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それは昼間のふたりのひととき

 次の日の昼ごろにチェックアウトを済ませて、新しい宿にありつく。

 その後は昼食のため、ふたりで酒場へと入った。

 

「やれやれだ。トラブル続きで忙しいな」


「でもずいぶんと手慣れてるじゃない。チェックアウトしてから新しい宿をすぐに探し出したり、ここをすぐに見つけたりね」


「旅をしてると自然に身につくスキルだ。まぁ、お前にはあまり縁のないものだとは思うが」


「そう、ね。でも……これからはそうも言えなくなるのよねぇ」


「お、珍しいな。戦うこと以外には興味はまるでないと思ってた」


「当たり前じゃない。私の屋敷はないのよここには。となると、宿を転々としたりするしかないわけでしょ? アナタまかせにしておくのもなんかねぇ」


「さすが協力関係を切り出してくれただけはある。期待してるぞ。よし、今日は少し豪華なのを頼もう」


「私のお金でね」


 食事を摂りながら、何気ない会話に花を咲かせる。

 こんな風に彼女と話すことなどないと思っていたリヒトは、自分でもこうも会話が進むことに驚いていた。


 それはヴィナシスも同じ。

 なぜか彼は信頼できる男だと心が気を許していることに、なんの違和感も覚えていない。


「ふぅん、魔族にも俺たち人間と同じようにどんちゃん騒ぎの祭りがあったりするんだな」


「えぇ、私は参加しなかったけど、結構楽しそうだったわ。今の人間たちみたいにね」


「参加しなかったのか。お前相手なら男連中が逃すまいと誘ってきそうなもんだが」


「仕方ないわ。強すぎる力を持ってると浮いちゃうものよ。……ねぇ、アナタならどう? そういったお祭りがあったとき、私を誘ったりする?」


「……敵じゃないのならな」


「ふ、ふぅ~ん」


 フォークでパスタをくるくると回しながら、そんな光景を想像してみたりする。

 すぐにハッとなり、頭からそれを振り払った。


(なにバカなこと考えてんのよ私は。私は魔王軍最強の幹部よ。そんな現実はありえないし、彼とはただの協力関係ってだけ。それに、まだこの人のことを知らない。いや、覚えていないって言うべきかしら?)


「どうかしたか? パスタがすごいことになってるぞ」


「あ、いや別に。食べる食べる」


「ゆっくり食っていい。……元の世界が今どうなっているかが気がかりだが、なにもかもわからない以上焦っても仕方ない。ふたりで乗り越えていくしかない」


 リヒトは肉を頬張りながら、未来を見据える目を見せた。

 一番不安なのは彼なのかもしれないとヴィナシスはふと思う。


 人類存亡の危機の中で勇者パーティーは組まれた。

 そんな中でリヒトは仲間に裏切られた挙句、ここへ飛ばされたのだ。


 その心中を計り知ることはできない。

 ましてや彼が弱みを見せることはないだろうと、彼の記憶がないヴィナシスでもわかる。


 そう思ったときに彼女に舞い込んできたのは、とんでもないほどの孤独感だ。

 その孤独と彼は今も戦っているのかもしれないと、少しばかり胸が揺らぐ。


「リヒト」


「なんだ?」


「頬にソースついてる。待ってて拭いてあげるから」


「あ、あぁ。すまない」 


 身を乗り出してそっとリヒトの口元に手を伸ばすヴィナシスは、ナプキンで綺麗に拭き取ると、ほんの一瞬だけ彼の頬を撫でた。


「……ありがとう、感謝する。頬のほうにもついてたか? そんなにガツガツ食ってた自覚はないんだがな」


「さぁね。ホラ、さっさと食べちゃいなさいよ。ここ、結構広いし観光とかまだできそうじゃない?」


「いや確かにまだ時間もあるしまだ観てないところもあるけど、今夜のことわかってるか~? 俺たちは今重要な問題が……」


「わかってるわよ。でも、私たちなら乗り越えられる。そうでしょ?」


「ハァ、まったく。よし、見て回るか」


 ふたりは酒場をあとにして、さんさんと輝く日の下で歩き出す。

 心なしかふたりの距離がかなり近くなっていた。

 

 ほんの一瞬、小指と小指が触れ合うも、手を繋ぐのはまだ先のよう……。


 

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魔剣使いの元少年兵は、元敵幹部のお姉さんと一緒に生きたい

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