n章
いつかは来ると思った彼と再会したのは、とある冬の日のこと。ラッパー「ミキ(miki)」の新アルバムのリード曲のミュージックビデオ撮影中、一息つこうとスタジオの外を出た時だった。撮影が長引いて外は温気のかけらも見かけられず真っ暗になって、私はコンテイナーの裏側で熱い缶コーヒーを両手で握り、少しでも熱を出そうと足をバタバタさせていたその時、ヘッドライトがピカリとまぶしく光った。現場に似合わない高級車一台が派手にスクイーズして私の前に停まり、馴染みのある白ずくめの男がそこから降りてきた。
「久しぶりだね」
実はちょっぴり懐かしかったりもした。何せ、学生時代の思い出だから。なんでも、とても突拍子なハプニングで、実際に起きたのかも疑わしくなった記憶だったので。
「また私が…何か未来を…盗んじゃいました?」
私が先に安否を問うと、男はお馴染みの演劇調で笑った。
「唐突になった姿、悪くないぜ」
「もっとおしゃれしたとき来ればよかったのに」
彼との遭遇後、色んな変化が訪れた。魅喜と私は例のシングル以降、それをアルバム単位のプロジェクトで発展させて、非資本独立アルバムだったにも関わらず可視的な反響があった。魅喜は高校三年の夏、ヒップホップ・R&Bジャンルで著名なレーベルと契約を結んだ。そのアルバムが決定的なきっかけだったという。
それと共に、私が一緒に送ったデモ音源がありがたくも彼女のレーベルデビュー曲に採用され、今までもらったことのない額の曲費をもらった。そしてジャンルシーン及び歌謡界で有名なレーベル代表が直接フィーチャリングをしたおかげか、また以前の一位曲でももらったことのない額の精算が入ってきた。だがしかし、そのトラックが実際に一位を獲ったかどうかはわからない。なぜなら…。
「きみも知っている通り、約束に変数が生じた。それは…」
「リアルタイムチャートの廃止…」
そう。音源サイトのリアルタイムチャートが廃止された。
彼が脅しに来た時、それがいつ一位をするべきだという約束まではしていなかった。その間、聴いたこともないバラード曲が異常にチャートを占拠しているのを人々が怪しく思って、そのストリーミング買いだめ疑惑がだんだんマスコミに報道され出した。それから操作される可能性の高いリアルタイムチャートは廃止の道を進むことになる。
「そんなことより、レーベルから君にも契約の提案が入ったと思うが、路魅喜のみ入った理由は何かね?」
それはどうやって知ったんだ。恐ろしい芸術界権力…!
「その…、まだここに完全に邁進する前に、もっと勉強をしてみようと思いまして…」
「ほお、初めて会った時は現実に不満そうだったけど、意外な選択だね」
「あんたのせいですよ…」
彼は物理的に顔を30度傾げるジェスチャーをとった。このような(ムカつくけど)些細なところにまで至る演出力。そんな特性がそのまま表れた音に(屈辱的にも)感動した夜の記憶が、今でも音楽をする原動力になったと認めざるを得ない。それがちゃんと作動するために、むしろほかの勉強を並行したいと思えたし、すぐの契約はその邪魔になると思った。断ると決めるまでも大変だった。家の経済状況も考えて、もっと安定した収入を期待できる機会を逃したのかもしれないではないか。
「人生は長く見るものですから…」
私が学ぼうとするのは、音楽ではなく、経営だ。
音楽は独自的ではない。しかし音楽を作る側の私たちが産業の主体になれずむやみに揺れる経験をした。だから私はこの産業で私が実際にどんな位置にあるのかを把握し、主導権を掴む戦略が必要だと感じた。
「約束を移行できない状況に至り、その間に君の潜在価値は十分確認した。そんなわけで、吾輩は君に新たな契約の提案を持ち出しに来たのだが、どうやら気安く許す状況ではなさそうだね」
音楽と勉強を並行するのはいばらの道だ。が、くじけそうなときはいつも韓国ヒップホップ名盤のヴァーバル・ジント(Verbal Jint)の《濡れ衣》が、当時現役ソウル大学経済学部生から出たことを思い出す。
「吾輩は君の青春を芸術的に輝かせる計画があるのさ。青春は限られていて、芸術は永遠を夢見られる。儚い青春の火種を歴史に華やかに刻もうではないか」
「あの…、話はうれしいんですけど、魅喜のこと捨てたじゃないですか。私に被害妄想して…」
静寂が訪れた。いや、コンテイナーの向こうで慌ただしい現場の音が彼と私の間を鮮明に通過した。アンビエントジャンルがもたらす特有の緊張感は、何かが表現されるべきところで、それが沈黙を貫くからこそ来るものではないかと思った。
だがしかし、私はヒップホップミュージシャン。彼のフェイスに向かってストレートにスピットするぜ。
「自分でやっちゃダメなんですか?」
彼はおそらく私がこれからずっと苦しみながらも尊敬するだろう芸術のところに戻った。果たして私はその座に登れるだろうか? もう冷めてしまったコーヒーを一口飲んで、考えを改めた。私と彼は最初からすでに同じ芸術の領域にいたのだ。魅喜も、彼も、そして私だって、一人の音楽家であるだけなのだ。
魅喜と出会った頃を振り返ってみる。私たちはおばあさんになるまでしぶとく活動し続けることを約束した。キース・ニーガスの『ポピュラー音楽理論入門』によると、ビートルズ(The Beatles)の〈When I'm Sixty-Four〉は、当代のロックスターたちが青春を賛美し老いていくのを嫌ったのに対して、彼らはむしろ年を取っていく過程を祝福し、世代を超えて音楽で会話を試みるという。だからこそ彼らはオールタイム・レジェンドだったのだと感じた。そして私もその時まで互いに頼りになっていってほしい、その友達が主人公にいるスタジオへ、早く戻らないと。




