06.カミングアウトその2
早めの投稿です。
〇氏家楓
朝餉を摂りながら、父上が複雑そうな、物憂げな顔をしている。
母上がそれを気にかけて、チラチラと父上の顔を伺っている。
役者だねえ・・定直殿。
先ほどの打ち合わせ通り、上手に演技する父・・流石主君最上義守様を2歳より守ってきた、最上の重臣は伊達ではない。
うん伊達?なんかむかつく・・「只者ではない」にしとこう。
遂に我慢できなくなった母が、父に話しかける。
「お前様どうなされました。」
「いや・・な・・気になることが昨夜あってな・・食してしまおう、茶でも飲みながら話す。」
少し呆けたような、ぼーっとした虚ろな面持ちで、話す父。
母の注目は、イエローアラートへシフトした。
上手い!このおとっつぁま役者でも食べていけるわ。
一汁三菜の朝食が終わり、宇治より取り寄せた茶を飲む。
煎茶ではない、抹茶だが美味い。
母は都を思い出したのか、お茶をじっと眺めている。
「さて・・な・・昨夜の話を致そう。ワシは夢の中で、とても高貴な尊い方にお会いしたようだ。」
父は茶を飲み干し、食膳にそっと置く。
「お雅。」
母を見る父。
「はい。」
手元のお茶から、視線を父に移す母。
「お主は信心深く、仏様のこともよく知っておろう。なんと申されたか・・たしか医王善逝様と仰っておられた。とても涼しいお顔立ちに、片手に小さい茶壷を持たれ、気品に満ちあふれ、後光が差しておられた。」
「薬壺でございます。」
母はガクガクガクと震えだす。
いかん!
「父上!」
いきなりレッドアラートな、母の様子に警鐘を鳴らす。
「茶壷ではございません。」
さっと茶碗を置いて、すすっと手を合わせる母。
「ありがたやーお前様、そのお方は薬師如来様です。」
手を合わせながら、大粒の涙をポロポロ流す母。
「なんとな!」
愕然とした表情の父。
役者だ!役者がおる!
演技派ですよ・・ファンになりそうですよ。
母上はイエローアラートに格下げ警戒続行。
居合わせた侍女のお八重も口に手を当て、目を見開いて驚愕の表情をしてる。
ここにも役者が・・ってお八重はこのこと知らんがな。
「薬師如来しゃま・・そのご尊名だけで病が癒えそうでしゅ。」
手を合わせて黙祷する。
私も天才子役で参加してみた。
母が満面の笑みで、何度も頷いてくれる。
父はチベットスナギツネのような眼で、こちらを見る。
落ち着いた母が、涙をぬぐいながら父に訊ねる。
「それでお前様、如来様は何ぞ申されましたか?」
「ふむ・・ただ一言。」
居合わせた全員の全神経が父に集中する。
くるぞ!対ショック姿勢。
「楓を良しなに。と。」
一瞬で視界がずれて、気が付けば抱き上げられ、私を見る母の眼は歓喜に満ち、体は打ち震えておる。
おおう・・こっちまでブルブルが伝わってくる。
「おぶ!ぐるじい・・ゲべ!」
そしてこれぞ狂信の力というものか・・女性のそれとは思えぬ力にハグされて、今2歳の命が尽きようとしている。
ごめんな~守棟殿姉ちゃん先に逝くわ。
いきなりクライマックス!
楓の運命やいかに!
母親がラスボスだったでござるの巻。
2/08サブタイトルミスを修正。