08.第一異界人発見
前話のあらすじ
実の母に絞殺され、またあの世へと旅立つ楓。それを目の当たりにした父、氏家定直は心が折れる。
〇氏家楓〇
「うーんと。」
辺りをキョロキョロする。
ここは暗い巨大な、洞窟のようなところ。
・・なんか違うな・・また来世か、なんかだと思ってたが。
手のひら見ると透けてるし、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)のうち機能してるのは、視覚と聴覚だけのようだ。
足元から50センチ下に地面がある。浮いてる浮いてる。
地面触れられないかな?
そう思った途端すい~っと下に体が動いた。おおう・・便利だこれ。
暫く上下左右に体を進ませて、一心不乱に浮遊移動を堪能する。
いけない。いけない。遊んでる場合じゃない。
地面を触ろうとすると、スカっと空振りして、触れることができない。立体ホログラムみたいな感じ。
スンスンと鼻を鳴らしてみるが、なんの匂いもしない。
当然物を触れられないから、食べられないし、物の味はわからないはず。
さっきから空間の中を、ふよふよ浮きながら、あてもなく漂っている。
床しか見えない・・天井も壁もぜんぜん見えない。
思い当たる今の状況を表現するなら「幽霊」。
地縛霊か浮遊霊か?ふよふよ浮いてるから、浮遊霊なのか。
空間の中をある程度まで、真っすぐ進むと、元居た位置に一瞬で戻される。
それではと、逆の方向へ上下に揺れながら、ふよふよと進んでみた。
なんかこの空間の床。違和感の塊なんだよね。同じ創り(模様)が繰り返し続く、まるで昔のゲームのドットタイルを敷き詰めたような。手抜き感が半端ない。
また振り出しに一瞬で戻った。
どうして振り出しって分かるかって?
なんか地面に直径1メートルくらいの青く光る。二重の円があって・・円の中に梵字のような、謎の読めない字が書いてある。
他の地面とは見渡す限り、異質なものである。
いわゆる結界みたいなものか、転送ポイントみたいなものか。
ふと奥の方を見ると、人影がみえた。
第一異界人発見。インタビューしないとね。
よくよく見ると白と赤の既視感のある服だった。
あー巫女服っぽいなあれ。
巫女服(巫女装束)みたいな服を羽織り、こっちを驚いたような顔をして、凝視している。
若い娘さんだ。スレンダーなほっそりとした容姿と、後ろで束ねてある綺麗な長い黒髪。立ち烏帽子を被り、清楚な古式正しい巫女装束をしている。
10代前半に見えるその顔に、悪意と害意は感じない。
何気なく手を振ってみた。
うん?ニコっとして巫女服の袖を掴み、綺麗な所作で手を振り返してくれた。
袖の飾り紐が、とってもチャーミング。
『可愛ええのう・・。ああいう孫が欲しかったのう・・。』
私の中の大崎重雄享年78歳が、ムクムクと起動を開始する。
お爺ちゃん。ご飯はまだですよ・・寝てなさい。
こっちゃ来いと手招きしてみた。
うんうんと頷いて。ニコニコしながら、こっちにくる。
娘さん乳児だからっていって、ほいほい不審者に寄って来ちゃだめよ。呼んだの私だけどね。
第一に幽霊みたいよ私。
うわ!でか!この姉ちゃんでかくね?
見た目JCなのに180センチ余裕であるわ。
2歳児から見たら、巨人ですよ巨人。
胸は・・・ドンマイドンマイ!大丈夫!まだまだいけるさ!
成長の余地あるよあるよ~。たぶん。
喉頭隆起※が無いし、女性だよね?
スタイルいいのに、勿体ない。
はっ!まずい!
強烈な内からの精神の衝動に、一瞬で意識が刈り取られた。
〇大崎重雄〇
これは、なんともはや、婆さん以来だのう。
年甲斐もなくときめいた。
清楚な服装。整った顔立ち。
あの微笑みがたまらんわい。
背が高くて、大きな目、む・・む・・胸がピッタんこじゃと!
むふ~~~!ええのええのう!
なんつーどストライクなんじゃい!
何処の国のハニートラップかの?
ワシの中で楓がワシを汚物をみるような眼でみてる。
かまわんかまわん。
最近二重人格っぽくなっとったから、この爺いは楓の中の隅っこで遠慮して、大人しく体育座りしとったのに。
あの小娘は、気遣いの気の字も、示さんかった。
とりあえず、据え膳は全部喰らわんとばちがあたる。辛抱たまらんわい。
まずは軽いボデエタッチから、はじめるかの。
2歳児が少女に戯れで抱き着く。無罪!無問題!モーマンタイじゃろ?
事案の欠片も、ないない。
見た目は乳児中身は後期高齢者!
事件など解決せんわい!
幽霊が人に、抱き着けるかの実験じゃ実験。
心の中で言い訳に、ならない言い訳けをしながら。
娘さんに微笑みながら、両手を挙げて近づく。
娘さんなんの疑いもなく。しゃがんで手を広げてくれる。
おう?抱き着けたのう・・フローラルなよい香りじゃ。香り?
うん?嗅覚感じるぞ楓。
『うっさいエロ爺い!さっさとくたばれ!』
ワシに取り込まれた楓が、中からすごい剣幕で毒づく。
生前で生意気になった。息子の上の娘を思い出す。
爺ちゃん悲しいのう・・若い娘がそういう口の利き方しちゃいかんよ。ほんとにもう。
『やかましいハゲ!何が医師会の副会長だ!ロリコン変態爺め!』
ふっふっふっ青いのう。上半身と下半身は別人格なの知らんようだのう。
それにハゲちゃうわ!ふっさふさじゃふっさふさ。
『☆×▲〇〇◇!』
とってもお下品な、楓の啖呵に呆れながら、娘さんの感触と芳しい香りを堪能する。
すーはーすーはー。くんかくんか。
うーむ・・この樹脂系の清々しい芳香、何処かで以前に・・。
ペロペロチューチューしたら・・流石に楓が、発狂するかの。
娘さんワシを抱き上げて、ホッペをつんつんして、頬ずりしてくれる。
ふおっ~~~!天国じゃろここ?
なんかもうここで逝ってもええのう。
そういやもう死んどった。
※喉頭隆起 いわゆる喉仏のこと
重雄さんよい趣味されてますね。(棒読み
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