60.弟その2
〇氏家道丸〇
「道丸や。楓のお墓だよ。手を合わせてあげなさい。」父上が、お墓に水を掛ける。姉上のお墓。とても立派です。あの姉上、優しくて美しかった大好きな姉上様。会いたい、会って甘えたい。道丸は悲しいです。
◇◇◇
お国替えで移動しています。鶴ケ岡の大叔父様は、大きかった。道丸の頭を優しく撫でてくれました。お景様は面白かった。いろんなお話をしてくださいました。
「道坊。酒田のお父様は、少し気難しいところがあるけど、お前さんなら大丈夫だよ。きっと気に入ってくれるさ。」道丸の頭をワシワシと撫でる。お景様。
「お景様は女なのに大名様なの? 」
「ぷっ、あはははは。誰に聞いたんだい? 違うね大名様はあんたの大きな大叔父様だよ。あたいは局長だよ。きょくちょうさ。」
「どっちが偉いの? 」
「さあ、どっちだろねえ。手を出しな。」道丸の手に気が付いたら飴が2つ載っていました。
「お景様凄~い。」
「あはは、そうかいそうかい。」もの凄い数の飴玉を指の間から出してくれました。手妻[※1]です。仰天しました。
「まあ、お景の方様。道丸のお相手をして下さり、おおきに。」母上がいらした。
「お雅さん、いい子だね。あたいも子が欲しくなっちまったよ~。」道丸の顔に頬釣りをしてくださいます。何か姉上を思い出してしまいました。
「道坊、達者でね。」大叔父様とお景局長はお城の外まで、お見送りしてくださいました。鶴ケ岡のお城は山形のお城と同じくらい大きかったです。お景様のお父様って、どんなお方でしょうか。
◇◇◇
「道丸様。あれが酒田の街にごさいます。」道丸の守役の堀田の爺(堀田典膳)が車の窓から指さす。大きくて、高くて、海に迫り出していて、恰好よいです。
酒田の皆さんは道丸たちをとても歓迎してくださいました。車から最上のお殿様が手を振られます。綺麗な紙が舞って、楽しい音曲が流れています。皆さん大きな声で、殿様に歓声を挙げられます。お殿様とても恰好よいです。
◇◇◇
代官屋敷という大きなお屋敷に参りました。家臣の皆は何故か居なくなりました。大きな広間に道丸と父上と母上だけです。
「道丸。あまり驚くなよ。」父上の仰る事がよく分かりません。代官様は、確かお景様の御父上様で、滋野様と・・・。すっと襖が開きます。え・・・ああああ! あのお方は!
「道丸大きゅうなりましたね。」あのお顔、あの声、あの微笑み、姉上様です!!
「あああ、姉上さまあああ!!」気が付くと、駆け出して抱き付いておりました。優しく道丸を抱きしめてくださる。姉上様。
道丸は氏家家の嫡男です。嫡男が泣くはずがありません。嫡男が、「うわあああん。あねうえさまああ。」涙が止まりません。
「ごめんね。寂しかったでしょう。姉を赦してください。」
姉上様、道丸の姉上様、もう離しません。
「楓、道丸、よかったどすなぁ。おいでなさい。」
「はい、母上様。」姉上が道丸を抱き上げて、母上の下に参ります。3人で泣きました。
「おやおや楓もいつまでも、甘えんぼさんどすなぁ。殿様、楓を撫ぜたっとぉくれやすな。」
「うむうむ。大きゅうなったなあ、楓。」大好きな姉上と母上と父上様。道丸はとても幸せです。
◇◇◇
「さて道丸殿。お初・・ではないな。貴殿が麻疹の砌に会っておった。滋野善盛である。」姉上の声であるが、姉上ではない。なんと返事をしたら。
「はっはっは、警戒されるのも致し方なし。齢7つの貴殿になんとお話したら良いのやら。・・・そうさな、お景には会われたかな。」
「はい、とても楽しいお方でした。」
「われはお景の父で、神の御使いである。丁度良いな、四方那草姫様もお会いなされるそうだ。」辺りが真っ暗になった。とても綺麗で、光り輝くお姉さまが、微笑んでいる。
「お久しゅうございます。」父上と母上が、輝くお姉さまに平伏している。道丸はあまりの事で何も出来ません。
「道丸よ。父と母と姉に孝養を尽くしなさい。」!!!声が心に入ってきた。神様だ。本当の神様なんだ。
「ははーっ!! 」神様だ。凄い凄い。
「よいぞ。定直、雅子よ、氏家の家は安泰であるな。」
「ありがたき幸せ。」
「氏家の家に祝福を。」眩い光が溢れて、神様が消えた。
「道丸殿そういう事でござる。われは滋野善盛。楓殿の体を借りて顕現した。四方那草姫様の御使いである。」
「はい、姫神様と滋野様に感謝します。」
「賢い嫡男殿で、いつでも酒田においでなされよ。楓殿も会いたがっておるでな。」いつでも姉上に、とても嬉しいです。
「姫神様の尊ときお姿。また拝謁叶い、恐悦至極でございます。また権中納言のご拝命。お喜び申し上げます。」父上が丁寧に頭を下げる。
「嬉しきご挨拶痛み入る。侍従殿。」
「はい。・・・は? 侍従とは? 」
「気が早い話ですまぬ。此度、滋野井卿とわれの働きかけにより、定道殿、定直殿共に侍従に推挙叶いましてな。来月には勅使として、滋野井卿が参られます。いよいよ定直殿にも表舞台に立って戴く。存分に活躍なされよ。」
「ははっー!!あり難き、誠に持ってあり難き幸せ。」3人で平伏しました。
「道丸殿。お主を都のお爺様に合わせてやるからな。」大納言様。母上の御父上様。
「はい。道丸は楽しみです。」
「そうかそうか。定直殿お国替え何かと物入りであろう。少ないがどうぞ。」小姓たちが、三方と葛篭を3つ運んで参りました。
「銭200貫文(3千万円)と換金券5千貫文(7億5千万円)です。能代湊でも換金できるように、手配しておきました。新城の建設の指揮は茂助とわれが行うので、後ほど合流しましょうぞ。」
「忝く、この恩どの様に返せばよいか。」父上のお気持ちは分かります。若年の道丸にも尋常ではない支援とわかりました。
「なんの。楓殿の父上はわれの父上よ。身内が助け合って何が悪いと言うもの。滋野が苦境の時はひとつよろしく頼む。」
姉様の微笑みとは違うとても威厳のある。笑みをされています。恰好よいです。
「その時は、いの一番に駆け付けます。」
「うんうん丁度よい、あの者らを呼んでまいれ。」暫くしたら、とても懐かしい顔が。
「あっ茂助! お清! 徳兵衛! 」懐かしさで、思わず駆け寄ってしまいました。
「これ道丸! 茂助様は今や大名格の長官様。お清様は小名の奥方殿。徳兵衛殿は第5大隊の大隊長殿だ。無礼はならん! 」父上が青ざめる。
「お殿様何を言われます。茂助は茂助だず。坊ちゃま大きくなられましたな。」道丸を抱き上げる茂助。昔に戻れたようでとても嬉しかった。
「坊ちゃま、お清もお清ですよ。なんら変わりません。ねえ父上。」道丸の頭を撫ぜてくれるお清。山形のお屋敷でよく撫ぜてもらいました。
「はい、我らは氏家のお家から始まりました。権中納言様が御父上と申す氏家様は、我らの主君の中の主君です。」徳兵衛も変わってなくて本当によかったです。
「お主たち。うううう。」父上が男泣きです。道丸も嬉しくて泣いてしまいました。
◇◇◇
暫く茂助たちと近況の話をして、楽しく過ごしました。家臣も大広間に戻ってきて、皆で豪華な夕餉を頂きました。
「定直殿、道丸殿は何時から学問所へ通わせますかな? 」滋野様が父上に訊ねる。
「氏家家の嫡男として、見識を広めてもらいたく、来年からお願いします。」
「よろしい。道丸殿は賢い。必ずや最上を背負う逸材となりましょう。ここ(代官屋敷)から通うとよい。楓殿も喜ぶ。」あああ姉上とご一緒!!
「ありがたき幸せ。」父上と母上が平伏なされる。父上母上すいません。1年もとても我慢できません。
「権中納言様! 伏してお願い申しあげます!! 」
「う・・うむ。何かな? 」驚いた顔をされる卿。後ろから道丸が抱き着いた時の姉上のお顔にそっくりです。あああ抱き着きたいです。
「伊達の鼠賊めが、恩顧の最上家に対して、包囲網を引きましたる昨今!! 只碌を食み、安寧を貪る愚直な振る舞いは、道丸には屈辱です。一刻も早く最上家のお役に立ちたく、今より学びの舎にて、伊達を殲滅する策をご教授願いたく!!」
場がしーんと静まり返った。あれ? しまったのかな?! 権中納言様がフルフルと震えられてる。ああ、すっごく可愛いです!
「おおおおおおお!!!」 大広間に、割れんばかりの歓喜の声が起こった。
「定直殿! 雅子殿! お見事!! 最上の麒麟児であったか!!」卿が道丸を抱き上げて、皆に掲げてくれました。
父上も。母上も。感涙の涙をされています。
「麒麟は天にまで、駆けあがります。この姉が全責任を負って、今より学問所にて学ばせます。」あああああ、よかった。
「何卒宜しくお願い致します。」父上、母上ごめんなさい。道丸は姉上と添い遂げます。道丸の姉上様。道丸だけの姉上様。誰にも譲りません。
〇滋野善盛〇
「チュー、チュウチュウ。」
うん? 何の音だ? なんか胸に違和感と、ベッドに他の人の気配が!?
目が覚めた。 え? あれ? 道丸?
下階に部屋を与えたはずの道丸が、眼を閉じながら、我が部屋で、ベッドでワシの乳を吸っている。これアカン奴だろ。
おい! 楓起きろ! なんかえらいことになってんぞ。
『う~ん。おはよう。・・・あら道丸ちゃん。・・可愛いね。お母さまと勘違いしたのかな。』
いやいやいや、7歳は乳吸わんよ。エロガキにも程があるじゃろ。ぶん殴るか?
『何言ってるの。こんな真っ平のお姉ちゃんのでいいなら、いくらでも。』だめだこの姉弟。・・・超シスコンの道丸。将来に不安しかないな・・・。
しかしだな・・乳を吸われながら、武者隠しの護衛衆を睨む。皆頭を掻いて頭を下げている。
ふー。そうだよな、撃退対象は悪意のある者だ。道丸はこちらに、悪意と害意の欠片もない。色気づいてはおるが。手首を上下に振り、「あ~よいよい。」とジェスチャーで応える。
部屋に鍵を掛けるか、一線を越えそうになったら、このエロガキをぶん殴ろう。楓なら笑顔で赦してしまいそうだ。
※1 手妻 手品の昔の呼び名。
次回投稿は05/15の予定です。




