表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/19

決勝戦、vs.ヴィナシス

 リヒトとヴィナシスが戦うのにそう時間はかからなかった。

 学生も外からの参加者も蹴散らして、決勝という華やかな舞台へとふたりは並ぶ。


「大して力も使わずにあっさりと来たわねアナタ」


「お前もな。いや、まぁ割りとマイルドにやってくれたことにビックリしてるよ。ありがとう。約束を守ってくれて」


「じゃあそろそろご褒美くれてもいいんじゃない? 雑魚ばっかりで逆に死にそうなのよ」


 舌を出しながらわざとらしく笑んでみせるヴィナシスだが、研ぎ澄まされた眼光はリヒトをしっかりと射ぬいている。


 期待の眼差しというやつだ。

 目の前にいるのは勇者パーティーの一員を自称する魔導剣士で、自分のことをよく知る謎の男。


 ヴィナシスのボルデージは徐々に上がっていっている。

 吐息の中に、美酒のように意識がまろびそうな愉悦をにじませながら一歩、また一歩とリヒトとの距離をつめていった。


「ここまでオアズケさせたんだから、しっかり楽しませてくれなきゃイヤよ」


「心配するな。お前相手に手加減なんてできるか」


「フフ、威勢のいい男は好きよ。強くても弱くてもなぶり甲斐があるから。勇者レベルのことまでしろとは言わないわ。ベストを尽くすことね」


「言われずともそうする。……あ~、ちなみに勇者レベルのことっていうのは?」


「アハッ! 気になるわよねぇ! ……かつて魔王が宇宙ソラから隕石を降らせる術で大国を滅ぼそうとしたとき、勇者は自分から宇宙まで飛んで隕石を斬り飛ばしたのよ。……思わず私も興奮しちゃった。世の中にはこんな凄い男がいただなんてって……」


 恍惚とともに重圧なオーラが地面を震わせた。

 思い出しただけで頬を紅潮させながら、艶美な動きで身体をくねらせ、手を足から胸へと沿わせる。


 


(いや、やったの俺なんだけどなそれ。……ただ、アイツの功績として認識されてるのはやっぱ腹立つな)


 リヒトは魔導剣士としての力を解放する。

 右手に集まる光の渦、それを握りつぶすと真っ直ぐな刀剣の形へと変わった。


 客席の、特に魔術師たちはこの技術に感嘆の声を漏らしている。

 この世界には存在しない技術を目の当たりにし、誰もが知的好奇心を抑えきれない。


「エーテルブレイド、起動」


「それずっと使ってるわよね。アナタの主力かしら? いえ、()()()()()()。全部出しちゃいなさいよ」


「これは殺し合いじゃない。あくまで大会の試合だ。だが……そうだな」



 ────出させてみろ。お前の実力で。


 この言葉に武者震いをしたヴィナシスから、空間がとろけそうなくらいの殺意をリヒトは浴びる。

 殺意の余波ともいうべき空気の流れに当てられた客席の数名が気を失うなどする中で、リヒトは毅然きぜんとした態度で切っ先を向けた。


 どちらにしろこうなることはわかり切っている。

 それにぶつかってきてくれたほうが、もっと思い出しやすいのかもしれないとも考えた。


 権能【征服されざる太陽(ソル・インウクトゥス)】の脅威は知っている。

 恐らくこの戦いでその片鱗へんりんをさらにあらわにすることだろうとも。


 鋼鉄と重力の合わせ技は、ヴィナシスのあふれる残虐性を形にしたものと言っていい。

 これらによって百の術も千の兵も、最早敵ではなくなっている。


 まさしく難攻不落の要塞のようなパワーを搭載した魔族なのだ。

 

 しばらくして、審判が声を上げる。

 試合開始の合図に、ヴィナシスの笑みに刀剣のような鋭さが宿った。


「お互いいい試合をしよう」


「えぇ、せいぜい私を楽しませなさい」



 異次元空間ともとれる異様な雰囲気の決勝戦。

 客席のはしっこで、ピンク色のショートヘアーの少女が微笑んでいた。


「あのふたり、不思議な力を使うネ。もしかしてもしかしてだけどぉ~……」


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣使いの元少年兵は、元敵幹部のお姉さんと一緒に生きたい

モーニングスターブックス様より発売!&コミカライズ版発売中!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ