40.竹その2
〇大崎重雄〇
「ロケットA弾点火します! 」
「後方確認せよ! 」
「後方確認よし。点火!」松明を導火線に当てている。
「安全地帯に退避せよ。」
「退避! 」足軽隊員三名が後方に退避する。木の箱から導火線の白煙が上がっている。便所周りの土を生成して、硝石を作り、硫黄と失敗作の活性炭を混ぜて黒色火薬を生産した。発射台、弾頭、尾翼式無誘導の弾体はカチューシャロケット砲[※1]の設計図をベースにほとんど竹で作った。竹すげえ。
全長110センチ。直径18~20センチ。重さ約20kg。何度も茂助と田島に弾道計算をさせて、設計製造した。自信作である。
ただ弾頭は黒色火薬である。猛烈な威力は望めない。
「シュッポ!!」「シュルルルルルルルルル。」目に見える速度で、弓なりの軌道を描いて、飛んでいく。飛距離500メートルと予測してたが、500メートルの標識を超えた。やがて黒煙が上がり遅れて「ズズズズゥウウン!!」と爆発音がする。
「成功!!」皆わあぁぁっと歓声を上げる。ほぼ真っすぐ飛んだ。よしよし。
「よし! B弾点火せよ。」ワシが軍配をかざす。
「了解。点火します。」「退避! 」
A弾と同じ軌道を描いて、飛んでいく。空中15メートルの辺りで大きな火の玉となった。まるで花火のしだれ柳のように枝分かれして地上に降り注ぐ火の枝。間もなく「ボボボウゥゥゥウウウ!!」と音がした。
「成功!!」皆その花火のような光景に、歓声も忘れて見とれている。
「殿様なんか綺麗ですなぁ。」田島が呆けながら、ワシに語り掛けてくる。
「田島地上を見ろ。火炎の塊だぞ、あそこ。」燃えている地上を指さす。
「あ・・。」と言いながらブルっと震える田島。飛距離は弾頭を大きくして、燃料を大量に詰め込んだ分300メートルほどだった。
「皆の意見を聞きたい。われはB弾が実戦に使えると見た。あれ城や砦の上で十も炸裂してみろ。みんな燃えてしまう。」皆それを聞いて顔が引きつる。
「殿様が味方で神様さ感謝するだ。」茂助が呟いて、皆頷く。
「A弾も使い道はある。例えば騎馬隊に撃ち込んでみろ。音で大混乱に陥る。」
「なるほど。」皆目を丸くする。
A弾は単純に火薬弾頭。B弾は炸薬は中心に火薬で、回りは荏胡麻油と蒸留した酒にばらばらに刻んだ麻布をまぶした、炸裂焼夷弾。
「良し発射台の改良は田島。雨天でも使えるようにしろ。あと発射台を荷車に積んで馬で運べるようにしてみろ。」
「承知。」良い顔で頷く、田島。
「茂助。雷管と信管と開発せよ。この書を参考にな。」
「おえ! 」こちらも楽しそうだ。
「次、劣化クレイモア爆破試験を一刻後(2時間後)に行う。昼餉にしよう。」
「はい。」
代官の職につき四か月が経過した。大分我が酒田滋野家に於いて昼餉(昼飯)が浸透した。さて今日は西井徳兵衛のところで、昼餉にするか。
輜重隊用の食料配給車を茂助と田島に協力させて、作成した。大きな鍋と寸胴のセットで、下に竹炭と木炭で作った燃料をセットできる。調理と保温が可能で馬二頭でその台車を運べる。自衛隊の野外炊具1号を参考に造らせた。
家臣から。「高価な炭を使わずに薪を使えば如何ですか? 」との指摘を受けたが、「炭は炊煙が上がらないのだよ。」の一言で納得させた。さてと。
野外炊具1536号に置いてある。木製の三つ仕切りプレートを1枚持ち。配膳兵に渡す。
「こ・・これは殿! 」と配膳兵は恐縮するが、「よいのだ。滋野軍に於いては、皆同じ物を食すのだよ。」と飯をおかずをプレートに盛ってもらう。最後に汁を木製のマグカップに入れてもらい、西井徳兵衛隊の方へ歩いていく。
配下と飯を食べていた。徳兵衛が、ワシを見て「これは殿!
」と姿勢を正すが、「いつも通りにしてくれ。」と向かいに座る。
「どうだね戦場で食す温かい飯は? 」味付けご飯を食べながら聞いて見る。
「はい。干飯や芋茎のように、腹を下さないですし、何より美味いです。」配下もニコニコしながら、頷いている。
「そうか。いつも娘のお清に昼餉を運ばせるのは、忍びなくてな。」とニヤリとしながら応えると、笑いが起こった。
「娘は殿様に一つ仕事を取られました。と悲しんでいましたよ。」冗談とも本気ともとれる返答を返してくる。徳兵衛。
「良い娘じゃ。そのうち良縁を持ってくるからな。」
「殿忝く。」徳兵衛が頭を下げる。配下たちは「ええええ! なんだってーっ」と言う顔をしている。お清器量よいし、胸あるしな。
「お清には、何処ぞの小名かそれに準ずる者を考えておる。身分は定家の殿か、最上の殿の養女にするかな。」
「それは恐れ多いことにて。」恐縮する徳兵衛。配下たちが、がっくりとうなだれる。悪いなお前たち。
「さてさて、お清おるか?! 」
「はい。殿様。」お清が他の二名の侍女たちとこちらに来る。
「われの護衛の滋野武兵衛達がな、あそことあの林と、そこの岩陰におる。」扇子でお清に指して見せる。
「殿様凄いですね。よく分かりますね。」お清が関心している。
「どうせ昼餉も食わずに、真面目にわれを守っているはずだ。輜重隊に握り飯を用意させた。お茶と共に届けてほしい。」それを聞いて嬉しそうに頷くお清。
「やっと私たちの仕事ができましたね。よかった。」喜々として、握り飯を三人で運んで行った。
〇滋野武兵衛〇
なんだあれは! 物凄い音と共に爆発が起こった。小頭の与六が近づいてきた。
「お頭。あれは一体。」おれにも分からん。
「本家様の新兵器だ。あの射線上には配下はおらんよな? 」
「はい。事前に本家様より、ご指示がありました。」流石だ。
小頭と話してる間に次の発射があった。地上で炸裂せずに、途中で爆発した。すわ! 失敗か!と思った刹那。巨大な火の玉が発生して、地上に火が雨のように降り注ぐ。
「・・・地上は地獄絵図だな・・・。」
「ひえ! なんまんだぶ。なんまんだぶ。 」小頭が手を合わせて拝みだす。
「与六よ。武士の槍働きの時代は終わるな。」
「お頭。おれ等忍びは!?」与六は唖然としながら訊ねてくる。
「安心せい。御本家様がな、次はお前らの時代よの。とおれに御話ししてくださった。」
「有り難い。まるで神様ですな。」また拝み出す。与六。
「誠にな。持ち場に戻れ。」
「はっ! 」
暫くして、皆飯を食べ始めた。おれも兵糧丸でも喰らうか。む・・誰かこちらに来る!!
あれは。本家様の侍女のお清殿か、憚り[※2]ならちと離れよう。しかし、可憐よ。
辺りを伺いながら、こちらに近づいてくる。
やがて「御見守り衆様。殿よりの昼餉です。」と綺麗な笛のようなお声を上げる。そうか。
驚かさぬように、努めて普通に歩み近づく。
「忝し。」お清殿から笹葉に包まれた。昼餉を頂戴する。
「あっ! 武兵衛様でしたか、お茶もあります。どうぞこちらに。」綺麗な所作で、ござを広げて、ニコリとほほ笑まれる。幸せだ。
「某をご存知でしたか。」と可憐な娘御に聞く。
「はい、それはもう、殿様が事あるごとに、武兵衛が守ってくれるでな。と楽しそうに申されまして。家中の皆に武兵衛様の人相絵を見せて喜ばれまして。私覚えてしまいましたよ。武兵衛様の御顔。」なんたる幸福よ。この握り飯。ちと塩が利きすぎておる。
「そ・・そうでしたか、恐悦です。」おれのうれし涙であった。恥ずかしい。すっと竹筒のお茶を差し出して下さる。
「武兵衛様は、護衛と武技の達人と聞きます。お暇なときに、私たち侍女の護衛術の御指南。お願いできたら幸いなのですが。」上目遣いのお清殿。こ・・これは。
「あいわかりました。」おれは幸せ者だ。
「ありがとうございます。」満面の笑み。このような、幸せ。夢なら醒めないでほしい。
〇田島泰時〇
野外炊具1536号は概ね好評のようだ。よかった。
そして劣化クレイモアの爆破である。ロケット弾AB共に大成功であった。
以前に滋野様が、クレイモア地雷[※3]の設計図を見せてくれた。プラスチック爆弾とボールベアリングこの二つは、理解できなかった。
「詰まる所さ。爆破する方向ば決め、そさ鉄球ば飛ばす。こどだずな。」流石です。茂助様。
「そうだ。それを爆破の指向性と言う。残念ながら指向性爆薬[※4]は、まだ作れん。それならな、全方向に鉄球ではなく、浜の小石でも飛ばせば良い。黒色火薬でも、圧を加えて爆破すれば、時速500キロを上回る速度で、物を射出する。時速500キロの小石。顔にめり込み、目玉を潰し、場合によっては死ぬ。」涼しい顔で、滋野様が恐ろしい事をおっしゃる。
「なるほど。そんなば竹筒で。」茂助様が頷く。
「よろしい。茂助に任せる。田島には、醤油の醸造の指揮をお願いしよう。桔梗屋と協力して作れ。原料の大豆と小麦は既に鐙屋に用意させた。」
「おえ。」「はっ! 」
◇◇◇
約一町(120メートル)先に劣化クレイモアの敷設が完了した。爆破の威力を確かめる為。瓜と牛の肉を周りに放射状に並べた。導火線の時間を長めにしてある。
「点火せよ! 」「点火! 」「退避! 」松明を持った足軽隊が、後方に退避する。
黒煙と光が上がり、直ぐに「ボオォォン!!」と音と衝撃が伝わる。
「よしよし。」滋野様と茂助様が満面の笑みで頷く。
暫くして、私と滋野様と茂助様が、爆破地点へと歩む。
「茂助、工夫したな、結構結構。」滋野様が楽しそうに、茂助様を誉める。
「おえ、竹筒さ板金した。合金を張り付け、圧ば上げさした。」茂助様は天才です。
爆破地点の周りは、瓜と牛肉に小石がめり込み、半径15メートルに渡り、その光景が、続いていた。これが人だと思うと背筋が寒くなる。
「よし! 大成功ぞ。皆集まれい!!」ぞろぞろと皆が集まってくる。
「勝鬨を挙げよ!!」滋野様が軍配を上に掲げる。
「えいえいおー!! えいえいおー!! えいえいおー!!」皆手を天に掲げて大合唱する。
「さて、まだ明るいが、お前らも聞いておろう。澄酒の噂を、これから宴会よ。野外炊具1536号を持ってこい。成功を祝して二樽振舞おう。遠慮はいらん。飲め飲め。」
「うわああああ!!」皆の歓声が上がった。お殿様私も御馳走になります。楽しみです。
※1 カチューシャロケット砲 第二次世界大戦においてソビエト連邦が開発・使用した世界最初の自走式多連装ロケット砲。
※2 憚り 便所へ行くこと。
※3 クレイモア地雷 アメリカ軍の使用する指向性対人地雷の1つである。ニックネームの"クレイモア"は、スコットランドで使われた大剣にちなんだ名称である。
※4 指向性爆薬 爆発した際に発せられるエネルギーが特定方向に集中するよう設計された爆薬。
次回投稿は04/01の予定です。




