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鮭様大好き♡秀吉絶対ぶっ潰す!  作者: みたらし丹後
東北に吹き荒れる嵐
51/66

50.明商人の暗躍

〇滋野善盛〇


 『爺さん爺さん。』スペインのでかいお姉さんの対応に苦慮していた。ワシに楓が話しかけてきた。


 何かな?


 『要は意思疎通(いしそつう)出来たらいいんだよね?』


 なんか良策があるのかね?


 『筆談(ひつだん)でいけるはず。私スペイン語ならほとんど覚えているよ。』


 あっ! なるほど。助かったそれで行ってみよう。


◇◇◇


 蒸気船1号艦。艦名 妙高(みょうこう)の独房に到着した。縛りを解きやや落ち着いた表情になった。娘さんに羽ペンとインク壺と紙を牢の格子(こうし)越しに渡す。こちらも羽ペンとインク壺と紙を取りスペイン語で書き込む。この紙を格子(こうし)越しに見せる。


 「私の名は滋野善盛。酒田都市の執政官(しっせいかん)である。貴女はどなたですか? 」驚いた表情でその紙を見つめる娘さん。手を差し出し記入を勧めると、牢内の小さな机に向かって書き始めた。


 「私の名はエステル・カテリーナ・パサー。パサー侯爵家の次女です。」なんだまともやんけ。


 「なぜ貴女は、若狭国の正規水軍を襲ったのですか? 」その文章を見て凍り付くカテリーナ嬢。白目を()いて固まっている。楓が『ガラスの仮面の恐ろしい子だぁ! 』と喜んでいた。


 「堺の湊で、明人の商人に危険な海賊がいるので、退治してくれないか。と頼まれたのです。」震える手でこちらに文章を見せる。カテリーナ嬢。ああ、なるほどなるほど。これは若狭水軍衆にも聞いてみる必要性がありそうだな。


 「カテリーナ嬢。これより若狭国の正規水軍の者にこの話をします。恐らく何かしらの答えがあるでしょう。安心しなさい。決して無下には扱いません。執政官の誇りにかけて、うら若き乙女をお守りします。牢から出します。先ずは風呂と個室を用意しましょう。よろしいですか? 自暴自棄(じぼうじき)になってはいけませんよ。」胸に手を当て、ニコニコしながら文章を見せる。目に涙を溜めてコクコクと頷く、カテリーナ嬢。

 牢番にお清を呼んでくるようにと指示を出す。ワシの反対を押し切って、無理やりお清が、付いてきてくれてよかったわあ。


 「はーい。」と牢に入ってくるお清。カテリーナ嬢を見て少し驚くが、直ぐに普通の状態に戻る。流石だ。

 

 「お清や、この方はイスパニアのカテリーナ嬢。日本に例えるなら大名の姫様だと思ってくれ。先ず一人で風呂に入っていただき、構わないようなら入浴を手伝ってあげておくれ。後召し物(衣類)や食事の世話もよろしく頼む。言葉は通じないが一つお前の努力に期待している。」


 「はい! このお清にお任せを。」いつも元気があってよろしい。


遠藤宗満(えんどうむねみつ)

 今は謎の大型船で、世話になっている。ワシは遠藤宗満(えんどうむねみつ)若狭水軍衆の副頭目である。この大きな船に仕掛けたのは大きな過ちであった。なけなしの小早4隻は、瞬く間にみたこともない武器で沈められ。指揮船の安宅船の乗組員も次から次へと焙烙玉(ほうろくだま)[※1]のような音がする度に倒れて動かなくなった。

 仕掛けた上に捕まり、さてどのような扱いを受けるものかと戦々恐々としていたが、扱いはとても良く。朝昼夜となんと3食も食事が付いて、夕餉にはお銚子が1本ついていた。配下にいたっては、この船の船員にこの船で働けないものかと、相談する始末である。


 2日目は更に驚いた。なんとワシを含む捕虜全員に風呂が饗されたのだ。生水が貴重な船でまさか10名は余裕で入れる大きな風呂に入れるとは、夢にも思わなかった。


 「遠藤殿落ち着かれましたかな。」この船の持ち主であるという「御本家様」若しくは「お殿様」と船員から呼ばれている御仁(ごじん)がいらした。


 「お蔭様で、贅沢な食事と風呂まで頂きまして、感謝の念に堪えません。」


 「それは重畳。あの大きな娘さんとも何とか意思疎通(いしそつう)が叶いましてな。南蛮はイスパニアと言う国の貴族の娘でした。」


 「なんと! あの難解な言葉を。左様でしたか。」


 「あの娘から伺ったのですが、どうやら貴軍は何者かに()められたらしいですぞ。堺の湊で中国人の商人から、大変危険な海賊がいるので、討伐してくれないかとの要請を()に受けて、あの娘は貴軍を襲ったようです。」中国商人・・・あっ!


「何やら思い当たるようですな。よろしかったら話してくれませんか。力になれると思いますぞ。」


 「一年前より、若狭の湊などで、禁制品の阿片(あへん)翡翠(ひすい)陶磁器(とうじき)朝鮮人参(ちょうせんにんじん)などがさかんに流通されるようになり、水軍として探索していたところ。1隻の中国船から、それらの品が大量に見つかりまして、抜け荷(密輸)であるとその船を押えたのが、若狭水軍でありました。」


 「なるほど見えてきましたな。つまり抜け荷の為に貴軍らが、邪魔になったので、南蛮人をそそのかせて、取り除こうとしたのですな。これは(ひど)い話にて。」明らかに同情の顔をしてくるお殿様。


 「誠に持って汗顔(かんがん)の至りにて、一介の商人に()められるとは。」ギリリと歯噛(はが)みしてしまう。突然様々な模様の色を散りばめた緑の装束(しょうぞく)[※2]をした男が現れて、お殿様に耳打ちをする。うんうんとお殿様が頷く。


 「ふむ、もうよいですな、裏を取りました。逸見(へんみ)殿の配下でよろしいですな? 遠藤殿。」


 「何故それを! 」驚愕の表情になってしまう。


 「何々お抱えの忍び衆を先日上陸させてな。いろいろと調べさせていた次第にて。」落ち着き払った表情でお茶を飲むお殿様。


 「さて貴軍はどうなされるかな? 大分戦力が落ちてしまいましたが、間違いなく(くだん)の中国商人は堂々と抜け荷を始めますぞ。」その忍びの男の肩を「ぽんぽん」と叩き、頷くお殿様。


 「くっ! ここは全滅覚悟でも立ち向かう所存にて。」手の拳をぐっと握る。


 「まあそこまでの御覚悟は御立派なものですな。しかしもっと上手くやりましょう。申し遅れたな。某は氏家家酒田代官の滋野善盛と申します。出雲(いずも)から品を運び帰還するところでした。」なんと! 酒田の代官殿であったか、酒田の繁栄ぶりは、若狭にまで轟いている。

 

 「ははっ! これはとんだご無礼をば!!」平伏する。


 「いやいやお手をお上げくだされ。小早の捜索が終わりました。6名救助して4名の遺体が、行き違いとはいえ、哀悼(あいとう)の意を表しますぞ。」鎮痛な面持ちでこちらに頭を下げる滋野殿。


 「誠に忝く。」大変実直で誠意があって、情け深いお方である。これは是非にも逸見(へんみ)の殿様に会っていただかねば。


逸見昌経(へんみまさつね)

 「殿おおお!! 一大事です! 」配下が慌てて屋敷に飛び込んで来る。


 「如何した? 」


 「巨大な船が3隻! それとその船に曳航(えいこう)されて我が軍の安宅(あたけ)も。」


 「なんだと! 攻撃か?!」


 「いえ。そのような様子はなく。()にも(かく)にも湊へ。」


◇◇◇


 で・・でかいなんだあの大きさは。

 巨大な船である。形は南蛮船そのものだが、あれほど大きな南蛮船は見たことがない。曳航(えいこう)されている我が軍の安宅船(あたけぶね)がまるで小舟である。湊の水深が足りないようで、大船3隻は沖で停泊している。


 やがて、大船から「ボオオオオオオ!!」という耳をつんざく音がして、小舟3隻がこちらの湊に向かって来た。そのなかに見知った顔が、副官の遠藤宗満(えんどうむねみつ)が乗り込んでいる。いろいろと遠藤から聞かねばな。


◇◇◇


 屋敷で遠藤と遠藤が連れてきたあの巨大船の主の滋野殿に詳しい話を伺った。なるほど、得心(とくしん)した。

 

 「行き違いがあったとは言えど此度の我らからの襲撃誠に申し訳けありませんでしたな。」滋野殿に頭を下げる。


 「なんのなんの、当方に被害は皆無。先ずは頭をお上げくだされ。」とても澄んだまるで女子のような綺麗な声だ。某も弱冠16歳であるが、滋野殿はそれより若いかもしれない。

 「して、抜け荷に対してはどうなされる所存で? 」


 「戦力は半減しましたが、不正は正します! 」


 「大変御立派な御覚悟です。しかしそれは匹夫(ひっぷ)(ゆう)[※3]という戦人(いくさにん)として、一番やってはいけないことですな。」なんと! 屈辱である。


 「では、滋野殿ならば、どのように処すおつもりか?!」


 「私ならばその明商人を捕らえ、その財産を全て没収して、この世に生まれてきた事を後悔させますな。」う・・笑っている。が目が笑っていない。なんという恐ろしい笑顔だ。


 「そのようなことでき・・・」

 「やりますよ。われはそこそこ短気でしてな。われの存在を軽んじた家を2つほど滅亡させました。()(さん)()を味合わせながら。・・・またそれれが出来ますね・・なんという(えつ)よ。ひひひひひひ。」最早(もはや)人の子の顔ではない、限界まで(まなこ)を見開き、歯をむき出しにした笑顔は、地獄の獄卒(ごくそつ)のようである。恐怖しか感じない。これはまずい、まともに相手をしたら、生きたまま地獄に堕とされそうだ。


 「さ・・左様ですか。ではこの件の始末。お願いしてもよろしいですか? 」恥ずかしい限りだが、頼るしかない。


 「お任せあれ。武兵衛や早速だが悪所(あくしょ)[※4]を周り、この小粒金を()いて餌を()いてくれ。そうだな、若狭水軍は壊滅したと、後、阿片(アヘン)を大量に欲する者がいると噂をな。」


 「御意。」偉丈夫な男がさっと姿を(くら)ませた。


 「さて、逸見(へんみ)殿よ。計略とはどのようなものか、とくと御覧(ごろう)じろ。」その自信に満ちた所作と風貌(ふうぼう)。この方を見誤っていたかもしれん。


◇◇◇


 この船は・・・なんたる。早いそして小回りが恐ろしく利く、帆と帆柱は偽物であったか。某の疑問に次々と答えて下さる。滋野殿。


 「蒸気機関(じょうききかん)とは炭や石炭を動力として、動きましてな。風は一切必要ありません。船尾の下にスクリュウという回転翼(かいてんよく)にその動力を伝えまして、帆船の倍以上の速度を出します。」


 「なるほど。で・・では、小早を沈めた武器は? 」


 「魚雷と申しましてな、火薬を満載した筒が水中を走っていって船の横腹に穴を開けます。発射管がそこに見えるでござろう。先から覗いてみなされ、魚雷が見えますよ。」確かに見える。!!なんと魚雷は竹で出来ているようだ。


 「このような大事、某などに話してよろしいのですか? 」自然と某の額から汗が。


 「心配ご無用。聞いて出来るような代物ではござらん。後で蒸気機関エンジンをお見せしよう。それの開発だけで、100年はかかりますよ。酒田以外では。


 突然「ブィィィ! ブィィィ! ブィィィ! 」船内に異音が響く、同時に「滋野様艦橋へお越しください! 」と大きな人の声が響く。


 「敵を捕捉(ほそく)したようだな。よしよし引っかかったようだ。逸見(へんみ)殿付いて来られよ。」


 「はっ! 」ここは学ぶことが多い。多すぎる。


 階段と梯子(はしご)を乗り継ぎ、艦橋へと入った。


 「ヘルコマンダール。敵大型ジャンク船を捕捉(ほそく)しました。数1。距離3キロ。護衛の関船1。小早2。」見事な所作で顔の前に手をかざして礼をする。艦長殿。ヘルコマンダールとは? 3キロとは?


「ヤボール。霜平(シモヘイ)小隊に伝達。船体に傷つけないように人のみ狙えと! 」ヤボールとは? 方言なのか暗号なのか。


 「ヤー! ヘルコマンダンサー!」また顔の前に手をかざす船長。・・・もう深く考えるのは止めよう。双眼鏡(そうがんきょう)なる遠眼鏡(とおめがね)

を覗く滋野殿。羨ましい顔をしている。某と目が合った。


 「予備の双眼鏡を逸見(へんみ)殿へ、お渡ししろ。」


 「はっ! 」


 「どうぞ。」副官から双眼鏡を受け取る。とても嬉しい。


 「敵小早と関船反転。こちらに向かってきます。その数2と1。」


 「よし! 僚艦(りょうかん)へ攻撃命令。艦長。こちらも攻撃開始。」


 「はっ! 魚雷戦よーい! 目標関船! 」艦長が金属の管の蓋を開けてそこに話しかける。いよいよか。双眼鏡を持つ手が震える。


 「1番2番3番、発射準備よーし! 」管から声が聞こえてくる。


 「てえ! 」同時に甲板から魚雷が発射されて3本の白い筋が関船に物凄い速度で向かう。遠藤が言っていた白い筋とはあれのことか。暫くして関船から水柱が上がり、「ドドドーン!! 」と音と共に関船が二つに折れて沈んだ。なんという威力だ。


 「関船轟沈! 」おお!と艦橋がどよめく。


 「カチューシャ砲発射よーい! 」艦長が別の金属の管の蓋を開けてそこに話しかける。


 「待て! 」滋野殿が声を上げて残りの小早の側面を指さす。

その小早を追いかける4本の白い筋が見えた。間もなく残りの小早2隻も海の藻屑(もくず)と消えた。

 欲しい! この船欲しい!これさえあれば我が若狭水軍も、無敵の水軍となれるものを。


◇◇◇


 「これではまるで鴨撃(かもう)ちだな。」滋野殿がそう(つぶや)く。敵大型ジャンク船を2町(240メートル)の距離を開けて追走しながら、艦橋の上よりライフル銃なるもので狙撃している。ほとんど甲板にいるものは倒れて動かない。

 敵も苦し紛れに弓矢を放ってくるが、こちらに届かない。届きそうになっても海風(うみかぜ)明後日(あさって)の方向へ飛んでいく。


 「さて船速も落ちている。制圧する。」


 「はっ! 」部下も乗せてもらいたかった。学ぶことが多すぎる。


 「さて霜平(シモヘイ)妙技(みょうぎ)また見れるかな。」滋野殿がニンマリとしながら双眼鏡を覗く。


 「妙技(みょうぎ)とはなんですか? 」


 「まあ見ていてくれ。あれは一瞬で終わるから、見逃す。」


 「パァン!! パァン!! パツン!! パァン!!」4つの銃声の後敵船の帆が3つバサリと落ちる。


 「あっ! 」何が起こったのだ?!


縄撃(なわう)ちでござる。帆を結ぶ縄を撃って切った。なるほど・・ジャンクのメインマストは2か所で結んであるか。」


 「・・・・御見それしました。」滋野軍だけは一生相手にしてはいかん!

 帆を失った敵船は瞬く間に制圧された。


〇エステル・カテリーナ・パサー〇

 大きな船室でお清さんとお茶をいただいている。このエメラルドグリーン色のお茶は(くせ)になる。外では激しい戦闘音が聞こえてくるが、お清さんは全く意に介さず、お茶菓子を用意してくれる。


 「カテリーナ様どうぞ。」


 「アリガトウ。」なんという菓子だろうか、外面は白く柔らかくて、中に黒く甘い餡が入っている。

 「オイシイデス。」片言なのが煩わしいが、お清さんが丁寧に日本語を教えてくれる。これほど高潔で他人を思いやれる人を見たことがない。


 「カテリーナ様。これは大福(だいふく)と申します。」にっこりとほほ笑むお清さん。ああ癒される。


 「ダイフク。オイシイデス。」


 「そうですね。」満面の笑みのお清さん。ああ東洋の神秘ですね。

 甲冑とサーベルはこの船では必要ないと。滋野様が預かっている。甲冑は磨いて、サーベルは研いでおいてくれるそうだ。

 今はお清さんが縫ってくれた「小袖」という襟元で合わせる。合わせ服を着ている。


 「カテリーナ様はその大きいですから。小袖を3着縫って合わせました。ちょっと大変でしたよ。」いろいろと迷惑をかけてしまったようだ。


 「ゴメンナサイ。」


 「いえいえ。やりがいがあってよかったです。金の御髪(おぐし)と相まってとても綺麗ですよお。」


 「アリガトウ。」ピンクとワインレッドを上手く織り交ぜた。この服はとても気に入っている。


 ????戦闘音が止んだ。

 

 「終わったようですね。もうすぐお殿様からお呼び出しがありますよ。」身振りと手ぶりでゆっくりと話してくれる。お清さん。最高のメイドです。


 「御髪(おぐし)を整えておきましょうね。」綺麗な所作で私の髪を丁寧に()いてくれる。


 「申し上げます。」部屋の外から声がする。


 「如何しましたか。」お清さんが髪を()きながら応える。


 「殿様よりお呼び出しです。甲板へお出でくださいませ。」


 「分りました。」()いた髪を後ろで(ひも)で縛ってポニーテールにしてくれるお清さん。


 「とてもお似合いですよ。カテリーナ様」鏡を取り出して私に見せてくれる。


 「アリガトウ。ウレシイデス。」自然と私もほほ笑むことができた。


◇◇◇


 甲板に出ると滋野様と立派な服を纏った若者が、簡易イスに腰かけて、後ろ手に縛った捕虜たちを眺めている。

 その捕虜たちの中にみた事がある顔が!


「Fui engañado por ti!!(貴様騙したな!!)」腰にあるサーベルを掴もうとするが、今は持っていなかった。


 「これ。」滋野様が手を左右に振り、隣の簡易イスに腰かけるように私に(うなが)す。


 私が腰かけると。滋野様が紙に書き始めた。


 「この男かね? 貴女を(だま)した中国人商人は? 」


 「滋野様感謝する! これで仲間の(かたき)をとれます。」


 「どうするね? サーベルで真っ二つに叩き切るかね? 」


 「このような者の返り血は浴びません。縛り首を望みます。」コクコクと頷く滋野様。


 「さてさて! そこなる明の商人殿よ。このカテリーナ嬢はお主の縛り首を御所望(ごしょもう)だ。逸見(へんみ)殿もそれでよろしいかな? 最期に何か言い残す事はあるかね? 」横の若者が頷いている。


 「私は王崇秀(ワンチョンシュウ)ね。黒幇(ふぇいぱん)の幹部よ。私に何かあると大変よ。明と取り引きできなくなるね。」男は憎らしい笑みを浮かべ、解放が当然の顔をしている。


 「ふ~ん。それが遺言(ゆいごん)か、安心せい、たしか僵尸(ジィァンシー)[※5]だったかな。なってもらおうぞ、お主の遺体はいつまでも室内に放置しておく。死後も動き回り彷徨(さまよ)うがよい。さて縛り首ぞ、用意いたせ。」途端に顔色が悪くなる。王崇秀(ワンチョンシュウ)


 「はっ! 」たちまちのうちにロープとイスで処刑台が完成する。


 「待って! まってよ! 黒幇(ふぇいぱん)怖くないあるか。」


 「いやいや。お主が行方不明になるだけだし。」滋野様は涼しい顔で答える。そして静かに上げた手を降ろす。


 「あいやぁぁぁあああ! 僵尸(ジィァンシー)はやめてー! 鬼ね! 悪魔ね! やめぇぇぇてぇぇぇ!」


 王崇秀(ワンチョンシュウ)は暗くなるまで吊るされていた。


※1 焙烙玉 料理器具である焙烙、ないしはそれに似た陶器に火薬を入れ、導火線に火を点けて敵方に投げ込む手榴弾のような兵器である。

※2 様々な模様の色を散りばめた緑の装束 迷彩服を見た室町人の感想。

※3 匹夫の勇 深く考えず、ただ血気にはやるだけの勇気。 思慮も分別も無い、腕力に頼るだけのつまらない勇気のこと。

※4 悪所 遊郭(ゆうかく)と芝居町と賭場(とば)などを指す言葉のこと。

※5 僵尸 道教思想で、死者を長時間室内で放置しておくと。動き出し彷徨いだす。と信じられていた。キョンシー元ネタ。


次回投稿は04/24の予定です。

04/22キャラ名を変更。

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