギャァァァァ」
ジャックスの二の舞だった…
少し動けるようになった2人を座らせた…
「さて、あと40分あるわ、このままあなた達を殴り続けます。死なないでね」
「あ、ビリビリは心臓が止まる事もあるから注意してね」
「ひっ、た、助けてくれ、なんでも言う事きくから…」
「うん、有り金全部出しなさい」
…何だろう、カツアゲしている気分になった。取られた物を取り返しているだけなのに…
「うわ…これで全部?金貨8枚しかないじゃない」
「しかたない、武器と防具も全部もらって行くわよ」
「それだけは勘弁してくれ」
「それは無理ね…」
「ウ~ン、これでは割に合わないわね…」
エクスキャリパーを抜いて、オリバーの喉元に突きつける
「ひぃぃ、助けてくれ…ください…」
「なら、私と契約をしなさい」
「今日から半年、毎日3時間、この国の掃除をすること」
「体調が悪ければ、休んでもいいわ、でも、手を抜くとビリビリだからね…」
「あ、特に教会の周りは丁寧にね」
剣をギリギリまで近づける…
「わ、わかりました…」
「アグリメント!」
「じゃぁね」
チャリーン…
金貨を1枚だけ投げ捨て、その場を立ち去った…
…ビリビリの威力は10分の1にしといたわよ…
その足で武器屋に直行した。
「全部で金貨20枚だな」
おいおい、金貨200枚じゃなかったのかよ、オリバー…
ま、予想はしていたけど…
軽装備とナイフを買い、それからエペを特注で注文した。
理由は簡単、大きい剣は私の筋力では振り回せないからだ。
エペはフェンシングに使われる武器で三銃士とか怪傑ゾロなどで有名だ。
突きのみの武器なので、重装備の相手だったら、逃げることにしよう…
ま、逆に言えば軽装備なら最強武器なんだけどね…
鍛冶屋の親父には、「こんなの何に使うんだ?」って言われたけど、細身のレイピアでさえも、私にとっては重すぎて扱う自信がなかった…
金貨の残りは17枚、ロペちゃんにもらったのは、取っておくとして…
あと83枚貯めて、騎士様に返さなきゃ。お礼もまだ言ってないし…
武器屋を後にして、教会へ帰った…
マリアさまに、その日の出来事を話した。
「フフ、エライ、エライ…」
「ルビィはそれでいいのよ。何かあったら私が面倒みますから…」
ん?
てユーか、マリアさま最近近すぎる…
ルビィの成長が気になる方は…
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