27.閑話 神域お泊り二日目
〇氏家楓〇
「あ~はっはっは。楽しいのじゃ。楽しいのじゃ。」
爺さんが創造した。ボードゲームに、朝からテンション爆上げのよも姉ちゃんこと。四方那草姫である。
「なんじゃ? フウ振り出しに戻るのか? 下手じゃのう。われは5が出た。1.2.3.4.5・・なんじゃと? 投資が失敗して10万ドル失うじゃと? 不幸じゃ。われ不幸なのじゃ。」
「神様も己の運は変えられないのかの? 」今回は爺さんもゲームに参加である。
「当たり前じゃろ。そんなことできたら。今頃われが最高神じゃ。フウお茶お願いなのじゃ。」
「はい。お母さま。お茶受けにお新香とお菓子もお持ちしますね。」フウお姉ちゃん凄く話し方が流暢になった。お茶を煎れに奥の社務所※1へ向かった。社務所は、よも姉ちゃんが新たに作った。神域の建物である。
「しかし。大崎殿。よくフウの名を分かったの。気になるのじゃ。教えて給れよ。」コタツの掛け布団に両腕を入れて。チラチラと爺さんを見る。よも姉ちゃん。
「あっ。それ私も知りたいかも。」私も興味を示す。
「うむ。・・フウちゃんの神気安定してきたし、よかろう。フウちゃんが戻ってきたら。話をするかの。ほれ、蜜柑でも食って待っとれ。」
爺さんがコタツの上のかごをあごで示す。
「なんじゃ。勿体ぶりおってからに。」そう言いながら蜜柑に手を出す。よもお姉ちゃん。
朝餉の後の。まったりとした時間が、過ぎていく。
社務所から、急須とお茶とお茶請けをお盆に載せた。フウお姉ちゃんが戻ってきた。皆にお茶を出してくれる。魔法瓶まで用意してある。
「その魔法瓶爺さんが? 」
「そうそう。お茶には必須じゃろ。で。お前はフウの事より。魔法瓶の事を詳しく聞きたいのか? 」
「いやいや出鼻くじいてごめんね。それはないない。」私が慌てて否定すると。爺さん気を取り直して。
「フウさんや。お前さんのその名の由来をこれから話そうと思う。もう四方那草姫との縁もしっかり結ばれた。聞きたいかえ? 」
「はい。お願いします。大崎様。」綺麗な所作で頭を下げる。フウお姉ちゃん。可憐だねホントに。
「大崎様なんて神様が言っちゃいかんよ。大崎ダーリンとか大崎マイスイートハニーでよいからの~。」早速お約束の暴走を始める。エロ爺い。
「うおっほん! 」
よも姉ちゃんと私の咳払いが、ハモる。
「あー。始めるかの。」目が泳ぐ爺さん。
「そもそもな。今のフウさんちゃんと話せるじゃろ? 」
「そういえば。そうなのじゃ。前の楓は全く話せなかったし。今のフウの神格は、前と比べ者ならん位上がっとるのじゃ。なんでなのじゃ? 」
薄皮を剝いていた蜜柑を置く。よも姉ちゃん。
「つまりそれは真の名。真名を名乗っていなかったからじゃよ。名は体を表す。とも言う通り、偽りの名だった楓さんは。神気も集まらない。無論口から言霊も発することができない。不完全な状態だったんじゃよ。」
「つまり。よも姫が、勘違いして付けた名だったからじゃよ。」
「なんじゃと。だってフウの本体の逗子は楓の杢で造ってあるのじゃぞ。」そう言って御神座の逗子を指さす。よも姉ちゃん。
「そこからして間違いじゃよ。あれは楓材じゃない。フウ材じゃ。和名伊賀楓とも言うが。この時代の日本には生えていない。木の名じゃよ。」
「じゃから本名フウで蘇ったのじゃ。おそらく台湾か中国で造られて日本に渡った。逗子なのじゃろな。」
「よくフウ材で造ってあるってわかったね。」私が疑問を投げかけてみる。
「リキッドアンバーじゃ。」
「リキッドアンバーって香水の・・。あっ!フウお姉ちゃんの香りか。」
「察しがよいのう。楓。まあ現物を見た方が、早い。」
爺さんが手のひらを上に向けて。念を送ると。そこに小さな瓶が現れた。
「ほんと便利じゃのう。ここ(神域)は、思い描いた物。記憶にある物が再現される。電化製品と精密な物は試したが、無理だったが。」
「ほれ。皆の衆。手の甲を向けてみい。」
爺さんがその香水瓶を各々の手の甲に振りまく。
「嗅いでみるとよいよ。」
くんくんと嗅いだ。よも姉ちゃんが「あっ!」っと驚く。
「これフウの香。フウのよい香なのじゃ。」
それを見た。フウお姉ちゃんは耳まで真っ赤になる。
「お母さま。恥ずかしいですわ。嗅がないでくださいませ。」
「フウさんは恥ずかしがり屋さんじゃの。ほら昨日 逗子を開けて。確認したじゃろ? あの時この香がしてな。それでフウと分かったわけじゃよ。リキッドアンバーの原料はフウの樹脂じゃよ。」
「そうか。フウすまんかったの。何も知らない母を赦して給れ。」うりゅうりゅと涙をにじませ。泣き出すよも姉ちゃん。フウお姉ちゃんが優しく抱きしめて。「いい子いい子」と頭を撫でている。どっちが親なんだかね。
〇大崎重雄〇
「さてさて湿っぽいのは。ワシは好かん。そろそろ昼餉の時間じゃ。なんか美味い物を馳走しよう。」
「なんじゃその昼餉って。」
「やはり知らんか。この時代は昼飯ないものな。後100年もすると。朝餉。昼餉。夕餉と日に三食、食べるようになるのじゃよ。」
「ほうほう。しかしあれじゃの。前から思っておったのだが。後100年とかこの時代だとかまるで稀人みたいな事言うの。お前らも稀人じゃろ。」昔を思い出すように遠い目をして語りだす。よも姫。
「なんだ。その稀人って。知らんぞ。」
「なんと話せばよいかな。つまりなのじゃ。先の世から過去の世へ渡ってくる者を稀人と呼んでいる。」
「!!!」
楓とワシが激しく反応する。
「マジか。ワシらと同じ転生者がおったのか! 」
「お姉ちゃん! それホント!?」
「なんじゃ。なんじゃ。そんなに食って掛かかられても。われ困る。人見知りなんじゃぞ。われ。」
半泣きになっている。よも姫を見て。そうじゃったニートじゃったなこいつ。と思い出す。
「楓。二人してまくし立てても。このポンコツニート神は対処できぬよ。先ずはワシから訊ねるよ。」
「うん。分かったよ。」
「なんじゃ。とても馬鹿にされた気がするのじゃが。」
「あらあらまあまあ。それでは。その昼餉とやらを饗応してもらいながら。ゆっくりお話ししましょう。ね。お母さま。」
「フウ怖かったのじゃ。」おいおいとフウさんに抱き着いて泣き出すポンコツ姫。フウさんがお母さんじゃろ。
◇◇◇
「このかれえとやら。辛いな。辛いが、美味い。」匙でカレーをおいしそうに。頬張る姫。それお子様用の超甘口なんだが。
「それで。平将門と源為朝は稀人だったと。」
「もっといたはずなのじゃが。われの知ってるのは。その二名なのじゃ。」「このらっきょとやらは変な味じゃの。」
「なんで知らんのかのう。」
「だってわれ。藤原家が、多賀国府の官人となりし時に出雲より遷座※2され、この地に祭られておったのじゃ。そして泰衡の代に藤原は、源に滅ぼされ、われも打ち捨てられたのじゃ。その後は名もなき産土の神としてな、ひっそりとこの地に埋もれておったのじゃ。」
「なるほど。その後は引きこもっていたと。そして、多賀城は伊達の支配地域だな。その付近なんだな。ここの場所? どうする? 落ち着いたら出羽に遷座するかね? 」
「いずれ頼むことに、なるかもなのじゃ。今は静かなここが良いのじゃ。」このポンコツ姫。根っからのニートだな。
「そのなんじゃ。たまに大崎殿が来てくれてな。神楽舞と祝詞を奏上してくれるだけでな。ぶっちゃけ十分なのじゃ。頼ってもいいかの? 」
もじもじしながら。こちらを見る姫。可愛いが、口に着いたカレーで台無しだ。
「ああ。お安いご用だよ。それで。お前さんの名をやたらと使うが構わんかね? 」
「人の世の理は関係ないでな。全く構わんのじゃ。」
◇◇◇
食後の腹ごなしに。いいもの見せてやると。三名を連れて。本殿から百メートルくらい南に歩いてきた。
ターゲットの甲冑やスイカを創造して並べる。
昨日創造した。自動拳銃のシグ・ザウエルP226を抜いて。狙いを定める。「大きな音するからの。耳塞いだ方がいいぞい。」三人に警告する。
「いいから。はよ。見せるのじゃ。」ポンコツ姫以外は二人共。素直に耳を塞いでいる。
引き金を引く。「パアン!!」と銃声が響き渡る。同時に反動が腕に伝わる。ちゃんと作動した。引き続き狙いながら。引き金を引き続ける。
「パアン!!パアン!!パアン!!パアン!!パアン!!・・・。」
装弾した15発を全部撃ち尽くし。ターゲットに近づく。甲冑には見事に穴が開いて。スイカはバラバラに吹っ飛んでいた。
「凄いのじゃ。なんか為朝を思い出すのじゃ。あ奴も凄かった。」てっきり腰でも抜かしていると思ってたら。姫はケロっとしている。
「ほう鎮西八郎は伝説通りのやばい奴だったのかの? 」
「弓で大きな船沈めたぞ。二町(約240メートル)先の敵武者の首撃ち落としてたのじゃ。」やばい! 鎮西八郎やばすぎだな。
「口癖は、[皇国の報恩に感謝せねば。]じゃったな。懐かしいのじゃ。手をこうな。顔の横にかざしてな。」きれいな敬礼をする。姫神。
「爺さん。それって。」顔がこわ張る楓。
「ああ。源為朝は転生した。日本軍人だったのかもな・・・。」
◇◇◇
「美味い! この赤身の魚格別に美味いのじゃ! この橙色の魚も美味い。」マグロと鮭のにぎりを食べてご満悦の姫。
フウちゃんに夕餉何食べたい? とリクエスト聞いたところ。「さっぱりしたお魚食べたいです。」との返答に応えて、握り寿司を出してみた。
「大崎様ありがとうございます。とっても美味しいです。」
幸せそうに寿司を頬張る。フウちゃん。やばい! キュンキュンくるぞい。
「お義母様。フウさんをお嫁にください。」姫に勢いで、土下座求婚してみた。
「誰がお義母様じゃい。寝言は寝てから言えなのじゃ。」予想通りの返答が。
フウちゃんにアイコンタクト取ると。
「お母さまのお許しがなければ。」と困った顔。よし! 脈はあり!!
「しかし。この寿司とやら。たまらんの。お茶も合うしの。おこさまらんちと違う方向の好みなのじゃ。」「ズズズ」とお茶を飲み。ガリをかじる姫。
「ワシ婿にしたら。毎日美味い物を饗じるのにな。」先ずは正攻法で、胃袋攻撃で攻める。
「む。誠か。否だめじゃ。だめじゃ。フウは誰にもやらんのじゃ。」もう揺らいでるぞい。
「だからワシが婿なの。フウさん何処にもいかないよ。娘をいつまでも独占するのは、親としてどうかと思うのう。」欲と道理で攻めてみる。
「そ・・そうか。大崎殿がいつもここにおると・・。む・・これは。良いかも・・。われもフウの幸せが・・・。」よしよし。もう一押し。
「何言ってんだか! よも姉ちゃん。気を付けて。爺いまた言霊使ってるよ。」くっそ。楓に後ろから刺された。
ハッとする。姫。
「やるではないか。この奸物め。お前の実力は嫌な程知っておる。そんなまわりくどい事せんでも。フウの気持ち次第じゃ。」その意外な言葉に、不意を突かれるワシ。
「すまんな。楓。人の道を踏み外すところだったわい。」と楓に耳打ちすると。
「よかったね。爺さん。」と返された。つまりあれだ。一番のガキはワシだったわけだ。
◇◇◇
「姫よ明るくなったら。帰るが。ひとつ聞いていいかな。」
「なんなのじゃ。われで分かる事なら。」
間もなく就寝を迎える前に、最後の懸念を聞いてみることにした。
「ワシら以外に今の時代に稀人の気配がないか。探れないかのう。」
「楓と同じ感じの者ならわかる。お陰で神力は今充実している。しばし待て。」
瞑目する姫。
三分くらい経過した。目が開き。ワシを見て。ニコリとする。
「安心せい。東にはおらんよ。西は遠すぎて分からん。」
「助かった。感謝する。今後ともよろしくお願いいたします。」素直に感謝する。
「やっと神らしいこと。出来たようじゃな。」
そこには、本日一番の笑顔を見せる女神がいた。
※1 社務所 神職や巫女が待機する場所。
※2 遷座 神社の本殿の神体を従前とは異なる本殿に移すこと。
次回投稿予定は。明日03/10の予定です。




