元の世界線にはないアーリズ魔術学園
「少し気になってた場所がある。元の世界にはないはずのものが東の区域にあるんだ」
「へぇ、面白そうね。どんなところ?」
「来てみればわかる」
たどり着いた先にあったのは、周囲のものと比べるとかなり規模の大きい建物。
────『アーリズ魔術学園』だ。
「人間はああいう場所で魔術の才能を伸ばすっていうのは知ってるけど……」
「あぁ、この街にもあるだなんて驚きだ。どうやら元の世界よりもずっと魔術が盛んらしい」
丁度学園が見える薄ら高い場所にある公園の上で、ふたりは柵にもたれながら眺めていた。
ここを訪れたのは単純な興味と、現存の魔術師のレベルを知っておきたかったからだ。
情報によれば、あそこに集うのは魔術の秀才と天才ばかりだという。
是非ともその腕を見ておきたいのだが、その手段がない。
「ねぇ、あの学園ってとこ、入れるみたいよ」
「え? んなバカな……。あ、本当だ。なんか……結構人が入っていってるな」
俄然興味が湧いたふたりは行ってみると、華やかな飾り付けがされた校門に笑顔で人々が入っていっている。
「……『学園祭』って書いてあるけど、これなに?」
「さぁ、俺も聞いたことがない。少なくとも元の世界の学園にはない行事のようだが」
「でも賑やかそうね。ふぅん、人間は祭好きが多いって聞いてるけど……これはこれで面白そうじゃない。行くわよ」
「おい待て! まずは周囲の情報収集から……」
「あ、スイーツの屋台がある」
「よし行くぞ」
なんやかんやふたりはこの学園祭を堪能していった。
特にリヒトのスイーツ品定めの真剣さは、周囲が引いていたほどだ。
(あの人すっごい表情で食べてる……なんだろ、プロの人?)
(さぁ? さっきも私たちのところの屋台に来てたんだけど……なんか怖いね)
(ところであの隣の女の子って連れの人かな? すっごい美人だよね)
(う、うん……で、でもスゴい衣裳。冒険者の人にしてはなんか、オーラが……ッ)
この学園の女子生徒たちがヒソヒソと話す中、モクモクと味わいながら至福の吐息を漏らすリヒト。
「リヒト、メチャクチャ目立ってるわよ」
「んふぅ……関係ないな。それに目立っているのはお前も同じだろう」
「そりゃ仕方ないわ。どこへ行っても最強オーラは隠せないものなのよ」
「オーラだけじゃないと思うがな……。しかし、外部の人間を招き入れてこうしてもてなすなんて、秀才天才がいる学園の考えることはわからないな」
「そうね。防犯とかどうしてるのかしらこれ。ヘマはしないんだろうけどちょっとオープン過ぎよねぇ」
「まぁいいじゃないか。こうしてスイーツにありつけるのだから。今日の昼飯はスイーツな」
「……ごめん、さすがの私もちょっと吐きそう」
ヴィナシスがゲンナリしな表情を見せたとき、校舎の向こう側に人が集まっていくのが見える。
その方向にあるのは、普段生徒が訓練で使用している闘技場らしい。
足を運んでみると、そこでは試合が行われるようなのだ。
学園生徒同士の戦いかと思ったが、どうやら腕に自信がある外部の人間も参加可能であるというもの。
「見て、賞金もでるらしいわ。なにこの学園、結構太っ腹ね」
「殺しは基本NGで時間制限あり。審判の判断及びどちらかが敗北を認めるまで。戦闘後のアフターサービスも充実、か」
その瞬間、ヴィナシスは愉悦の笑みとともに闘志をたぎらせた。
魔王軍最強の血が騒いで仕方がないとでもいうように、拳を鳴らす。
「おい、参加するのか?」
「もち」
「……殺すなよ? 殺しNGだからな?」
「殺されるほうが悪いのよ」
「マジでやめろ。騒ぎを起こしてどうする」
「ジョークよジョーク。ただ、相手によっちゃ手加減できないかもねぇ~クスクス」
「お前にそう言わしめる奴なんてそうそういるとは思えないが……」
「あら、わかってるじゃない。安心なさい。今の私はただの魔族の女。この世界にいる間は、人類の敵であることは忘れてあげるから」
妖艶な美少女の姿をした殺戮者の衝動は実に恐ろしいものだ。
好奇心だけで来たのを少しだけ後悔はしたが、リヒト自身これはチャンスでもあると感じている。
(学生のレベル、ましてやこの世界の戦士たちの強さをその場で味わうことができるのはこれ以上ない情報だ。それに、俺も参加して戦いを見せればアイツも俺のことを思い出すかもな。……俺だけポッカリ忘れられたままだと、どうももにょる……)
リヒト、ヴィナシス、試合にエントリー。
リヒトはこの試合に勝ち負け以上の価値があると信じて、ヴィナシスはこの試合に楽しみがあると信じて。